平凡な俺が吸血鬼に? 高嶺の花な彼女に連れられて、夜の街の掃除屋はじめます   作:パラレル・ゲーマー

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第9話 扶養控除とマジェスティック・トゥエルブ

 夕方六時半。

 吸血鬼としての日内変動のせいで、一番元気がみなぎるこの時間は、久我家にとっては家族団欒の夕食タイムだった。

 

 テーブルには、鯖の味噌煮とほうれん草の胡麻和え、そして大盛りの白米。

 相変わらず味覚は少し鈍いが、鯖の血合いの部分だけ妙に美味しく感じるのは黙っておこう。

 

 俺は箸を止め、台所で洗い物をしている母親の背中に声をかけた。

 

「母さん。ちょっと相談あるんだけど」

 

「なに? お小遣いの値上げなら却下よ」

 

 食洗機の音に負けないように、声を張り上げる母さん。

 

「いや逆。俺さ、バイトしようかなと思って」

 

「バイト?」

 

 母さんが手を止めて振り返る。意外そうな顔だ。

 

「珍しいわね。部活も入らないで、毎日ゴロゴロしてたあんたが、急に働くなんて言い出すなんて」

 

「ま、まあね。将来のために社会勉強しようかなって。あと、自分の遊び金くらい自分で稼ぎたいし」

 

 もちろん大嘘だ。

 実際には「国家の裏の治安維持」というブラックかつ高給取りな仕事が待っているのだが、口が裂けても言えない。

 

「ふーん。まあ良いことじゃない」

 

 母さんはタオルで手を拭きながら、食卓に戻ってきた。

 

「ただし、条件があるわよ」

 

「条件?」

 

「扶養控除。あれを超えない程度にしときなさいよ。あんたが年間160万円以上稼ぐと、お父さんの税金が跳ね上がるんだから」

 

「あー……」

 

 その単語、家庭科で習った気がする。

 俺の実際の想定年収は400万オーバー。

 一瞬で扶養から外れるどころか、俺自身が立派な納税者になってしまう額だ。

 

(まあ、かれん曰く、ヤタガラスが税金関係は裏操作してくれるって言ってたし、表向きは『160万以内のバイト』として処理される……はずだ)

 

「分かってるよ。週数回入るだけだし、そんな稼げないって」

 

「そう? それならいいけど。もし超えた時は、あんたのバイト代から税金の増えた分を補填させてもらいますからね!!」

 

「あー、はいはい、分かったって」

 

「で、バイト代が入るなら銀行口座がいるわね。どこにするの?」

 

「どこでもいいけど……」

 

「ダメよ。作るならウチのメインバンクの『東都あおぞら銀行』にしなさい。お父さんからあんたへの仕送りとか、将来あんたが大学で地方に行った時、他所の銀行だと振込手数料がかかるのよね」

 

 母さんの主婦フィルターが発動した。

 数百円の手数料を蛇蝎(だかつ)のごとく嫌うのが、我が家の家訓だ。

 

「手数料かかるの嫌よ、私。チリツモなんだから」

 

「あー……じゃあ、東都あおぞら銀行にするよ。駅前にあるし」

 

「ええ、そうしてくれると助かるわ。……あ、そうだ」

 

 母さんが何気なく、追加要求をしてくる。

 

「ついでに、あんたのスマホ代の請求も、その新しい口座にしときなさい。引き落とし口座、変えとくから」

 

「えー!?」

 

 思わず声を上げる。

 

「スマホ代もバイト代から出すのかよ! ケチ臭くない?」

 

「なによ、一人前に働くんでしょう? 一応、給料をもらう身分になるんだから、通信費くらい自分で払いなさいよ。社会勉強なんでしょ?」

 

「ぐぬぬ……」

 

 正論で殴られた。

 

「……はーい。まあ良いか、自分で払うよ」

 

 年収400万あれば、スマホ代など誤差だ。

 ここは太っ腹なところを見せておこう。

 

「じゃあ母さん、俺、昼間は学校あるし平日の窓口行けないから。悪いけど、代理で口座開設お願いできる?」

 

 未成年だし、委任状と身分証があれば、親が代理作成できるはずだ。

 郵送物を自宅で回収されるリスクも減る。

 

「はいはい。明日の昼、パートの前に行ってくるわよ。印鑑用意しときなさい」

 

「サンキュー、助かるわ」

 

「じゃ、ごちそうさまでした」

 

 俺は空になった茶碗を片付けると、足取り軽く自分の部屋へ戻った。

 これで最大の関門「親バレせず口座を作る」ミッションクリアだ。

 

       *

 

 その夜。学校体育館。

 いつものメンバーが集まる中、俺は早速その成果を報告した。

 

「――というわけで、口座開設は親にお願いしました。これでヤタガラスからの給料も受け取れます!」

 

「おお、やるな新人! おめでとう!」

 

 修理屋の美島さんが、スパナで拍手する。

 

