東方創成録 作・夢哉様
主演者・箕成創哉 桜
亡霊さん、創成者と付喪神と会う
一閃。
空を裂いて銀の光が空気を裂いた。
「ふう、こんなもんか」
俺は手に持った剣を離す。
普通なら、刀は地面へ落ちるだろうがこの剣は普通では無い。
「よっと、お疲れ創哉」
刀が光ると着物を着た黒髪の少女へと姿を変える。
桜。俺の相棒で剣の付喪神だ。
「相変わらずね、創哉」
そう言って声を掛けてきたのは、幻想郷の当代の博麗の巫女、博麗霊夢。
俺は箕成創哉、死んで神様にチートを貰って幻想郷に来て、霊夢の神社に居候している人間(笑)だ。
最近は異変も無く、平和なのでこうして修行をしてるんだが、
「中々巧くいかないな」
剣の付喪神である桜も剣である以上は使って欲しいのか、こうして修行をすることになったのだが、難しい。
「大変なんだな、剣を使うって」
「そりゃそうでしょ! 一朝一夕で辿り着けたら剣の道なんて言葉は生まれないからね!」
つまり桜よ。それは俺にもっと剣を振れと言うサインか?
「私の持ち主なんだから、私も剣として使われたいのよ」
「りょーかい。しかし、こう何もないと暇だ」
いっそ剣の修行相手でもいればいいんだけどな。
そんな疲れた修行をした日の夜。
寝つきが悪かった俺は、暇なので月見でもすることにした。
縁側から見る月は大きく、その存在感を良く出していた。
「やっぱ綺麗だな」
前世じゃ月に魅了さる事なんて無かった。
でも、ここで見る月は何処か魅力的で普遍的な美しさがある。
「ふぁ~、創哉どうしたの?」
目を擦りながら桜がやってきた。起こしちまったか。
「悪い、寝付けなくてな。月、見てた」
「あー確かに綺麗だしね、私も見る」
そう言って俺の隣に座る。
ふわりと、凪いだ髪から花の香りがした。
ん、やっぱこいつも女の子なんだな。
若干、ドキドキしつつももう一度月を見た。
「……」
「……ねえ」
「…………何だ」
「月………………二つあるよね?」
目をこする。二つ。
目をマッサージ。二つ。
「なんでさ?」
「見てたけどいきなり現れたって感じじゃなかったよ。まるで最初からそこに在ったみたいに自然に気が付いたら二つだった」
二つの月が重なった。
微かに周囲が震えた気がする。
「異変か?」
暇だとは思っていたが、別に異変が来て欲しい訳じゃないぞ? まったく。
「取り敢えず、見に行ってみるか。霊夢起こすの怖いし」
「寝ぼけて夢想封印とか嫌過ぎる……!」
ともかく俺達は可笑しな様子になっていないか、空を飛んで見渡してみた。
結果として異変……と言うか以上は直ぐに見つかった。
博麗神社は幻想郷の端にある。
そしてそこから先は博麗大結界があるので何もないなずなんだ。
「……紅魔館だな、あれ」
「うん、紅魔館だ」
何故か、大結界の先に紅魔館がある。
と言うか、幻想郷が見える。
「どいうこと?」
「俺も分からん。取り敢えず行ってみるか」
大結界がある場所に手を伸ばしてみるが特に変わった変化は無い。
何故かある紅魔館の近くに降りたが、特に変な所は無い。
「一体何なんだ?」
空を見ていると先程まで軽く触れ合う程度だった満月が二つ重なり始めていた。
満月が重なってからこの場所が現れた?
そう考えるけども、現状それしか手掛かりが無いからそうとしか考えるしかないとも言える。
「もっと情報集めないとな――――」
「創哉!!」
桜が叫んだ。
見れば月夜の下で、白い髪の男性へ巨大な熊が飛び掛かろうとしている。
「マジか!? 桜!!」
走る。走りながら俺は能力を使う。
「壁ェ!!」
物事を確定する程度の能力を使い、男性の前に鋼の壁を創る。
熊の突進は防がれ、頭を強かぶつけたのか、鈍い音が鳴る。
「大丈夫ですか!?」
「む? ああ、怪我は無い」
声は落ち着いていた。一般人なら間違いなく悲鳴を上げているこの状況で男性は狼狽している様子が一遍も無かった。
この人、もしかして強い、のか?
