東方亡霊侍   作:泥の魅夜行

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亡霊さん、体を治す

 赤い。

 それが私の感想だ。

 入り口から館の隅々まで、真っ赤に染まっている。

 紅魔館……成程、紅い魔が住む館とはまさに言葉通りだ。

 しかし、この紅は血を連想する。

 脳裏に、過るのは己の過去。

 

「此方です」

 

 そう言って、十六夜殿が私の肩を持って歩を進める。

 館への入り口、門は大きい。門の前い立つ人影が見えた。

 

「…………」

 

 門の前に居たのは、赤く長い髪が特徴的な長身の女性だった。

 その女性は何というか、独特な動きをしていた。

 動きはゆっくりだが、一挙一足ともに戦いの為の動き。

 流れる汗を気にも留めずに真剣な表情で行うそれは、演武と言っても過言では無い。

 このような動きは初めて見る。

 

「あら、起きてるなんて珍しいじゃない、美鈴」

 

「あ、咲夜さん、お帰りなさい。ええ、修行と言うか、健康法を……あ、其方がお客様ですか?」

 

 美鈴と呼ばれた女性は、真剣な表情から一転して人懐っこい笑みを浮かべた。

 先程の真剣な表情との差があり、少々面喰った。

 

「そうよ。貴女が寝ていたら、お客様に血みどろの惨劇を見せるところだったわよ」

 

「うわぁ、危ない危ない。と言うか、お客様に見せなければいいんですよ」

 

「働かざる者にはナイフを、でしょ?」

 

「多分、違います。絶対違います」

 

 十六夜殿が何処からか取り出したナイフを振ってみせると、美鈴殿は悲鳴を上げて後退した。

 

「じゃあ、お嬢様の所にこの方を連れていくから、門番お願いね」

 

「失礼する」

 

「ハイ! あ、初めまして紅美鈴と言います」

 

「ご丁寧に。済まないが事情があって、名が無い。私の事は亡霊とでも呼んでくれ」

 

「はい、亡霊さん、お気を付けて!!」

 

 手を振る美鈴殿へ手を振り返しながら、私と十六夜殿は館へ入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外部も紅ならば、内部も紅。歩いているだけで目が痛くなってしまう。

 時折、ある窓から外を見ながら進んでいくと時折、十六夜殿が来ている服とよく似ている服を着て、背中より羽を生やした少女とすれ違う。

 

「この館で働いている妖精です」

 

 わたしの疑問に答えるかのように、十六夜殿が答えた。

 

「と言っても、彼女達は幼い、精神的には子供大差有りませんので、雇ってもあまり働いてくれませんが」 

 

 確かに彼女達とすれ違うと、興味津々の好機の目で私と十六夜殿を見てくる。

 その度に、いつの間にか妖精の近くの壁だったり、床に銀の短刀が刺さり、我先にと彼女達は逃げていく。

 

「楽しそう……だな」

 

「働いてくれないこちらとしては困りった以外の何物でもありません。……と、此方です」

 

 そう言って十六夜殿は一際、大きい扉の前で止まる。

 

「お嬢様へ報告へ行きます。少々お待ちください」

 

 十六夜殿が消える。右足に力が入らず倒れそうになるが、体は地面に付かない。

 いつの間にか背後に椅子が設置してあった。丁度私が倒れる場所にだ。

 

「……面妖な術だ」

 

 暫くすると、十六夜殿が扉を開けて戻って来た。

 

「此方へ。中でお嬢様がお待ちです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、亡霊」

 

 中に入った私へ声を投げ掛けたのは、部屋の奥、白く丸い机と椅子に座って此方を見る幼い少女だった。

 しかし、幼いのは見た目だけ。その口から紡がれる透き通る声と、全身から放たれる「気」は、子供が出せるそれでは無い。

 これが、きゅうけつき、か。

 しかし、何故、幼子の姿を取っているのだろうか。

 ……私を油断させる為に、敢えて子供の姿を?

