P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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変態秘奥義





織斑一夏のパンツ (下)

ぱんつ。

それは形こそ違えど男も女も等しく必ず身に着けるもの(ノーパン主義の方もいるかもだが)

そして男の興味を惹きつけてやまないもの。今日も今日とて世界の何処かで、命の危険を冒してでもそれを覗いたり、または不当に手に入れようとしたりして、どこぞの人間失格のアホが天下の公僕お巡りさんによって、ブタ箱にぶち込まれている理由となるもの。まさにお宝、魔性の輝きを持つ神秘の布切れ。

 

しかしそれは何も救えねぇエロ男だけに当てはまるものではない。

好きな人のぱんつに魅せられるのは何も男だけではないのだ。女だってそう、恋する男性のおパンツを前に冷静にいられる子なんていない。そりゃクンクンしたり、ハァハァしたくなるのもそりゃまぁ当然っちゃー当然なのだ。だって女の子だもん。恋のパワーはどんな行動をも可能とするのだ!

 

そして今ここに一人の女性、超成金英国メシマズお貴族やられ役チョロイン略して『尻』の異名を持つセシリア・オルコットも、その恋して止まない男性のぱんつを前にただ目を奪われていた。

 

 

 

 

「どうするのセシリア?」

楽園を追われたイブに囁いた蛇のごとく鈴はセシリアに問いかける。

 

「アンタにそのKAKUGOがある?全ての人に後ろ指を指されながら、HENTAI道を究めるこの険しくもおぞましい修羅の道を逝くKAKUGOが」

鈴は似合わない真面目な顔で安っぽいKAKUGOを連発させる。

 

「もし生半可なKAKUGOでついてくるつもりなら、止めておきなさい。一夏パンツを手に入れるということは、そんな易しいことではないのよ」

鈴はそう言って「くしゃり」と音が出るほどワンサマーパンツを握り締めた。

 

『出来ればここで退いて欲しい……』優しい少女である鈴は友を想いそう願う。散々煽っておいてふざけんなよこの酢豚、と外野から言われようが、やはり世間知らずの純粋培養のお嬢様にこの道は険しすぎるのだ。出来ればセシリアには今のまま、少し頭がお花畑なただの能天気なアホ尻のままで……天使の如く慈愛心を持つ鈴ちゃんは一方でそう思わざるを得なかったのだ。

 

「……わたしくを見損なわないでください」

しかし鈴の天使の優しさをよそに、セッシーはその瞳に鋼の如く意志を湛えて返答する。

 

「貴女の戯言など心底本当にどうでもいいのですが、一夏さんへの想いという話となれば……やはり退くことは出来ませんわ!」

「セシリア。アンタ……」

「わたくしはセシリア・オルコット。そう遠くない将来、イチカ・オルコットとなる殿方の全てを受け入れずして、どうして永遠の伴侶を名乗れるでしょうか?」

「おい調子乗んな尻」

「わたしくしは、一夏さんの全てを……!し、下着を被ることで相手の愛を試すのがジャパンの文化だというのなら、そ、そ、そのKAKUGOを……!」

 

そしてセッシーは酢豚の手から一夏パンツをひったくった!

 

「ちょっと!」

「わたくしは……わたくしはぁ……!」

「セシリア!」

「一夏さん!これがわたくしが貴方に捧げる愛ですわ!」

 

そしてセシリアは奪った一夏パンツを先ほどの鈴のように高らかに掲げる。

 

そして彼女は……。

あたかも帽子を被るようにそれを頭から被った。

更に男のデンジャー部分がちょうど鼻先にあたるように、というオマケつきで。

そう。彼女は愛の『パンツマン』ならぬ『パンツウーマン』という変態仮面に変身したのであった……。

 

 

 

 

「あ、ああ、ぁぁぁ……!」

パンツを被ったセシリアのイッた声が主の居ない部屋に響く。

 