考えつつも熊が回り込み壁を抜けて来る。
熊から発せられるのは妖力だ。
妖獣の類だが、敵では無い。
懐からスペルを宣言しようとした瞬間だった。
真横を風が通り過ぎる。
白い髪を靡かせて男性が熊へと跳ぶ。
手に持っているのは剣。
見覚えがある、桜が弾幕で使う剣だ。
銀色に輝く太刀が熊の真上から振り下ろされた。
斬った。
少なくとも俺にはそう感じた。
だが、剣は僅かに熊の右へ落ちて、地面へとその刃をぶつけ、大地を割った。
「失せよ。次は斬る」
剣の切っ先を向けられた熊。本能か、はたまた恐怖を知ったのか。
一度も此方を振り向かずに森の中へ消えて行った。
「すげ」
大地と言う固い物体を割ったのに刃は刃こぼれどころか、傷一つ付いちゃいない。
「おー」
ぱちぱちと、桜が手を叩く音が聞こえる。
「ふう、助太刀助かった」
そう言って、男性は此方へ歩いて来る。
近くで見るが、思いのほか痩せていた。
羽織から出る手も細い。この体であの動きをしたのか。
「いや、余計でした?」
そう言うと男性は首を振る。
「正直助かった。先程から逃げてはいたのだが、追い払う手段が無くて困っていたのだ」
「そうだったんですか。って、傷が」
気が付かなかったが、足から少量の血が地面へ流れている。
男性は傷に気が付き、軽く笑った。
「心配は無用。すぐに治るのでな」
言って、血を拭う。すると、もう血は流れてこなかった。
「アンタ一体……」
先程の動きと剣技、それに傷をすぐに治す。
俺も幻想郷に居て長いが、こんな人は見た事が無い。
「私は、亡霊。名も無いただの亡霊だよ」
あっけらかんと、気楽に男性は亡霊だと宣言した。
「成程。月が二つか」
日が暮れて、霖之助殿の所へ戻ろうと急いだが、道が分からぬことに気が付いたのは日が更けて夜になった頃だ。
来た道を戻れば大丈夫だろうと思っていたが、森を出た瞬間に、紅魔館の裏に出た時は自分の考えの浅さに嘆いたものだ。
その後、熊と目が合い、逃げながらどうするか困っていた時に、黒く長いの少年と少女らに助太刀をしてもらった。
突如壁が出来て驚きはしたが、少女、桜殿が言うには箕成殿が持つ能力らしい。
護身にと桜殿の手から突然現れた剣を持たされた時は驚きはしたものの。
箕成殿へ熊が目を付けたのを目撃した時に反射的に飛び出してしまった。
実際、箕成殿はあの程度の相手では歯が立たないと言うのを知らずに。
そして、今。
幻想郷の月が二つになったことを私は、箕成殿と桜殿から聞かされた。
そして、幻想郷で今起こっている異常の事を。
「つまり、博麗神社は此処から遠い場所にあり、あそこに見える博麗神社は本来ここには無い物と言うことか?」
「ああ、ここと博麗神社は東西の端みたいな感じなんだ」
「これってどういう事だろう?」
二人が頭を捻る。私も考えるが如何せん、数日前に土から目覚めたばかりの男。深い知識など持つはずも無く二人と共に頭を捻る事になる。
「あーもう!! 訳わかんない!! 何? 幻想郷が二つあって、くっ付きでもしない限り……無……理」
桜殿の叫びが徐々に小さくなり、箕成殿を見る。
「まさか……いや、あの月もそのせいで……?」
「確かに並行世界の幻想郷に行ったことはあるけどさ……マジ?」
「つまりどういうことだ?」
二人は気まずい顔をしながら後頭部を掻いた。
そっくりな動きだ。
「多分、いやあり得ないかもしれないけ、俺達の世界の幻想郷と亡霊さんの世界の幻想郷が重なってるんだと思います」
「なんでそうなったか、とかは分からないですけど可能性として一番高いと思いますね」
要領の得ない話しだ。
私自身、世界が二つもあると言うことが初耳なのだから。
「ま、まあ兎に角そう言う事だと思っていて下さい」
「ふむ、ではこの現象は何時終わるのだろう?」
