超常戦隊サイコレンジャー   作:ロッシーニ

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サイコメトリー

雄真の脳内に広がる記憶イメージー

 

倉庫、あるいは地下室だろうか。

窓一つなく、暗く、密閉された室内。

 

そこで二人の男が深刻な表情で会話をしている。

その内、一人は小汚い格好をした髭面の老人。新垣次郎である。

もう一人はそれとは正反対にお洒落なスーツを着こなした若い男。印象的なのは胸についた銀色のバッジ。向日葵を型どり、真ん中には天秤の模様があしらわれている。

 

テレビなんかで見た事がある。確か、これは弁護士バッジだ。

という事は、おそらく彼が中島健吾。

眼鏡をかけていて、その下からは涼やかな瞳が覗く。

とても元ホームレスとは思えない上品そうな男。

それが雄真が初めて彼を見て抱いた印象だった。

 

顔を突き合わせる新垣次郎と中島健吾。

その内、先に口を開いたのは中島健吾だった

 

【次郎さん…。あれから色々考えたんだけど、凌と接触するのは危険じゃないかな?】

硬い表情をする中島健吾。新垣次郎はそんな彼の様子に首を傾げた

【なんでだ? お前と凌は親友じゃないか。凌とお前が組めばできない事なんてない。アイツがいれば百人力だ】

【そりゃ、凌が来てくれれば心強いけど…。やっぱりアイツが今更、俺達の計画に加わるとは思えないよ。次郎さんも公園で見ただろ? 超力獣が倒される所。なんでだか知らないけど、アイツ、サイコレンジャーなんだ。超力獣を倒す立場の人間なんだよ】

 

中島健吾は眉を下げて、少し困ったような様子だった。

どちらかと言えば健吾より新垣次郎の方が凌の引き込みには積極的なように見える。

 

【何言ってんだ。それは超力獣を操っているのがお前だって知らないからさ。理由を聞けば必ずコッチに味方してくれる。現にこの前の時だってお前達、二人だけで都の職員を追い払ったじゃないか】

 

新垣次郎の言う『この前』というのは5年前。前回の“美化計画”の時の事だ。

 

健吾は懐かしそうに天を仰いだ。

健吾にとってそれは最早、遠い過去なのかもしれない。

 

【次郎さん、あれから凌がどう変わったかはわからない。でも、凌だってもうあの時みたいにガキじゃないはずだ。今の仲間だっているはずだし、あんな無鉄砲な事はしない。反対運動をやっていた時に姿を見せなかったって事はそういう事だろう?】

 

健吾の言い分は実に真っ当なモノだった。

それでも新垣次郎は諦めない。

 

【でも、会うだけ会ってみればいいじゃないか。そうすればヤツの気も…】

【それだけは絶対にダメだ!】

 

次郎がそこまで言った所で健吾が大声を出した。

その大きな声で次郎が話すのを止めたのを確認すると、健吾は呟くように繰り返す。

 

【凌と直接、接触するのはマズい。それはマズい。それだけは、マズい】

持論を伝えるのに夢中になり、根拠を言わない凌に対して次郎は問う。

【何故、そう思うんだ?】

健吾はゆっくり、ハッキリと答えた

【会ったって必ずしも凌が俺達の計画に同意するとは限らない。それがヤバイ】

【それはわかってる。たとえ相手が凌でも必要以上の情報はもらさないさ】

新垣次郎は妙に警戒している健吾を不思議そうに見ていた。

 

新垣次郎は元赤軍派テログループの中心メンバーである。

衰えたとはいえ、こういった陰謀、悪巧み、危険な交渉なら健吾より新垣次郎の本分だ。

 

お前がそこまで心配する必要はないだろう。

新垣次郎はそう言いたそうであった。

 

それでも健吾は慎重な姿勢を崩さない

【アイツに会ったら、全部バレる。俺の…俺達の計画も全部バレる】

【一体、どういう事なんだ?】

年齢相応の我慢強さを持つ次郎もさすがに痺れを切らしたようだ。健吾に理由を問いただす。

 

健吾は顎に手を当てながら言う。

【アイツならコッチが言わなくても全部わかるはずだ】

【何だって?!】

【たぶん、アイツ、人の心が読めるんだ】

 

健吾は俄に冷や汗をかいていた。まるで自分に自分で『何言ってんだ』とでも言いたげであった。

新垣次郎もその言葉に思う所があったようだ。やや顔を強張らせながら言った。

 

【心が読めるって…。確かにアイツにはそんな風に思わせる所もあった。鋭い奴だからな。でも、それは俺から見ればお前だって一緒だぞ。お前の感覚とは種類が違うモノなのか?】

 

心当たりはあるが、信じられないといった所だろうか。次郎は健吾の肩を揺する。

それをうけた健吾は自分と凌の違いについて更に深く考察していく。

 

