P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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黒酢酢豚……やはりSUBUTAの可能性は無限です。



それとあとがきでお知らせがあります。






織斑一夏と少女たちの何気ない日々 5

※インフィニット・ヨシザウルス

 

 

 

眠れない……。ラウラは何度目かの寝返りをうつと諦めたように目を開けた。最近は寝つきが良かったはずなのに今日に限って目がさえてなかなか寝付けない。

 

「うーむ」

愛しの嫁の下に行けばすぐ寝付ける自信はあるのだか。一夏に寄り添って眠るあの温もりと安心感は格別なのだ。しかしそれをすると今隣で静かな寝息を立てている親友に翌朝確実に怒られてしまう。それは避けたい。

 

「はぁ……」

どうしようか。明日は一限目からテストがある。その為にも睡眠は必要なのに。

 

そこでラウラは不意に思い出した。一夏が以前言っていた言葉を。

 

「なに?眠れない時はどうするって?ラウラそれは無理に寝ようとするからだよ。逆に考えるんだ、夜な夜な羊でも数えてればいいさ、そう考えるんだ」

 

さすが私の嫁だ。ラウラは一人頷くとそれを実行することにする。そして目を閉じた。どれだけ数えれることが出来るか少し楽しみだ。ではやってみよう。

 

羊が一匹。

羊が二匹。

ヨッシーが三匹。

 

ん?そこでラウラは目を開ける。

なぜそこでヨッシーが出てくるんだ。

 

ラウラは頭を振ってあの大食い可愛いアホ面を振り払うと、もう一度最初からカウントし始める。

 

羊が一匹。

ヨッシーが二匹。

ヨッシーが三匹。

 

……なぜか羊がヨッシーに置き換わってしまう。

終いには「ヨッシー」というあの声まで頭に響くようになってきた。なんだこれは?

 

寝る前にシャルロットの注意も聞かず『ヨッシーのウールワールド』をやり過ぎたのが問題だったのか。そうこうする内にも彼女の中でヨッシーが増幅していく。

 

『ヨッシー』

『ヨッシー!』

『ヨッスィー!!』

 

「うう……」

まるで悪夢にうなされる様にラウラは呻いた。頭の中には無限マリオのようにヨッシーが1UPしていく。止められない止まらない。

 

「もう……ダメだ!」

ラウラは終に叫ぶと布団を蹴っ飛ばして起き上がった。こんな状態で眠れるわけがない。

 

このヨッシー地獄を鎮める方法は一つしかない。

ラウラはベットから降りるとふらふら~とそこへ向かった。

 

 

 

 

「ん……?」

眠っていたシャルロットは点滅する光に不意に目を覚ます。そして驚愕した。

 

「ラウラ何やってるの!こんな時間に」

暗い部屋の中、親友が夜中にテレビゲームをしている。保護者を自称する彼女の怒りは当然であった。

 

「ラウラ!ゲームは一日一時間だって約束したでしょ!」

「シャルロット……」

「ラウラ?」

 

そこでシャルロットは気づく。親友の異変に。

 

「消えてくれないんだ……」

「ラ、ラウラ。どうしたの?」

「ヨッシーの幻影が私の中から。……ああ、ヨッシー、赤ヨッシー、青ヨッシー、黄ヨッシー……」

「ラウラしっかりして!」

「これを鎮めるためにはこのゲームをクリアして、全てのヨッシーを解き放たねばならないんだ……。シャルロット分かってくれ、これが私の使命なんだ……ヨッシーが一匹、ヨッシーが二匹……」

「ラウラ落ち着いて!そっちの世界に行っちゃだめ!」

 

シャルロットは親友の肩を揺さぶって止める。しかしもはや今のラウラはテレビ画面から目を離すことなく「ヨッシー」「ヨッシー」と呪文のように言い続ける哀れな『ヨッシー症候群』と化していたのであった……。

 

 

 

ヨッシーは時に人を狂わせる。

その可愛さで人の内部からゆっくりと侵食・増殖していくのだ。

 

わたしもヨッシー。

あなたもヨッシー。

 

ヨッシー。

 

 

 

 

 

 

 

 

※男にはそっとしておいて欲しい時がある(切実)

 

 

 

『かんぱーい』

乾杯の音頭が重なり、少女たちの和やかで明るい声が部屋に響く。部屋の主である一夏は微笑みとともにそれを見守った。

 

「一夏君お疲れ様」

「はい。ありがとうございます」

「大活躍だったね」

「いえ楯無さんのフォローのおかげです」

 