「これが一夏さんの一番深いニオイ……はぁぁ……!」

「セ、セシリア?あんた正気ぃ?」

「ぁぁ…。な、何て猛々しくも神々しい香りなんでしょう……!天国とはこんな身近にあったのですね……」

「……ォイ」

「一夏さん……今わたくし達は身も心も一つとなっていますわ……!」

 

セシリアは更に悦に入り身体を悶絶させる。

鈴はその狂態を見ながら思った。ただひたすらに思った。

 

これはひどい。

 

頭に男モノのパンツを被っている年頃の乙女。その顔は派手な龍と虎の柄に覆われ見ることは出来ない。しかし男の大事な部分を鼻先に、そのニオイを吸い込むようにしている友の姿に鈴は戦慄せざるを得なかった。変態だー!おまわりさーん!

 

友達間違えたかなぁ……。

つい先ほどのセシリアと全く同じことを思いながら、鈴はこの学園での友人関係に思いを馳せた。全くこの学園には木刀女だの男装女だの軍人女だのロクなのがいない。そんで今度はお嬢様の皮を纏った変態女と来た。本当に一夏の周りにはおかしな女しか居やしないじゃないか。

 

やはり自分が一夏の側に居てそのような変人連中から守ってあげないと。

永遠のヒロイン鈴ちゃんはそう新たに決心する。やはり自分しか居ないのだ。一夏を幸せに出来るのは。

 

「ねぇセシリア。いい加減変態仮面のマネは止めなさいよ」

「はうぅ……一夏さ~ん……」

「ちょっとセシリア!いい加減にしろコノヤロー」

 

鈴はガクガクとセシリアを揺する。決して羨ましくなったわけじゃない。絶対にだ。

そのままセシリアの頭から一夏パンツを取ろうとするが……取れない!お嬢様の細腕のクセに凄い力で抵抗してくる。これがHENTAIの恐ろしさか。

 

「セシリア!アンタいい加減にしなさい!一夏のニオイ独り占めすんな!アタシにも譲れチクショー!」

とうとう本音が出てしまった鈴がセシリアをマグニチュード7レベルに揺さぶる。

 

「邪魔しないでください!一夏さんとの愛の共有を!」

「アンタの一方的な変態行為でしょーが!」

「違いますわ!今こうして一夏さんの香りに包まれて……一つになって……一夏さんのわたくしへの想いが自分のことのように感じられますわ!ああ一夏さん……!こんなにもわたくしのことを想って下さっていたのですね……!」

「そりゃオメーの妄想じゃい!」

「敗者の遠吠えは見苦しいですわよ!中国人らしく負け犬はお犬でも食べにお国に帰ってください!」

「何時の時代の話よ!だいたい食関係はアンタら英国バカ舌連中にだけは言われたく……!」

 

「ただいまっと」

しかしそこで聞こえた声に争っていた英中アホコンビはピタリと動きを止めた。

 

ただいま、今そう言った。

それは自分の家に帰ってきた時に言う言葉、つまり即ちその言葉の主は……。

 

こりゃヤベェ!こんなの一夏に見せたらセシリアの人生終わっちゃうやんけ!

 

鈴が友人の『人生終了』を理解したその間僅かコンマ一秒。

鈴は電光石火の速さで、不意の来訪者に固まったセシリアから一夏パンツを剥ぎ取った!

 

「あれ?鈴に……セシリアか。何やってんだ?俺の部屋で」

一夏が顔を上げた時には何時もどおりの二人が居た。ギリ間に合ったようだ。

 

「や、やぁ一夏くん。元気かい?今日もカッコイイぞ」

「何だよ鈴その言い方。何か企んでんじゃないだろうな?」

「ま、まさかぁ。あはは」

「それよりどうしたんだよ。いくらお前でも勝手に人の部屋に入るなんて」

「ああ、ご、ごめんね。つい……」

 

鈴はベッドに腰を下ろすと、セシリアの手を引いて彼女も座らせた。そして剥ぎ取った一夏パンツ後ろ手でそっとベッドの隅へ投げた。

危なかった。けどもともとベッドの中にあったものだし、これで大丈夫だろう。

 