【あぁ。そうだね。俺も感性は鋭い方だと思う。短い期間で弁護士として出世できたのもそのお陰だ。でも、それは自分で思うに…推理力の類いだと思う。つまり、根拠がなければ真相には辿り着けない。俺は普通の人間だ。でも、凌は違う。明らかに何の手がかりもないのに他人の目論みを見抜く。信じられないけど、アイツと一緒にいると、そうだとしか思えない場面がいくつもあった。昔はただ不思議だったけど、『あの女』に会って、超力獣を手に入れた今だからわかる。アイツ、超能力者だ】

 

次郎は未だにその言葉を素直には飲み込めないようだった。

顔を引きつらせ、落ち着きなくウロウロしている。

 

だが、健吾の真剣な目をみて意を決したようだ

【そうか…。お前は凌の親友だし、そこら辺の分析力は俺より遥かに高い。お前が言うならそうなんだろう…】

そう呟いてから息を飲んで言う

【それが本当なら凄いじゃないか。凌が仲間になってくれれば必ず俺達の大きな力になる。俺、やっぱり凌に会ってくるよ】

 

今の会話の流れからは有り得ない回答。

健吾は思わず大声をあげた

 

【どうしてそうなるんだ! 次郎さん、それは…】

しかし、次郎は揺るがない。そんな態度を見て、健吾は話すのを止めて、次郎の言葉に聞き入った

 

【健吾、もしも凌が俺から情報を抜き出すような素振りを見せたら、情報をとられる前に、迷わず俺を殺せ。あのムカデの超力獣を使えばできるはずだ】

【なっ…!】

 

その言葉に絶句する健吾に次郎は言う

【お前、このまま、美化計画に携わった人間を始末して終わる気じゃないだろ? まだ何か企んでるんだろ? そして、それをまだ俺には話していない…】

 

健吾は肩をギクリと動かした。図星。

誰がどう見てもそうわかる反応だった。次郎は続ける。

 

【なら心配いらないだろ? もし俺が心を読まれたところでお前の本命の計画がバレる事はない】

【でも、危険を冒してまでする事じゃない!】

【健吾。お前が何を考えてるのか俺にはわからない。でもお前がここから更に先に進むつもりなら、それには凌の助けが必要だ。それは俺にもわかる。だから命をかけて、俺はやる。それがテロリスト・新垣次郎、最後の仕事だ】

 

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なるほど…。新垣次郎の死にはそういう経緯があったのか…。

 

雄真は自身のサイコメトリーによって一つの疑問が解けた事に一定の手応えを感じていた。

だが、これだけでは肝心な中島健吾の居場所はわからない。

中島健吾の真の狙いとは何なのか。

雄真はその真相を得る為に更に深く時計に残された思念の糸を辿っていく

 

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次に雄真の頭の中に飛び込んできたのは石できた西洋風の建物の室内。

部屋の面積はそう広くはないが、上の階まで吹きぬけになっていて、天井まではおそらく30メートルほどはある開放的な空間。床は大理石で出来ている。

 

見たところ、現代的とは言えないが、歴史と文化を感じさせるかなり豪華な建物だ。

 

そんな中で特徴的なのは、部屋の隅に立つ三つの石像。

どれも歴史の教科書で見た事のある偉人のはずだが、雄真にはそれが誰だかまでは思い出せない。

 

服装から言って、近代以降の人物である事はわかるのだが。

 

不思議なのは四隅の内、あと一つ。そこにだけ像がない事だった。しかも、上に像を置くべき台座だけはしっかりあるのにである。

 

妙だな。どういう意味があってこうなっているんだろう。

 

雄真はそう思ったが、これ以上、探るのは力の限界だった。

時計に残された残留思念が見せる世界から意識が遠退いていく。

 

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「ハァ、ハァ…!」

現実の世界へ意識の移った雄真。

 

「雄真! 雄真!」

まだハッキリとしない意識の中、初めに聞こえてきたのは龍我の声。

その声に反応して、顔をあげてみると、仲間達が皆、一様に自分の顔をのぞき込んでいた。

 

「大丈夫なの?」

「随分長い間、発動してたけど…」

そう言うのは純と龍我。

二人とも物凄く心配そうに眉間にシワを寄せている。

 

凌も表情は彼らと同じだが、言葉は発さない。

ただじっとそこに立ち尽くしている。

雄真に無理をさせているのは自分だと、自らを責めているようでもあった。

 

雄真が彼らの気遣いに黙って首を縦に振ると、里菜が言った。

「雄真、疲れている所で悪いが、早速サイコメトリーの結果を教えてくれ。一刻も早く中島健吾を追わなくてはならない。時間がないんだ」

 

「あぁ…。わかってる」

雄真はサイコメトリーで見た光景をメンバー達に語りだした

 

 


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