平凡な俺が吸血鬼に? 高嶺の花な彼女に連れられて、夜の街の掃除屋はじめます   作:パラレル・ゲーマー

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第22話 お給料自慢とはじめての能力者登録

 放課後の校門前に横付けされたのは、黒塗りのセダンだった。車種は分からないが、革張りのシートが心地よいヤタガラス手配の送迎車(高級車)だ。

 

 運転席には無言のエージェント(サングラス着用)が座り、後部座席に俺と剣持先輩、そして緊張した面持ちの1年生二人が詰め込まれている。

 

「……あの、先輩。ヤタガラスって本当になんなんですか?」

 

 車が滑るように走り出すと、男子生徒――名前は田中といったか――が、不安そうに聞いてきた。

 

「さっきの説明だと『政府機関』って言ってましたけど……都市伝説か何かじゃなくて?」

 

 隣のポニーテールの女子、佐藤さんもコクコクと頷く。拉致されている気分なのだろう。

 

 剣持先輩は、余裕の表情で革シートに深く背を預けた。

 

「ああ。ヤタガラスは、まあ一言で言えば『古い能力者管理組織』だな。日本最古と言ってもいい」

 

「能力者管理……」

 

「ラノベとか読まないか? よくあるだろ、『世界の裏側で暗躍する組織』とか、『怪物退治を専門にする機関』みたいなの」

 

「ああ、はい。読みます」

 

「まさにそれだ。そういうのが現実に存在してて、俺たち能力者を管理・支援してるわけだ」

 

 先輩はニヤリと笑う。

 

「まあ『暗躍』なんて言うと聞こえは悪いが、所属してるのは立派な公務員扱いだぞ? 俺たちも学生ながら、身分は準公務員ってことになってる」

 

「公務員!? 学生なのにですか?」

 

「おう。危険手当もつくし、福利厚生もしっかりしてる。そこの主人公……久我も最近雇われたばっかの新人だけどな」

 

 いきなり話を振られ、俺は背筋を正した。

 

「え、あ、はい。俺も雇われてます」

 

「給料は、俺(Tier3)より少ないがな! まだTier4だから」

 

 先輩は、余計なことまで付け加えた。くそっ、マウント取りやがって。

 

「まあ……確かに先輩よりは安いですけど」

 

 俺は咳払いをして、後輩たちに聞こえるように少し声を張った。

 

「でも、初任給でも月30万円以上はありますからね。学生バイトとしては十分すぎる額ですよ」

 

 実際には吸血鬼手当などで年収400万コースだが、月収で言ったほうがリアルだろう。

 

「さ、30万……!!??」

 

 二人の目が、漫画のようにカッと見開かれた。

 

 田中くんの目が輝き出す。

 

「マジすか……! 月30万!? 毎月PS5買えるじゃないですか!」

 

「凄いですっ……! 先輩たち、そんなに稼いでるんですね!」

 

 佐藤さんも尊敬の眼差しを向けてくる。さっきまでの「地味な先輩」という評価が、「稼いでいるエリート」にジョブチェンジした瞬間だ。

 

「いやー、それほどでも……」

 

 俺は照れ笑いしつつ頭をかいた。悪い気はしない。これが経済力のなせる技か。

 

「まあ、実際は下っ端だし、命かかってるから割に合ってるかは微妙だけどな……」

 

 謙遜しようとすると、剣持先輩が茶化してきた。

 

「へっ、30万で喜んでるうちはまだまだだぜ」

 

「良いんですよ! 下っ端でもちゃんと給料が出るんですから!」

 

 俺は反論する。

 

「ブラック企業じゃなくて、ちゃんと報酬が出るホワイト組織。それがヤタガラスです。だから君らも安心していいよ」

 

「はいっ! ついていきます!」

 

 二人の返事が、最初よりも数倍元気になっていた。現金なやつらだ(俺も人のことは言えないが)。

 

      *

 

「おっ、着いたぜ」

 

 車は千代田区霞が関のとある雑居ビルの前で停車した。以前、俺がかれんに連れられて来た場所だ。

 

 外見は相変わらずパッとしない古びたビルだが、この地下に日本の魔術的防衛線の中枢がある。

 

「降りるぞ。……お前ら、ここからは静かにな」

 

 先輩を先頭に、俺たちはビルの中へ。

 

 エレベーターで地下へと下り、あのオカルトとITが融合したオフィスフロアを抜けて、会議室へと通される。

 

「うわ……なんですかここ。お札がいっぱい貼ってある……」

 

「パソコンにお守りが……」

 

 異様な内装に、1年生たちが引いている。

 

「気にするな。魔除けだ。最新のウイルスソフトより効くらしい」

 

 適当なことを言って緊張をほぐしていると、会議室のドアが開き、一人の男性が入ってきた。

 

「どうもどうも~。お待ちしておりました」

 

