P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結) 作:コンバット越前
私は今までの人生でそれを2度も経験し、その度泣き寝入りしてきた。
どうか皆様は勇気を出して苦情を言える強さを持ってください……!
「んん……」
「弾、気付いたか」
弾が目を開けると、目の先に一夏の顔があった。というか何故かベンチで膝枕されていた。一体何考えてんだコイツは?すぐさま起き上がる。
「勘違いすんなよ!俺だってしたくてしてた訳じゃない」
一夏が慌てたように言う。
「その、お前をノックアウトしたとこを近所のオバサンに見られてたんだよ。喧嘩だと思ったらしく警察呼ばれる寸前だったんだ。誤解解こうにもお前は気絶してるし……結構大変だったんだぜ」
一夏は小声で言うと、少し離れたところに立っている女性に頭を下げた。一夏に促され弾も頭を下げる。女性はしばらく確認するように見ていたが、やがて去っていった。
「ふー。まいった。どうもあの年代のオバサンは苦手だ」
「天性のタラシ野郎に苦手な女性がいるとは意外だな」
一夏の呟きに弾がツッコミを入れる。
「人聞き悪いこと言うな!……まぁ俺には母親いないからさ。ああいう上の女性は何ていうか…」
「悪い」
「謝らなくていいよ」
一夏が笑う。それを見て弾にも笑顔が出る。
仲のいい親友同士の友情空間がそこにあった。
「ところで一夏。俺さっきまでお前に殴られていたよな?」
「あ、そうだった」
「酢豚、豚、豚、とーりにーくでーもおっいしーよ。ヘイっ!」
所変わってIS学園では鈴が踊っていた。調理室を貸しきって作っていた、鶏肉を使った新たなる酢豚への試みは思った以上に上出来だったからだ。そりゃ踊りの一つも披露したくなるのだ。
「り、鈴?何やってんの?」
「ご機嫌だな」
そこに何故か現れる親友コンビ。シャルロットは鈴の狂態に若干引いている。だがそんな彼女の態度など今の鈴ちゃんには些細なことだった。
「何って、見れば分かるでしょ?酢豚ダンスよ。ラウラもやる?酢豚、豚、豚……ハイッ」
「ふむ。酢豚、豚、豚……」
「ラウラ!めっ!」
振り付け込みで歌い始めたラウラをシャルロットが止める。大切な親友が酢豚色に染められるのを黙って見ている訳にはいかない!
「で、相変わらず鈴は酢豚作ってたんだ?」
「相変わらずって失礼な。まるであたしがそれしか作らないみたいに」
鈴の返答にシャルロットは出掛かった言葉を何とか飲み込んだ。ラウラが鈴の側にある中華鍋を覗き込む。
「ほう。美味そうな酢豚だな。食べていいか?」
「ダメよ~。ダメダメ。これは一夏のだから」
「少しくらいいいだろう?お腹減ってるんだ」
「ダーメ、これはあげれません。新作なんだから先ずは一夏にね。つーかアンタたち何しに来たの?」
鈴は恨めしそうな顔をするラウラを横目にシャルロットに問う。
「ラウラにお菓子作ってあげようと思って。器具借りに来たんだ」
子供のように不貞腐れるラウラの様子を見て、苦笑しながらシャルロットが答える。
「アンタってホントお母さんみたいなとこあるよねー」
「どういう意味かな?鈴」
「別にー」
鈴はシャルロットをあしらいながら窓際に寄った。今日もいい天気だ。
「そう言えば一夏は何処いったのかな。部屋に居なくて。鈴知ってる?」
「ん?ああ、弾……中学の友達に会いに行くってさ」
「そうなんだ。楽しんでいればいいね」
「そりゃ大丈夫でしょ。アイツらムカツクほど仲いいからね」
「なぁ鈴。酢豚……」
「ダメです」
そんな風に少女たちの休日は過ぎていった。
「何言ってんだお前?」
一夏は思わず弾を訝しげに見る。罪ってなんだよ、訳分かんねぇ。
あれから一夏がとりあえず謝罪しようと頭を下げると、弾がそれを制した。「俺の罪」だの「パンドラの箱」だの意味不明なことを言う親友に、一夏の頭に「?」がまわる。
