P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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ヤサイマシマシニンニクマシアブラカラメマシ





織斑一夏の今日から俺は!! 『対金髪編』

学園に戻る電車の中で、俺は弾のアホに渡されたヤンキー漫画を読んでいた。こういったジャンルはあまり読んだとことが無かったが、中々面白い。

おかげで退屈な思いをすることなく時間を潰すことができた。そして読みながら思ったことがある。

 

 

確かに一度変わってみようとするのも有りかもしれない。

 

 

 

 

 

「一夏!そ、その髪どうしたの?」

 

学園に到着後、直ぐに出会ったシャルに驚かれた。

そりゃそうだよなぁ。

 

さてどうしようかと思ったが、ここは新たな自分を試すチャンスかも。

俺はシャルの方を向くと、とりあえずメンチを切ってみた。それは優しい彼女ならば何をしようが、最後は許してくれるだろうという汚い考えもあるからだ。ごめんねシャル。

 

「い、いちか?」

「んだよ文句あんのか?そういうお年頃なんだよ!ああん!」

 

意味無く凄んでみる。どうも発言のチョイスを間違った気がするが。

 

シャルは口を半開きにしたまま呆然と俺を見ている。彼女のそんな姿は何となく新鮮な気がした。でもこれからどうすっかな……。

 

「気安く俺に触れると怪我するぜ……」

後に引けなくなったので、更に電車で読んだ漫画の台詞を言ってみた。シャルさん反応プリーズ!

 

シャルは顔を俯かせ沈黙する。その表情は見えない。

早々にやっちまったかな?デビューは失敗か?今すぐ謝るべきだろうか?

 

「あの、シャルさ……」

「……プッ」

 

俯いていたシャルが小さく声を漏らした。小刻みに震え出しながら。

 

「あははははは!」

 

そして大きく笑い出す。

シャルの大口開けて爆笑する姿に、逆に俺のほうがテンパった。

 

「な、何笑ってんだよ!ああん?」

「くくくっ……ごめんごめん。でも本当にどうしたの?」

「ど、どうしたってお前。俺は今までの自分とはオサラバしたんだよ。文句あるか!」

「そうなんだー」

 

シャルは一転ニコニコした笑顔で俺を見る。

その瞳には「しょうがないなぁこの子は」という思いがありありと出ていた。シャルは時々このような母性的というか、お姉さんのような面を見せるときがある。

 

しかしこの状況では、その向けられる思いがとても恥ずかしい。

 

「で?本当にどうしたの?漫画?それともドラマの影響かな?」

「う、うるせぇ!そんなんじゃねェよ!」

「金髪かぁー。ボクはそれもいいと思うけど皆はどう言うかな?」

「俺がそうしたからこうしたんだ!女の指図は受けねェ!」

「ふふ。仕方ないなぁ一夏は」

 

ちきしょう。あたかも駄々をこねる子供を見るような視線を向けやがって。バカにするようでもなく、ただ子供の我侭を微笑み混じりに見守る母親のような目。その優しさが痛い。というより恥ずい。

 

「お、俺は出かけっから、これを預かっとけ!」

 

未だニコニコしているシャルに漫画が詰まった紙袋を手渡す。

シャルは中に入っていた漫画の表紙をチラリと見て、また小さく笑い出した。

 

「はいはい。じゃあ一夏も車には気をつけてね」

「ガキじゃねェんだよ!」

「ふふ。ごめんね。とにかく気をつけて」

 

笑顔で手を振るシャルに背を向けると、逃げるようにその場を去る。

初っ端から負けた気全開だった。

 

 

 

 

 

「一夏さん?どうしたんですのその髪は!」

シャルと別れ校門近くの待ち合わせ場所で待っていた俺に、セシリアも開口一番驚きの声を出した。

 

「まぁ、ちょっとな」

シャルの時は過剰な物言いで失敗した。少し気をつけてアピールしよう。

 

「で、でも」

「男には何かを変えなくちゃいけない時もあるんだよ。覚えとけ」

 

どっかのアホが言ったような台詞を言ってみる。

そのアホのせいでこうなったわけだが。

 

「えっと……」

「嫌か?じゃあ買い物やめるか?」

「い、いえ!いいえ!絶対に止めません!申し訳ありません一夏さん、少し驚いただけですわ」

「そうか」

「では早く行きましょう。時間は限られていますから」

 

セシリアはそう微笑むと歩き出す。

うーむ、どうも反応が薄い気がする。シャルといいセシリアといい。同じ金髪だからか?

 

「一夏さんとお買い物……うふふ、凄く楽しみですの」

「そうか」

「沢山リストアップしてきましたのよ。色々なお店に一緒に回りましょうね一夏さん」

「そ、そうか」

「それで食事は最高級のレストランを予約しましたから。期待して下さいね」

「……そうか」

 

また勝手に決めやがって、俺は心で小さく文句を言う。

 

女というのはなんで当然のように、男が好きで買いものに付き合ってくれていると思うのだろう?しかもなんでウザいマナーが多い洒落たレストランなんかを好むのだろうか。あんなのいくら美味しくても、肩が凝るだけで全然楽しくない。目玉飛び出る値段のくせに量も少ないし。

 

男は牛丼とか、ラーメンとか、そういうのでいいんだよ!