 勘繰りながらも、十六夜殿とゆっくりと進み、少女と机を挟んで向き合った。

 

「座りなさい。その怪我じゃ立っていても辛いでしょう?」

 

「忝い」

 

 椅子に座り、同じ目線で見る少女はますます幼く見えてしまう。

 

「咲夜、お茶」

 

「出来ていますわ」

 

 机を見れば、白く小さな碗に橙色の液体が湯気を立てている。

 出来た出の様だ。

 

「そう、なら下がっていいわよ。後、中国を中庭に呼んで置いてちょうだいな」

 

「畏まりました。では……」

 

 十六夜殿が消えた。足音も気配も一切、残さず消える。

 

「ふふ、凄いでしょう? 私の自慢の従者よ」

 

「ああ、私も此処に来るまで、助けられた。速度を合わせてくれたり、よくできたお嬢さんだ」

 

「ふふふ、そうでしょうそうでしょう? 当たり前よ、この私の従者なんだから。ふふふ!」

 

 楽しそうに笑う少女の姿に、十六夜殿の事を本当に誇っているのだと解った。

 

「では、お互いに自己紹介をしましょうか。紅魔館が主にして吸血鬼、レミリア・スカーレットよ。東洋的には名がレミリア、性がスカーレット」

 

「名無しの亡霊。名も性も覚えていない。そして、何故、初対面の私を此処へ呼んだのか? 正直すかーれっと殿と、こうして向かい合ってることすら、不思議でしょうがないのだが」

 

「まあ、そうでしょうね。それはこれから話すわ。その前に貴方は、その怪我を治しなさい」

 

「いや、治すと言っても無理ではないか?」

 

 包帯に巻かれた傷口を見る、すかーれっと殿はため息を吐き、おもむろに自身の右腕を此方へ伸ばす。

 ゴトン、とすかーれっと殿の右腕が机に落ちた。

 声すら発することが出来ない。

 自身の目がたしかなら、すかーれっと殿は自身の腕を自分で斬り落とした。

 何も持っていない左手でどうして落としたかだとか、何故、斬り落としたのだと、問いたいが、それ以上に血が流れていく。白い机を鮮血が染めていく。

 

「す、すかーれっと殿!?」

 

 慌てる私だが、すかーれっと殿は私を左手で制して私を止めた。

 

「いい? よく見てなさい」

 

 そう言うと、すかーれっと殿の切り落とした右腕が独りでに動き出す。

 宙へ浮き、流れ出た血液が次々と球体の塊となって宙へ舞い、切り落とされた傷口へ戻っていく。

 やがて血が無くなると、右腕がすかーれっと殿の切り落とした傷口へ癒着し、傷すら残らず、綺麗な肌へと戻っていた。

 

「……」

 

 言葉も出ない。つい先ほどまで血の流れる机は元の純白へ戻り、すかーれっと殿も切り落とした右手で碗を手に取って飲んでいる。

 

「いい紅茶ね。さすが、咲夜。で、どう? こんな感じよ」

 

「済まぬ。何が何のなのかさっぱりで、どこでどういう反応をすればいい?」

 

「今の要領で貴方も腕生やしてみろって事よ」

 

「無茶を言うな!?」

 

 思わず叫んでしまったが、これはしょうがないだろう。

 何せ、今の光景すら、悪い白昼夢かと思えるほどに現実感がしなかったのだ。

 それをやってみせろと?

 

「いいかしら? 私は吸血鬼。血を吸う鬼よ。貴方は亡霊。お互い共通点があるでしょう?」

 

「人では無い?」

 

「正解。癪に障るけど、私達はこの幻想郷で生きている外の世界では幻想の存在よ。そして、人間と違いその強さは肉体では無く、精神寄りなのよ。つまり、基本意思が肉体に作用している」

 

 紅茶を飲み終えたすかーれっと殿が肩を組んだ。

 

「私はさっき、自分の腕を切り落とした。そして、こう思ったの『手を繋がれ。血よ戻れ』って。それがこの結果。いい? 貴方は人では無い。亡霊よ。肉体では無く、意思や精神の具現存在。体なんて貴方の意思次第でどうにでもなるわ。まずは人としての認識を捨てなさい。そして、強く思う。『腕を生えろ、足よ治れ』と」

 