「多分、あの月がくっ付いた時に震え、あれがくっ付いた衝撃で起きたなら……」
「あの月が離れたら戻るってこと?」
二人に倣って月を見上げた。
重なり掛けている月。
不思議な光景であるが、綺麗だった。
「さて、主たちはこれからどうする?」
月が離ると幻想郷同士が離れる。
月が離れるまでに、箕成殿も桜殿もあちらの博麗神社に戻らなければならないが、
「そうだな。なあ、亡霊さん。ちょっと俺と模擬戦してくれないか? 一回で良いんだ」
箕成殿が提案する。
「何故?」
「さっきの亡霊さんの剣技が凄かったからさ。次会えるかも分からないし、あの剣技をもう一度見たい。駄目か?」
目を輝かせた創哉殿。邪仙とは比べ物にならないくらい綺麗だ。
とは言え、私の技法は凡そ正道とは程遠い、人を斬って強くなった技。そんな技を見せて箕成殿に悪影響が無いだろうか。
「……」
「……まあ、多少なら」
「おっし!! 桜準備だ!! 俺の能力でお前を木刀に変化させる。亡霊さんに木刀作って渡してくれ」
「委細承知だよ!!」
そう言って、桜殿が何処からともなく、木刀を作り、自身も同じく木刀へ変化して箕成殿の手に収まった。
「じゃ、少しばかり勉強させて貰います」
「手本にはならぬと思うがな……」
隙が無い。
特に構えもしていない亡霊さんに対して俺が思ったことだ。
何処へ打ち込めばいいのか分からない。
どう攻撃しても返されると言うより、どう攻撃しても次に何が起こるか分からないって感じだ。
「つっても、こうして止まってる訳にもいかないか」
様子見も込めて、まず一刀を放つ。
それに対し、亡霊さんは一歩後ろに下がる事で回避する。
「ここから」
返す形でもう一度と思っていた。
「ふっ!」
放つより先に手首を掴まれる。
「おわ!」
そのまま勢いよく投げれた。だが俺は空中で体を回し同時に霊力を足に裏で爆発させる。
空を蹴って、空からの奇襲だ。
「やばっ……」
いつもの調子で勢いよくやり過ぎた。
直撃すれば、唯では済まない。
だが、木刀となった桜の刀身が破壊したのは地面。
砕け地が割れて空を舞う。
俺の着弾地点に亡霊さんは居た。
激突はしていない。
だが、割れた地と同じく宙に舞う亡霊さん。
「凄いな……私から学ぶ事があるのか?」
「なら、攻めてくださいよ? 『リミッター2段階解除』!!」
自分に課したリミッターを解放し、剣速を上げる。
俺は、霊力を使い身体能力を底上げする。
「マジかよ!?」
当たらない。その至近距離でありながら、、亡霊さんは全てを躱して見せた。
まるで、霞でも斬っているように感触も手応えも無い。
そこに居るのに攻撃が当たらない。
やべ、楽しくなっきた。
テンションが上がる。
まさかとは、思っていたが此処まで見切りが上手いなんてな。
「剣符『月光斬‐三日月‐』。これはどうします?」
距離を取って放つのは、三日月を象った剣の軌跡。
その軌跡が光り、弾幕となって飛ぶ。
「おお、最近の剣術はこういう事も出来るのか」
『いや、違います』
木刀の桜がツッコんだ。
うん、なんか勘違いしてらっしゃる。
「ふむ、斬れるか?」
ゾクリ、と背筋が凍った。
振るう剣が走った。
弾幕が斬られた。
斬られていない。当たらない弾幕が亡霊さんの周囲で爆ぜる。
亡霊さんが振るった剣。距離は遠い。当たる筈がない。
それが当たり前だ。
なのに、手に持っていたのは、創成『オールデリート』のスぺカ。
無意識に亡霊さんの剣にビビった?
「ははっ、何者だよ、亡霊さん」
だが、こうも驚かされてばかりは気に入らない。
「ちょいと、俺も驚かせてみるか」
斬れたか。
見たことも無い光。
攻撃の術だが綺麗だった。
しかし、斬れるか? など思い切った事をしてしまった。
斬れなかったら、直撃。周囲の砕けた地面を見て危ない真似は止めようと思う。
箕成殿も仙術使いなのか?
