P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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女性は察しの悪い男がワーストに嫌いだと聞きます(ただしイケメンは除く)
けど男からすれば「そんなの気付けっていう方が無理だろ!」っていうのも結構多い気がします……。





織斑一夏と少女たちの何気ない日々 3

※あなたのお名前

 

 

「じゃあこの用紙をデュノアに渡しておいてくれ」

「分かりました」

「それと出来るだけ早く提出するようにも伝えてくれ」

「はい」

 

昼休み。職員室で俺は千冬姉からプリントを受け取ると軽く頭を下げた。

学校では教師と生徒。その関係も板についてきたもんだなぁ。

 

「じゃあ失礼します」

「織斑」

「はい?」

「デュノアはどうだ?皆と上手くやっているのか?」

「え?……ああ、はい。問題ないですよ。彼女優しくていい子ですし」

「そうか。まぁお前も知っての通り複雑な事情を持っている奴だ。気に掛けてやれ」

「分かってるよ千冬ね……スイマセン。分かりました先生」

「全くお前は……ハァ。もういい行け」

「は、はい」

「ちゃんとデュノアに渡しておけよ」

「はい。失礼します」

 

職員室を出て額を拭う。

やっぱ油断するとどうも地の調子が出てしまうな。もっと用心しないと。

 

 

そう反省しながら教室へと戻った。

 

 

 

 

何時もどおりの喧噪が支配する教室につくと、シャルの居場所を探す。

いた。自席の近く、箒にセシリアにラウラ。お馴染みのメンバーも一緒だ。プリントを片手にそこに向かう。

 

「あ、一夏」

「デュノア。これ先生から」

 

俺に気付き軽く手を振ってきたシャルに、千冬姉から頼まれたプリントを差し出した。

 

「必要事項を書いて近日中に出してくれってさ。……ん?」

しかし俺の話など聞こえてないかのようにシャルが唖然とこっちを見ている。良く見れば他の皆も。

 

「い、いちか。今なんて」

「だから織斑先生からだって」

「そうじゃなくて。今ボクを」

「ん?どうしたんだデュノア?」

「うっ……」

 

シャルは差し出したプリントを受け取ろうともせず、ただ縋るように俺を見ている。

 

「あの、ボク何か一夏を怒らせることしちゃったかな?」

「へっ?」

「だとしたらごめんなさい!謝るから許して!」

「ちょ、待てよ!どうしたんだよ?」

 

急に涙声になるシャルに俺のほうがテンパった。

意味分からない。一体どうしたんだ?

 

「一夏さん。何があったかは存じませんがシャルロットさんが可哀想ですわ」

「見損なったぞ一夏!陰険な奴め!男らしくない!」

「それでは私の嫁失格だぞ!」

「えー?」

 

意味分からない。何で急に俺が責められる流れになってんの?俺何もしてないのに!

 

「一夏ごめんなさい。ボク本当に何をしたか分からないんだ。でも謝るから許して……」

「落ち着けよシャル!俺は……」

「え?今なんて……」

「シャル?」

「良かったぁ。許してくれたんだ……」

 

シャルが笑って目元を拭う。皆も安心したように頷いている。

俺一人だけが意味が分からずクエスチョンマーク沢山を漂わせていた。

 

 

 

 

「なんだ。そうだったんだ」

シャルが安心したように息をつく。

 

「悪い。さっきまで千冬姉と少し話していたからさ。つられてその呼び方になってたみたいだ」

「もう……驚いたんだからね。いきなりそう呼ぶからさ」

「良かったですわ。何事も無くて」

「人騒がせな奴だ。全く」

「それでこそ私の嫁だ」

 

嫁関係ないぞラウラ。

まぁ良く分からんが皆も安心というか納得してくれたようだ。だけどなぁ……。

 

「でもね一夏、もうさっきみたいに呼んだりしないでね」

「あのさぁ別に間違ってなくね?」

 

段々納得いかない思いが出てきて俺は問う。

はっきり言って俺が責められる筋合いは微塵も無かった気がしてきた。

 

「シャルの姓は間違いなくデュノアだろ?」

「そ、そうだけど」

「なら別にいいじゃん。あだ名でもなく本名なんだしさ」

「えっと、そういうことじゃなくて……」

「という訳で俺が文句を言われる所以はない」

「あの~一夏さん?シャルロットさんが言いたいのは多分……」

「何?オルコット」

 

少し意固地になった俺がそう返すとセシリアが目を丸くした。

 

「おい一夏」

「なんだよ篠ノ之」

「よ、嫁」

「ボーデヴィッヒ」

 

うーん。結構新鮮かもこの呼び方。少し楽しくなってきた。

 

「なぁ。今度から暫く皆苗字呼びにしない?俺のことも織斑でいい……」

『ダメ!』

「はい。分かりました」

 

皆の鬼気迫る顔に無条件に俺は降伏した。

 

 

 

やっぱ女のコって分からない。

そんなことを思ったとある昼下がりの一幕。

 

 

 

 

 

 

 

 

※君に届かない

 

 

「長年日本に住んでいた身として言わせてもらえば、日本人は物事を間接的に伝える節があるわね」

「はぁ?」

 