 入ってきたのは、俺の時も担当してくれた黒部(くろべ)さんだった。今日もくたびれたスーツによれたネクタイ姿。国家機密を扱う男には見えない。

 

「えー、怪異ハンター組のお二人ですね。はじめまして、担当の黒部です」

 

「ど、どうも……」

 

「よろしくお願いします……」

 

 二人は緊張して頭を下げる。

 

「よろしくお願いしますー。……では早速ですが、説明から入りましょうか」

 

 黒部さんは手慣れた様子でタブレットを操作し、モニターに資料を映し出した。

 

「まず、ヤタガラスという組織は、裏から日本を守る組織です。古くから存在する『因果律改変能力者』、つまり貴方達のような能力者の管理が主な仕事ですよ」

 

「管理……」

 

「はい。『怪異ハンター』というアプリを通じて力に目覚めた人々も、当然管理の対象です。……といっても、これは監視というよりは、皆様を守るための必要な処置なんですよ」

 

 彼は穏やかに語りかける。

 

「未登録のまま暴走したり、悪意ある組織に利用されたりするのを防ぐためです。実際、最近はハンター同士のトラブルも増えてますからね」

 

「登録すると、何か強制労働とかさせられるんですか?」

 

 田中くんが恐る恐る聞く。

 

「いいえ。言っても皆様は学生さんですから。能力者だからノルマがあるとか、毎日怪物を倒せとか、そんな強制はありません」

 

 黒部さんは笑顔で手を振った。

 

「基本的に、能力者としてのお仕事を斡旋(あっせん)することはありますが、受けるかどうかは自由です。それ以外は……困ったことがあれば、なんでも相談してください。窓口だと思ってください」

 

「相談窓口……」

 

「ええ。力の制御方法、夜の世界のルール、あるいは……」

 

 黒部さんの目が、少し鋭くなった。

 

「また、能力者に目覚めて困ってる人が居たら、すぐにヤタガラスに連絡して下さい。今回のように、登録と保護が必要なことがありますからね。ご友人などにアプリが勝手に入った子がいたら、教えてあげてください」

 

「はい、わかりました」

 

 なるほど。ヤタガラスは、ハンターのネットワークを通じて野良能力者を囲い込みたい狙いもあるわけか。

 

「はい、説明は以上になります。……では、手続きに入りましょう」

 

 事務的な作業の時間だ。

 

「この書類に、名前とご実家の住所を記載お願いします。あと、親御さんにヤタガラスからの連絡が不要な場合は、右上の『保護者連絡不要』の欄にチャックを入れてね」

 

「チャックあるんだ!?」

 

 田中くんが喜々としてチェックを入れた。俺もあの欄には助けられたものだ。

 

「じゃあ書いて下さい。その間に、あとで『能力者登録カード』を作成するので、お二人の顔写真を撮ります」

 

「写真っすか?」

 

「ええ、身分証になりますからね。別室に簡易スタジオを用意してあるので、順番に入ってきて下さい」

 

「はい!」

 

 10分後。

 

 撮影を終え、書類記入も済ませた二人が戻ってきた。

 

 その直後、黒部さんの秘書と思われる女性が、トレイを持って入ってきた。

 

「はい、お待たせしました。カードができましたよ」

 

 二人に手渡されたのは、出来たてのほやほやのプラスチックカード。ICチップが埋め込まれ、ヤタガラスの紋章と本人の顔写真がプリントされている。

 

「うお……! かっけぇ! まじでライセンスカードだ!」

 

「私のがこれ……なんか凄い……」

 

 1年生たちは、自分の顔写真入りカードを見つめて興奮している。厨二心をくすぐられるアイテムだ。

 

「夜出歩いてても、このカードを提示すれば、警官だろうと職質スルーできますから、必ず持ち歩いて下さいね。あと、絶対にSNSとかに上げないように」

 

「はい!」

 

「では〜本日の手続きは以上です。お疲れ様でした」

 

 黒部さんが締めの言葉を述べた。実にあっさりした公務だ。

 

 会議室を出た俺たち四人。

 

 地下のエレベーターホールで、剣持先輩が大きく伸びをした。

 

「よし、終わったな。帰るぞ、お前ら」

 

「あざっした! 剣持先輩!」

 

「あの、この後は……」

 

「この後は一旦解散だ。各自家に帰って、親に怪しまれないようにしろよ」

 

 先輩は腕時計を見て、ニヤリと笑った。

 

「……でだ。正式登録も済んだことだし、今夜からお前らも『実戦』に参加してもらう」

 

「えっ、今夜!?」

 

「ああ。夜に学校の正門前へ集合な! 武器の使い方も教えてやるよ」

 

「はいっ!!」

 

「じゃあ解散!」

 

 頼れる先輩の一声で、後輩たちは意気揚々と帰路についた。

 

 自分のポケットにある「30万円の可能性(カード)」を握りしめながら。

 

 俺も彼らの後ろ姿を見送りながら思った。これで夜の警備も、少しは楽になるかもしれないと。

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