「鈴はともかくセシリアまで。らしくないな……セシリア?」

「…………」

「おいセシリア。どうしたんだよ」

 

へんじはない。ただのしかばねのようだ。

 

「セシリア!……どうしたんだ?」

「ま、まぁまぁ一夏。セシリアも固まりたいお年頃なのよ。気にしないで」

「そうか。まぁそういう時もあるよな」

 

納得すんなよ、と鈴は思ったがとりあえず一夏の単純さに一安心する。

それにしても間一髪だった。いくらライバルとはいえ人生からの退場はあまりにも可哀想だから。

 

「よっこらしょ」

 

そのままナチュラルに鈴とセシリアの間に座る一夏。女性が座るベッドの隣に何の緊張もなく腰掛ける一夏を見て、鈴は少しやるせない気持ちになった。女性に囲まれたIS学園の修羅の日々は男を否が応にも強くさせる。もう中学の頃の女性に初心な所もあった一夏はいないのかなぁ。

 

「あれ?」

そこで一夏は驚いたように声を出した。

 

「な、なによ」

「こんなとこにあったのかこのパンツ。探してたんだよ、よかった」

 

一夏が鈴が投げたパンツを見つけ、それを手にとって喜ぶ。

 

「どうだ鈴。これカッコよくね?」

「いや、あたしに聞かれても」

 

つーか女の子に男物のぱんつの出来なんか聞くんじゃねぇよ。

鈴は嬉しそうに尋ねてくる一夏を見てそう思う。

 

「ペイントされたこの龍がポイントだと思うんだ。どうよ鈴?」

「知らねーよ」

 

それさっきまで隣のお嬢様が頭から被ってましたよ、ドヤ顔で説明する一夏を冷めた目で見ながら鈴はそう心の中でツッコンだ。

 

「しかしこんなベッドの隅にあったのかー。弾のパンツ」

「えっ?」

 

おい今なんつった?

鈴は口をアホみたいに開けて固まる。

 

「い、い、一夏。今、な、なんて。それ……弾のとか何とか聞こえたんだけど」

「ああ。これ弾のパンツ」

「な、な、にゃんだってぇ~!」

 

驚きのあまり思わずネコ語になる鈴。

いやいやいやいやおかしいだろ!仲いいとはいえ友達のパンツを!訳わかんにゃい!

 

「何で弾のパンツをアンタが持ってんのよー!アンタらまさか本当にそういう関係だったの?」

「そういう関係の意味が分からんが別におかしくないだろ」

「おかしいに決まってるっつーの!一夏はやっぱりマジモンのホモだったのかー!うわーんひどいよー!」

「やっぱり……?いやそれより、泣くなよいい子だから」

 

一夏に頭を撫でられて幼子のように泣いていた鈴も少し落ち着きを取り戻した。一夏のナデナデは最高だ。

しかし冷静になった鈴はそこで重大な事実に気付く。

 

一夏ぱんつだと思っていたパンツ。それは一夏ぱんつではなく弾ぱんつだった。

そして自分のすぐ横には先ほどそのパンツで変態仮面してた友人が一人……。

 

チラリ。

横目で友人を伺う。

 

「うわぁ……」

その友人は顔面蒼白で歯をカチカチ鳴らせながら震えていた。固まっている間も最悪にも自分たちの会話の方は聞こえていたらしい。

 

「いや実はさ。鈴には言ってなかったけど前の連休に弾の家に泊まりにいったんだよ」

隣に座るセッシー局地地震に気付く様子もなく、ワンサマーは能天気に話を続ける。

 

「そん時に間違えて持って帰ってきてしまったみたいなんだ」

「そ、そう。ところで一夏、分かったからその話は後で……」

「ま、男同士だし。こんなこともあるよな。パンツ間違えることくらい」

「一夏分かったから。お願いだからもうその話は。お嬢様マジで自殺しちゃうかもしれないんで……」

「しかもよりによって弾の履いていたヤツ持って帰ってきちまってさー。まいったよアハハハ」

 

OH!NOoooooo!

