ゼーリエの元を離れたアビスは比較的過ごしやすい土地である大陸中央の都市に居を構え魔法研究に勤しんでいました。
だが世は魔族が蔓延る時代で魔法も忌避されていて、ひっそりと郊外の家で研究を続けていた、そんなある日、都市の守りは破られ魔族が攻め込んでくる最悪が発生した。
ゼーリエや研究にしか興味のないアビスだが日々の生活に支障が出るのは研究に差し支えるのでサクッと魔族を殺して研究に戻ろうと動き出すが、この日の行動がその後の人生を一変させる事になる。
「悪いけど、研究に支障が出るからこの都市を壊さないでよ《雷を打ち出す魔法》」
人々は目を剥き驚いた。かわり者と思っていた男が魔法使いで都市の兵士では歯が立たない魔族を簡単に蹴散らしていく姿に
やがて1人1人とアビスに声援を送る人々が増え、魔族を片付けて家に帰ろうとすると群衆に囲まれていた。
「凄えよ、アンタ!何もんなんだよ」
「ありがとう!ありがとう!」
「救世主じゃ…いや救いの神じゃ」
ある者は祈る様に、ある者は手を握り、ある者は跪きアビスに感謝を伝えてきた。いい加減、研究に戻ろうとすると今度は兵士の群れに囲まれた。
「ハア…今度はなに?」
多少不機嫌に尋ねると、年配の兵士が恐る恐るアビスに頼み込んできた。
「我らの王が…貴方に会いたいと…貴重な貴殿の時間を無駄にさせて申し訳ないが…どうか我等に同行して貰えないかだろうか…この通りだ!」
年配の兵士が頭を下げると他の兵士達も続々と頭を下げてきた。内心では面倒な事になったと思ったが家にある研究資料を纏めるのに時間がかかるので逃げるのは後で良いかと彼等に同行した。
都市中央にそびえる城に入ると玉座に座る王が此方に目を向けてきた。何とか威厳を取り繕うとしているが恐ろし魔族を殺したアビスに恐怖を抱いていて、彼の手や足に震えが走る。
(ああ…コレはあれかな…直ぐに国を出ていけとか…そんな感じかな…引っ越し面倒だなぁ)
だが王の次の言葉はアビスの予想を覆す物だった。
「こっ、此度の魔族殲滅の件…この国の王として心から礼をいう…そして、此度の成果を評価して…きっ、貴殿を我が国専属の魔法使いとして召し抱えたい!もっもっも、勿論…褒美や必要な物も全て、我が国が支援させて頂く」
これにはアビスも驚いた、魔族の使う魔法を忌避する時代で国が魔法使いと関わるのは仕方なく傭兵のような形で雇う場合で国が真っ当に付き合うのは今までにないことだ。
「陛下、それ程にこの都市はひっ迫しているのですか?」
「……ああ、近頃は魔族の進行も厳しく…先日も3つの都市が落とされ、難民も増えた。おまけに魔物の発生も重なり食料を作る暇も他から輸送する事も出来ない」
確かに最近では市場に並ぶ食料が制限され配給になり、量も減って来ていた。
「だから、もしも次に魔族の進行を受ければ持ち堪える事は出来ぬ…なりふり構っている余裕が無いのだ!だがら頼む…力を貸しては貰えぬか魔法使い殿!」
アビスは頭を抱える、研究にかかりきりで情勢を気にしていなかったツケが回る。
(此処から離れてもまともに過ごせる場所はなさそうだし……仕方ない、一応支援してくれるみたいだし…協力するか)
「分かった協力させてもらいますよ」
「おお!では早速だが「ですが」?何だ」
「私が魔族を倒した事、此度の国との取り決めを全ての民に伝えて頂きたい」
国専属の魔法使いという立場を明確にして約束を反故にされるのを防ぐために魔法使いアビスの名を国中に広める事にした。
それからはあっという間に日々が過ぎていった。元々結界魔法はアビスの得意分野でその一点に於いてはゼーリエに並ぶ力量を持っていた。
そんなアビスが作り上げた結界は1日で都市を覆い、近隣の村々を護る結界を半月で構築した。この行動にアビスに対して不信感を持っていた役人達や国民も手のひらを返してアビスを讃えた。
それから5年が経ち研究は続けられているが打倒ゼーリエの糸口はまだ掴めていなかった。だが結界により魔族や魔物から襲撃が減り生活が安定してきて当初より研究に割ける時間が増えた。
しかも、今のアビスの住居は城を除けば都市一番の一等地に建てられ何十人と云う使用人まで与えられていた。