「これで君も立派な社会人の仲間入りやなー。まあ仕事内容は人殺し(魔物退治)やけど」

 

「物騒な言い方しないでくださいよ」

 

 俺は、準備運動をしている剣持先輩の隣に座り込んだ。

 

「いやー、にしても給与出るの嬉しいっすね。なんかモチベ上がりますよ」

 

「おう。現金な奴だな」

 

 剣持先輩は柔軟体操をしながら笑う。

 

「ま、金はあって困るもんじゃねえしな。ちなみに俺たちTier3クラスだとそこそこだが、ヤタガラスのトップエージェント……Tier2クラスになると、年収3000万円超えるらしいぜ?」

 

「さ……三千!? マジっすか!?」

 

 400万で喜んでいた俺が、馬鹿みたいだ。桁が一つ違う。

 

「す、凄いですね……プロ野球選手並みじゃないですか」

 

「まあ、それだけ死ぬ確率が高い仕事だってことだ。Tier2ともなりゃ、国家規模のヤバイ案件に投入されるからな。割に合ってるかどうかは微妙なとこだが、夢はあるよな」

 

 先輩は首をボキボキと鳴らし、天井を見上げた。

 

「でもな、正直ヤタガラスはまだ安い方らしいぜ。これがアメリカなんかに行くと、もっと貰えるって噂だ」

 

「アメリカ……?」

 

「ああ。海の向こうにも、ヤタガラスみたいな公的な異能組織があるんだよ」

 

 先輩は声を少し潜め、勿体ぶってその名を口にした。

 

「『 MAJESTIC-12(マジェスティック・トゥエルブ)』。……聞いたことあるか?」

 

「マジェスティック……?」

 

 俺はスマホを取り出し、すぐに検索した。

 

「あ、ググったら出てきましたよ。これですね?」

 

【MJ-12(マジェスティック・トゥウェルヴ)】

ロズウェル事件などに伴い、宇宙人に関する調査や地球外生命体との接触・交渉を秘密裏に行ってきたとされる、アメリカ合衆国政府内の委員会。

 

「……え、これUFOの組織じゃないんですか? 陰謀論とか都市伝説の」

 

「ああ。表向きというか、オカルトマニアの間ではそう認識されてるな。だが、あっちの世界じゃ、宇宙人(エイリアン)=異能者(ミュータント)の研究組織ってのが実態らしい」

 

 先輩はニヤリと笑う。

 

「戦後に設立された組織でな、日本のヤタガラスとは違って『科学的』で『軍事的』なのが特徴だ。あっちは完全成果主義だから、腕が立てばいくらでも金を積んでくれる。とにかく金払いが良いらしいぜ」

 

「へぇー。日本とアメリカで、そんな違いが」

 

「一応、ヤタガラスとは表向き『友好関係』にあるらしいが、裏ではバチバチだって話だ。ヤタガラスは『秩序と伝統』を重んじるけど、マジェスティックは『国益と力』が全てだからな。思想が合わねえんだよ」

 

「なるほど。会社の派閥争いみたいなもんか……」

 

 画面の中の陰謀論の記事を眺めながら、俺は妙に納得してしまった。

 

「へー、知らなかったっす。都市伝説とか、意外と真実を語ってるんですね」

 

「おう。ヤタガラスも『裏天皇直属の組織』なんて噂されてたりするし、火のない所に煙は立たねえってことだ」

 

「じゃあ……宇宙人もいるんですかね?」

 

 俺が冗談半分で聞くと、剣持先輩はハハッと笑った。

 

「いやー、それはいねえんじゃね? 大体『UFOを見た』っていう目撃情報の9割は、異能者が飛んでる姿を見たとか、魔術の発光現象を誤認しただけって説が濃厚だぞ」

 

「あー、なるほど。異能者が飛んでるのがUFO……」

 

「浮遊術な。俺たちTier3クラスだと、空中機動なんて精々ジャンプが良いとこだが、Tier1クラスになると何でもアリになってくるからな」

 

 先輩は顎で、ステージ上の皇かれんをしゃくった。

 

「重力操作だろうが風魔法だろうが、様々な方法でマッハで空飛ぶ化け物もいるんだとよ。あいつらの戦いは、もうドラゴンボールとかマーベル映画の世界だ」

 

「……Tier1は空も飛べるか」

 

 自分の魔眼(Tier4レベル)を見つめ直す。

 時間を少し遅くするのと、音速で空を飛ぶのとでは、やはり格が違う。

 

「お、そろそろお時間だぞ」

 

 先輩が立ち上がり、壁にかけてあった愛刀『無銘』を手に取る。

 

「ムダ話はそこまでだ。今夜も一仕事して、将来の3000万プレーヤー目指して稼ぐとするか!」

 

「ですね! 稼ぎましょう!」

 

 俺も、木刀(に見える認識阻害済みの刀)を握りしめる。

 

 お金の話をしてモチベーションを上げ、異能の世界の広さを知って身を引き締める。

 今日もまた、長い夜が始まる。

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