P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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私はイチゴは必ず最後に
どちらかといえばきのこ派で
焼肉は白い飯がないと食えない人間です。







フラグ立たぬ男女のごちゃまぜもんじゃ定食 (口直し)

「もんじゃはおかずにもなるのよねー」

 

凰鈴音はドヤ顔で言うと、本当にもんじゃ焼きをおかずに注文したごはんを食べ始める。そんな友人を五反田弾は苦々しい思いで見た。曲がりなりとも料理を営む一家として食には誇りがある。炭水化物のお好み焼き系をおかずに米を食う心境がどうしても理解できなかった。この少女は大切な友人だが、彼にも譲れないことがあるのだ!

 

 

 

『絶対に負けられない戦いがそこにはある』

某放送局がある時期になるとウザイくらい繰り返す台詞だが、それは何もサッカーに限ったことではない。人は誰しも負けられない、譲れない何かを抱えて生きている。

 

そしてこと食に関して言えば、誰しも譲れない『俺ルール』が確かにあるだろう。

 

酢豚にパイナップルを入れるか否か?

ショートケーキは何処から食べる?クリーム?イチゴ?

きのこたけのこ戦争。あなたはどっち派?

焼肉といえば白い飯だろうが!…いやその理論はおかしい。

 

人類は今日に至るまで数え切れぬ程の食の論争を繰り広げている。そしてそれは『酢豚パイナップル問題』のように絶対な答えなど存在するものではなく、終焉することはないだろう。

 

食に関しての『俺ルール』とは馬鹿らしくとも、それほど強大で尊いものであるのだ。

 

 

 

 

「おい鈴。そんなに炭水化物取ったら太るぞ」

もんじゃも二枚目に突入し少し飽きていた弾は、少し剣呑さが混じった声で鈴に忠告する。

 

「だいじょうーぶ。あたし太らない体質」

それに対し英国産尻娘が憤死しそうな台詞を返す鈴。

 

「ハフッハフッ、ハフッハフッ」

 

アホ面で白米ともんじゃをかっ込む鈴の姿を見て、しかめっ面だった弾の顔に思わず笑みが出た。

女の子が美味しそうに食べる姿を見るのは嫌いではない。

 

「そんなに美味いか?」

「一枚目はそれ本来の味を堪能し、二枚目はごはんのおかずとして味わう。一度に二度美味しい、それがお好み焼き系の醍醐味ね」

「飽きねぇの?」

「限られた食材、少ない料理。そんな中でも我が中国では、料理法や組み合わせ、そして食べ方によって、如何ようにも美味しく食べようとする心意気が備わっているのよ。例えば……」

「いやいい」

 

弾は素早く言葉を遮る。食を語らせると長いのだ、この少女は。

 

「でさ。いい加減さっきの理由の総括をしてくれよ」

「分かったわ。じゃあ中国の世紀の大発明、酢豚にパイナップルを入れた始祖の歴史から話してあげる」

「ちげーよアホたれ!そうじゃなくて……俺が、なんだ、モテない理由だよ。何度も言わすなよ……」

「なんだそっちか」

 

暫し頓挫していた話題を、鈴が今思い出したように軽い口調で言う。

 

くそったれ!俺にはこれ以上ないほど重要なんだぞ!

弾は口には出さずとも、決意のこもった目で睨むように彼女を見返した。

 

「でさ。俺が一夏の親友ポジだから……」

「その前に最後の一枚注文しとかない?」

「うがぁぁぁぁ!いい加減にしろよぉぉぉ!」

 

何度も何度も話の筋を折りまくられることに弾がブチキレる。

つーかこの小さい身体にどんだけ入るんだよ。

 

「今日朝から食べてなくてお腹減ってたのよ。久しぶりなんだし付き合ってくれてもいいじゃない」

「……わーったよ。付き合うよ。でも少し腹が落ち着くまで待ってくれ」

「うーん。あたしの腹は未だペコちゃんなのだが」

「イカでも焼いて食ってろ」

「分かった。おばちゃーん!イカ焼き一つねー!」

 

ほんとに頼みやがったよこの人。

弾はヤケクソで言ったことを実行に移す友人を珍獣を見る目で見た。

 

 

 

 

 

「なぁ鈴。俺思ったんだけどよ」

「にゃにー?」

 