鈴はもう横に居る友人を見ることは出来なかった。あまりに悲惨すぎて。

 

 

……なんと猛々しくも神々しい香りなんでしょう!

……一夏さん。今わたくしたちは見も心も一つになっていますわ……!

……一夏さんのわたくしへの想いが自分のことのように感じられますわ!

 

なーんて意気揚々と語っていたこと。

それは全て他人様のパンツ(使用済み)でのことだった。

 

これはひどい。酷すぎる。

嗚呼、神はなぜこのような試練を尻に与えたもうのか!優しい鈴ちゃんは友を憂い、今だけは神という存在を呪わずにいられなかった。

 

「ま、無事弾パンツ見つかってよかったよ。めでたしだな」

「どこがだこの野郎!」

 

鈴が怒りに咆哮する!

何一つめでたくなんかねぇよ!

 

「一夏アンタって奴は!どーやったら他人のパンツ間違えんのよぉー!しかもし、し、使用済みを!」

「ん?ダチ同士そーゆーこともあるだろ」

「ねーよボケ!」

「なんだよ荒れてんな」

「そりゃ荒れるっつーの!よりによって弾のを!……ううっ、こんなのあんまりだよ……」

「鈴疲れてんのか?」

「あたしじゃねーっての!いくらなんでもセシリアが可哀想でー!」

「セシリアが?一体何言って……」

 

そこで一夏の言葉を遮るようにセシリアは無言でスッと立ち上がった。鈴は驚きの目で友を見上げる。

 

「セシリアどうしたんだー?トイレか?」

能天気なことをのたまう一夏を鈴は成層圏まで蹴り飛ばしてやりたくなった。

 

「ふ、ふふ、うふふふふふ……」

「セ、セシリア?アンタ……」

「ふ、うふふフフフフ、アハハハハハハハハHAHAHAHAHAHAHA!」

 

セシリアが嗤う。それはまさに狂人の笑み。

鈴は痛ましさに目を逸らし、一夏はただ唖然とその狂態を見つめる。

 

それから一通り嗤い続けた彼女は不意にその嗤いを止めた。

セシリアの目から一筋の涙が流れ落ちる。綺麗だった。鈴はセシリアが静かに涙を流す様子を見て自らの目にも涙が浮かんでくるのを感じた。これも一つの想いの共有か。別にパンツを被らなくたって想いを分かち合うことは出来るのだ!友達だもの。

 

そしてセシリアは……。

あたかもゼンマイが切れた玩具のように、その身体をゆっくりと前に投げ出したのだった……。

 

 

 

「お、おい!セシリアぁ?」

いきなり床に顔面からダイブかました友人に一夏が慌てて駆け寄る。

 

「うわっ!鼻血出てるし!どうしたんだよ一体。セシリア!おい!」

「一夏……。そっとしておいてあげなさい」

「何言ってんだよ!どう見ても失神してるぞ!」

「だからよ。今は、今だけはセシリアにいい夢を見せてあげるのよ。……ううっ」

「何言ってんだよさっきから」

「見なさい一夏。セシリア、いい顔して眠ってるじゃない……」

 

そう。セシリアは安らかな顔で眠っている、というか気絶していた。

彼女の鼻から先ほどの涙に混じって鼻血が一筋流れていく。その鼻血は地にダイブした衝撃のものではなく、出来れば本物の一夏パンツを被っている夢を見ているからだと、そうあって欲しい。鈴はそう願い、自らの涙がこぼれないように顔を天に向けた。

 

 

これがパンツに魅せられ変態仮面を目指してしまった者の罪なのか。

鈴は友でありライバルであり同士でもあるお嬢様の尻を見ながら、人の無常を思わざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

HENTAI道とはいばらの道。

その根源に辿り着くには己を修羅と化すしかないのでしょう。

 

 

そういうわけでHENTAIだらけのIS学園は今日も平和です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




鈴のツインテールをパンツの両足部分から出して……
というネタを寸前で止めて良かったと心から思います。



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