P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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生娘かそうでないかなんて女性の価値になんら影響なぞしません。
せいぜいユニコーンに乗れるか乗れないかの違いくらいですよ。





更識楯無の生娘

いざ○ッチ先輩の下へと駆け出した一夏であったが、ふと思い止まると携帯を取り出した。楯無は何時も神出鬼没に現れる反面、普段は何処にいるのか誰にも分からないような所がある人だからだ。

 

楯無の番号をプッシュする。待つまでもなく最初のコール音の後すぐに彼女が電話をとってくれた。

 

「もしもーし一夏くん?」

「ビッ……楯無さん今何処?少し相談したいことが」

「そうなの?ちょうど一夏くんの部屋にお邪魔してるよー。早く帰ってらっしゃいな」

 

なんでナチュラルに人様の部屋に上がり込んでんだこのビ○チ!

一夏は一瞬沸騰しかけたが何とか心を鎮める。今ヘソを曲げられては困るからだ。

 

「ふぅー。分かりました。すみませんけど少しそこで待っててください」

「おっけー。それで相談って何かな?もしかして愛の告白?今更ながらにおねーさんの魅力にメロメロになっちゃったとか?いやんこのスケベ」

「楯無さん。真面目な話なんです」

「一夏くん?」

「俺、どうすればいいのか分からなくて。こんなこと楯無さんにしか相談なくて」

「一夏くん……」

「苦しい、辛い、寂しい。何よりくやしいんだよ楯無さん……」

「……分かったわ。茶化してごめんなさい。私に出来ることなら遠慮なく言ってね。どんなことでも協力するから。それは約束する」

「あ、ありがとうございます。じゃあ後で」

 

一夏は電話を切ると胸に手を置いて一呼吸する。

『どんなことでも協力する』楯無はそう言った。

 

これはもしかして相談以上のこともオッケーということだろうか?

そうだ。これはその先もウェルカムという彼女の合図なんだ。イェーイ!

 

「グフフフのフ」

一夏は童貞特有の気持ち悪い妄想笑いを浮かべる。

 

そして逸る心を落ち着かせるようにゆっくりと歩き出した。

 

 

 

童貞の掟その五 童貞は女性の言葉を自らの都合の良い様に自己解釈する。

 

 

 

 

「お帰り一夏くん」

「どうも」

 

少し心配げな楯無に迎えられ一夏は自室に戻った。

ドアを閉めると彼女に改めて向かい合う。

 

「早速ですがいいですか?」

「ええ」

「楯無さん!」

「は、はい」

「俺、俺、お、おれはぁ……!」

「一夏くん落ち着いて?ゆっくり落ち着いて話して。ね?私はちゃんと聞くから」

 

一夏は一つ大きく深呼吸する。

そして再度楯無を見据えると高らかに宣言した。

 

「俺童貞なんです!」

「は?」

「守りたい、童貞を。捨てたくない、純潔を。……なーんてそんなの嘘です!強がりです!本当は一秒でも早く捨てたいんです!大人になりたいんです!一皮剥けたいんです!」

「ちょ、ちょっと一夏くん、待って……」

「変ですか?おかしいですか?つーか普通でしょ?この年頃の男なんて身体はエロで出来てるんスよ!おかしいのはヤリたくても出来ないこの世界の構図なんだ!童貞に優しくない世界が悪いんや!」

「あの……」

「だから迷える童貞に愛の手を差し伸べてやって下さい!恥を捨てさせて下さい!大人にしてやって下さい!要は一発ヤラセて下さい!」

「……」

 

俯き黙り込む楯無の様子に一夏は気付かない。

童貞はいったん一直線になると周りが見えなくなるからだ。

 

「いいでしょ?どうせ楯無さんなら経験豊富で、数多の男がその身体の上を風のように通りぬけて行ったんでしょ?今更童貞一匹くらいそれに加えてくれても問題ないっしょ!そりゃ俺だって理想はありましたよ?出来れば初めて同士愛を囁きながら初々しくって。でも今はもうそんなんどうでもいいんです!弾のクソ野郎に先を越されたまま屈辱に震えながら過ごすのには耐えられません!ビッ○相手に初めてを捧げるのは、まぁ少しアレだと自分でも思いますが仕方ないんです。そこは妥協しないといけないのは分かってますから。あんま贅沢は言いません。……つーわけで一発おなシャス!」

 

最低過ぎる言葉を吐き出しながら一夏は笑顔でサムズアップした。楯無から発せられる殺意の波動に気付かぬままに。アホ丸出しである。こじらせた童貞ほど救えないものはない。