「アビス様、本日は国王様との面会が御座います。王宮からの迎えが来ますので…そろそろ」
「ああ、分かった。」
スケジュールの管理から着替え食事まで人がやってくれる。研究時間を確保したいアビスにとって有難い事だが、彼に使える使用人達はそれ以上の恩恵を受けていた。
「それで、何か支障は起きてない」
「いいえ、アビス様がお作りになられた水道設備や空調システム、排泄物浄化システム、畑の自動管理システム、その他生活に関わる魔導具、全て正常に機能しています。」
アビスが魔法研究で作る魔導具を生活への利便性に転用して使用人達でテストを行っていた。アビスの自宅と云う安全地帯、しかも現在は国王や一部の貴族でしか使えない魔導具をタダで使えるとなり毎年、アビスの使用人枠に応募が殺到する事態が起きていた。
「それと新たな使用人採用に関してですが…メイドから庭師、料理人、に至るまで雇える人数が限界に来ていまして……これ以上は雇えず…如何いたしますか?」
以上な使用人応募には訳があり、安全や快適な暮らし以外にも平民や商人、下の役人の子息、子女達は高い給料や貴族ではないアビスなら既成事実を作れば正妻になれるのではという下心もあり志願者が絶えない。
他にも魔法使いが5年の間に集まり、アビスへの弟子入りを希望しているが、アビスが断り続けるのでなら近くで学びたいと使用人としてアビスに近づこうと考える。
「その事も考えてあるよ…今日は希望者対策も話し合うしね…まぁ、他にも案はあるから大量の使用人応募はどうにかなるはずだ…では行ってくる。」
アビスが玄関に着くと整列する使用人達に見送られ城からの使者と共に王城に向かった。
王城広間
其処には国の主だった役職に就く者達が集まっていた。大多数の顔は明るく、5年前では考えられない活気に溢れていた。
「いやあ、先日孫が生まれましてな」
「此方は娘の結婚式が」
「今年は豊作ですな」
「フフフ」
「おや?何か良いことでも陛下」
「いやな…こんな明るい会議が出来るようになったのも…アビス殿のお陰だな…とな……あの方が来るまではな」
しんみりとする王に今までの苦労を知る家臣たちも一瞬暗い顔になるかが、顔を上げ高らかに声を張り上げる。
「だが暗い時代は終わったのだ!国を護る結界により農業や新たな畜産により食料問題も右肩上がり、人口も増え、更には3つの都市国家が我が国への併合を申し込んできた…国は更なる発展を遂げる!これも全てアビス殿の魔法と皆の支えによる賜物だ…本当にありがとう!」
家臣達は誇らしく胸を張るもの、報われる時代の到来に涙ぐむ者と様々だが誰もが国の繁栄を確信していた、だがそんな空気に待ったをかける声が現れる。
「繁栄…果たしてそうでしょうかな?」
皆の視線が1人の老人に注がれた。
「…何が言いたい…ラドム大臣」
「アビス殿の存在が果たしてこれからの国にとって良いものになるかはまだ分からない…という意味で御座います。」
「ふん!…貴殿はまだあの方を疑うのか」
「左様、滅亡寸前の我が国を僅か5年で立て直し…それ以上の発展を遂げたのはあの方の力があったればこそではないか!」
「貴方は、まだ魔法使いは信用ならないと申すか!」
そう、この老中のラドムはアビスが取り立てられた当初は魔法使いを信じられないとして一部の家臣団で排斥派となりアビスや彼を擁護する家臣達と対立する1人であった。
だがアビスが瞬く間に功績を立てていき次第に排斥派は解体されメンバーは全て降格、或いは役人を解任されてしまった。
「まぁまぁ…皆、落ち着くのだ…ラドムも何か言い分が有るのであろう…話を聞いても良いのではないか」
「陛下!貴方が甘い事を申すから、この者はつけ上がるのですぞ!」
「ラドム殿がかつての貴方のお目付役だとしても、目に余るのではないですかな?」
「ラドム殿!貴方が未だにこの場にいられるのは陛下の慈悲によるモノだと心得がよい!」
「それは理解している…だが現在我が国を取り巻く現状を貴殿らは正しく認識されているのかと…」
「ラドム…詳しく話してくれ」
王の許しを得たラドムは資料を受け取り細かな詳細を語り始めた。
