P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結) 作:コンバット越前
『もっとしっかりしてくれ……!このお腹にはお前の子がいるんだぞ……!』
『……うるさい』
『え?』
『なんで子供なんて作ったんだよ!誰がそうしろと頼んだ!』
『……え?』
『そんなこと急に言われたって、俺どうすればいいのかなんて分からねぇよ!』
『そ、そんな。この子の父親はお前なんだぞ……』
『知るかよ……』
「コイツ殺していいか?」
『おい!これ以上アイツの気持ちを弄ぶのは止めろ!』
『ハァ?』
『アイツは今泣いているんだ!何とも思わないのかよ!』
『何お前?モテない男のやっかみか?面倒なんだよ、何もかも』
『テメェ……!俺は全部知っているんだぞ、お前がアイツ以外の多くの女に手を出していることを……!』
『そうさ!浮気だよ。悪いか?ははは』
「死ねばいいのに」
『今だけは私のことだけを……あの人を嫌いでいて下さい……』
『俺アイツのこと嫌いになったわけじゃないから上手く言えないけど……。最高だよ、アイツなんかよりずっといい。お前のこの大きくてやわらかい尻に比べたら……(以下禁則事項)』
「FUCK YOU」
『ん?メール?誰からだ?』
『ごめん
……
……
……
……
……
……
……
……
……
……さよなら』
『え?』
牙突(包丁ver)
『ズルイよ……。自分だけ、自分だけあの子と幸せになろうなんてぇ!』
『うばらっ!』
ザクッザクッ。
死ーん。
「これは仕方ないね」
『やっぱりそうじゃない。……中に誰もいないわよ……』
終。
「どうだ?感想は」
ラウラがドヤ顔で彼女の部屋に集まった面々を見渡す。
……なんつーもんを見せやがるんだよ。
集まった少年少女たちは、このアニメ好きドイツ軍人のセンスに驚愕すると共に、暇を持て余していた己の境遇を悔やみたくなった。
「おいラウラ。誰がこんな胸糞アニメをチョイスしろと言った?」
箒が不機嫌さを顔に張り付かせて言う。
「いや~。あたしも流石にここまでゲスな主人公のアニメは初めて見たなー」
鈴が一周まわってある意味感心したように言う。
「あまりの身勝手さに思わず汚い言葉を呟いてしまいましたわ。お恥ずかしい。でもFUCK」
セシリアが恥ずかしがりながらそれでも言う。
「でも結末は自業自得かもね」
シャルロットが納得するように言う。
「うむ。この凄惨な話も日本のアニメーションが到達した一つの形なのだ」
ラウラがしたり顔で言う。
「ん?どうした嫁?顔色悪いぞ、お腹でも痛いのか?」
「ラウラ……お前な、こんなモン見せられて俺どう言えば良いってんだ?」
そして一夏は真っ青な顔で言った。
『School Life』
それはあるチャレンジャーな局が製作・放送したアニメ作品である。
内容はヤることしか頭にないゲスの極みの主人公が、性欲のまま片っ端から出てくる女の子を喰いまくっていく、という放送禁止スレスレの問題作である。
最後はヒロインを孕ませた疑惑のゲスの極み男が、それでも尚浮気を続けた挙句、他ならぬそのヒロインに牙突をブチかまされ、自業自得の短き一生を終えるというものである。全くもって救いのない、ある意味爽快感抜群の余韻で幕を閉じる、萌えアニメに一石を投じた作品であった。
つーかこんな修羅場漂う血塗れのスクールライフなんてもんがあってたまるか!