 ……人では無い、か。

 念じてみる。治れと、生えろと。だが、体に変化は起こらない。

 

「ま、いきなりは無理ね。貴方、亡霊になったばかりだったわね。じゃ、こっちよ」

 

 立ち上がり、私の横を通るすかーれっと殿。

 

「待て、何故私が亡霊になったばかりだと知っている?」

 

 初対面であるはずの、すかーれっと殿に私は話した覚えは無い。

 すかーれっと殿は首だけ振り返り、此方を見た。

 

「これからする事が出来たら教えてあげるわよ。なんで貴方を此処へ呼んだかも含めて、くだらない事だし教えてもいいけど、それじゃあつまらないでしょう? そもそも――――」

 

 嗤う。楽しそうに。

 

「何でもかんでも優しく丁寧に教えるほど、聖人君子じゃないの。知ってる? 私って人間じゃないのよ?」

 

 無邪気な笑顔は、まさしく夜を生きて人を脅かす畏怖すべき怪物のそれであった。

 

「……ああ、よく知っている」

 

 私は理解した。青娥から離れたが、再び厄介な者に捕まった、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空が見える。既に日は西の地平へ沈み始めた時間だ。

 夕焼けと薄暗い青と黒の空に彩られた紅魔の館はより一層、不気味さをかもしだしている。

 その館の中庭。紅の壁でぐるりと、四方を囲ったこの場所にて私は片足で立っている。

 相対するのは、構えながらもやや心配そうに此方を見る。紅殿。

 

「あの、お嬢様」

 

「中国。言ったはずよ。その男と全力で戦いなさい」

 

 そう、すかーれっと殿の一言で私と紅殿はなぜか戦うことになった。

 

「すかーれっと殿。何故、私と紅殿は戦う事になったのだ?」

 

「すかーれっとじゃなくて、レミリアでいいわよ。簡単な話。そこの門番と戦えば教えてあげる」

 

「だから、何故紅殿と戦わなければいけない」

 

「そうね。どっかの邪仙のキョンシーと戦ったときに、記憶が思い出したのでしょう? なら、こうやって戦えば思い出せるんじゃなくて?」

 

 馬鹿な、私は戦慄で身が凍った。何故、彼女がその戦いを知っている? 見られていた? 否、興味すらあれど、この館からは結構な距離がある。それを偶々見たなど、そして記憶を取り戻したと言う事情を何故、彼女が知っている?

 

「慄いた? まあ、ネタバラシは後にしましょうか? 中国、戦いなさい。でないと、門番はクビよ!! リストラ!!」

 

 りすとら、と言う言葉に紅殿が悲鳴を上げる。

 

「すすすすすいません、亡霊さん!! リストラは駄目なんです!! この就職難にクビは嫌なんです!! 戦いましょう今すぐに!!」

 

 この慌てようだ。とは言え、この足と腕では断って逃げる事も出来まい。

 片足での戦いなどやった事はないが、惨敗は回避しよう。

 

「い、行きますよ」

 

 弱気な声色だった。直後、紅殿が纏う空気が変わる。

 先程の弱気が嘘の様に、表情は鋭く抜身の刃の様に変わった。

 これは不味いな。

 恐らくかなりの手練れだ。接近戦に持ち込むにしてもこの片足と片腕では出来ることなどたかがしれている。

 

「シッ……!」

 

 吐き出す息と共に、紅殿が動く。

 速い。

 矢の如き速度、そして一直線に私へ接近する。

 初撃の狙いは腹部。

 右足を前に出して右の拳が伸びる。

 片足を曲げて伸ばす事で左へと跳んで攻撃を躱した。

 ぐるりと拳を突き出した紅殿が右足を軸に体を回す。

 読まれたかっ!?

