P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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誰得は承知ですが、たまにどうしようもなく男の突き合い、もとい付き合いを書きたくなるんですよ。
今回の番外は上下で終わりますので、リストラ編は少しだけお待ちください。


五反田弾は自重しない (上)

「一夏、俺はもうダメだ……」

「弾?」

 

とある日の日曜、親友からの電話に何気なく出た一夏だったが、相手の絶望の声に驚いた。

 

「弾どうしたんだ?何があった?」

「一夏……」

 

しかし弾は答えず、電話からは微かな弱々しい息遣いが聞こえるだけ。

まさか本当に弾の身に何か?一夏の胸がざわめく。

 

「もう一度聞くぞ、何があったんだ?」

「……ひっく」

 

答えずしゃくり上げるのような擬音を発する友に、一夏は不安が強くなっていく。泣いているのだろうか?

 

「弾!今どこにいる?家か?」

「……ああ」

「今から行く!待っていろ!」

 

一夏はそう力強く宣言すると、電話を切り、そのまま部屋を飛び出した。入っていた予定なんて今はどうでもいい。弾が泣いている、苦しんでいる。ならそれを助けるのが、友である自分の役目なのだから。

 

「一夏~。どっか遊びに……」

「うるせぇ!それどころじゃないんだ!」

 

部屋を出たところに待ち構えていた酢豚ちゃんを一喝して、漢一夏は駆け出す。可愛い幼馴染とのデート?そんなものはクソ喰らえだ!今はただ走れ!

一夏はそう己に喝を入れると、虎となって颯爽と走り去って行った。

 

「あれ?」

そして廊下には訳が分からず、首を傾げる鈴ちゃんだけが残された……。

 

 

 

 

「一夏さー……」

「シャラップ!」

 

本日何人目かのお誘いを男らしく一刀両断した一夏は、ようやく校門まで辿り着き一息をついた。全くここに来るまで一体何人から遊びの誘いを受けたことか……。酢豚から始まり、仏蘭西、軍人、会長、その妹、そして尻。……ああ、あとモッピーも。

 

我ながら今の環境が怖い。何で外に出るまでの間に、門番の如く奴等は待ち構えているんだ?一夏は身を震わすと、校門を潜り魔境から出る。不思議と感じる開放感が少しだけ心地よい。

 

「坊主、お出かけか?嬢ちゃん達は一緒じゃねぇのか。」

「西田さん」

 

ムサイ男のニヒルな笑いに、一夏は苦笑を返す。

その男は警備員の西田、既婚。だが最近嫁に内緒で隠し持っていた、大量のエロDVDがばれて家から追い出されている、という根も葉もなき悲しい噂が流れている、50間近の男である。

 

「全くいい天気だよなぁ。絶好のお出かけ日和だぜ」

「そうですね……」

「どうした?冴えないツラしやがって」

「……西田さん」

 

一夏はそこで抱えていた思いを西田に話した。親友が電話口で泣いていたのだと、苦しんでいたのだと。そして自分はそれを何とかしたい、ということを。

 

西田は黙って話を聞いていた。目を閉じて迷える少年の悩みを受け止める姿からは、年季の入った渋い男の姿が充分に醸し出されていた。

そして一夏の話が終わると、大きく息を吐いて、悩む少年に笑いかける。

 

「……行ってやれ坊主」

「はい……!」

「『男なら泣くな!』そう言うヤツもいる。だがな男だって泣きたい時はあるんだ。そんな時傍にいてやるのはダチの役目なんだよ」

「ええ!」

「俺もな、かーちゃんにお宝を没収されて、更には家からも叩き出された時は泣いたよ……。途方にくれて、惨めで。そんな時助けてくれたのはやっぱりダチなんだよ。苦楽を共にした俺のお宝……大切な三十路妻クレクションの死を一緒に嘆いてくれて、一晩中酒に付き合ってくれたんだ……。ぶっちゃけ今もそいつの所にやっかいになってる」

「ええ?」

 

あの噂は本当だったのかよ……。

一夏は情けなさMAXの男の姿に、抱いていた年上の男への想いが崩れていくような気がした。

やっぱこういうおっさんにはなりたくない。ダメ!ゼッタイ!