そんな視聴者の咆哮が響き渡るアニメでもあった。
だがまぁそれもいい。平凡少年がいきなり手に入れるトンデモ能力も、異世界GOもない。あくまで普通の高校生の織り成す……いやこいつら全然普通じゃねぇや。……とにかく!どうあれそういうチャレンジャー精神にある意味敬意を持ちたい。
そうお思いになる人もいるかもしれない。しかしここに一つ問題があった。
このアニメ、イケメン・モテ男には大変胃に優しくないアニメだと言う事だ。
「それにしてもこのアニメの主人公酷いよね」
シャルロットが皆を見渡して言う。
「最低だな」
「死ねばいいのに」
「ファッキン野郎ですわ」
「どうした嫁?やっぱりお腹痛いのか?」
「何でもない……」
ラウラに弱弱しく答えながら一夏は胸の辺りを押さえる。
どうしてだろう?自分のことではないと分かっているのに胃がズキズキする。
「……ねぇ一夏はどう思う?」
「あ、お、俺か?なんだよシャル」
「一夏はこのアニメのクズ男を見てどう思った?」
「クズってお前……。いやどうって、その……皆が言うように、さ、最低としか……」
不意の質問にキョドる一夏さん。
「一夏は違うよね?」
「へ?」
「このアニメのような人間のクズとは違うよね……?」
「う……」
「女の子を身重にしておいて、責任から逃げ出すようなゲスの極み男とは違うよね……?」
「あ、あの……」
なんだろう、シャルロットの目がメッチャ恐い。
「一夏、分かってるよね?」彼女の目は如実にそう語っている気がした。もし彼女の意にそぐわない言葉を言おうものなら、その瞬間にも悲しみの向こう側へ旅立ってしまうような……。
思わず助けを求めるように他の少女達へ目を向ける一夏。
しかし彼の願いは虚しく、他の少女達も目をぎらつかせて一夏の答えを待っている。唯一ラウラだけはいつも通りだったが、正直彼女はこういう場ではあまり当てにならない。
「ねぇ一夏。どうして黙ってるの?一夏はそうなったら責任を取ってくれるよね?」
「いや、その、シャルさん?」
シャルロットの剣幕に一夏はたじろぐ。
責任。
責任感とは違う意味の重い言葉。『人生の墓場』へ特急間違い無しのありがたいお言葉。
同時に一夏のようなモテ男が、本能的に聞きたくない言葉トップ3に入るとも言われている。何しろその「責任」の言葉を了承することにより、他女性との関係が強制シャットダウンされるのだから。
「一夏?」
「ううっ……も、もちろん俺は……」
「そーゆーのどうかと思う」
しかしそこで悩める少年を助ける声が不意に届き、一夏は縋るようにその方を見た。
「鈴……?」
その意外な人物に一夏が驚いた声を上げる。
「鈴?ボクは一夏に聞いてるんだけど?」
「そういうのフェアじゃないんじゃない?」
「どういう意味かな?」
「責任、責任って。まるで男を繋ぎとめるために子供を利用するってことよ」
「利用?……鈴、いくらなんでも言葉に気をつけなよ」
「そうかしら?」
不意に鈴とシャルロットの間に火花が散る。
え?どうなってんの?一夏の胃が更に痛くなる。
「おい鈴。フェアもなにもないだろうが。シャルロットの何処が間違っているんだ?」
そこに箒も怒りを携えてシャルロットに加勢する。
「どうあれその過程で女性を傷物にしたのなら、男はその責任を取るべきだ」
「それは分かってる。でもあたしはそのやり方が気に入らない」
「やり方だと?」
「子供を授かるのって……そういうのじゃないでしょう?上手く言えないけど、子供を理由にするのは、あたしはやっぱり……」
「何言ってるんだお前は」
箒が遮り、やれやれと首を振る。
「あのアニメのゲス男も、責任を取らずふらふらしているからこその結末だっただろ?責任をとって、あのヒロインと共に歩む誠意を持っていればあんな悲劇は起こらなかった。そうだろ一夏?」
俺に振るな。
箒さんの視線をかわしながら一夏くんは願った。
「でも私は鈴さんの言わんとしてることも何となく分かりますわ」
更にはセッシーも参戦する。
「子供を授かったというのは本来素晴らしいことですわ。ですがあのアニメの女性は、それをただ男性を繋ぎとめるだけの手段に用いていた節がありました。それは女性として、何より母としてどうでしょうか?」
「じゃあ君はどうしろってのさ。授かった子供を『なかったこと』にして再度向き合う努力をしろとでも?」
「そんなことは言っていません!」
「子供が出来た以上、もう理想論だけじゃやっていけなくなるんだよ?子供の為にも、そのことで相手に責任を取らせようとすることの何がいけないの?」
「私だって男性の責任の有無については貴女方とほぼ同じ意見ですわ。ただあの女性の考え方というか、矮小さが気に入らないのです!」
シャルロットとセシリアまでもヒートアップし、一夏は絶望する。
一体全体どうなってるんだ?なんでただのアニメ鑑賞からこんな重い話題になってんだよ……。
「分からんな。邪魔なら皆排除すればいいのにな。恋愛とはどんな手段を用いようとも、最終的に立っていたものが勝者なのだ」
ラウラが一人煎餅を齧りながらのんきに言う。
誰だよそんな物騒なことをラウラに教えたのは。
「一夏は絶対に責任を取ってくれるよ!ボクは信じてる!」
シャルさん。そんなこと急に言われても。
「そうだ!私は幼馴染なんだぞ!」
幼馴染関係ないよ箒。
「アンタらねぇ、世の中そんな自分の願いどおり物事が進んでくれたら苦労しないわよ!一夏の都合も考えなさいよ」
鈴さん。そう思うならそっとして頂けませんかね。
「綺麗事だけじゃない、確かにそうですわ。……ところで一夏さんは入り婿はお嫌でしょうか?」
何言ってんのこのお嬢様。
シャルロット・箒VS鈴・セシリアの二陣営に別れ、言い争いが激しくなる場を見て一夏は決心する。
逃げるしかない。
このままでは近いうちに自分に火の粉が、いや火の粉どころか業火が降りかかる。間違いない。その証拠にいつの間にか、アニメの主人公の立場が自分に置き換えられている。もはや猶予はない、逃げることで後が怖いが、今はそれよりも自分の命が大切なのだ。
モテ男とはその場しのぎのプロである。
嫌なことは先送り!『見ざる言わざる聞かざる』のコンボだ!文句あるかちきしょう!
