P.I.T(パイナップル・インザ・チューカスブタ) (完結)   作:コンバット越前

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クッソ暑い部屋の中、汗だくパンツ一丁でfateの『聖杯問答』の回をボケーと見ていた時に思いついた話。
タイトルに意味なし、内容に意味なし、オチなしの三拍子揃った話。

一応のテーマは『イケメンの鈍感は罪なのか?』
……だった。当初は。

……全てはこの暑さのせいなんです……。





織斑一夏の『鈍感問答』

「皆様お集まり頂きありがとうございます」

セシリア・オルコットは集まった面子を見渡すと深々と頭を下げた。

 

「今回は何?セシリア」

シャルロット・デュノアが懐疑の視線を存分にプレゼントしながら尋ねる。

このお嬢が発起人で何かする場合、大概他人を巻き込んでの悲劇が訪れる。それを想像しシャルロットは早くもため息を吐いた。周りが変人だらけの中にあって彼女のような常識人はいつも大変なのである。

 

 

「お前が大事な用だと言うから予定をキャンセルして来たんだからな」

篠ノ之箒が怒気を含んだ声でセシリアを軽く睨む。ボッチ疑惑に定評のある箒さんに本当に予定があったのかは謎だが。

 

「どーせアンタのことだからロクでもないことでしょ」

凰酢豚がアクビを噛み殺しながらつまらなそうに言う。珍しくも彼女は今回はノータッチ・ノースブタだった。

 

「コホン。ところでシャルロットさん、ラウラさんは一緒じゃないんですか?」

「ラウラは織斑先生に呼ばれたみたいで来れないって」

「そうですか。仕方ありませんわね」

「それより一夏はどうした?今朝から電話しても繋がらないんだ。鈴お前何か知ってるか?」

「そういや昨日の晩、千冬さんに急な用事頼まれたって言ってたっけ。多分それじゃない?」

「そうなのか?それでも電話に出るくらい出来るだろうに。全く一夏の奴は……」

 

「ハイ!皆さん注目お願い致しますわ!」

女子特有の話が別方向に長くなるのを遮るため、セシリアが場を制するように大きな声を出した。

 

「なによ?何企んでるの?」

「失礼な。ただ本日忙しい中皆様にお越し頂いたのは他でもありません。一夏さんについてですわ」

「一夏について?どういうことセシリア」

 

シャルロットの問いにセシリアを目を閉じる。そしてゆっくりと口を開いた。

 

「……一夏さんは素敵な人ですわ……」

「ハァ?アンタ急に何を」

「優しく頼もしく逞しく美しく更には知的で……正に男性の鑑というべき御方ですわ……」

「いや?どこぞのセカンドとかいう酢豚しか頭にないパクリ民族……とは違う正当な幼馴染として一言言っておくが、最後の知的だけはどうかと思うぞ」

「正直たまりませんわ……ぐふふ」

「セシリア。君ねぇ……」

 

自称正当派幼馴染さんの忠告なぞ耳に入らない様子のアホ面満開のトロ顔に、シャルロットは呆れるしかなかった。コッチはお嬢様の妄想劇場に付き合うほどヒマじゃないってのに。なんだよもう。

 

「一夏さんこそオルコット家の当主に収まるべき唯一の御方。その思いは揺らいだことはありませんわ」

「調子のるな尻」

「寝言は尻で言ってよね」

「尻ねばいいのに」

 

「ただそんな完璧な一夏さんにも唯一の気がかりな点があるんですの……」

三者三様のブーイングにもめげることなくセシリアは続ける。尻がデカイ人は心もデカイのだ。

 

「なによ?一夏のこと悪く言うつもりなら、どっかのファーストとかいう先着順に酔ってるだけの掃除用具さん……とは違う真の幼馴染として一言申さずにはいられないから」

 

幼馴染、という記号に縋ることしか出来ない人って悲しいね。ボクから見れば五十歩百歩だよ。

シャルロットは僅かな冷笑と共にそう思った。

 

「腐れ酢豚は後で中国まで蹴り飛ばすとして、要は何が言いたいのだ?セシリア」

 