何処かうっとりした顔でイカを焼く少女に、弾は何とも言えない気分になる。

 

「親友ポジはモテないって言ったよな?」

「うん」

「でもさ俺の場合は少し違うんじゃないかって」

「うん?」

「ホラ俺らの主役……一夏ってさ、何ていうか……」

 

そこで一瞬躊躇するが、意を決したように弾は顔を上げる。

 

「その……必ずしも読者受けしてるとはいい難いじゃないか」

「アンタ何が言いたいの?」

 

弾は鈴の声に少し剣呑さが混ざったのを感じた。好きな人を悪く言われれば当然だろう。

 

鈴すまねぇ……。後ここに居ない一夏も……。

弾は心で大切な友人らに謝罪するが、それでも己の生きる道のため続ける。

 

「主人公にイマイチ共感出来ない場合、所謂脇役に目を向けるのも有りだと思うんだよ」

 

そう、物語とは決して主人公だけのものに有らず。

それを支える数多のサブ・モブ組によって成り立っている処も大きいのだから。

 

だから自分のように華やかではない脇役にも春が訪れてもいいのではないだろうか?

一夏のヒロインを自分に、一夏の活躍奪いたい、とかそーゆーのではなく。

 

しかし鈴は首を横に振る。

 

「それはないのよ弾。残念だけど」

「なんでだよ!」

「弾の言うように作品内での主人公の交代、活躍の変遷なんかは無いわけじゃない。かつてSeedなdestinyでも、本来主役の『運命』さんは後半『自由』様にタイトルバックもろとも成り代わられたのだから……」

「お前は何を言ってるんだ?」

「気にしないで。とにかく何らかの理由で、主役とサブの活躍度合いが逆転するのは確かにあり得る」

「じゃあ……!」

「でも言ったでしょ。これって萌え豚作品だって。だから無理なのよ……」

「だから何だよ萌え豚作品って!それが何の理由になるんだよ!」

 

弾の尤もな怒りに、鈴は悲しそうに視線を眼前の鉄板に移す。

 

「ねぇ弾。焼きあがったこれを見て。コイツをどう思う?」

「すごく……イカ焼きです。……ってこれがどうしたんだよ」

「そうね。これはイカ。まごうことなきイカ焼きよ。でもこの店のメイン、看板メニューは何?」

「そりゃお好み焼きだろ。若しくはもんじゃ焼き」

「そう。あくまでメインはお好み焼き系。このイカ焼きはあくまで場の繫ぎ、口直しみたいなもんでしょう?まさかイカ焼きを求めて、お好み焼きの店に来るヤツはいないよね?」

 

鈴は焼きあがったイカ焼きを箸で摘む。

 

「弾。アンタは正にイカなのよ。ISという作品の括りの中でメインは一夏、アンタは脇役。それは変わることのない絶対の事実」

「……んなこと言われなくとも分かってるよ。でも夢見るくらいいだろ?脇役だって生きてるんだ」

「ええ。夢見るのは自由。弾の場合は貴重な男役だしね。でもやっぱりそれでも一夏はメインであり、『神の寵愛』を一身に受けし存在なのよ。これがモブ・サブ組との一番の差ね」

 

鈴は摘んだイカ焼きを豪快に噛み千切る。

イカと重ねあわされた弾は、まるで自分が無残に食いちぎられているかのような錯覚を覚えた。

 

「この違いは思いの他大きいわよ。もっとも……」

 

そこで鈴は一旦言葉を切る。

そしてイカ焼きを更に一口。

 

「その違いが現れるほど、弾にヒロインを惚れさせる魅力があればの話だけどね。つーかこの時点で無理ゲーじゃない?」

「それを言っちゃお終いだよ……」

 

弾がうなだれる。親しき仲にも礼儀ありってことわざを知ってくれよ……。

しかし少女は一ミリも気にすることなく続ける。

 

「まぁ仮に弾が一夏を相手にヒロイン奪取に善戦すれば、読者は沸き応援してくれるかもしれないわね」

「へ?そ、そうか?」

「そしてフラグをコツコツ立て続け、いよいよヒロインGETまで辿り着けたとしよう。……うへぇ」

 

自分で言っといてその場面を想像した鈴が顔を歪める。

そんなに嫌がらなくてもいいじゃないか。弾は悲しくなった。

 

「するとどうなるか……。突然読者は一夏の応援に回る。五反田弾がヒロインをGETしてはいけないんだ、という雰囲気になっているの」

「な……」

「たとえ脇役の一時の善戦に拍手したとしても、オタクたちは心の奥底では、主人公からヒロインを奪うことなんて望んでいないものなのよ……」

「なん……だと……」

「それは主人公=俺という観点からすれば、モブに自分の女を取られるということになっちゃうからね」

「そんな!」

 

弾が絶望の声を上げる。

そりゃあんまりだ。脇役やモブにだって人権はあるんだ!

