P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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題名どおりの誰得BAD作品。何で不意にこんなの書きたくなったかは我ながら謎。決して私が最近振られたからとかそーいうことではないと思う。

今回のヒロインは鈴ちゃん。そしてもう一つ構想してる作品では箒ちゃんの予定。





織斑一夏のBADEND

「久しぶりね。元気?」

「ああ」

 

変わらぬ笑顔で手を上げて挨拶の意を示す鈴に、俺も軽く手を上げて返す。

 

「箒に聞いたんだけど、少し体調崩してたんだって?」

「まぁな」

「相変わらず不摂生な生活してんじゃないの?ファーストフードで済ませたりさ」

「かもな」

「あんなに家事全般得意だった一夏がねぇ。分からないものね」

「仕事が忙しいんだよ」

「気をつけなさいよ。もう若くないんだから」

「その台詞、千冬姉の前では間違っても言うなよ。命の保障はしないぜ」

「あはははは」

 

鈴が笑う。

昔と変わらない笑顔で。

 

 

 

……俺は、昔のように笑えているのだろうか。

 

「ねぇ一夏。ここも変わらないね」

笑い声を止めた鈴が眼前の小さな川を見ながら呟く。

 

「子供の頃さぁ、時々ここで遊んだよね。覚えてる?」

「そうだっけ?」

「うん。あたしはよく覚えてるよ。あたしにとっては大事な思い出だし」

「だからここに呼び出したのか?」

「うん……」

「そうか」

 

俺は鈴に倣って目の前の川を眺める。そうしていると気のせいか微かな灯火のような記憶がぼんやり浮かんで来た。子供の頃の俺と鈴。そして弾。

 

互いに無言で目の前の静かに流れる川を眺める。横目で鈴を伺うと思いを馳せるように目を閉じていた。鈴の長い髪が風に靡いて後ろに流れる。今はもうトレードマークだったツインテールじゃない。

 

「おめでとうって、言えばいいのかな?」

その変わってしまった鈴を見るのが少し苦しくて、俺は視線を川へと戻し、そう問いかけた。

 

「ん?なにが?」

「結婚」

「……そっか。知ってたんだ」

「三日前、久しぶりに飲んでた時に弾が口を滑らせた。アイツは自分の隠し事には向いてない」

「かもね。全く弾の奴はしょーがないわね。あたしから今日サプライズで言おうと思ってたのにさ」

「それは残念だったな」

「後で叱っとかなきゃ」

「程々にしとけよ。……おめでとう鈴」

「ありがと」

 

ここで初めて互いに向かい合う形で祝福の言葉を述べた。

鈴が笑う。綺麗な笑みで。

 

……俺は今、ちゃんと笑っているのかな?

 

「弾なら心配ないな。絶対上手くやっていけるさ」

「そうかなぁ……。不安の方が大きいけど」

「何だよそれ。弾が聞いたら泣くぞ」

「ふふ。かもね」

「ったく。嫁さんになるんだから、ちゃんと夫を立ててやれよ。ガキの頃とは違うんだからな」

「一夏の方はどうなの?」

 

そこで鈴が不意に問いかけて来る。

 

「なにが?」

「今も変わらず女の子をとっかえひっかえしてるんかなー?って」

「人聞きの悪い事言うな」

「でも箒が愚痴ってたわよ。配属先でも相変わらずのモテっぷりなんだって?」

「別に」

「あんま女性を泣かすんじゃないわよ。一夏こそ昔と違ってもう女性関係で刺される歳になるんだから」

「物騒なこと言うんじゃねーよ」

「『嘗ての唯一のIS男性操縦者、痴情のもつれで刺される!』なんて三面記事はごめんだからね」

「止めろバカ」

「ごめんごめん」

 

鈴は小さく舌を出すと俺から視線を外した。俺も外して空を見上げる。

どんよりした曇り空。あんまり好きじゃない。

 