箒の問いにセシリアはゆっくりと語りだす。

 

「……一夏さんの唯一の懸念事項。その『鈍感』さについてですわ……」

「っ!セシリアそれは」

「ア、アンタ」

「今更そこに触れるというのか……」

 

集まった他三人の少女たちはその発言に驚きを隠せなかった。

IS業界において一夏=超ド級の鈍感というのはデフォであり、また一種の闇でもあるからだ。

 

「心苦しいですがわたくしは、いやわたくしたちは向き合わざるを得ないんですの。この事実に」

「だがセシリア、お前なんで急にそのことを?」

「そうだよ何で今更。どうしたの?」

 

箒とシャルロットの詰問にセシリアは「ふぅ」と悩めかしいため息を漏らす。そこには苦渋の決断を下したであろう少女の苦悩が表れていた。

……が、一応このお嬢とマブタチやっている鈴だけは気付いていた。どうせ実際はご大層な理由なんぞありゃしない。このセッシーのことだから映画か雑誌かなんかに影響されてのことだろう。

 

「箒さん」

「な、なんだ」

 

急に呼ばれた箒が若干どもりながら返事する。

 

「一夏さんと一番付き合いが長いのは箒さんです。そんな貴女にお聞きしたいんですの」

「いや付き合い長いのはあたし」

「箒さん。一夏さんは以前から、その、何というか、時にあのような鈍さがある御方だったのですか?」

「そうね……確かにアイツは中学の頃から……」

「箒さんどうなのです?」

 

セカンドをあからさまに無視するセッシーに、ファーストは「ざまぁ」と溜飲を下げながら答える。

 

「そうだな。確かに一夏は昔から女性の好意に疎いところがあった」

「そうですか」

「ああ。幼馴染として心苦しいがこの点は庇いきれない」

「昔からというと、やはり根は深そうですね」

「だな。私はアイツにもっと人の気持ちを思い遣る心構えを持って欲しいと思っているのだ。過ぎた鈍感は時に人を傷つける。そしてそれは断じて優しさなどではない」

 

箒は腕組みをしながら彼女らしい意思の篭った口調で言う。

鈴は「オメーが言うな」的な少し納得できない思いを抱きながらも彼女に同調する。

 

「まぁ確かにねー。一夏の鈍感具合は度が過ぎてるわ」

「鈴もそう思うか?」

「そりゃあね。アイツ人が勇気振り絞って例えた告白も綺麗にスルーしやがったり……あーなんか思い出したらムカついてきた」

「例の『酢豚を毎日作る』の件か?確かにそれは酷いよな」

「でしょ?アイツのあの鈍感具合はホントにどうしようもないわ。女の子の気持ちを何にも分かってない」

「うむ全くだ。私も付き合うの意味を『買い物に』という風に勝手に捉えられたしな。全くあの場でどうやったらその方向に持っていくと言うのだ。鈍いにも程がある!」

「うんうん。それにさー……」

 

普段いがみ合うことが多い二人だが、ここは仲良く同調して共通の幼馴染をディスりまくる。

セシリアは難しい顔をして二人を眺める。「水を向けたのはオメーだろうが!」と言われれば確かにその通りだが、やはり想い人がディスられるのを見るはいい気分がしない。

 

「でもそれってどうなのかな」

しかし暫し考え込むように黙り込んでいたシャルロットが場の空気を変える。

 

「鈴だって直接ハッキリと一夏に想いを伝えたわけじゃないんでしょ?」

「な、なによぉ。いきなり」

「鈴のことだし何時もの友達面を出しながら、照れ隠し気味に言ったんじゃないの?」

「うっ」

「そんなの気付けって言う方が無理じゃないかな?」

「なんだシャルロット、一夏が場に居ないここでもあいつの肩を持つのか?相変わらずお優しいことだな」

「……箒だって直接男女の意味で付き合ってくれ、なんて絶対言ってないくせに。言葉足らずな自分のことは置いて一夏の揚げ足ばかり取るなんてさ。『幼馴染』として恥ずかしくないの?」

「なんだと!」

 

箒さん大噴火。沸点爆発の怒りの目でシャルロットを睨む。しかし彼女は動じない。

 