 

そうだ、これはいい機会かもしれない。

俺はセシリアの後姿を見ながら思う。いつもいつも流されるまま皆に付きあわせれていた俺の境遇。それに一石を投じる絶好の機会なのではないだろうか?

 

いつもはとても言えないが今の俺は一味違う。

この金髪は伊達じゃない。勇気を出せ俺!

 

 

「一夏さんはフランス料理はお好きですか?」

「……いい」

「え?今なんと?」

「おフランスなんかどうでもいい。キャンセルしろ」

「はい?」

「キャンセルだ。それより良いものを食わせてやっから」

「で、でも私がとったのは最高級のお店ですわよ?」

 

セシリアは食い下がる。

しかも俺も引くわけにはいかない。以前連れて行かれたような堅苦しい店なんてまっぴらだ。

 

「今日はお前にメイドインジャパンというものを教えてやる」

「え?で、でも……」

「セシリア。お前俺を信じられないのか?」

「そ、そんなこと有り得ません!」

「なら俺に任せろ。女は黙って信じた男の後をついてくりゃいいんだよ」

 

そして凄まじい俺様発言を繰り出すと、返事をまたず颯爽と歩き出した。でもこんなこと言って、逆上したお嬢様に後ろから撃たれはしないよね?

 

内心ビクつきながら少し早足で歩き出す。撃たれないように多少ジクザグ歩きになったのは秘密だ。

こっそり後ろを窺うと、セシリアは俯きつつも黙ってついてきた。

 

 

 

 

町に出るためにセシリアと並んで電車に乗る。

しかし先ほどから互いに会話がなく、沈黙が重苦しい。

 

やっぱ怒ってるのかな?

そう思い、先ほどの言葉を詫びようと思ったところで、俺は読んだマンガの内容を思い出した。

 

『男というものは簡単に頭を垂れるものではない』

『真の硬派は背中で語れ』

 

そうだ。ここで謝りでもしたらいつもと変わりないじゃないか。

俺はそう思い直すと、腕を組んで窓から変わる景色を眺める。……フリをしてさりげなくセシリアの様子を窺った。

 

さすがにセシリアを傷つけてまでこんなことを続けるのは良くないからだ。

しかし、俺の予想に反してセシリアは言葉こそ発しないが、決してこの状況を嫌がっているようには見えなかった。口元が綻んでいる。何が嬉しいんだろう?……うーん。よく分からん。

 

結局何を話したらいいのか分からず、電車の時間は殆ど無言のまま過ぎていった。

 

 

 

 

駅を降りたところで俺は後ろのセシリアに振り返る。

 

「セシリア。今日の買い物だけどな」

「はい」

「今すぐに入用なものってわけじゃないんだろ?」

「え?は、はい。まぁ……」

「じゃあ買い物もキャンセルしよう」

「そんな!」

「悪いけど俺は買い物の気分じゃないんだ」

「で、でも……でもわたくしは先週からこの日をずっと楽しみにしていて……」

 

セシリアの泣きそうな顔に心が痛む。

しかしここで折れてはいつもと変わりはしない。

 

「一夏さんはわたくしと一緒するのはお嫌なのですか?」

「勘違いするな。言ったはずだ、今日はメイドインジャパンを教えると。俺を信じてついてこい」

「え?」

「デートコースは俺に任しとけ」

「で、でーと?」

「ホラ行くぞ!」

「……はい」

 

強気にやってみるもんだなぁ。

セシリアがおとなしくついてくるのを見て、俺はあの地獄の店巡りを免れたことに内心安堵した。

 

 

 

 

まずはレジャーランド内のゲーセンに連れて行った。

金のない高校生にとって時間を潰すのにはゲーセンが最適だからである。

 

物珍しそうに店内を見渡すセシリアをとりあえず格闘ゲームの前に座らせる。

「男は黙ってスト2」と昔誰かが言っていたように、男は皆格闘ゲームが大好きなのだ。女は分からんが。

セシリアが不慣れなレバー操作に四苦八苦しているのを見てほっこりする。ガチャガチャ戦法は初心者の必ず通る道であり、誰しもこれを乗り越えて次のステージに向かうのだ。

 

次に普段はあまりやらない流行の音ゲーにも挑戦してみた。

こういうのはセシリアは流石のセンスだった。俺よりも上達が早い。少しくやしい。

 

「うふふ」

小さく笑い声を上げて、セシリアがリズムに合わせパネルを操作する。どうやら彼女なりに楽しんでいるらしい、俺は小さく安堵する。良かった。

 

その姿を眺めながら、お嬢様がゲーセンをする姿は貴重な絵だなぁとぼんやり思った。

 

 

 

 

ゲーセンで時間を潰した後、隣接するボーリング場に向かった。

 

セシリアにやったことがあるのか聞くと「少しだけ」と答えたので、とりあえず2ゲームを予約する。いい所を見せてやろうと息巻いていたが、セシリアは1ゲーム目からいきなり150超えを出して、あっさりと俺のスコアを超えやがった。面目を潰され俺は黄昏るしかなかった。