いつもは人を喰ったような笑みを作る楯無も、今は本当に楽しそうに笑っている。一夏もそれに呼応するように笑った。

 

毎度おなじみ傍迷惑な亡国の連中による突然の襲撃。

それを誰の被害を出すこともなく撃退できたことが一夏は嬉しかった。

 

「でも一夏さん。本当に素敵でしたわ」

「まぁ私の幼馴染だからな」

「やっぱり一夏は凄いよね」

「さすが私の嫁」

「ヒーローみたいだったよ」

「黒酢酢豚最高」

 

少女たちの喝采に一夏は照れまくる。でも今はそれが恥ずかしくも心地よい。みんなを守れたということが何より誇らしく嬉しかった。

 

「ありがとう。でも勝てたのはみんなの協力があったからだよ。本当にありがとう!」

 

天下のイケメンスマイルで場の少女たちを見渡し感謝を述べる一夏。当然のように当てられた少女たちの瞳にはエロ漫画のごとくハートマークが浮かび上がる。

 

そんないつも通りの風に楽しい宴は過ぎていった。

過ぎていくはずだったのだ。でも現実とは非情なものなのだ……。

 

 

 

 

「わっ?なにこれ……揺れてない?」

「な、なんですのこれは!」

「地震だ!それに結構大きいぞ!頭を低くしてろ!」

 

急な揺れに驚く欧州組に箒が大声で注意した。普段地震にあまり馴染みのない国とは違い、日本は頻繁に起こるゆえにその恐ろしさも知っているからだ。

 

「セシリア!シャル!棚の側から離れろ!」

戸惑ったように動かない二人を一夏が強引に引き寄せて守るように抱きしめた。そのまま被さるように揺れが収まるのを待つ。

 

「ぐっ!」

「一夏!」

 

地震の揺れで棚に置いてあった小物が落ちて一夏の肩に直撃した。痛みに思わず声を出した一夏を心配したシャルロットが身体を上げようとしたが、一夏はそれを許さず力を込めて押さえ込むように抱きしめた。

 

「……みんな大丈夫か?」

恐怖の揺れが収まったのを見て一夏が周りに声をかける。

 

「大丈夫よ一夏君。簪ちゃんも無事」

「私も大丈夫だ一夏」

「あたしも。ラウラも大丈夫」

「そうか」

 

一夏はほっと安堵の息を吐くと腕の中の少女二人を解放する。

 

「ごめんな二人とも。キツく押さえ込んじゃって」

「う、ううん」

「あ、あり、ありがとう、ございます……」

 

非常事態とはいえ想いを寄せる男性からの突然の抱擁にテンパる二人。顔が真っ赤っ赤になっているのは決して押さえ込まれていた故の息苦しさからではないだろう。

 

「あ、一夏!さっき落ちてきた何かにぶつかったんじゃないの?」

「大丈夫だシャル、たいしたことじゃない」

「一夏さん……わたくし達を庇ったせいで……」

「セシリア気にすんなって。本当に大丈夫だから。それより二人にケガがなくて良かった」

 

そうしてまたも至近距離からのイケメンスマイルを放つワン・サマー。セシリア&シャルロットの瞳を見れば「抱いて!ていうか結婚して!子供は男の子と女の子両方ずつがいいな!」というくらいの特大ハートマークに輝いている。

 

他の少女達はそれを見て少しムカっと来たが、彼が身を挺して彼女達を守ったことは分かっているので、何も言わずその様子を見守った。

そんなおとぎ話のナイトのような一夏くん。これで終われば既に限界突破しているであろう少女達の高感度は更に成層圏まで尽きぬけていたかもしれない。しかし現実とは、本当に……。

 

ドサッ。

ほんの微かに感じる余震を感じていた皆の前にそんな音とともに何かが落ちてきた。当然皆の視線がそれに集まる。

 

それは男物の大き目のバッグ。

そして最悪にも落ちた衝撃で止め具が壊れ中身がブチまけられた格好になっていた。その中身とは……。

 

ま、予想通りエロである。エロエロである。

そんな表紙パッケージだけで1・8・禁!と分かるほどのブツが散乱してしまっていた。

 

この場合、何が悪かったのだろう?