「一年くらい前からだって?」

「何が?」

「弾と正式に付き合い始めたの」

「……うん」

「ふーん。そっか」

「なに?言いたいことあるなら言ってよ」

「あの時俺と別れたのは、既に鈴の中で弾の存在があったからかなって思ってさ」

「そもそも本当に付き合ってたの?あたし達」

 

少し声色が変わった鈴に俺は黙り込む。

 

「いや違うか。少なくともあたしの方は付き合っていると思っていた、ううん思いたかった。でも一夏は違った。でしょ?」

「……どうだったかな」

「そもそも彼氏とデートするのに順番待ちなんて普通じゃないし。今週は箒、来週は簪。再来週は……誰だっけ?名前忘れたけどあの背の高い美人さん。エトセトラエトセトラ……。さてここで問題です、恋人(仮)の鈴ちゃんがデート出来るのは一体何時になるのでしょー?」

「止めろ」

「エッチするのにも順番待ちだったもんねー。水曜日はあの子と、金曜日は別の子と。そんで日曜日、ようやく鈴ちゃんの出番が回ってきたかと思いきや!何といきなり現れた新たな別の刺客によってドタキャンであります。そんなイチモツの先が乾く暇も無い恋人(仮)に人知れず涙を流す日々。嗚呼!なんて可哀想な鈴ちゃんでしょう……」

「止めろつってんだろ!いい加減にしろ!」

 

鈴の婉曲した非難に俺は振り払うように叫んだ。

もう沢山だ。

 

「今のその叫び。あたしの方が言っていい資格があったと思うのですがね」

「俺の方から誰かに色目を使ったことや誘いをかけたことなんて一度も無い」

「そうね。それは確かにそうだったと思う。でもどうあれ一夏の周りには常に女がいたじゃない。それがあたしには耐えられなかった。例えそこにどんな理由があったとしても」

「それで俺を見限ったわけだ」

「……そうね」

 

俯いてか細く答えた鈴に罪悪感が芽生えてくる。分かってる。悪いのは俺だった。全部俺の罪だ。

気持ちを落ち着かせようとしていると、鈴が小さく頭を下げてきた。

 

「ごめん。怒ってる?」

「怒ってない」

「本当に?」

「ああ」

「そっか。良かった。……ごめんね、こんな事言うつもりじゃなかったのに。こうやって話すの久しぶりなのにね。もっと楽しくお話したかったんだけどなぁ」

 

鈴が自分の頭を小突きながら寂しげに笑う。

そう。思えばいつもこうやって気を遣わせてばかりだった。

 

「なぁ鈴。俺もずっと聞きたかったんだけど」

「ん?なぁに?」

「お前の方こそ怒ってないのか?」

「怒る?」

「それが俺に愛想尽かした理由なんだろ。今はどうだ?まだ俺を許せないか?」

 

鈴は一瞬考え込むような仕草を見せたが、すぐに向き直ってきた。

 

「怒ってないよ。今もそして昔も」

「嘘だ」

「本当だって」

「じゃあどうして」

「怒ったわけじゃないし、憎んだわけでもない。ただ……疲れたのよ」

 

鈴が自嘲するかのように笑う。

 

「怒ったり憎んだりする内はまだ良かったのかもね。でもあたしは疲れちゃったんだ。一夏といるのが」

「疲れた…か」

「うん。IS学園卒業して皆それぞれ自分の道行っちゃったよね。あたしね今だから言うけどさ、確かに別れは寂しかったけど、一方では喜んでいた部分もあったんだ」

「なんで?」

「これで一夏を独占出来るかもって、そんなこと思ったの。ヒドイでしょ?あんだけ一緒に濃密な時間を過ごした大切な友達なのに」

 

どう応えればいいのか分からず俺は黙り込む。

 

「でも環境が変わっても一夏の境遇は変わらなかった。変わったのは一夏を囲む周りのメンツだけ」

「俺は……」

「分かってるよ。『そんな気は無かった』って言いたいんでしょ?でもそんな理由あたしには関係なかった。あたしはただ自分だけを見て欲しかった。一夏を独り占めしたかった。それがどうしても叶わないって分かったとき、ただ疲れちゃったのよ」