 来たのは左の蹴り、回避し宙に身を投げている私は迫り来る一撃に右腕をぶつけた。

 勢いに乗りきる前の蹴りが止まるがそれも一瞬、そのまま右腕ごと飛ばされた。

 地面を転がり止まる。

 片腕では立ち上がるのも一苦労だ。

 腕が在れば。足が在れば。

 そう思わずにはいられない。

 

「……なんだ?」

 

 傷口が痒い。包帯の中の痕が、右足が震えている。

 

「中国、何をしているの? 追撃しなさい」

 

「え、いや、お嬢様。怪我してるますし……」

 

「私がしろと命令したのよ? 従いなさい」

 

「で、ですが――――」

 

「よい」

 

 何とか立ち上がった私は紅殿を見る。

 

「追撃するがいい。何、こう見えて丈夫だ」

 

「そんな……」

 

 優しいな。そう思うが、私には攻撃を受ける必要がある。受けなければいけない理由に気付いてしまった。

 

「これはなんとも……荒療治だな」

 

 躊躇を浮かべたながらも紅殿が構えた。

 

「あの、すぐに参ったといってくださいね?」

 

「ああ、心配はいらない」

 

 来る。

 そして、肉体へ衝撃が突き抜ける。

 

「――――がぁっ!」

 

 この館の門番だ。普通では無いと思ってたが、腹に雷を受けたように錯覚する。

 動ければ何とかなったかもしれない。足が在れば躱す動作くらいは出来たかもしれない。

 体に巻かれた包帯を解いていく。

 傷口をむき出しに、もう一度立ち上がる。

 直後、起き上がりと同時に、蹴りが顔面を打った。

 意識が持っていかれそうになるが、地面へぶつかったの衝撃で目が覚める。

 

「うぐがぁっ……はあ、はあ!!」

 

「……っ!」

 

 一瞬、痛ましそうな顔をした紅殿。だが、攻撃をやめない。そう、それでいい。

 殴られ、蹴られる。

 顔面へ拳が迫る。これは避けれない。

 手が在れば。足が在れば。

 さらに強く、強く想い想い続ける。

 なら、生やせばいいだろう。

 私の中で何か、切り替わる感じがした。

 反射的に無い筈の右腕を動かした。 

 

「嘘!?」

 

「ほう」

 

 声が聞こえる。

 そして、私の体に変化が起こっている。

 

「はは、生えるものなのだな、亡霊とは」

 

 紅殿、拳を掴むのは失ったはずの右手。

 それを飛ばされずに、踏ん張るのは左足と、喰われかけていた損失していた右足。

 体が元に戻った。

 

「戻ったようね」

 

 そう言ってレミリア殿が此方へ歩いて来た。

 

「人が悪いな、主も」

 

「人じゃなくて吸血鬼よ。悪い妖怪なんだから、協力して治してやったことを有難く思いなさい」

 

「それにしても、荒療治にも程が無いか?」

 

「ゆっくり教えるより、必要に駆られて体験したほうが良い事もあるんじゃないかしら?」

 

「だが、先に説明して欲しい。紅殿の方が辛そうだったぞ」

 

 紅殿の拳を離して、体に刻まれた傷を見る。

 治れ。

 もう一度念じると、傷は瞬く間に消えた。

 

「痛みは……治らぬか」

 

「す、すいません」

 

「謝る必要は無いよ、紅殿。むしろ、主の方に謝ってほしい」

 

「いやよ。私だってこんな面倒くさいことしたくなかったんだし」

 

 そうだ、何故レミリア殿はこうして私に荒療治とはいえ、傷を治す事に協力したのか、何故私の事を知っているのか。それを問いたださなければいけない。

 

「分かってるわ。貴方の事を知っていたのはね……あの妖怪賢者のせいよ」

 

「八雲姫が?」

 

 私の言葉に、レミリア殿が蝉の抜け殻でも見るような目になった。

 

「マジで八雲……姫って言ったわよ、こいつ」

 

「何故、彼女がレミリア殿へ私の話を?」

 

 すると、レミリア殿が拳を握り、体を震わせる。

 

「貴様のせいだ!! 全て貴様のなァ!! いいか!? 貴様があの賢者を姫なんて呼んだせいで私の精神がどれだけ削られたと思う!? いきなり現れて、盛りの付いたメスのような表情で、やれ姫と呼ばれただの、やれ私に時代が追い付いただの訳の解らん妄言を三時間以上垂れ流されたんだぞ!? 移動すれば背後から、トイレに行ったら天井から、鬱陶しいから弾幕撃ったら、乙女みたいにやんやん体を震わせて弾幕見らず神回避するわ!! 貴様のせいで私の精神はボロボロなんだよぉ!!!! せめて弾幕見ろよぉ……!!」