「だいたい一夏のこと鈍感鈍感責めるけどさ、じゃあ鈍感じゃない一夏って何?一夏に何を求めているの?」

「何ってお前、そんなの私がさっき言っただろう。向けられる女性の気持ちや、隠された言葉の意味を鋭く察することが出来るような……」

「ふーん。じゃあ箒は一夏が自分が異性から人気あることを自覚し、甘い言葉や艶かしい言動で女性を虜にし誑かすような、そんな男性になって欲しいってことだね」

「そ、そんなことは言っていないだろ!」

「もしかして箒ってホストみたいのに憧れがあるんじゃない?」

「いい加減にしろシャルロット!」

 

箒が拳を固めて立ちあがる。

 

「どうして一夏の鈍感をどうにしかしたい、という思いをそんな風に捉えることが出来るんだ!」

「別に。ただ鈍感な面も含めての一夏じゃない。それを一方的に否定するなんてどうかと思っただけ」

「まぁ箒いいじゃない。他の子たちはあたしたちと違って一夏とはまだ短い付き合いなんだしさ。一夏を思い遣る気持ちの持ちようってやつも違うのよ」

「過ごした年月よりも大切なのはその中身じゃない?過ごした時間だけに囚われた『幼馴染』様には分からないかもしれないけど」

「ちょっとアンタ、それどういう意味よ」

 

鈴の猫目が鋭く上がる。

 

「まぁまぁ皆さん落ちついて」

「お前は黙って一人でそのデカ尻でも振って遊んでろ」

 

ヒートアップする場を抑えようとしたデカシッリーさんの勇気ある行動を、モッピーが一刀両断する。そのあまりな言葉にセッシーも案の定ブチ切れた。

 

「言ってくれましたわね……!大体一夏さんはあれだけ人を惹きつける特徴をお持ちになりながら、女性に対しては少し鈍い初心なところが魅力の御方でしょうに。それを全否定するなんてどうかしていますわ!」

 

いや待て。そもそも一夏の鈍感に対する会を開いたのは君でしょ。

シャルロットは当初の目的を忘れ去ったであろう、無責任な発言をほざく開催主をジト目で睨む。何ていう勝手な人、否尻だろう。でも今はそれよりもこのアホ幼馴染ーズが先だ。

 

「私は全否定なぞしていない!ただ幼馴染として一夏に欠点を直して欲しいと願っているだけだ!」

「そーだそーだ」

「そういうのが世間では余計なお世話って言うんだよ。別に幼馴染って恋人でも何でもないのに」

「シャルロットさんの言うとおりですわ」

 

いつの間にか場は日中幼馴染同盟VS仏英金髪連合の体をなしていた。この状態を打開するためには第三者の存在が必要不可欠であるが、生憎そのピースである独の少女はここにいない。

 

 

ガルルルルル……キシャー!

という唸り声さえ聞こえてきそうなキャットファイトを漂わせる空気に、廊下を歩いていた他生徒も窓の外を飛んでいた鳥も、本能的な身の危険を感じてこの辺りから離れていく。

 

 

はた迷惑なお尻さんの余計な提案により、今IS学園の一室では一触即発の戦争状態に突入しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

一方そんな修羅場漂うIS学園という魔境から、遠く離れたとある場所では……。

 

「一夏!早く早く」

「走ったら危ないぞ」

「おお、何だここは。真っ暗だ」

「深海魚のコーナーだな」

「あはは。変な顔の奴がたくさんいるぞ。面白いな」

「そうか、良かったな。……でもまさか千冬姉に頼まれた用事ってのが、ラウラと出かけることだったとはなー」

「以前教官に日本のことをもっと知りたいと頼んでいたんだ。覚えていて下さったとは、さすが教官だ」

「でもそれで連れてきたのは結局水族館だしなぁ。我ながらこれじゃ日本の文化も何もないな。俺こういう案内には慣れてなくてさ、寺とかの方が良かったか?ごめんなラウラ」

「気にするな。私は一夏と一緒なだけでとても楽しいんだ」

「そ、そうか。……ありがとラウラ」

「ほら嫁!早く奥に行くぞ」

「ラウラ急いだら危ないって。……やれやれ、じゃあ夫婦同士手を繋いでゆっくり歩いて行こうか」

「そうだな!」

「よし。暗いから気をつけろよな。ラウラ」

「分かった」

 