「ん?どうした嫁?気配を絶って何処に行く気だ?」
「ああ。ごめんなラウラ。お腹痛いからちょっとトイレ行ってくる」
「そうか。しっかり出してこい」
純粋な夫に励まされ一夏はそっと愛憎渦巻く魔境を出る。
そして静かにドアを閉めるとダッシュでその場から駆け出した……。
「おえっ」
手洗い場で思わずうずくまる一夏。思った以上にストレスがマッハだったようだ。
「おりむー?」
「……のほほんさん?」
一夏が濁った目を向けると、そこにいつの間にか本音が立っていた。
「どうしたの?大丈夫?」
「あ、うん。何とか……」
「おりむー口元よごれてるよ」
そう言うと本音はハンカチを出して一夏の口の辺りを拭う。
「ご、ごめん!ハンカチ貸して、ちゃんと洗濯して返すからさ」
「いいよそんなの~。それより本当にだいじょーぶ?」
本音は気にした風でもなく、一夏の口元を拭いたハンカチをポケットに戻す。
そして自らも屈んで一夏の背を優しくさすった。
一夏はその優しさに思わず涙が零れそうになるのをグッと堪える。
人間辛いときに純粋な優しさを向けられることほど、心にクるものはない。
「おりむー?」
「ううっ……のほほんさんは優しいなぁ……」
「よしよし」
暫し子供のように背をさすられ、一夏はようやく自分を取り戻した。
「もう大丈夫。ありがとう」
「そう?良かったー」
「のほほんさん。お礼に何か奢るよ」
「いいよそんなのー。それより保健室行かなくていいの?」
「のほほんさんのおかげでもう大丈夫だから。ね?お礼させてくれない?」
「う~ん」
「ケーキでも奢らせてよ」
「分かったよ。じゃあお言葉に甘えるよ。おりむー、学食へ行こうー!」
そうして二人並んで歩く。
一夏の心は平穏に満たされていた。女の子って、こういうのでいいんだよ。こういうので。
「エヘヘ~ケーキケーキ」
「ちょ、ちょっとのほほんさん」
「何食べようかな~」
「まいったな……」
ケーキがよほど楽しみなのか、一夏の腕に手をやって嬉しそうに本音が言う。
それに対し、一夏は彼女の豊満な胸を直に感じて、だらしなく相好を崩した。
仕方ないんや……男の性なんや……。
そうして一夏の胃が痛くなるスクールライフは『大天使のほほんさん大勝利!』で幕を下ろそうとしていた。
『見つけた……』
そんな微笑ましい男女の背中に不気味に響く声。
声の主は一人?それとも二人?まさかの五人?
どうあれ一夏君が平穏なSchool Daysを過ごすのは難しいようです。
そういうわけでIS学園は今日も平和、もとい修羅場です。
先日久しぶりに見てみたが、やはりアレは凄ェアニメだった。
いくらモテても、あんな学校生活死んでもごめん……つーかマジで死ぬんだけど。とにかくノーサンキューです。
しかし一定の真理はあるようにも思える。
そもそも『ハーレム』なんて都合のいいもんは、普通はあるわけない。
想い人が自分以外の異性と仲良くしているのを見て、何とも思わない人なんているだろうか?
嫉妬、自己嫌悪、謀略……そんなことを願っても当たり前ではないのか。
そう考えるとある意味彼らはリアルなのかもしれない。
要は何が言いたいのかというと、のほほんさんはIS魔境に舞い降りた天使だということですよ。
あとなんだろ…酢豚可愛いですよ(投げやり)