出久が無個性なんてありえねー…!   作:がんばリーリエ

1 / 8


初めて投稿します。おかしいところあれば教えてください。





ユノ・グリンベリオール : オリジン

 

 茜色に染まった公園の砂場。口の中に広がる土の味と鈍い痛みに、僕はただじっと耐えていた。

 

「なんだよその目! 外人のくせに生意気なんだよ!」

 

「親に捨てられた孤児院育ちが、俺たちの公園で遊んでんじゃねーよ!」

 

 周囲を取り囲む子供たちの嘲笑が降ってくる。赤ん坊の頃に施設に預けられ──いや、捨てられたハーフの僕にとって、容姿や境遇に対する心ない言葉は日常茶飯事だった。

 言い返す勇気なんてない。立ち向かう力も、僕にはない。また蹴りが飛んでくる──そう思ってぎゅっと目を閉じ、身をすくませた、その時だった。

 

「や、やめるんだ!!」

 

 震える声と共に、僕の視界に小さな背中が割り込んだ。

 緑色のもじゃもじゃした髪。僕と同じように小柄なその体は、ガクガクと情けないほどに震えている。

 

「これ以上やるなら……ぼ、僕が相手になるぞ!!」

 

 いじめっ子たちは一瞬驚いたものの、すぐにその緑髪の少年を突き飛ばし、容赦なく蹴りを入れた。「無個性のくせに生意気だ!」という罵声が飛ぶ。どうやら、彼もまだ、個性が発現してないらしい。

 それでも、彼は何度転ばされても、ボロボロになりながら僕の前に立ち続けた。

 やがて遠くから大人の呼ぶ声が聞こえ、いじめっ子たちは忌々しそうに舌打ちをして走り去っていった。

 あとに残されたのは、傷だらけの少年と、呆然と彼を見つめる僕だけだった。

 

「……なんで」

 

 ボロボロのその背中に向かって、僕は泣きながら震える声で問う。

 

「なんで、助けてくれたの……。君、弱いのに……」

 

 少年は痛みに顔をしかめながらも、ゆっくりと立ち上がり、僕に向かってニッと笑いかけた。その笑顔は、夕日の中で不思議なほど眩しく見えた。

 

「だって、君が助けを求めてる顔をしてたから。……それに、困ってる人を助けるのが、かっこいいヒーローだからね!」

 

 ──ヒーロー。

 その言葉の意味なら、僕も知っていた。孤児院のテレビで見た、どんな困難にも立ち向かい、人々を救う最強の存在。

 親の顔も知らず、周囲から蔑まれて怯えてばかりだった僕の目に映る少年の背中は、テレビで見たどんなヒーローよりも大きく、そして頼もしく見えた。

 

(この子は、すごい……)

 

 胸の奥で、熱いものが渦を巻くのを感じた。

 少年から差し出した土だらけの手を、僕はしっかりと握り返す。

 その瞬間、自分の中にあった殻が、パチンと弾けて割れたような気がした。

 僕は、まっすぐに少年の目を見つめ返した。

 

「君の名前は?」

 

「み、緑谷出久だよ」

 

「……僕の名前は、ユノ。ユノ・グリンベリオール」

 

「ユノ君……」

 

「ねえ出久。僕も、なれるかな……? 出久みたいな、強くてかっこいいヒーローに」

 

「えっ?」

 

 僕の問いかけに、出久は一瞬驚いたように目を丸くした。それから、傷だらけの顔いっぱいに満面の笑みを浮かべた。

 

「なれるよ! ユノ君も、絶対になれる!」

 

 その真っ直ぐな言葉には、微塵も嘘を感じない。

 誰かに存在を肯定されたのは、生まれて初めてだった。出久の言葉が、温かい風のように僕の心の奥底まで吹き込んでくる。

 

 その瞬間。僕の足元から、ふわりと温かい風が舞い起こった。

 風は小さなつむじ風となり、淡い緑色の光を放ちながら、僕たちの目の前で小さな妖精の姿を形作っていく。

 

「あ、あれ……? なにか、飛んでる……妖精……?」

 

 目を丸くする出久。誕生したばかりの風の精霊は、初めて見る世界に目を瞬かせると、すぐに僕の頬にすり寄り、嬉しそうに笑った。

 自分の内側から溢れ出す、これまで感じたことのない強大な力。これが、僕の『個性』。

 

「すごい……! ユノ君の個性だね!」

 

 自分のことのように喜んでくれる出久を見て、僕は頬を伝う涙を乱暴に拭った。

 もう、泣くのはやめだ。

 理不尽に怯えて、下ばかり向いていた弱い僕は、今日ここで終わりにする。

 

「……出久」

 

 僕は、かつての僕自身と決別するように、低く、力強い声で彼を呼んだ。

 

「オレは、絶対になる。出久みたいな、強くてかっこいい最高のヒーローに」

 

「えっ……? ユノ、君?」

 

 突然変わった僕……いや、オレの口調に、出久は少し戸惑っていた。

 だが、オレは構わず不敵な笑みを浮かべ、出久に向かって宣言した。

 

「どっちが先に最高のヒーローになるか、勝負だ」

 

 オレは右手を固く握り締め、出久の目の前へと真っ直ぐに突き出した。

 出久はポカンとした後、すぐにその意味を理解したのか、瞳に強い光を宿した。そして、彼もまた泥だらけの右手を力強く握り締め──オレの拳に、正面から打ち当てた。

 コツン、と小さな二つの拳が鳴る。

 

「……うん! 負けないよ、ユノ君!」

 

 夕暮れの公園で交わした、この小さな誓いと拳の感触。

 確かな熱を帯びたこの約束が、オレ──ユノ・グリンベリオールを形作った瞬間だった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。