平凡な俺が吸血鬼に? 高嶺の花な彼女に連れられて、夜の街の掃除屋はじめます   作:パラレル・ゲーマー

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第21話 アプリ『KAII HUNTER』と屋上への呼び出し状

 それは、遠征から戻ってきて数日が経ったある夜のことだった。

 

 いつものように夜の体育館で訓練を終え、汗を拭っていると、剣持先輩が刀の手入れをしながら不意に口を開いた。

 

「おい。気がついたか?」

 

「へ? なにがですか?」

 

 俺はスポーツドリンクを飲みながら聞き返した。

 

「……多分、『怪異ハンター』に目覚めたヤツが1年生に現れたぜ」

 

「えっ」

 

 先輩は布で刀身を磨きながら、確信を持った口調で続ける。

 

「昨日と今日、廊下ですれ違った時に微弱だが『異質な魔力』を感じた。まだ不慣れな感じの魔力循環だ。間違いなく能力行使してる。二人見つけたぜ」

 

「二人も……」

 

「ああ。まだ能力行使してない隠れプレイヤーがいるかもしれんが、とりあえず確認できたのはその二人だ」

 

「……あの、すいません。『怪異ハンター』って何ですか? ハンターって俺たちみたいな掃除屋のことですか?」

 

 俺が素朴な疑問を口にすると、先輩の手が止まった。

 

「おいおい、説明してないのかよ、かれん」

 

 先輩はステージ上で指示出しをしている皇かれんに視線を向けた。『お前のパートナーだろ教えとけよ』という、呆れた目だ。

 

「あら。実際にハンターが現れたら説明するつもりだったの」

 

 かれんはタブレットから顔も上げずに平然と言い放った。

 

「余計な知識を入れると、久我くんの集中力が散漫になると思ってね」

 

「相変わらずスパルタっすね……」

 

「で、結局なんなんですか? その怪異ハンターって」

 

 俺が改めて尋ねると、剣持先輩が刀を鞘に納めて解説を始めた。

 

「怪異ハンターってのは、とあるスマートフォンアプリ 『KAII HUNTER(怪異ハンター)』 のことだよ」

 

「アプリ……? ゲームですか?」

 

「ああ、形式上はな。拡張現実(AR)を使った怪異討伐ゲームだ。だが、中身はヤバい代物だぜ」

 

 先輩は声を潜める。

 

「対象は因果律改変能力を持たない一般人……つまり『Tier6』だ。そんな普通の人間に対し、アプリを通して後天的に能力を付与し、強制的に『Tier4〜5』の能力者へと引き上げるシステムなんだ」

 

「アプリで能力付与!? そんなこと可能なのか……」

 

「可能らしいな。原理は不明だが、インストールした瞬間、脳と霊的回路をハックされるらしい。そして、運営側がプレイヤーを管理・育成し、何らかの目的のために『駒』として使おうとしている……と言われている」

 

「運営側って?」

 

「正体不明の『管理者(ゲームマスター)』だ。このアプリが登場してもう4年程度経ってるが、いまだに運営元もサーバーの場所すら特定されてねえ」

 

 正体不明の黒幕が、一般人に力を与えてゲームをさせている。

 聞けば聞くほど胡散臭いし、危険な香りしかしない。

 

「ちなみにプレイヤー層もピンキリだ」

 

 先輩は指を折って説明する。

 

「まずは 『エンジョイ勢』。Tier5レベルの雑魚怪異狩りを中心に行うライトユーザーだ。日常便利ツールとして能力……例えば微弱な念動力とか透視能力なんかを使ってる連中も多い」

 

「便利ツールって……。超能力の無駄遣いだな」

 

「次に『ガチ勢』。こいつらは攻略サイト等で情報を共有し、Tier4以上の強敵に挑む。チームを組んで戦略的に動くから、侮れない戦力になる」

 

「なるほど」

 

「そして最後に 『ランカー(狂人)』。裏サイト等に生息し、もはやゲームの枠を超えた『異能者』としての領域……Tier3以上に足を踏み入れている上位プレイヤーだ。こいつらはヤバイ。下手な本職(プロ)より強い」

 

「……怖っ。そんなのがゴロゴロいるんですか?」

 

「まあ大半はエンジョイ勢だ。ただ、力を手に入れれば暴走する奴も出てくる。ヤタガラスにとっても無視できない存在でな」

 

 先輩はため息をついた。

 

「だから、方針としては『放置は危険だが戦力としては使える』ってスタンスだ。実際、ヤタガラスに登録して『公認プレイヤー』として活動しているハンターも多い。要は、俺たちと同じ管理された能力者って扱いだな」

 

「なるほど? ヤタガラスの下請けみたいなもんですか」

 

「まあな。で、うちの学校で1年生が目覚めたって言ってるのは、そのハンターになったヤツがいるってことだ」

 

「そういうことか!」

 

 ようやく話が見えてきた。

 

 俺たちの守備範囲であるこの高校に、野良の能力者が発生した。

 放置すればトラブルの種になるし、逆に彼らが自滅する可能性もある。

 

「能力行使したら分かるから、2人は特定済みだ。……で、久我」

 

 先輩が俺を指名した。

 

「明日昼休みにそいつらを呼び出して、放課後にヤタガラスまで連れて行くぞ。これは社会勉強だ。お前に一般人向けのヤタガラスの案内(オリエンテーション)も教えるためにな」

 

「えっ、俺も行くんですか?」

 