「え?一夏、お前もエロを通じて己の罪を自覚しちまったんじゃ……」
「だから罪って何だよ。俺はお前のせいで皆に変態野郎だと思われたことが許せなかっただけだ」
「何だそりゃ?話してみな」
一夏がその時の出来事を簡単に説明すると、弾は「なーんだ」と何処か拍子抜けするような声を出した。ふざけんな、と一夏は思った。俺がどんな目にあったと思ってるんだ。
「いいじゃねぇか。別に『決定的瞬間』を見られた訳じゃないんだろ?俺なんて蘭に見られたときは……」
「そういう問題じゃ!……って、ええっ!お前蘭に見られたことあんの?」
「ああ。さらに裏モノ視聴中にな……あの時は死にたくなった。5日間はお互い気まずかった……」
弾が遠い目をして言う。それはキツイ、一夏は本気で同情した。
「それはご愁傷様。……でもな弾!俺だって酷い目にあったんだぞ」
「何?皆に無視でもされてんのか?」
「ちげーよ。……でも!あれから箒には改めて殴られたし、セシリアには何故か派手な下着カタログを見せられたし、シャルは何故かボディータッチが増えたし、何より!」
一夏は息を吸い込む。
「ラウラだよ問題は!学園に戻された翌日の朝、ベッドの中で『一夏は教官とその、そういう関係になりたいのか?』なんて悲しそうに言われたんだぞ!おかしいだろ!ラウラなら普通『私も教官が大好きだ!私達は同士だな』って言いそうなもんだろ。何だよマジで。変わらなかったのは鈴だけだよ……」
一夏は血を吐くように叫んだ。本当に大変だったんだ、皆を抑えるのが。何よりラウラの誤解を解くのが。
「いやいや待て。え?何ベッドの中って?どゆこと?お前大人の階段上ったシンデレラになってたの?嘘でしょ?……嘘だと言ってよイチカァ!」
弾が悲壮な顔で詰め寄る。
「うるせぇ何言ってんだ!」
「コッチのセリフだ!エログッズ必要ないじゃねえか。裏切り者め!『淫乱教師Ⅱ』さっさと返せ!テメェはそのラウラって子と仲良くしっぽりヤッてりゃいいだろ!」
「ざけんな!ラウラみたいな純粋な子をそんな風に見れると思ってんのか!歯ぁ食いしばれ!」
男同士の醜い言い争いは、再度一夏の右ストレートによって終わりを迎えた。弾が吹っ飛ぶ。その目には涙が汚く光っていた。やるせない。
「じゃあな親友。俺、お前のこと好きだったぜ……」
倒れている男に一夏が背を向ける。一夏もやるせなさを感じながら。
さようなら親友。
「一夏テメェ。せっかくデザート用に、『幼馴染は巨乳巫女!神様の前でエッチなお祓い』他数本を貸してやろうと持ってきてやったのに……」
「弾、大丈夫か?さあ手を取るんだ。俺たち親友だろ?」
そしてこんにちは親友。
織斑一夏はIS学園の廊下をスキップしていた。
人は嬉しい時にはスキップをする。他人の目とかそんなの関係ない。嬉しい時はその心のままに表現する。それでいいのだ。
「グフフ……」
思わず含み笑いが漏れる。今彼の懐には巨乳幼馴染モノのエロDVDが入っていた。愛おしそうにそれを服の上からそっとなぞる。
弾から借りたエロDVDは『THE アニマルズ!』という動物もののDVDにカモフラージュされていた。
弾によると、今やプリンターなどを使いDVDの表面を変えるなどお茶の子さいさいであるらしい。さすがに門前のチェックもDVD再生までするようなことはしない。おかげで当番が西田ではないにも関わらず、堂々と持ち込むことが出来た。
「織斑君は動物が好きなんだ?」
……そう言って笑った守衛の方の純粋な眼差しに多少心が痛んだが……。
あの後安い友情を再確認し合った親友によって、一夏は他にもカモフラージュされたエロDVDを何本か勧められた。熟女、人妻、と一夏の好みから幾光年離れていたため断ったのだが。
でも神様弾様、アナタ様はなんつー趣味をしているんですか?