邪仙が思い浮かぶが、すぐに頭から消す。
「しっかし、すげーな亡霊さん。弾幕斬れるなんてさ」
「自分でも驚いた。あの光が弾幕と言うのか」
「あれ? 知らないのか?」
「八雲姫から聞いたが見るのは初めてだ」
箕成殿固まった。
「『や、やくもひめ?』」
箕成殿と桜殿の声が被る。
何故、こういう反応ばかりなのだろうか。
「八雲紫殿のことだ」
「ははは、またまた冗談を、あんな胡散臭いスキマが姫って……」
「こら、箕成殿。そんな悪口を言ってはいけない」
「え、何で俺が怒られてんの?」
『て言うか、紫が何で此処まで評価高いの……』
「彼女は親切だぞ?」
「う、うん。もういいっす。と、兎に角、行きますよ!!」
一直線に此方へ攻めて来る箕成殿。
何か仕掛けて来るのか?
何も考えず突っ込んで来るとは思えないが、どう対応すればいいのか分からない。
手の内、箕成殿がどのような力を持っているか。
出来る事は刀を振るう事。
一閃。
振るう木刀は振り下ろし。
箕成殿はどう避ける? 右か左かそれとも背後か。
はたまた、正面切って飛び込むか。
「――――」
その答えは直ぐに来た。
全てだ。
箕成殿が増えた。
右に左に後ろに前に、箕成殿が四人に増えた。
「これはっ――――!」
「「「「『俺が四人存在』を確定!!」」」」
前に捕まれて動きが阻害された。右を防ぐが、左と一歩遅れて来た箕成殿からの攻撃を防ぐことは出来なかった。
攻撃を受けて地に足が付く。
「「「「どうだい、亡霊さん」」」」
「驚き以外の言葉が無い」
何と言う摩訶不思議。四人に増えるなど予測できるはずが無い。
『創哉、満月が!』
空を見れば、徐々に満月が離れ始めている。
「「「「そろそろ時間か?」」」」
『後、創哉。声がタブってすごい気持ち悪い』
「「「「ひっでぇ……!! まあ、ちとこれは卑怯か」」」」
四人いた箕成殿が一人になる。
「悪いな、亡霊さん。弾幕斬ったり驚かされてばかりだから、驚かし返してやろうと思っちまった」
「そんなに、驚く事なのか?」
「まあ、弾幕を斬る奴はあんまり居ないっすね」
苦笑する箕成殿。
「んじゃ、次が最後かな。短い間でしたけど楽しかったですよ」
「私もだ。貴重な出会いをありがとう」
『また、会えますか?』
「さて、な」
私の答えに箕成殿も、顔は見えないが桜殿も不満そうだ。
「縁が在れば会えるだろうさ」
「縁、か……」
そして言葉は消える。
月同士がが離れる時間はそう長くない。
私の背後には博麗神社、箕成殿背後には紅魔館。
「「いざ!!」」
同時に走り出す。
互いの距離が縮まる。
接触まで数瞬。
奇妙な一期一会。
異なる世界の者との戦い。
未知なる力。成程、少し楽しいな。
木刀が重なった。
「起きろーーーー!!」
「「うああああああ!?」」
突然、聞こえた霊夢の声に飛び上がった。
「いてて……って! え? 霊夢!?」
「はれれ? あれ?」
「何が、いてて、はれれ、よ。なんで二人とも縁側で寝てるのよ」
周囲を見れば、朝日が東の空からゆっくりと登り、青色の空を染め始めている。
「あ、あれ? 亡霊さんは?」
「はあ? 亡霊さん? 夢でも見たの?」
そう言って霊夢は台所へと向かっていく。
「夢?」
あの出会いも、戦いも?
「夢じゃないよ」
桜の言葉に振り返る。
「ほら、これ」
持っていたのは、亡霊さんに桜が貸していた木刀だった。
「じゃあ、あれは」
「本当の事だと思う。なんで此処に居たのかは分からないけどね」
「不思議だな」
「うん、不思議だね」
白髪の亡霊さんか。
「また、会えると思うか?」
「それこそ、縁が在ったらじゃない?」
それもそうか。
ここは、幻想郷。不思議な事なんてそこら中にあるからな。
「もうちょい、剣が使えるようになっとくかな……」
「うむ! 頑張るがよい!!」
なんで偉そうなんだか。
桜の頭をぐりぐりと撫でながら、俺は朝日を眺めた。
「ふむ……」
気が付いたら、紅魔館の近くに居た。
昨夜の場所へ行けば、壊れた地面の痕。
「何とも不思議な出会いであったな」
次、会えるなら茶でも飲みながら静かに語りたいものだ。
「さて、香霖堂はどっちであろう」
私はまだ迷子である
「まずは、紫を姫と呼べるくらい精神を鍛えるか」
「見習うとこそこ!?」