アハハ…ウフフ……。

 

そんな微笑ましい男女の幸せ空間がありましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

鈍感と言われる人相手には、結局のとこ自分の純な想いをこれでもかと真っ直ぐにぶつけられる人が勝利するものです。

世の鈍感にお悩みのヒロインたちはツンデレなぞしてる暇があったら『毎日酢豚、じゃなくご飯作らせてよ!要はあたしと結婚しろってことよコンチクショー!』とか『付き合ってくれ!私はお前と幼馴染の壁を乗り越えて恋人になりたいんだ!』とか超ド級の鈍感野郎にも、己の想いをハッキリ届けるような努力でもしましょう。君に届け。

 

 

 

そういう訳でIS学園の戦争勃発をよそに一夏とラウラは今日も平和です。

 

 

 

 

~オチがないまま終わる~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




終わりです。オチないまま終わりです、すみません。
ただ決してこのテーマに飽きたわけでも、話が思いつかなかったわけでもなく、逆にこのテーマで書きたいことが多過ぎて、以前の定食シリーズなみの長さになる恐れがあると思い、ここで止めました。

代わりに少しここで徒然なるままに。

『鈍感(対女性限定)』とはラブコメでは主人公が持つ絶対的なスキルといえるでしょう。このスキルを持ってない主人公なんて昨今いないと断言できますし、我らがIS業界が誇る主人公である一夏さんも、このスキルを存分に持ってやがります。
でもまぁ当然っちゃー当然ですよね。これがないと話が続くことなく「あなたが好き!」「俺もだ!」の
一話で終わっちゃいますから。

ただこれがあるせいで時に、というかほぼ必ずラブコメ・ハーレム主人公は読者のヘイトを受けるハメになります。
これが神にーさまのようにやんごとなき理由で女性をおとしていく場合、若しくは鬼畜王さんのように「全ては女は俺のモノ!」という風に突き抜けていればアレですが、こんなのは中高生や我ら繊細なオタクには中々受け入れるのは難しく、結局は受身の自称凡人草食君がハーレムを創るという謎の展開に……。

とまぁそれは置いといて。
そういう意味では一夏はある意味珍しい主人公と言えるかもしれません。ISというものが存在する世界観とはいえ、こと学園のラブコメという観点で見れば、主人公が明確なイケメンですから。

ただこのイケメンというのが個人的に曲者だと思う時があるわけでありまして…。
私のように作中で主人公がモテる理由なんかを探してしまう捻くれ者にとって、主人公がイケメンというのは、モテることへの疑うことのない全うな理由となるわけです。

しかしこうなると性格の面がどうも難しい。
例えば親友の弾に「一夏ってモテるよなー」と言われれば、原作の彼なら「そんなことあり得ない」と間違いなく完全否定するでしょう。読者からすれば「ふざけんなボケ!」と血の涙を流すことでありますが、仮に同じ質問に対し「うん。困るほどモテてるよ」という己の環境・境遇を冷静に見極める一夏だったりしたら……これもまた微妙な思いになります。

ハーレムものは、平凡主人公がルックス等を気配りなどの性格でカバーしてハーレムを創る、というのが一般的ですが、イケメン主人公が更に性格まで気配り上手なイケメンだったとしたら、もうこりゃある意味どうしようもなくなると思うんですよ。感情移入もクソもない、完璧すぎて。
……私はこういう主人公の作品を見てみたいですが。


とにかく要は批判が多い一夏さんの鈍感模様ですが、こと学園ラブコメという面では仕方ないのかなー、ということを何故かFateのDVDを見ているときに思った次第でありました。イケメンも色々大変なんですよ、たぶん。私には分かりませんがね!


さて。クッソ長く尚且つすっげーどうでもいいあとがきになってしまいました。
全てはエアコンの調子が悪く、日々腐りかけた酢豚のようになっている作者の脳みそのせいということに。




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