 

それが鈴の願いだというなら、俺はどんな仕打ちを彼女にしていたのだろう。

足元に転がっていた石を拾うと、それを弄りながら自分の過去、そして今を思う。

 

 

……本当に俺は何も変わっちゃいない。

 

「さてと。あーあ、変な昔話になっちゃったね」

「そうだな。……なぁ鈴」

「んー?」

「弾のこと好きか?」

「今更何言い出すのよ。その相手と結婚というものを控えている女性に向かって」

「俺よりも?」

 

そう言って弄んでいた石を川に向かってサイドスローで投げつけた。

投げた石は水面をジャンプすることなく水中に沈んでいく。

 

「あーあ。昔は3段ジャンプくらい出来たのになー」

「ねぇ一夏」

「ん?」

「自惚れないでよね」

「だな。冗談だよ。ごめん」

 

昔とは違う。

そんなのは当たり前だ。

 

「じゃあね。あたしそろそろ行くわ」

「そうか」

「結婚式出てくれる?」

「勿論。親友と幼馴染との式だからな。喜んで参加するよ。何なら式でお馴染みの、友人代表として祝辞でも述べてやろうか?それか二人を称える歌を歌ってもいい」

「あはははは。それいいかもね」

「だろ?」

 

鈴と暫し笑いあう。

こんな風に二人で笑い合うのは最後かも、と思いながら。

 

「じゃあ正確な日取りが決まったら案内状送るから」

「了解」

「一夏も駅まで一緒に行く?」

「いや。俺はせっかくだしもう暫くここにいるよ。故郷も久しぶりだったから」

「そう。……じゃあね一夏」

「おう」

「身体気をつけなさいよ」

「ああ」

 

そして背を向けて歩いていく鈴の背中を見送る。その小さな背が見えなくなるまで。

鈴は一度も振り返ることなく歩いていった。ただ前だけを向いて。

 

 

そうして俺達は久しぶりの出会いを終えた。

 

 

 

 

 

鈴の背が完全に見えなくなった後、俺は地面に座り込んだ。

そのまま目の前の川、そして曇り空へと視線を移す。

 

そうやってぼんやり眺めているとポケットの携帯が鳴りだした。取り出して確認する。表示される苗字、取引先で知り合った女性からだった。そういえば先日しつこく聞いて来るから番号交換したっけ。

 

名前は何て言ってたかな?顔も……よく思い出せない。

 

暫しその画面を眺めていたが、それをポケットに押し戻した。そのまま腕を枕にして横になる。

 

さっきまで一緒だった鈴のことを思う。

既に前を向いている鈴。それが誇らしく、羨ましく……そして悲しい。

 

「幸せにな。鈴……」

 

最後まで直接言えなかった言葉をいなくなった相手に向けて言う。

ただその言葉は届けたい相手に届くことなく曇り空へと消えていく。

 

 

携帯は未だ鳴り続けている。その一向におさまらない着信が、相手の執念のように感じられて煩わしい。それを遮断するように目を閉じる。すると脳裏に、この川辺で無邪気に遊ぶ三人の子供たちの姿が浮かんできた。

 

その己の創り出した儚き幻影が何故か涙が出そうになるほど懐かしくて。

俺は右手で両目を覆い、小さく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




女性は子供っぽい夢や幻想を捨てきれない男と違い、絶対的にリアリストだそうです。


ハーレムなんて許されるのは学生の頃だけ(まぁ実際はそれも許されませんが)一夏に限らず世のハーレム主人公達も何も変わらぬまま、答えを出さぬまま時が流れていけば、強い女性はそんな男を置いてさっさと前に進んでいくのかもしれませんね。

そんなある意味変わらなかった一夏のifのお話でした。
まぁ一夏さんは実際誰かこの人と決めたなら、その人をずっと一途に想い続ける男だと思いますけど。



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