 

「……じゃあ、俺行きます」

「ああ。行って来い!ダチを大切にしろよ」

 

そして年だけは無駄に入ったエロオヤジの激励を背に少年は走り出した。友を救う為に、助けとなる為に。

ダメオヤジはそんな少年を見送りながら思う。坊主、それが青春ってヤツだと……。

 

そうして男たちの想いは、多分交わることなく別れた。

 

 

 

 

 

「弾!」

「お~きたか、イケメンさんよぅ」

 

酒臭さに一夏は思わず鼻を摘む。友を救うため、懸命に走って来たメロス一夏を待っていたのは、見事な酔っ払いの姿だった。

 

「お前、酒飲んでいるのか?」

「ひっく、そーだよ悪いか?飲まなきゃやってられねーんだ!」

「弾……」

 

酒に逃げるダメ人間の姿に、一夏は唇を噛み締める。

どうしちまったんだよ弾。お前はそんな弱いやつじゃないだろ!……多分。

 

「蘭やおばさん達は……」

「法事があって昨日から親戚の家に行っている。俺はテストも近いから遠慮したんだがな。けど、こんなことになるんなら、面倒でもついていけば良かったぜ」

 

辛そうにため息を吐く弾を見て、一夏の胸もズキンと痛む。

 

「まぁ上がれよ。茶くらい出すぜ」

弾はそう言って一夏に部屋まで行くように促すと、奥へと消えていく。一夏はやるせない想いでそれを見送ると「おじゃまします」と後に続いた。

 

 

 

「で?……何があった?」

弾の部屋で、出されたコーラを片手に一夏が厳しい眼差しで問いかける。

 

「へっ、何でもねぇよ」

「何でもなくないだろ!電話で泣いていたじゃないか」

「えっ?いや、マジで泣いてないけど……」

 

キョトンとした顔で答える弾に、一夏の方はスフィンクスのような顔になる。

なんだそりゃ?じゃあ聞こえたしゃくりあげるような声は、ただの酔っ払いのしゃっくりだったというのか?ふざけんな。

 

「でも、そうかもな。確かに泣いていたかもしれねぇぜ。俺の心、魂はな……」

 

何言ってんだコイツ?

一夏は弾のキザな台詞にそう思ったが、すぐに頑張って神妙な顔を作る。

 

「なぁ弾。話してみろよ、話すことで少しは楽になるかもしれないからさ」

「虚さんが男と歩いていた」

 

話を振ってやるとあっさりと答えた弾に、一夏は一瞬呆気にとられる。だがすぐに思考を取り戻すと、親友の言った意味を考えた。

虚さんが男と?マジか……。

 

「あー。そりゃまた……。でもお前の勘違いってことは?」

「俺も昨日街中で偶然見ちまった時はそう思ったさ。これは何かの間違いだと。だから急遽破けたジーンズとバンダナを巻いたスパイとなって、二人の後を追ったんだ」

「はぁ。そ、そうですか」

「そしたら、そしたら……ちきしょう!」

 

急に悶絶し始める弾に、一夏までが胸にモヤモヤが広まっていく。虚とは生徒会の仕事で何度も顔を合わせている仲であり、真面目で丁寧な物腰には、憧れのような思いも抱いていたからだ。

そんな女性が、高そうな車の横でキスでもおっぱじめたというのか?一夏はゴクリと唾を飲み込む。

 

「……お熱いチューでも始めたと……?」

「んな訳ねーだろ!一夏テメェ虚さんdisってんのか?」

「えー?」

「彼女が公共の場で、そんな童貞には地獄のような真似をするかよ!ただ親密そうに歩いていただけだ!」

「あー悪い」

「歩いていただけだよ。歩いていただけ……。楽しそうに、親しそうに……うぉぉーん」

 

急に泣きはじめる友を見て、一夏の胸に別の不安が広がっていく。

コイツは今情緒不安定に違いない。優しくいこう、人に優しく。

 

「辛かったろうな弾。よく頑張ったよ」

「い、いちかぁ~」

 

ヒシと抱き合う少年二人。弾は幼子のように涙にぬれた顔を、一夏の逞しい胸に摺り寄せた。

酒臭ぇなぁ、一夏は見えないように顔をしかめる。

 

「でもな弾。俺はそれでも、虚さんはそんな裏切りはしないと思うぞ」

一夏が優しく背中を叩いて、友を激励する。

 