 

「……済まない」

 

 謝ることしか出来なかった。

 紅殿も苦笑いしながら乾いた笑いで流している。

 

「だから、諸悪の根源のお前を少しくらい苛めてもいいだろ!! いや、もうしたからな! 結構気分が晴れた、あははははは、ザマーミロ!! …………とまあ、こんな経緯だ」

 

「いきなり冷めたな」

 

「鬱憤はらせたから、すっきりしたのよ。で、八雲を可笑しく……はいつも通りか。八雲を色ボケにした奴に興味を持ってね。私の能力で少し弄って此処にこれるようにしてみたの。そしたら――――」 

 

 レミリア殿が笑う。

 

「中々面白そうな運命を持ってるみたいじゃない。だから面白そうだから私が出会えばどういう運命に変化するのか見て見たかったの」

 

「いい性格をしているな、レミリア殿は。そのせいで先程もまで傷だらけだ」

 

「怒ったかしら?」

 

「いや、なんであろうとこうして体を治す方法が分かった。これは私としては有難い限りだ」

 

 ありがとう、そう言って頭を下げた。

 

「成程ね。そうやって八雲を落としたのね。その純粋で誠実な性格で」

 

「いや、あれは別に礼と彼女にはそれが相応しいかと思ってだな」

 

「うわ、天然ね。どう思う中国?」

 

「いやぁ、幻想郷でも珍しいタイプですね。これは生前もモテた感がしますよ」

 

 二人で何を話しているのだろうか。気にはなるが盗み聴くのはしたくない。

 

「それで、私はもう帰っていいだろうか? 霖之助殿へ、二回目の土下座をすることになりそうなのだが」

 

「そう……なら、帰っていいわよ。それと、貴方の記憶とか、邪仙とかは運命から断片的に読み取っただけよ、どんな過去は知らないから安心しなさい。そして、貴方の運命だけど――――さっきまでは進めば泥沼の底なし沼へ腐った糸が引っ張っていく感じだったけど、今は暗い闇しか見えない。運命が変化したのかもしれないわね」

 

 泥沼の底なし沼か、何故だろうか? 心当たりがないのにとても助かった気がする。

 

「そうそう、もし貴方が記憶を取り戻したら私にも教えてくれないかしら? 最近暇でしょうがないの。暇つぶしになると信じているから」

 

 そう言って、レミリア殿は紅殿を連れて帰っていった。

 

「闇か……何も無いよりはいいのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美鈴を門へ戻し、私は私室のベッドに倒れ込む。

 

「これで満足かしら? 八雲」

 

 頭上で空間が裂ける。出て来るのは八雲紫だ。

 

「ええ、ありがとうございます。レミリア・スカーレット」

 

「約束通り、良いワイン寄越しなさいよ」

 

「分かっていますわ」

 

 胡散臭い笑みだ。しかし、この笑みを見てるとあの色ボケも演技じゃないかと勘繰ってしまう。

 まあ、どうでもいいか。

 

「でも、何でアンタは自分でしないのよ? あの亡霊程度アンタならどうとでもなるでしょう?」

 

 すると、途端に顔を赤くした。

 

「い、いえ……別に少し顔を合わせづらいとか言うか、別に恥ずかしかったりはしてませんから……」

 

 ダレダコイツハ? なんだ? この目の前にる八雲紫の見た目をしたナニカは?

 

「とにかく、私も興味があるのですよ記憶の無い亡霊さんがこの世界でどういう風になるのかが」

 

 八雲の微笑みは、何時もの胡散臭さが抜けていた。

 本当にこいつは八雲紫なのか。

 あの亡霊、結構すごい事を平然としているのかもしれないな。

 

「それに……姫なんて、つい嬉しくて味方してしまいますわ」

 

「それが本音か!!」




「うわああああん!! 当たれよー!! いい加減当たれよーーーー!!」

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