「現在、我が国は他国を併合して領地や人口を増やしている…コレは間違いありません…ですが人口の内訳は6割が女や子供で男性は4割ほど…しかも若く、健康な働ける男性は更に半分の2割しかありません」
単純な人口増加に喜んでいた周りは一気に冷水をかけられた様になった。だが問題は其れだけではなく
「領地が広がれば護る範囲も広がりアビス殿にも更なるお力添えが必要になる筈です…だがアビス殿は魔法研究の時間を削られれば…果たして国に居続けますかな?聞けば他国の者がアビス殿を向かい入れようとする動きもあるとか」
これには皆の顔は真っ青を超えて蒼白になってしまう、アビスが去った後の国がどうなるか…考えるまでもなかった。
人は希望を与えられ、落とされた時の苦しみはとんでもない物になる。広間は一気に荒れた。
「ど、ど、ど!どうするのだ…もしアビス殿が居なくなれば」
「だが他国から来た者達を蔑ろにすれば…反乱の危険も」
「だからといって全ての領地を結界で覆うなど…アビス殿の負担を考えれば…とても頼めるものではないぞ!」
「いや、先ずは当面の食料問題が」
先程の明るい空気が抜けて広間は荒れに荒れた。そんな事態なってもラドムは冷静に話しだした。
「皆、落ち着かれよ…確かに人口や食料問題もあるがもう一つ重大な事がある」
「まっ、まだあるのかラドムよ」
「はい…陛下、最大の問題は兵力に御座います」
皆が一様に首を捻る。男性の難民は少ない事が分かったが、5年で元々民の兵士の数は増えている。何が問題なのかと王や他の者達が首を傾げる。
「兵士の士気が下がり、数だけ増えて若手の兵士は結界の恩恵により碌な実戦経験の無い烏合の衆に御座います。結界が無くなれば我が国は魔族や魔物のみならず他国からの進行に耐えられる力など皆無に御座います。」
「だっ、だがアビス殿をより強く支援すれば」
「それが問題なのです…1人に頼る体制はいずれ崩壊いたします!アビス殿とて人間…必ず終わりは訪れる…そうなった時、我らはどうするか…残された者や人類はどうなるか…」
枯れ木の様な老人から吐き出された激情と憂いは先程までラドムを非難していた者達でさえ何も言えず、彼の言葉に聞き入っていた。
「…ならば、どうすれば良いのだ」
「それを、今回の議題と致しましょう…私がアビス殿と交渉致します…仮にあの方の不興をかってもこの老いぼれを処分すれば良いことだ」
「ラドム」
アビスとのイザコザで厄介者としか見られなくなっていたラドムがこの瞬間、王の忠臣と認識された。
「アビス様、ご到着致しました!」
広間に広がる衛兵の声が空気を引き締める。皆の顔からは恐怖、不安の色が浮かんでいる。今回の会議は文字通り国の行く末を決定する物になるからだ。
「王国筆頭魔法使いアビス様、ご到来」
会議は人口増加や食料の収穫量、魔族や魔物被害、新たなに獲得した領土と多岐に渡り、会議終盤になり皆の緊張が高まりラドムが口を開く
「私から幾つかの提案と今後の対策として、アビス殿にご相談があります」
「「「「「ッッッ!」」」」」
「相談とはラドム殿?」
「はい…実は」
ラドムが先程の人口問題や結界の維持、兵力問題をアビスに告げていく、黙って聞いていたアビスの指先の動きや表情の変化一つに、王や周りの者達が戦々恐々していたがラドムが話を終えると
「ふむ、成る程…実は私もラドム殿の提案について考えていた…今回は私もその問題解決の案を幾つか持ってきた、陛下発言の許可を頂きたく」
「う、うむ…では案を聞かせてくれアビス殿」
「はい…では、恐らくは皆様が最も心配される結界維持について私が生きている内は問題はないでしょう…結界を広がる事も可能です…ですが死後となると分かりかねます」
矢張りと皆に不安が過るがアビスは国そのものを作り変える計画を持っていた。
「なので未来に渡る結界維持…更にはより強力な結界に作り変える計画の為に魔法使いの組織を作る」
国にいる魔法使いや他国から流れてきた魔法使いを纏め、未来に向けた研究、結界維持を自分が亡き後でも続けていけるようにすると云う
「素晴らしい!」
「確かに、国内で魔法使いを良く見るようになった」
「アビス殿が居るとはいえ、未だに魔法使い達への偏見はある…彼等に仕事を与え、国防や国の為に研究をさせれば…魔法使い達の地位向上にもなるな」