エロの隠し場所は全ての全人類の男が一度は悩むであろう問題である。下ではなく上、定番のベッドの死角に隠すのではなく棚の最上段に隠した一夏が悪かったのか。それとも気まぐれな地震を引き起こした地球が悪かったのか。それは誰にも分からない。

 

しかし場の空気というものがある。

今の今まで「抱いて!」というくらいのイケメン行動していた人の前にこーゆーのが降りかかって、一体どーしろというのか。いつもみたいに責める事も出来やしない。

 

ホント、こーゆーのってないよ……。

 

皆がどーにもしようがなく固まること13秒。

ナイト一夏はゆっくり立ち上がると全く慌てる様子もなく静かに戸口に向かった。ドアを開ける際にそっと顔を上げ天を仰ぐ。しかしそれも一瞬のこと、そのまま静かに自然に部屋を出て行った。

 

部屋に残った少女達はただそれを黙って見送ることしか出来なかった……。

 

 

 

 

「一夏ー!いい加減出て来い!誰も怒ってないから!」

「一夏さーん!お願いですから出ていらして!」

 

一時間後。一夏は遠くから聞こえる少女達の声に耳を塞ぎながら校庭の暗がりに蹲っていた。

 

「一夏どこなの?出てきて!ボクはちっとも気にしてないよ!」

「私ならどんなプレイでも大丈夫だぞ!」

 

一夏は頭を抱える。その優しさが時に男の骨身に痛く染みるんです。

 

「一夏……!お願いだから出てきて……!」

「おねーさんはどんな性癖だって受け入れてあげるから!」

 

一夏は顔を覆う。もうやめて……。

 

「エロ本くらいなんなのよー!あたしはそんなの気にしないわよ!エロ夏だっていいじゃん!」

 

エロエロうるせぇ!一夏は酢豚っ子のエロ宣伝に声なき咆哮を上げた。

 

 

こんだけ騒ぎにしていれば、もはや学園のみんなに知れ渡るのは時間の問題である。最終的に今隠れているこの場所も騒ぎにブチ切れた姉の鬼教師に引きずり出されるであろう。それは神の摂理というべき定められた事柄だ。

 

でも、なんで。なんで……。

 

「なんでほっといてくれないんだよおぉぉぉ!」

 

男には独りにして欲しいとき、触らないでそっとしておいて欲しいことがある。

どうにも分かり合えぬ男と女の無常をひしひし感じながら、一夏は満月に向かって吼えるしかなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

※うん。やっぱりお前が全部悪い

 

 

 

「気持ちいい風だな」

「そうね」

 

暖かな春の息吹を感じながら鈴は隣の一夏と笑いあう。

季節は四月。全ての始まりの月。側の川原に芽吹こうとしている草木の姿が心を和ませる。

 

「振り返ってみれば何かあっという間だったよなー。この1年」

「そう?」

「ああ。立て続けに色んなことが起こったよな。本当に……」

 

そう。色々なことが起こった。

一夏に会うことを夢見て日本に戻ってきたこと。目の前の相変わらずの朴念仁が引き起こすあれこれ。次から次へと途切れることなく現れる友達兼恋のライバル。

 

本当に色々ありやがったなぁ……。

 

「どうした鈴。出来の悪い酢豚を食べたような顔して」

「なんでもないわよコンチクショウ」

 

コイツ人の気も知らないで。

悪気なきその顔に中国拳法を叩き込んでやりたくなる。

 

しかし我等が一夏はそんな少女の心などどこ吹く風でのんびり歩き続ける。

 

 

「こうして二人でここ歩くのも久しぶりだな」

「中学のときはよくここ通っていたけどね」

「だな。弾と三人で、時々数馬も入れてよく」

「そうね。あの時はずっとこんな時間が続くと思ってたなぁ」

 

一夏とずっと二人で。そう単純に思っていた。願っていた。

国に帰ることに、別れることになるなんて知らずに。

 

「でも鈴は今ここにいる。それでいいだろ?」

 

悲しい思い出を打ち消すような一夏の言葉に鈴は顔を上げる。一夏は自身の言葉を気にするようでもなく変わらず歩いている。

それが嬉しく、ちょっと悔しかった。

 

「お、鈴ちょっと」

不意に一夏に土手の一角へと手を引かれる。そこには小さな花がその身を咲かそうとしていた。

 

「かわいいな。これ何て花だっけ?」

「さぁ?あたしもそう詳しいわけじゃないし」

 

屈んで面白そうに花を見つめる一夏。その横顔を鈴は見つめる。

 

「ガキの頃はさ、こういう花とか植物とか簡単に探せたんだけどな」

「まぁね」

「年とるとそういうのが難しくなるよなー」

「おっさんかアンタは」

 

