雄英高校。全国トップのヒーロー育成校であり、オレと出久が目指してきた夢の舞台。
その巨大な正門を見上げながら、オレは静かに息を吐いた。
「う、うわぁぁ……ついに来ちゃった……!」
隣でガチガチに緊張している出久を見て、オレは小さく笑う。あの日から今日まで、出久がずっと特訓を続けていることをオレは知っている。体格も見違えるほど逞しくなった。出久はオレに隠しているようだが、気づかない訳がない。
「緊張してる場合じゃないわよ、出久! 今日はユノが一番輝く日なんだから、邪魔しないでよね!」
「あはは……お手柔らかにね、ベルちゃん」
オレの肩に座るベルがふんぞり返ると、出久は苦笑いを浮かべた。
「おい、どけクソナード。それから風野郎とクソ羽虫」
後ろから低い声が響く。鋭い目つきでこちらを睨みつける爆豪だ。相変わらずキャンキャンとよく吠える奴だが、以前のような単なる見下した態度は薄れ、明確な敵意と対抗心を向けてきているのがわかる。
ちなみに、ベルはオレの肩の上でキーッと唸っていた。
「……行くぞ、出久」
「う、うん!」
爆豪を軽く受け流し、オレたちは試験会場へと足を踏み入れた。
そして、筆記試験が始まる。勉強は続けていたし、学力には自信があるためこっちは問題ないだろう。
ちなみに、試験中ベルは別の部屋に連れていかれた。まあ、カンニングし放題になるため当たり前だが。
筆記試験を終えると「ユノー!」と、泣き腫らしたベルに顔面に抱きつかれ、周りからクスクスと笑われる。
次は実技。
講堂で受けた説明によると、実技試験は「仮想市街地演習」。
1P、2P、3Pの3種類の仮想ヴィラン(ロボット)が配置されており、それらを倒してポイントを稼ぐというシンプルなルールだ。更に、0Pのおじゃま虫もいるらしい。
実技試験のルールの説明を受けた後、オレたちはそれぞれの演習会場へとバスで移動した。
同じ中学校の生徒は協力できないよう、会場はバラバラに指定されているらしい。オレは演習場B、出久や爆豪とは別の場所だ。
バスで移動した先、巨大な壁に囲まれた演習場Bのゲート前。
オレは静かに息を吐き、準備を整えていた。
「緊張してる場合じゃないわよ、ユノ! 今日はユノが一番輝く日なんだから!」
「ああ。分かってる」
肩に座るベルに短く返し、周囲を見渡す。緊張でガチガチになっている連中ばかりだが、オレの心は驚くほど凪いでいた。
どっちが先に最高のヒーローになるか。出久との勝負は、ここから始まっているのだから。
「さァ! アーユーレディ!?」
突然、見張り塔のスピーカーからマイクの声が響き渡った。
時計を見る。まだ開始時刻までは少しあるはずだが──。
「スタートォォオ!!」
「……!」
「どうしたァ! 実戦にカウントダウンなんてねェぞ! 走れ走れェ!!」
マイクの檄が飛ぶ。他の受験生たちが「えっ? もう?」と戸惑っている中、オレは迷うことなく足元に風を巻き起こし、一気にゲートをすり抜けて市街地演習場へと飛び出した。
「行くぞ、ベル」
「まかせて!」
路地の奥から、仮想ヴィランであるロボットたちが次々と姿を現す。
1P、2P、3P。ターゲットの姿を確認した瞬間、オレは腕を鋭く振り抜いた。
「風魔法──『カマイタチの三日月、三刃』」
ヒュッ! という風切り音と共に、圧縮された不可視の刃が空間を切り裂く。
ガツンッ! と鈍い音を立てて、三体のロボットの頭部と駆動部が同時に真っ二つに切断され、爆発音と共に崩れ落ちた。
「よし、これで6ポイント! 次よ、ユノ! 右の路地から5体来てる!」
「ああ。……簡単すぎるな」
ベルが上空から索敵を行い、オレが風を操り広範囲を制圧する。
地面を蹴る必要すらない。風を纏って低空を滑るように飛び回り、現れるロボットたちを次々と見えない刃で解体していく。
他の受験生たちが一体倒すのに苦労している中、オレのスコアは開始数分であっという間に50ポイントを超えていた。
(これなら、出久も爆豪も問題なくクリアしているだろう)
そう確信し、さらにスコアを伸ばそうと角を曲がった、その時だった。
ズズズズズズ……ッ!!!
突然、地面が激しく揺れ、演習場の中央から、ビルをも見下ろすほどの巨大な影が姿を現した。
説明にあった『0ポイント』のギミック。倒す意味のない、ただの障害物。
「うわあああっ! 逃げろ!」
「デカすぎるだろ、あんなの!」
受験生たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。オレも関わるつもりはなかった。あんな鈍重な的、風で容易く躱せる。
踵を返そうとしたその時、崩れた瓦礫に足を取られ、逃げ遅れている一人の少女が目に入った。艶やかな黒髪のボブヘアーの少女。
彼女は崩れた瓦礫を個性と思わしきもので小さくする。彼女の表情は驚くほど冷静だったが、どうやら足元を見てみると怪我をしてしまったらしく、進むのが遅い。
そして、0Pロボの巨大なキャタピラが無慈悲に彼女へと迫っていた。
──あの日。考えるより先に飛び出した出久の背中が脳裏をよぎった。
オレは深く息を吸い込み、踵を返して少女と0Pロボの間に割って入った。
オレは魔力で風を練り上げる。ただの突風で吹き飛ばすには、対象がデカすぎる。なら、手数と貫通力で破壊する。
「ベル!」
「ほいきたっ!」
オレの目前に、淡緑色に輝く巨大な風の弓が顕現した。
周囲の空気が悲鳴を上げるように渦を巻き、六本の鋭い風の矢が同時にセットされる。
「風創成魔法──『疾風の白弓』」
「ふーっ!」
オレの肩から飛び立ったベルが、弓にセットされた矢に向かってふわりと息を吹きかける。
それがトリガーだった。
ヒュゴォォォォッ!!