一夏はヒトの進化を改めて思い知る。エロの媒体は春画から始まり、ビデオテープへと活躍の場を広げ、更にそれがDVDへと変わり、今やパソコンでの動画、ダウンロードの時代だ。そして中身のジャンルも多様化している。これから人類はエロとどう向き合っていくのだろう?一夏は人類の未来に想いを馳せた。エロよ永遠であれ!と……。
「いーちか」
「うおぉぉぉ!」
可愛らしい酢豚ちゃんの声に一夏はスキップをやめて、猛然と走り出した。前回のデジャブが脳裏に宿る。酢豚危険注意報発令!ただちに避難せよ。
「ちょっといちかぁ!待ってよー」
後ろから鈴の声が聞こえる。だが立ち止まるわけにはいかない。男にはヤラねばならない時があるからだ。
だが一夏はふと気になった。鈴の足は速い。なのにその声は遠くなるばかりだった。おかしいと思いつつもスピードは緩めない。
一方の鈴はというと、両手で酢豚が入ったタッパーを持って走っていた。だからスピードが出せなかった。一夏の急な逃亡に鈴は驚きつつも悲しくなる。一生懸命作ったのに。
「鶏肉酢豚美味しく出来たんだから!食べなさいよー。待ってたんだからー」
「スマン鈴!今忙しいし、腹減ってないんだ!ラウラにでもあげてくれ!」
一夏はそう叫ぶと、更にスピードをあげて鈴の視界から消えた。鈴は走るのを止めて俯く。
「せっかく美味しく出来たのになぁ……」
鈴は悲しそうに言うと、肩を落としてしょんぼりと歩き去った。
幼馴染の想いを振りきり一夏は自室へと戻った。
スマン鈴。幼馴染に心で謝罪する。昨日言っていた新作酢豚、頑張って作っていたのかな?そう思うと鈴にとても申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
しかし、そんな気持ちもDVDをセットする頃にはすっかり忘却の彼方だった。
心にあるのは巨乳幼馴染巫女のこと、強いては同じ幼馴染でもファーストのことのみ。
ゴクリ、一夏は唾を飲み込む。巨乳巫女と聞いて連想できるのは自分の周りに一人しかいない。箒だ。
姉弟モノには言いようのない想いがこみ上げた一夏であったが、箒なら問題ない。むしろウェルカムだ。
一夏は目を瞑る。
……ならばイメージしろ
現実で出来ないならせめて妄想の中でヤれ
所詮、童貞の出来ることなどそれくらいしかないのだから
誰かが言ったような言葉を適当に改変し、一夏は己の童貞力を極限にまで高めた。もはや俺に死角はない。これから見る巫女さんは箒だ!一夏は開眼しテレビの電源を入れた。
早送りできないメーカーのロゴが映る。この数秒でさえ今の一夏にはもどかしかった。我慢できないとばかりにベルトを緩める。さあ今こそ待ち望んで、待ち望んだ桃源郷へ!
『お名前は?』
『は、花絵です』
『年齢は?』
『48歳です』
『母性的でふくよかな身体ですね』
『ありがとうございます』
あれ?一夏は呆然とその画面を見つめていた。幼馴染巨乳巫女はどこ行った?なんでこんなオバサンのインタビューが始まってんだ?一体どうなってんの?
一夏の狼狽をよそに、そのオバサンへのインタビューは続く。そしてその数分後画面が暗転し、テロップが流れた。一夏を絶望に突き落とすタイトルテロップが。
『熟女物語33~ぽっちゃり奥様花絵の獣欲~』
「ふざけんな!」
一夏はDVDを抜き出すと、衝動的にそれを壁に叩きつけた。哀れにも、ぽっちゃり奥様花絵さん主演のカモフラージュしたDVDは真っ二つに割れる。そのDVDの有様はあたかも一夏の心のようだった。
あのバカ野郎、中身を間違えやがった。一夏は再度絶望に陥った。なんで、どうしてこうなるんだ?俺はただ誰にも迷惑をかけずに好きなAVを観たいだけなのに。どうして!
「ひどい……ひどいよ、あんまりだよ。なんでいつもこんな……ううっ」
一夏は泣いた。ズボンをズリ下げ、ティッシュ箱を胸に抱えたまま、ただ泣き続けた……。
ある日レンタル店で……。
レンタル店で勇気を振り絞って借りたAVが…。
ふと見ると別物に変わっていた。
そんな時なんで悲しくなるんだろう。
……そういう訳でIS学園は今日も平和です。
そりゃ人間がそれだけエロな動物だからさ
だがな、それこそが人間の最大の取り柄なんだ
心にエロがある生物、なんとすばらしい!
「寄生獣」傑作です。