「当然だ。同じ学校の先輩として導いてやるのも仕事だろ?」

 

「りょ、了解です……」

 

「私はパスするわ。生徒会の仕事があるし」

 

 かれんはひらひらと手を振った。

 

「久我くんの面倒と新人ハンターの教育は、剣持に任せるわ」

 

「へいへい。じゃあ久我、明日昼休みに屋上に集合な! 遅れるなよ」

 

      *

 

 翌日昼休み。

 

 雲ひとつない青空の下、屋上には心地よい風が吹いていた。

 一般生徒は立ち入り禁止区域だが、ここでも合鍵(物理)を持つ剣持先輩の手引きで、堂々と侵入している。

 

「あー、まだ来ねえな」

 

 先輩はフェンスにもたれかかり、あくびをしている。

 

「本当に来るんですかね? いきなり3年の先輩から呼び出されたら、ビビって逃げるんじゃ……」

 

「大丈夫だ。『来なけりゃアプリ消すぞ(物理的にスマホを破壊する)』ってメモ書き残したからな」

 

「脅迫じゃないっすか」

 

 待つこと数分。

 

 ガチャリと、屋上の鉄扉が開く音がした。

 

「えーと……呼び出し食らって来たんすけど……」

 

 おずおずと顔を出したのは、ひょろりとした体格の男子生徒だった。

 1年生の緑色のネクタイをしている。少し挙動不審で、スマホを強く握りしめているのが印象的だ。

 

「おう来たか。済まねーな呼び出して。……もう一人来るから、少し待ってくれ」

 

 先輩がフランクに声をかけると、男子生徒はほっとしたように、しかし警戒を解かずに「了解です……」と短く答えて端の方へ立った。

 

 すぐにまた扉が開く。

 

「……失礼します」

 

 今度は女子生徒だった。同じく1年生。ポニーテールの似合う、ハキハキとした雰囲気の子だ。

 

 彼女は屋上に入るなり、俺と剣持先輩を見比べた。

 そして剣持先輩を見た瞬間、その頬がポッと赤らんだ。

 

「(……わっ、剣道部の剣持先輩だ! 本物だ……かっこいい)」

 

 心の声が漏れてるんじゃないかというくらい、分かりやすい反応だ。

 

 対して俺の方を見ると。

 

「……ん?(この人は……誰?)」

 

 あからさまに疑問符が浮かんでいる。

 

「…………」

 

 ひどくない? 扱いとか。

 

 まあ剣持先輩は有名人だし、ワイルド系イケメンだしな……。

 俺なんて影の薄いTier4だしな……。

 

「よし、二人とも揃ったな」

 

 先輩は二人の前に立ち、改めて頭を下げた。

 

「男子も女子も、済まねーな急に呼び出して。怖かったか?」

 

「いいえ! 全然大丈夫です!」

 

 女子が食い気味に答える。男子もコクコクと頷く。

 

「単刀直入に言うぞ。……お前ら、ここ数日で『怪異ハンター』に目覚めただろ?」

 

 先輩の言葉に、二人の動きが止まった。

 

「……!」

 

 男子生徒はビクッと身体を震わせ、女子生徒は息を呑んで後ずさった。

 

 秘密にしてきた(つもりだった)とんでもない秘密を、いきなり赤の他人に暴かれたのだ。動揺するのは無理もない。

 

「なんで……知ってるんすか?」

 

 男子生徒が絞り出すように聞いた。

 

「『なんで?』って顔してるな。そりゃ分かるさ、俺たちも同業者だからな」

 

 先輩は懐から能力者登録カードをチラリと見せた(まだ彼らには何の意味もなさないプラスチック板だが、説得力はある)。

 

「いいか、落ち着いて聞けよ。怪異ハンターになった連中には、ちゃんとした説明と登録が必要なんだ」

 

 先輩は噛み砕いて説明を始めた。

 

「この国には『八咫烏(ヤタガラス)』という、裏でこういう現象を管理してる政府機関がある。怪異ハンター利用者も、能力者としてそこに登録する必要があるんだ」

 

「や、ヤタガラス? 政府機関……?」

 

 二人は呆然としている。ゲームだと思っていたものが、いきなり国家レベルの話になったのだ。

 

「放っておけば力の制御ができなくて自滅するか、悪い大人(未登録犯罪者)に狙われる。だから、保護と管理のために登録は義務なんだよ」

 

「義務……ですか」

 

 女子生徒が不安そうに呟く。

 

「怖がらなくていい。登録すれば『公認ハンター』として活動もできるし、困った時にサポートも受けられる。……な?」

 

 先輩が俺に同意を求めてくる。

 

「あ、うん。そうだよ。俺も最近登録したばかりだけど、給料とか装備とか色々面倒見てくれるし。悪いようにはされないから」

 

 俺は精一杯の「先輩風」を吹かせて補足した。

 

「なるほど……? わかりました。剣持先輩がそう言うなら……」

 

 女子生徒が頷く。

 

「僕も……従います。アカウント凍結とかされたくないし」

 

 男子生徒も納得したようだ。

 

「よし、物分かりが良くて助かるぜ」

 

 先輩はニカっと笑った。

 

「じゃあ今日の放課後、校門前にヤタガラスの送迎車が来るから、それに乗って行くぞ。案内してやるからな」

 

「はい!」

 

 こうして、俺たちの学校に生まれた新たな「ハンター」二名のヤタガラスへの連行……もとい案内が決まった。

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