 

「あったり前よ。オタクの耐久値の低さ知らないの?」

「知らねぇよ……」

「過去にも『たまきん事件』『かんなぎ騒動』等オタクの童貞暴走が招いた痛ましい事件があったのよ」

「なんだよそれ」

「オタクってのはね、自己投影が激しすぎる生き物なのよ。そしてピュアというか現実を見ていないの『女性は処女でなければならない』『幼馴染は主人公(俺)に一途でなければならない』こーんな俺ルールを勝手に取り決めて、それから少しでも外れようものなら大顰蹙よ。もうバカかとアホかと」

「ちょっと鈴さん。頼むから過激なことは……」

「可愛い子が高校の1○才にまで恋人どころか、好きなったことさえないなんて、そうそう有りえると思う?無いでしょ普通は!なのに一部オタクは昔好きな人が他にいた、というだけでビッチ呼ばわりよ。こんなのおかしいでしょ!」

 

鈴が鼻息荒く怒りまくる。

もはや怒れる少女は誰にも止められない。

 

「誰かれ構わず身体を許していたっていうならビッチ扱いも分かるわよ。でも好きな人や、付き合っていた人がいたというだけで、どうして責められなくちゃいけないの?」

 

「男は右向いても左向いてもハーレムだらけなのに、なんで女は絶対に操を立てなきゃいけないのよ!」

 

「昔は恋人持ちどころか、未亡人のヒロインさえいたのよ!だからこそストーリーの幅も広げられた。でも今そんなことしたら大ブーイングよ!男の影がチラつくだけでOUTって、どうすりゃいいってのよ!だから似たり寄ったりな、草食男による美少女ハーレムになるんじゃない!」

 

「あたしたちの作品だってきっと10年早く生まれていれば、きっと英国尻お嬢も、あざといボクっ娘も登場しないノーハーレムで、『悲しくも日本と中国に引き裂かれてしまった二人!たとえ遠く離れても、互いの愛を信じ続ける幼馴染同士の壮大な大恋愛劇!』といった傑作になっていたに違いないのよ!」

 

そりゃねーよ。

弾は一人エキサイトする少女を見て思う。そうだとしても相手役は『初代』幼馴染が一夏にはいるだろ。

 

「あたしは年々低下するオタクの耐久値と、それに反比例する女性への欲求に警鐘を鳴らしたいの。このままではいつか取り返しのつかないことになってしまうんじゃないかと。『何か』が起きてからじゃ遅いのよ……」

 

鈴は深刻な顔でワンマンショーを終わらせると、残ったイカ焼きを食いちぎる。

そしてそれをクッチャクッチャと咀嚼すると、豪快なゲップを繰りなした。

 

お前が業界の未来を憂いても仕方ねーだろ。話す隙間もなく演説を黙って聞かされていた弾はそう思った。

それに人は……オタクはそんなに愚かではない。革新はきっと起こるはずだ!

 

しかし弾のガンダム的願いなぞどーでもいい鈴は、今思い出したようにポンと手を打った。

 

「話少し逸れたけどつまりアレよ。なんつーか……そう!弾が恋人を成し得たいのなら、もはや何が起きようと揺らぐことがない……」

 

そこで『キリッ』とした表情を作る。そして……。

 

 

「断固たる決意が必要なのよ!」

 

そして酢豚はタプタプ先生の名言をドヤ顔で決め、無理やり締めくくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回でもんじゃ定食も完食となります。



ちなみにこんなこと書きましたが私もNTRの類は苦手です。
それでも女性の過去にこだわるのは男としてよくないと思うのですよ(キリッ)

私、コンバット越前は相手の過去にこだわることなく、どのような女性をも受け入れる覚g……。
だからお気軽にご連絡くd……。

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