「虚さんの家系が普通とは少し違うのは知っているだろ?楯無さ……ある一族に仕えるために、俺たちの想像も出来ないほどのことが多分あるんだよ。沢山の仕事がさ。だからその一緒に歩いていた男の人も、きっとそれ関係なんだよ」

 

一夏は静かに続ける。

 

「だから信じてやれよ。彼氏のお前が信じてやれないで、誰が信じてやるんだ?」

そして弾をそっと引き離すと、優しく微笑みかけた……。

 

 

 

「彼氏?誰が?」

「え?」

 

唖然とする一夏。先ほどの男臭い桃色空間が綺麗さっぱり吹っ飛ぶ。

 

「付き合ってないの?お前と虚さん」

「ねぇよ!それだったら完全な浮気じゃねーか!」

 

なんだそりゃ。一夏は急にやる気が無くなっていくのが自分でも分かった。

じゃあ別にお前があれこれ言う権利なんて無いじゃないか。

 

「でもその男ってのが、これまたイケメンでさぁ!しかも出来る男って感じでよぅ~」

反対に弾のほうは酒の力も加わってヒートアップする。一夏は急に帰りたくなった。

 

「カッコつけてスーツなんか着やがって!しかも偉そうに眼鏡までかけてんだぜ」

……お前の中ではスーツを着たサラリーマンはみなカッコつけで、眼鏡の人はみな偉そうに映るのか。

 

「笑い方がまたキザっぽいんだよ!余裕のある大人の男って感じがさぁ!」

……大人の男。少なくとも西田さんのような駄目エロオヤジではないんだろうな。

 

「ルックスも、見た感じのインテリ度も、大人としての包容力も……おそらくアッチのテクニックも完敗だ……!そんな俺がどうやって虚さんを取り戻せるって言うんだ?一夏さんよぉ~」

「あきらめろ」

 

一夏はヤケクソ気味に呟く。しかし酔っ払いは基本人の話なんて聞いていない。

弾ではなく、DANとなった親友の愚痴を聞きながら、一夏は人の優しさについて考えた。

 

 

 

 

「でよぉ~。俺はどうするべきかと思うのよ、新しい春を見つけるか否か。でもな~」

 

それから一時間。DANの愚痴は止まることを知らない感じだった。

優しい一夏はそれでも最初は、諭したりするなど試みていたのだが、何度も言うが酔っ払いは人の話なぞ聞かないし、ぶっちゃけ相手に意見なんざ求めてはいない。彼らに必要なのは正論を返してくる相手ではなく、ただ相槌をうってくれる者、若しくは何も言わずに黙って聞いてくれる人間なのだから。

 

そして愚痴というのは、話しているほうは楽しいかもしれないが、聞いているほうはちっとも楽しくなど無い!何が楽しくて人様の勝手な思いを延々と聞かせされなければならないのか。

 

 

とはいえ、これは誰しもいずれは通る道。近い将来上司のオッサンに『人生教訓』と称して飲み屋で延々と語られる日が来る方も多いだろう。そんな時嫌な顔をしたり、反論しようものなら一大事である。オヤジはそういう事には厳しいし、根に持つ生き物なのだ。

 

という訳で日本を支えるサラリーマンを目指す方は、今のうちに耐性を付ける努力をしておきましょう。

 

 

しかし我らが一夏は、まだ高一の今をときめく16歳。そんな先のことなど知らないし、どうでもいい。そして確かなのは延々と続く親友の愚痴に、更にはこちらの話を聞かないバカモノに、耐え切れなくなってきたということである。

それならいっそ帰ればいい、と自分でも思うのだが、そこは一夏の持つ優しさだった。こんな状態の親友を放っておくことは出来なかったのだ。

 

「おい一夏ぁ、聞いてんのかぁ~」

「聞いてるよ」

 

投げやりにDANに言うと、一夏は手持ちのコーラを勢いよく煽った。ホント飲まなきゃやってられない。

 

「一夏!そういやあれだ、あれ、お前も酒飲むアルヨ」

「ハァ?」

 

随分とラリって来た親友に一夏が呆れて返す。

 