 

「……一夏くん」

「大丈夫です!万が一に備え、ゴムは抜かりなく用意してありますから!」

「死になさい」

「へ?ちゃんと極薄タイプのヤツで……」

 

尚アホをほざき続ける一夏の前で、楯無は華麗に半回転すると見事な回し蹴りを繰り出した。モロに顔面にもらいぶっ飛ぶ一夏が最後に見たのは、蹴りを入れる際にスカートから覗いた楯無の黒のショーツ。

 

よりによって黒かよ……。やっぱビ○チじゃねーか……。

薄れ行く意識の中、一夏は小さく微笑むと、そっと意識を手放した……。

 

 

 

童貞の掟その六 童貞は女性のパンツの色は白以外認めない(でも実は他も大好き)

 

 

 

 

 

「ん?………ここは」

「おはよう。少しは頭冷えたかしら?」

 

暫し気絶した一夏が目を覚ますと、楯無が豚を見るような蔑みの視線を存分にプレゼントしてくれた。

 

「あの、なんか奥歯グラグラするんですが」

「自業自得よ」

 

一夏の情けない声にも、楯無は一片の同情も寄せない。まぁ当たり前である。

 

「それで一夏くん。一応聞いておくけど、どういうこと?」

「どういうこと、とは?」

「変なお薬やってるんじゃないなら答えなさい。なんであんなふざけたことを言ったのかを」

「俺はふざけてなんかいませんよ!」

「えっ?」

「見損なわないで下さい!あんなの冗談で言えると思いますか?」

 

一夏の真剣な眼差しに楯無の方が一転戸惑うように後ずさった。

 

「俺は捨てたいんです。……ヤリたいんです!その思いは、きっと、間違いなんかじゃないんだから!」

「ちょっと……」

「楯無さん。お願いですから俺の真剣な想いだけは否定しないで下さい。俺は本気なんです」

「そ、そうなの?えっと、ごめんなさい?」

 

ペコリと頭を下げる楯無。

彼女も普段の人騒がせな言動に関わらず、内実はお人よしというか、純なんである。

 

「分かってくれればいいんです。じゃあヤラセて下さい」

「……いやいや待て待て!『じゃあ』じゃないでしょ!調子乗るな!」

「チッ」

「一夏くん。君今舌打ちしたね?」

「いいじゃないスか。別に減るもんじゃなし、一発くらいヤラセてくれても」

「そんな女の一大事を簡単に許せるワケないでしょ!こっちも心の準備ってもんがあるんだから!」

「えっ」

 

楯無の顔を真っ赤にした叫びに一夏が固まる。

 

「楯無さんって……もしかして、まだ?」

「な、なに。悪い?ってか当たり前でしょ!」

「えーっ?」

「『えーっ?』て何よ!」

 

楯無さん。更に真っ赤っ赤。

 

「つまり楯無さんって」

「な、なによぉ」

「処女なのにさも経験豊富なような、からかった態度を取ってたんですか?」

「うっ」

「処女なのに無理やり胸触らせたり、パンツ見せたりしていたんですかー?」

「ううっ」

「処女なのに裸Yシャツで男のベッド潜り込んだりしていたんスか~?」

「ううぅっー!」

「ないわー」

 

一夏はアメリカ人のように『やれやれ』のジェスチャーをとる。その目は既に困ったお子様を見守る父親のような目にシフトチェンジしていた。

 

「何だ……。楯無さんってただの処女ビッ○だったのか……」

「しょ、しょ、処女○ッチゆーな!」

「なんだかなぁ……。少しガッカリだ」

 

普段の楯無なら瞬時にキルされるような最低な言葉をぶつける一夏。

しかし今の楯無は何も出来ず真っ赤に俯くことしか出来なかった。人はメッキが剥がれることほど恥ずかしいものはないのである。

 

「……なによ。なんでよー!処女の何が悪いってのよー!」

楯無さんの咆哮。処女が背伸びしたっていいじゃない。

 

 

 

どうでもいいが『ビッ○』だけだと汚い言葉に聞こえるのに『処女ビ○チ』となると、こう少し微笑ましく聞こえるようになるのは気のせいだろうか?……やっぱ気のせいかな……。

 

 

「いや別に悪くないんスけどね。でも何かなぁー」

「何よ!言いたいことあるなら言いなさいよ!」

「うーん。上手く言えないんですけど、なんか微妙なんですよ」

「だから何が!」

「言うならば簪が実は経験済みだった、というような感じ?……いや違うな。……うーむ何だろう?この得体の知れないモヤモヤ感というかガッカリ感は」

 