反応は中々良く、組織設立案は通りそうだがラドムと王の反応はあまり良くはかった。
「アビス殿…その案は素晴らしい、だが肝心の兵力については如何なさるか」
「それについてはもう一つ、コレが一番の肝になります。コレを完成させれば、王国の反応は約束され国力は更に高まる筈です」
アビスの自信に渡された資料に目を通したラドムは、読み進める内に震え出し…信じられないといった様子で王に資料を渡した。
「人口迷宮計画?…」
「アビス殿…ざっと読ませて頂いた…確かにコレが完成すれば我が国の価値は高まり他国をも圧倒出来る軍事力を…いいや、他国から我が国への属国化を望んでくるだろう」
ラドムの言葉に広間のザワつきが激しさを増してゆき資料を読んだ王も興奮を隠せない様子だ。
「だが…コレは一朝一夕で作れる物ではない…莫大な費用や人手もそうだが建設日数がな…上手く進めても20年はかかる大規模な計画になる」
「う〜む、20年…だが完成すれば、その恩恵はかなりのものだ」
「陛下、人口迷宮とは」
「おお、スマンな…ラドム、先ずは皆に説明を」
「はっ!…では、ご説明させて頂きます」
アビスの計画は途方もない計画だった、先ず王国内部に人口迷宮を建設し、内部に魔力で精製された魔物や魔族を生み出して兵士達の訓練を行う場にしようという。
更には内部の魔族や魔物に与えられた傷は幻覚魔法で再現され痛みや死ぬ感覚も味わえる様になり、命の心配なく実戦を行えるという。
「おお!それなら兵達の戦力向上にもなりますな」
「それだけではない…コレを解放すれば他国の者達が集まり人類の生存率を上げられる…それにより我が国は周辺諸国でも強い存在感を誇示出来る。」
「何より人口迷宮が我が国の物で他国の者達を迎え入れるなら宿や食堂といった産業にもプラスになりますぞ!」
「うむ、それだけではない…アビス殿によれば人口迷宮には魔法により侵入する者達から魔力を吸収して自力で罠や魔族や魔物を創り出せる…何より吸収した魔力で結界の維持も可能になる。」
経済効果、他国への力の誇示、軍事力強化、結界の維持、人類全体の戦力向上と一つの計画がこれ程の恩恵をもたらすと知り皆のヤル気は高まる。
「コレはやるしかないでしょう!」
「そうですな!確かに20年は長いが…人口迷宮が完成すれば20年の時間を上回る恩恵を得られますぞ」
「それに、先程の魔法使い達による組織に命じて研究を加速させれば…より多くの魔法使いが我が国に集まり戦力は更に上がります」
「集まった戦力を使い、土地を確保出来れば食料問題も解決する」
「よーし!やるぞぉ!」
全体がヤル気に包まれていく中で王とラドムの顔は未だに暗く
「陛下、如何なされたのでしょうか?何か気になる事でも」
口をモゴモゴさせて何かを言おうとしている王を見かねてラドムがアビスに率直に問い質した。
「アビス殿、貴殿に問いたい…貴殿は王の座を狙っておいでか…または王になる気が有るのですかな」
広間の空気が凍りつく
家臣団は口をパクパクさせてラドムを見ているとアビスがゆっくりと口を開いた。
「私の案に何か問題でも」
「いいや、貴殿の計画はこの上なく完璧だ…だが計画の中心には魔法が重要であり、人口迷宮は君の管理、設計が無ければ運用が出来ないのではないかな……この王国の権威は王である必要がある、だが君の存在はあまりにも大きい…」
「成る程、私が王に取って代わる危険があると…お思いですか」
「………」
「いや、アビス殿…私は…その」
王は恐怖により小さくなっていくが、アビスはフッと笑い
「御安心ください、王家の権威を保ち…更には創設される魔法使いの組織が反旗を翻す事もない作をご用意してあります」
「…左様ですか、ならば問題はありません。私は王国が存続するのであれば、如何なる政策でも受け入れましょう」
「余もそれで良いぞ……よし、では魔法使いによる組織の創設、並びに人口迷宮建設計を申し渡す!皆の者、大変な仕事になるが…国家一丸となり必ず成功させようぞ!」
「「「「「「オオオオオオオオ!!!!!」」」」」」
人口迷宮は今後の伏線になったり原作キャラが絡んできます。