「馬鹿か。未成年は本当は……って、そういやお前、あの一件で酒は懲りたんじゃなかったのか?」

「んー?何のことだ?」

「え?いや、お前……」

「いいからいいから。そんなことよりグーっといけよ!」

「おい弾」

「んだよ一夏。俺の酒が飲めねぇってのか!」

「逆切れすんな」

「あーそうかよ。つまりお前は恋に悩む親友の相手なんかしたくないと。所詮は人事だって言うんだな」

「何でそうなる……」

「なら飲めるはずだろ。そんで苦しみを分かち合ってくれるはずだ。それがダチってもんだ!」

 

無茶苦茶なDAN理論に一夏は閉口する。なんで酒を飲むことが苦しみを分かち合えることになるんだよ。

しかし、そこで西田の言葉が脳裏をよぎった。『友達が悲しみを癒すために、一晩中酒に付き合ってくれた』確かそう言っていたか。

 

一夏はため息を吐くと、DANがしつこく目の前に掲げてくるビールを受け取った。一杯だけ付き合ってやろう。そうすれば一応は納得してくれるだろうし、義理は果たせる。

そして一夏は「プシュッ」という音を響かせ、ビールのブルタブを開けた。

 

一杯だけ、それは酒飲みには禁句の言葉。こうなった時点で負けであるのに……。

人はなぜ学習しないのだろうか……。

 

 

 

 

 

「だ、弾ニキ。も、もう……」

「なんだこれくらいで!まだ序の口じゃないか!」

 

ゴクッゴクッ。

ぶるぶるっ。

 

「だめだァ~もう限界だよォッ!」

「よしっ!思いっきり……あれぇ?」

 

ここにきてようやく、弾の腐った脳みそにデジャブのような光景が思い浮かんだ。

今の今まで忘れていたかつての記憶。恐怖の思い出、絶叫の折檻。悪魔の行為。

 

「あ、ああぁぁぁ……!」

思い出した。思い出してしまった。アルコールの力ですっかり忘れていた。目の前の男の酒癖の悪さを!

 

「お、おい一夏」

急に突っ伏した親友に弾は恐る恐る尋ねる。もはや酔いは一気に醒めていた。

 

「一夏?おい!いち……」

「うっせーチンカス」

 

地獄の底から這い上がるような暗い声に、弾のDANが久しぶりに縮み上がる。それは刻まれた恐怖の記憶。

 

「い、一夏さん。あのぅ……」

「好きな人をどこぞのイケメンオヤジに寝取られただと?情けねぇな!エロゲに出てくる寝取りキャラみたいな外見してるくせに。その長髪はただの飾りか?ああん?」

 

それは魔王の再来。鬼畜王一夏の降臨。

そんな状況で弾が出来ることは……。

 

「ひぃぃぃぃ!」

ヘタレのような叫び声をあげることだけだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




      キャスト

織斑一夏……我らが偉大なるワンサマー。鈍感王子の称号を引っさげ、今日も無自覚に女性を落とす。でも友達思いな優しい男の子である。
『一夏……ごめんなさい。神を(作者)を許して……。ISに出会わなければ、貴方は優しい人達に囲まれて、騒がしくも幸せな日々を送ることが出来たでしょう……』そんな千砂さん、じゃなくて千冬さんの声が聞こえてくる悲劇の少年でもある。
だから皆あんまり苛めないであげて!ワンサマのアンチはゼロよ!……無理だろうな……。

五反田弾……一見チャラ男のような外見にも関わらず、根は純真な妹思いの「ウホッ」ないい男。ある意味見掛け倒し。鬼畜ゲーならおそらく外見に見合った活躍が出来ただろう。ヤツは出る作品を間違えた……。
イケメンか、そうでないかは二次作品によってまちまちである。私は断固イケメンだと思う。

西田……50間近にして、妻の為にジャンピング土下座を取得した、ダメな大人の生きた証人。こうなってはいけない、というのを体を張って一夏に教えている人生の反面教師。
『浮気は男の甲斐性』などというヒデー言葉があるが、女性によってはそれが人間でなくとも当てはまる場合があるので注意しよう。

セシリア・オルコット……尻、ちち、ふともも。三拍子そろったお嬢様。でも尻。個人的にISキャラの中で一番膝枕されたいキャラでもある。でも尻。

凰鈴音……酢豚。

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