昔みたいに笑う。この空気が心地よい。

 

「シャルなら分かるかもなー。花とか詳しそうだし」

なのに。この男は言わないでいい余計なことを言いやがる。

 

せっかく幸せな空気に浸っていたのに。

こっちの気も知らず自然にライバルの名を出す朴念仁。むかつく。

 

「ラウラに持っていってあげようかな。でも枯れちまうか」

いい加減にしろこの野郎。

 

鈴はだんだんイライラしてきた。本当にコッチの気も知らないで。

自分を差し置いて別の女の名を出すこと、女の子と二人きりという状況にも全く『その気』を見せない態度。変わらぬトーヘンボク。

 

そして無邪気に楽しそうに花を見ている様子。最近背が伸びて少し大人っぽくなった横顔。ドキドキヤキモキさせられるその行動。

もう、全てに腹が立つ。

 

だから、不意にキスしてやった。

 

唇の一瞬の会合の後、すぐに顔を離す。至近距離で見つめ合う一夏は何が起こったのか分からない、という風に呆けていた。そんな顔もやっぱりむかついた。

 

「おま、お前!急に何するんだよ!」

一夏が口を手で押さえ慌てて離れる。

 

本当にあたしは何やってんでしょうか?

鈴は己に問いかける。これも全部春の妖精のせい、ということに出来ないかな?

 

「おい鈴!」

しかし一夏の怒ったような声に再度腹が立ってきた。

 

不意打ちとはいえ、こんな可愛い子にキスされといて怒ることないんじゃないの?

つーか口元を手で押さえんなよ。失礼だろチキショー。

こっちはファーストキスだってのに。

 

ん?

そこで鈴は気付く、というか思い出す。目の前のコイツはファーストキッスじゃないじゃん!

 

頼みもしないのに、目の奥に自分と同じ小柄な少女とキスを交わす朴念仁の姿が浮かんでくる。

ああもう!やっぱり超むかつく!

 

だからその顔を引き寄せてもう一度キスしてやった。

今度は長く。息の続く限り。

 

初めは固まってた一夏も10秒を数える頃には手足をバタつかせて離れようとしてきた。でも逃がさない。首に手を回し押さえ込むようにして唇を押し付ける。

 

20。

30。

40秒。

 

「ぷはっ!」

鈴はようやく塞いでいた唇を開放すると大きく息を吸った。緊張からかすごく息苦しい。

 

見れば一夏も胸に手をやって大きく息を吸っている。

うん。そんな似た者同士なところもやっぱりむかつく。

 

「り、鈴!おま、お前って奴は!い、いきなり何を……!」

 

顔を真っ赤にして抗議しようとする一夏。

鈴はそれを遮る様に力強く返した。

 

「アンタが悪い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久しぶりのスブタ作品。やはり疲れた身にはアホ話のほうが良いということを実感しました。


それでお知らせですが、最近の多忙や書く余裕の減少なんかがありまして、P.I.Tの中の続けることが難しいシリーズなんかは削除していく方針です。と言ってもそんなに多くはないですが。
いっそのことこのスブタ作品自体削除してヨッシー1本に集中しようかと思いましたが、今回久しぶりに書いてみてやはり楽しかったこと、後の自分の黒歴史をニヤニヤ眺めるためにも作品自体は残そうと思います。
ただ作品内の旧暗黒酢豚や上下編等になっているやつで続けられそうにないのは、24日をメドに削除するつもりです。24日に深い意味はありません。ありませんよちくしょー。

もし続きを待っている方がおりましたら本当に申し訳ありませんでした。

あと連載中の「Killer Queen」に関しては書いていて一番楽しいのですが、如何せん書き始めるまでの気力が沸かない、それよりヨッシーに癒しを求めたくなる、というジレンマに陥っている状況です。疲れた身体にダークは厳しい。
これもいっそ消して逃亡しようかとも思いましたが、やはり書き始めたら一番楽しい、一応結末まで考えている、ということで残します。ただ一作品で連載というのは「書かなきゃ」と自身にプレッシャー的なものがかかるので、P.I.Tの新たな暗黒酢豚の方に組み込ませて貰い、楽に書いてくつもりです。

全部こっちの都合だけで申し訳ありません。
見捨てられてもしょうがないものですが、これからも出来ればダンゴ虫のようにひっそり更新していくつもりですので、ヒマな時は見てバカにして頂けたら幸いであります。



12月24日 聖夜のメリー来痢酢魔酢
削除ならびにKiller Queen引越し終了


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