初めて投稿します。おかしいところあれば教えてください。
茜色に染まった公園の砂場。口の中に広がる土の味と鈍い痛みに、僕はただじっと耐えていた。
「なんだよその目! 外人のくせに生意気なんだよ!」
「親に捨てられた孤児院育ちが、俺たちの公園で遊んでんじゃねーよ!」
周囲を取り囲む子供たちの嘲笑が降ってくる。赤ん坊の頃に施設に預けられ──いや、捨てられたハーフの僕にとって、容姿や境遇に対する心ない言葉は日常茶飯事だった。
言い返す勇気なんてない。立ち向かう力も、僕にはない。また蹴りが飛んでくる──そう思ってぎゅっと目を閉じ、身をすくませた、その時だった。
「や、やめるんだ!!」
震える声と共に、僕の視界に小さな背中が割り込んだ。
緑色のもじゃもじゃした髪。僕と同じように小柄なその体は、ガクガクと情けないほどに震えている。
「これ以上やるなら……ぼ、僕が相手になるぞ!!」
いじめっ子たちは一瞬驚いたものの、すぐにその緑髪の少年を突き飛ばし、容赦なく蹴りを入れた。「無個性のくせに生意気だ!」という罵声が飛ぶ。どうやら、彼もまだ、個性が発現してないらしい。
それでも、彼は何度転ばされても、ボロボロになりながら僕の前に立ち続けた。
やがて遠くから大人の呼ぶ声が聞こえ、いじめっ子たちは忌々しそうに舌打ちをして走り去っていった。
あとに残されたのは、傷だらけの少年と、呆然と彼を見つめる僕だけだった。
「……なんで」
ボロボロのその背中に向かって、僕は泣きながら震える声で問う。
「なんで、助けてくれたの……。君、弱いのに……」
少年は痛みに顔をしかめながらも、ゆっくりと立ち上がり、僕に向かってニッと笑いかけた。その笑顔は、夕日の中で不思議なほど眩しく見えた。
「だって、君が助けを求めてる顔をしてたから。……それに、困ってる人を助けるのが、かっこいいヒーローだからね!」
──ヒーロー。
その言葉の意味なら、僕も知っていた。孤児院のテレビで見た、どんな困難にも立ち向かい、人々を救う最強の存在。
親の顔も知らず、周囲から蔑まれて怯えてばかりだった僕の目に映る少年の背中は、テレビで見たどんなヒーローよりも大きく、そして頼もしく見えた。
(この子は、すごい……)
胸の奥で、熱いものが渦を巻くのを感じた。
少年から差し出した土だらけの手を、僕はしっかりと握り返す。
その瞬間、自分の中にあった殻が、パチンと弾けて割れたような気がした。
僕は、まっすぐに少年の目を見つめ返した。
「君の名前は?」
「み、緑谷出久だよ」
「……僕の名前は、ユノ。ユノ・グリンベリオール」
「ユノ君……」
「ねえ出久。僕も、なれるかな……? 出久みたいな、強くてかっこいいヒーローに」
「えっ?」
僕の問いかけに、出久は一瞬驚いたように目を丸くした。それから、傷だらけの顔いっぱいに満面の笑みを浮かべた。
「なれるよ! ユノ君も、絶対になれる!」
その真っ直ぐな言葉には、微塵も嘘を感じない。
誰かに存在を肯定されたのは、生まれて初めてだった。出久の言葉が、温かい風のように僕の心の奥底まで吹き込んでくる。
その瞬間。僕の足元から、ふわりと温かい風が舞い起こった。
風は小さなつむじ風となり、淡い緑色の光を放ちながら、僕たちの目の前で小さな妖精の姿を形作っていく。
「あ、あれ……? なにか、飛んでる……妖精……?」
目を丸くする出久。誕生したばかりの風の精霊は、初めて見る世界に目を瞬かせると、すぐに僕の頬にすり寄り、嬉しそうに笑った。
自分の内側から溢れ出す、これまで感じたことのない強大な力。これが、僕の『個性』。
「すごい……! ユノ君の個性だね!」
自分のことのように喜んでくれる出久を見て、僕は頬を伝う涙を乱暴に拭った。
もう、泣くのはやめだ。
理不尽に怯えて、下ばかり向いていた弱い僕は、今日ここで終わりにする。
「……出久」
僕は、かつての僕自身と決別するように、低く、力強い声で彼を呼んだ。
「オレは、絶対になる。出久みたいな、強くてかっこいい最高のヒーローに」
「えっ……? ユノ、君?」
突然変わった僕……いや、オレの口調に、出久は少し戸惑っていた。
だが、オレは構わず不敵な笑みを浮かべ、出久に向かって宣言した。
「どっちが先に最高のヒーローになるか、勝負だ」
オレは右手を固く握り締め、出久の目の前へと真っ直ぐに突き出した。
出久はポカンとした後、すぐにその意味を理解したのか、瞳に強い光を宿した。そして、彼もまた泥だらけの右手を力強く握り締め──オレの拳に、正面から打ち当てた。
コツン、と小さな二つの拳が鳴る。
「……うん! 負けないよ、ユノ君!」
夕暮れの公園で交わした、この小さな誓いと拳の感触。
確かな熱を帯びたこの約束が、オレ──ユノ・グリンベリオールを形作った瞬間だった。