一夏は口元に手をやり考え込む。その様子は人類史の謎に挑む哲学者のようだった。

対照的に楯無はジト目で目の前の哲学者を睨みつける。妹まで例に出しやがったよこの男。

 

「一夏くん。ちょっとオイタが過ぎない?簪ちゃんまで持ち出して」

「ああ、すみません。深い意味は特にないです。ただ身近な例を」

「君が童て……経験がないことを苦悩するのは勝手だけどさ、どうあれ小さすぎわよ。男ならもっと器を大きくしてなさい。そんな経験の有る無しくらいで……」

「でも簪で思い出したけど、これって楯無さんにも関係ある話だと思いますが」

「へっ?どゆこと?」

 

楯無がキョトンとした顔をする。

 

「さっき俺言ったじゃないですか。弾のクソ野郎に先を越されたままではいられないって」

「そ、そうだっけ?」

「つまりそういうことですよ」

「どういうことよ?」

「う~ん」

 

困ったような視線を寄越す一夏に、楯無は少し不安が募っていく。

 

「楯無さんなら察してくれると思ったんだけど」

「そんなのいきなり言われて分かるわけないでしょ!」

「五反田弾のこと知ってますよね?」

「え?えぇ。まぁ。君の親友でしょ?」

「俺にそんな親友なんていません。誓い合ったダチを裏切るような親友なんて」

「あの、一夏くん?」

「とにかく、そのクソ野郎が誰と付き合ってるのかご存知ですよね?……ということは?」

「ん?それは…………あ」

「そういうことですよ。先越されちゃいましたね」

「なん……だと……」

 

楯無はガックリ膝から崩れ落ちる。亡国との戦いでも決して膝を付かなかった彼女の気高き心。それが淡くも崩れ落ちた。

 

「聞いてない……。わたし何も聞いてないよ……」

「敢えて言わなかったんじゃないですか?虚さん優しいし、楯無さんを気遣ったとか」

「マジで?マジなの?」

「はい」

 

再度ガックリ頭を垂れる楯無。「マジで?」と彼女には似合わない台詞をゾンビのように呟き続ける。

友人に先を越されるというのは男に限らず女もまた複雑なものなのです。

 

「でも、でもあの二人が付き合い始めたのはつい最近のはず……」

「らしいですね」

「なのにもうそこまで?そんなの……」

「今時はそんなもんらしいですよ?数ヶ月おままごとするカップルなんていないんですって」

 

クソ野郎との屈辱の会話を思い出しながら一夏が言う。

 

 

でも事実である。時代は迅速さを求めているのだ。付き合って三日後にはベッドインするカップルなんて珍しくもない。そりゃAVだって出会って五秒後にはインサイトしますわ。

 

「嘘、ウソよ。そんなの……」

「楯無さん……」

「小さい頃は二人でコウノトリの存在を信じてたくらいだったのよ?その彼女が私を置いて……」

「えー」

「新たな『高み』に既に羽ばたいていた……そういうことなの?」

 

内に広がる漆黒の思いに楯無はぎゅっと胸元を掴む。

それは親しい友人に先を越されていたということを認めたくないという思い。僅かに残る自尊心、プライド。そんなあさましき思いが彼女を苦しめた。

 

傷心の楯無の様子に一夏もまた胸を痛めた。

それは傷つく彼女の姿があまりにも痛ましく思えたから。……というわけではない。ただ今の楯無の姿が少し前の自分の姿とモロに被り、それを客観的に見せられてるようで非常に恥ずいのだ。

 

……弾から見て俺はこういう風に見えていたのか。

一夏は眼前の少女から目を逸らして、一人悶絶しつつ思う。これはひどい。

 

 

「私……どうすればいいの……」

 

大切な友人が、知らぬ間に大人の階段上ったシンデレラになっていたことに絶望する生娘。

童貞はその肩にそっと優しく手を置いてやることしか出来なかった……。

 

 

 

童貞の掟その七 童貞は同じ未経験者なら性別、人種、果ては種族を超えて共感することが出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




相変わらずの悪い癖で、今話で終わらせる筈が書いてる内に興が乗り、楯無さんをイジめるお話になってしまいました。
処女なのに言動がいかにもビッ○っぽい女性って、こう、胸にクるものがありますね(にっこり)


とはいえ一夏にイジメられっぱなしの楯無さんじゃないので、次の完結編では童貞に逆襲する彼女も見せたいと思います。
では宜しければまたご覧になって下さい。


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