 

何が「少しだけ」だよ。

セシリア曰く英国人が大好きなスヌーカーや、紳士の嗜みである玉突きことビリヤードに感覚が似ているらしい。だからすぐに慣れたと。

 

ビリヤードとボーリングがどう似てるってんだよ。

結局納得できない俺のほうが熱くなってしまい、更に2ゲームを追加するハメになった。

 

 

 

 

その後門限の関係で早めの夕食に向かう。向かう先はTHE男メシの代表格である『ラーメン三郎』

 

女性を『サブロー』に連れて行くことがどういうことか、俺とて分かっている。だが日本が世界に誇る『マシマシ』『特盛り』の文化をイギリスの少女にも身をもって体験してもらいたかった。これこそが真の文化交流というものである。あと単に俺が食いたかったからだ。

 

席に座り二人分を注文する。しかし傍目から見ても、狭くどこか小汚い店の中で、セシリアの姿は異常だった。店の熱気にセシリアが怯えた表情を浮かべる。そして心なしか周りの客の目がキツイ気がした。

 

『サブローを冒涜するな』『男の聖域に女子供を連れ込むな』

そんな男たちの声無き声が俺の耳に聞こえた気がした……。

 

運ばれてきた『サブロー』のヤサイマシマシラーメンを見て、当然というべきかセシリアが目を丸くする。

流石に彼女のはマシマシではなくチョイマシをオーダーしたのだが、それでもやはりと言うべきか半分も食べ切れずにギブアップした。

 

俺は自分の分を平らげると、残ったセシリアの器にも手をつけた。俺の奇行にセシリアが固まる。

しかし一介の『サブロリアン』として例え相方のとはいえ、器に沢山残すのは耐えられなかったのだ。頼んだ以上は感謝と責任を持って美味しくいただく。それが我らが『サブロリアン』の基本精神である。

 

軽蔑間違いなしの俺の行動だが、セシリアは文句を言うことなく最後まで黙って見ていた。

実質二人前を平らげ、今更ながらにサブローラーメンの海に溺れ悶絶する俺。口元を押さえ、流石に一言非礼を詫びようと彼女を見ると、何故か微笑んでいた。

 

「男らしいですわね……」

 

何言ってんの?

俺はうっとりした顔で言う少女にそう思ったが、とりあえず吐き気がマッハなのでトイレへ駆け込んだ。

 

 

 

 

未だラーメンで重い身体を引きずりつつ、学園に到着した頃にはすっかり暗くなっていた。

 

帰りの電車ではサブローの中毒性と、一部の人が「豚のエサ」と蔑む悲しさをセシリア相手に延々と熱く語ってしまったのを思い出す。しかし我ながらどーでもいいと思う話だったが、聞いていた彼女も存外楽しそうだったのが不思議だ。お嬢様の考えは平民には良く分からない。

 

「一夏さん、今日はありがとうございました」

「気にするな」

 

実際セシリアは気にしてもいいと思う。結局ゲーセンにサブローと俺の好きなことしかやってない。

 

「楽しかったですわ」

「うむ」

 

マジで?

内心ビンビンにそう思ったが、とりあえず横柄に頷いておく。

 

「で、では……おやすみなさい」

 

何故か少し頬を染めたセシリアが小走りに去っていく。

近い内改めてお詫びしよう、俺は彼女の後姿を見送りながらそう思った。

 

 

 

 

その後シャルに預けていたマンガを返してもらい部屋で読む。

 

マンガの中で『お嬢様はなぜヤンキーに惹かれるのか』という説明がなされていたので見てみる。

それによると高飛車なお嬢様キャラは、内心自分を引っ張っていってくれる強い男性像に、例外なく憧れるのだというのだ。それこそがお嬢様の所以だと。普段男を見下して言動は、逆に強い男への依存を願う表れだと。だから不良の多少なりとも強引なところに惹かれる……ということらしい。

 

アホかと思う。

そんな女性が簡単になびけば苦労はない。そのようなチョロイお嬢様なんてのはいやしないのだ。

 

 

時計を見るといい時間になっていた。そろそろ千冬姉も部屋に戻っているだろう。

俺は小さく気合を入れると、当初の目的のため立ち上がった。

 

待ってろよ千冬姉!

 

 

 

 

ノックしても返事がなく、部屋の前で途方に暮れていた俺に偶然通りかかった教師が教えてくれた。

千冬姉は急な出張が入り学園を離れたということ、帰りは2,3日後らしい。

 

なんだそりゃ。

俺は部屋に戻り不貞寝して、そのまま眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





……あまり強い言葉を遣うなよ。
弱く見えるぞ。

某マンガのカッコイイ台詞ですが、人は外見を変化させることによって、個の内面も変わってしまう生き物。恥をかかないよう不相応な変化には気をつけなくちゃいけません。大抵は黒歴史で終わります。

とはいえヤンキーさんらにとっては粋がることも才能の一つ。
「俺の女になれよ!」……このような台詞、私の人生で今後使える日は来るのだろうか?



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