P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結) 作:コンバット越前
今とある店の座敷席で一組の年若き男女が向かい合っていた。ジュージュー小気味良い音と香ばしい匂いが漂う中、少年はヘラを使い鉄板の上で手際よく調理する。そしていい頃合になったそれを、相方の少女に取り分けてやると同時に疑問をぶつけた。
「なぁ、モテる男の条件って何だと思う?」
「顔」
少女はそっけなく答えると、男が取り分けてくれた熱々のもんじゃを口に運んだ。
「おい鈴そりゃないだろ。それじゃそこで話終わっちまうじゃないか」
五反田弾は情けない声を上げると、正面に座る凰鈴音を恨めしげに見た。
「ハフハフ……うっさいなぁ」
鈴は熱々のもんじゃをいささか苦労しながら飲み込む。自身のキャラクター通りの猫舌なのである。
「俺的に結構切実な問題なんだよ」
「あっそ」
「いやマジなんだよ鈴。聞いてくれよ」
「アンタねぇ、まずはこのもんじゃの出来を尋ねるとかしないの?」
鈴は呆れた目を弾に向ける。開口一番料理の出来栄えではなく、唐突にモテる云々を聞くとは何事だ、全く。
しかし年若き男女が二人、この真夏日に汗かきながらもんじゃ焼きなぞしているのはどうなんだろう?鈴は額の汗を拭いながら、自分達の行動に少し疑問を抱いたが、やっぱ気にしないことにする。もんじゃ食べたかったし。
「俺にはもんじゃの出来よりこっちのほうが重要なの!」
「へいへい。で?どしたの?」
「俺だって某親友のようにモテたい!女の子にちやほやされたいんや!」
「いきなりだなぁ」
「凰先生……彼女が欲しいです……」
「あきらめなさい。既に試合終了ですよ」
凰先生はそう断罪すると、更に箸ですくいもんじゃを口に放りこむ。熱いけど美味しい。
「高校の壁は高い……。中学の頃は周りも相手がいる方が珍しかった。でも今は違うんだ」
しかし弾はめげることなく話し続ける。メンタルの強さは伊達ではない。
「新しく出来た友人も当たり前のように彼女がいたりする……。寂しい虚しい……」
「まぁ高校生にでもなれば別におかしくないんじゃないの?」
鈴は興味なさげに言う。自分はIS学園という特殊な学校に通っているので詳しくは分からないが。
そんな少女に弾は身を乗り出して問いかける。
「そこで俺は思うわけよ。なぜ俺には彼女が出来ないのかと」
「ふーむ」
「だから異性としてどう思うか意見を求めたいんだよ。お前も一応女だし」
「弾。あとで殺すからね」
「スマン失言だった。許してください鈴様」
「ダメ」
弾は自身の失言により死亡が確定された未来を憂う。しかし今自分に出来ることをしようと話を続けることにした。嫌な未来は後回しにして考えないに限る。人はそれを逃避と言う。
「んで、俺ってそんなにイケてない?」
「うーん」
「そこは否定してくれよ……」
ガックリうな垂れる弾。
「やっぱ顔か……所詮この世は顔なのか……」
「まぁ悲しいことに一理あるわね」
鈴はコーラを飲むと「ふぃー」と一息ついた。炭水化物の権化にコーラ。体重がヤバイことになるラインナップだが、我らが鈴ちゃんは生憎太ることに関しては無縁なのである。どこぞのセッシーさんなどは泣いて悔しがりそうだが。
「一夏のようなイケメンばかりいい思いをするのは間違っている!」
めけずに弾が吼える。
「男は顔じゃない!顔じゃないんだよぉ!」
「それも一理ある」
「えっマジで?」
弾の顔が輝く。まさに暗闇に光が差し込むように。
「今はそうでも、将来的には男は顔じゃなくなるわ。最後は金ね。男は金」
「お前……」
弾の顔が一瞬で歪む。
「そんな夢もロマンもないことを言うなよな……」
「なんでよ。ある意味ロマンじゃない」
「どうかだよ!」
「例えば世紀末なブッサ君でも、将来お金さえ手に入れれば絶世の美女をGET出来るってことよ?」
「いやそれは……」
「逆境に変えればいいのよ。『世のイケメン共よ今に見てろよ!』って感じで。その一心でいつか見返してやろうと努力すればいい。顔の出来不出来で人生達観するのは負け犬のすることね」
「あの~鈴さん?」
「大人になれば誰でも札束で顔引っ叩けば、喜んで尻尾振って服従するようになるわよ」
夢も希望もないことを言うと、鈴はもんじゃを食べる作業に戻る。
弾は何とも言えない気分でそれに続いた。
「要は今俺がモテないのは顔がイケてないからか?」
少し経った後、弾は思い切って尋ねてみた。言って涙が出そうになるが。
「いや?アンタ普通にイケメンじゃん」
「へ?」
鈴の返しに弾が固まる。
「あんましそういう過剰な謙遜は止めた方がいいよ。やり過ぎると嫌味に映るから」
「えっ?えっ?マジで?マジすか学園?」
「うん」
あくまで自然に鈴は頷く。
そうか俺って実はメチャ×2イケてたのか!弾の顔に生気がみなぎっていく。
「いや待てよ……」
しかしそこで疑問。
「じゃあなんで俺はモテねーんだよ!」
その疑問を大にして咆哮する。この世代は顔が全てと言うなら、イケメン弾君がモテないのはおかしいのではないか?
鈴はその質問には答えずコーラを飲むと、鉄板のもんじゃの残りに手をつけた。
未だ熱いのか「ふぅふぅ」しながら食べる小動物のような姿に弾は少し萌えたが、この酢豚っ子とはどうあがいてもフラグが成立しないことが分かっているので、再度質問を促す。
「答えてくれよ鈴。なぜだ!」
鈴ちゃんは小さい口でハムハムし終わると、コーラを流し込む。そして必死の形相で目をむく少年に聖母マリアさまのような慈悲の表情を向けた。
「弾。本当に聞きたいの?」
「もったいぶらずに答えてくれよ」
「その答えは弾を更に傷つけるかもしれないわよ?」
「それでもいい。俺は答えを知りたいんだ」
弾は似合わない『キリッ』っとした顔で答えを待つ。
でもその理由が「実はアンタ臭いのよ」というものだったらどうしよう……。
「ふむ」
鈴はそう呟くと手を膝に置いて姿勢を正した。弾も思わず正座する。
「小年よ。汝はモテない理由を真に望むのか?」
「はい……」
「汝が破滅的にモテない理由を本当に聞きたいのか?神に定められし非モテ男の哀歌を」
「あんまモテないモテない連呼しないで下さい。心が折れますんで」
「ごめん。……オホン。では伝えましょう」
沈黙が降りる。
ごくり……。弾は唾の飲みこむ音さえやけに響く気がした。
「その理由はね」
「ああ」
「一夏の親友ポジのせい、ぶっちゃけ一夏のせいでーす」
「はぁ?」
弾が唖然とするのも構わず、鈴ちゃんは人差し指を天に向かって突き出す!
「弾がモテないのはどう考えても一夏がわるーい!」
そして力強く宣言した。
主ヒロインポジの酢豚ちゃんの出番が少ないことに今更ながらに思い、衝動的に書いてしまった。
神様。なぜ私には鈴ちゃんのような子が身近にいないのでしょう…?