学生憩いの日である日曜日。朝っぱらから出来立て酢豚を片手に俺の部屋に遊びに来た鈴であったが、思えば最初から様子がおかしかった。何故か余所行きの格好をしていて、おめかしまでしているようにも見えた。更には落ち着きがないようにソワソワしていた。そして毎度の如く俺に手作り酢豚を差し出してくれた後、不意にそんな脈拍もないことを言い出したのだ。

 

「ムグムグ……なんだよいきなり」

「一夏。今食べている酢豚を見てみなさい。こいつをどう思う?」

「すごく……酢豚です」

「そう酢豚。我が中国におけるソウルフード。毎度の食卓になくてはならぬもの」

「さすがに毎度の酢豚は問題じゃないのか?コレステロールやばそうだぞ」

「つまり中国にとっての酢豚は日本における味噌汁と同じようなものなのよ」

 

なにがつまりで、更にどう味噌汁と繋がるんだよ。

俺は酢豚な幼馴染を怪訝な顔で見たが、まぁコイツはこういう奴なんだと一人納得することにした。

 

「一夏聞いてる?酢豚は味噌汁なの。日本人にとっての味噌汁は毎度の食卓に必須のソウルフードでしょ?そして毎日心を込めて作られるもの、つまりは……あたしが何を言いたいか分かる?」

「分かるわけない」

「ええい、このニブチンめが」

「最近は皆に散々言われているせいで悲しいかなその自覚が少し出てきたけど、今回に関してはお前が訳分からないだけだと思う」

 

鈴とは付き合いが長いがたまにこんな風に理解が及ばない言動をする。

たまに脳までSUBUTAになってしまったのではないかと危惧してしまう程に。

 

「だからあたしの酢豚は所謂日本人にとっての味噌汁と同じだって言ってんの!」

「主に肉料理のおかずとして用いられる酢豚を汁物と同一にするのは納得できない」

「もう!比喩に決まってんでしょーが」

「鈴。悪いが俺も料理を嗜む者としてそこは譲れない。酢豚と味噌汁は根本的に違うものだ」

「そんな当たり前のことをマジ顔で反論すんなー!そんなん分かってんだよー!うがー!」

「何で切れるんだよ……」

「このニブチン!明治の文豪漱石先生も言ってるでしょ!『月が綺麗ですね』とかけてその心は?」

「はぁ?」

 

本当に鈴のやつどうしたんだろう?

今日は更に磨きがかかっておかしいぞ。

 

「鈴お前ホント大丈夫か?悩みがあるなら相談に乗るぞ?」

「あたしが悩んでいるのは目の前の男の鈍感具合にだっての!」

「だから何だってんだよ」

「日本人は『月が綺麗ですね』とかけて『アイラブユー』と表現してきた、奥ゆかしさとややこしさの心があるじゃないの!アンダスタン?」

 

もうホント何言ってんだよ鈴……。

俺は目の前の小柄な幼馴染が遠くなる感覚に襲われた。とうとう常人とは違うSUBUTAワールドに逝っちゃったのか。

 

「なぁ鈴。悩みがあるなら何でも聞くし、俺に言いにくいことならセシリア達も呼ぶぞ?」

「なんでよー!」

 

興奮する鈴を前に俺は悲しそうに首を振った。

どうやったら『月が綺麗』が『アイラブユー』になるというんだ。意味わかんねー。

 

「鈴。もういい今日は少し休め。きっと疲れてるんだよ」

「あ~。某西宮さんもきっとあの時こういう思いだったのかな……」

「何?」

「うきぃ!」

「はい?何の真似だ?」

「何でもねーよニブチンめ。一度昔の文学作品やら読んで、女心や間接的なプロボーズのやり方諸々勉強してこいっての。チクショー」

 

意味不明なことを言ってやさぐれる幼馴染。

うーん。鈴も最近は昔と違って単純な男友達のノリとは変わってきたな。少しさみしい。

 

「あーあ。君に届け……か」

「なんだって?」

「ただし難聴・鈍感相手には別ってことか。はぁ~」

「おい鈴」

「なんでもないわよニブチン」

 

鈴は俺をジト目で見てきながらため息を吐くと、自分の分の酢豚を食べ始めた。

俺はやっぱりその理由が分からず首を傾げつつ酢豚を食べる作業に戻る。うん、どうあれやっぱり鈴の酢豚は美味しいな。飽きの来ない味で、けど何処か懐かしくも思える味だ。

 

これからもずっと食べていきたい、そんな安心する酢豚。

ヤケ食いのように酢豚をかっ喰らう鈴を見ながら、俺は平和な日々を願い小さく微笑んだのであった。

 

 

 

 

 

「なぁ鈴。これからもずっと俺に酢豚を作ってくれよな」

「ブホッ!」

 

鈴がむせたように酢豚を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




          募集案件
    
コンバット社

急募『酢豚を毎日作ってくれる女性を募集しています!頼んますよホント!どなたでも一度面接に!』  

応募数 永遠の0


一夏社

期間限定『美味しい酢豚を作ってくれる方がいたらうれしいです。無理にとは言いませんが』

応募数 あまりの応募多数によりこの案件は即刻終了いたしました


……ちきしょう。



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