轟音と共に、放たれた六本の矢が竜巻を纏いながら一直線に空を駆け抜ける。それらは0Pロボの巨大な頭部、動力部、そして関節部へと正確に吸い込まれ、分厚い鋼鉄の装甲をいとも容易く貫通した。
ズドォォォォン……ッ!!!
一瞬の静寂の後、内部を完全に破壊されたロボットは大爆発を起こし、ゆっくりと後方へ崩れ落ちていった。
「……うそ、だろ……」
「あんなバカでかいの、一瞬で……!?」
周囲の受験生たちが呆然と立ち尽くす中、オレは弓を霧散させ、少女の元へ向かう。
「大丈夫か」
オレが手を差し伸べると、彼女はオレの顔をじっと見つめた。
パニックになるでもなく、かといって無感情なわけでもない。大きな黒い瞳が、僅かに揺れている。
「……ん」
彼女は短くそう答えると、オレの手を取り、ゆっくりと立ち上がった。
至近距離で見ると、端正な顔立ちをした綺麗な少女だった。俺の手を握る彼女の白い頬が、ほんの少しだけ朱に染まっているように見える。
「あの……ありがとう。すごい、力」
「気にするな。まだ試験中だが、足は大丈夫か?」
「ん。平気」
彼女が小さく頷いたその時、オレの周囲を飛んでいたベルが、むすっとした顔で二人の間に割り込んできた。
「ちょっとちょっと! ユノに見惚れないでよね! 今のすごい魔法だって、私が息を吹きかけてあげたんだから!」
両手を腰に当てて胸を張るベルを見て、彼女は目を少し丸くした後、ふっと口元を緩めた。
「……妖精さん、かわいい。すごいね」
「えっ? か、かわいい? すごい? ……まぁ、私くらい美しくて優秀な精霊なら当然の評価ね! 許してあげる!」
チョロい相棒が急に機嫌を直していると、「タイムアップ!!」のブザーが演習場に鳴り響いた。
試験終了だ。
「オレはユノ。ユノ・グリンベリオール」
「……小大、唯。ユノ、それに妖精さん……覚えておく」
「小大か。オレも覚えておく。次は教室で会おう」
「ん」
こうして、雄英高校での新たな出会いを経て、オレの雄英高校受験は幕を閉じた。
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壁一面に並べられたモニター群を見つめながら、雄英の教師たちは感嘆の声を漏らしていた。
「今年の受験生は豊作だな。特にあの爆発の少年や推薦組。それに……」
「ああ。演習場Bの、風を操るあの少年。群を抜いているね」
暗がりの中、校長である根津が、尻尾を揺らしながらモニターの一つを指差した。
画面には、冷徹なまでに正確な動きでロボットを解体していくユノの姿が映し出されている。
「ユノ・グリンベリオール。個性は『風精霊(シルフ)』と申請されていますが……ただ風を操るだけでなく、不可視の刃にしたり、自身を浮遊させたりと、恐ろしく応用力が高い」
「それに、あの肩に乗っている妖精。あれも彼の一部なんだろう? 意思疎通ができている分、全方位への索敵も完璧だ。まるで洗練されたプロの動きだよ」
13号やスナイプたちが、ユノの無駄のない戦いぶりを高く評価している。
だが、彼らが本当に息を呑んだのは、その直後だった。
「……おや」
根津校長が手元のボタンを押し、全演習場に0Pロボを投入した直後。
逃げ遅れた受験生を守るため、ユノが立ち止まり──巨大な風の弓を構えた。
「おいおい、嘘だろ……?」
プレゼント・マイクがサングラスの奥で目を剥く。
放たれた六本の矢が、0Pロボの堅牢な装甲を紙切れのように貫き、大破させたのだ。
「……圧倒的な貫通力と破壊力。しかも、周囲に被害を出さないよう極限まで圧縮されている。……それに、真っ先に逃げ遅れた者を助けに向かうあの判断力。ヒーローとしての自己犠牲とはまた違う、完全な余裕から来る救済だ。全く、末恐ろしいヤツだ」
相澤消太は、モニターに映るユノの冷めた瞳をじっと見つめながら、ボソリと呟いた。
そして、別のモニターに視線を移すと、緑髪の少年が自らの右腕と両足を粉砕しながら、同じく0Pロボを一撃で粉砕するという狂気の救出劇を見せていた。
「(……極限の狂気でしか救えない奴と、圧倒的な実力で平然と救ってのける奴……か。今年は、問題児が多そうだ)」
相澤の口元が、わずかに歪む。
「レスキューポイントも文句なし! いやぁ、今年の1年生は本当に楽しみだね!」
根津校長が嬉しそうに紅茶を啜る音が、静かなモニタールームに響き渡った。
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【ユノ・グリンベリオール】
【個性】
『風精霊(シルフ)』
常時顕現する自我を持つ個性!ユノの体力、精神力を吸い上げ特殊な力へと変換!強力な風魔法を放つぞ!
妖精(ベル)と離れると出力が落ちてしまう!
(後書きに詳しいこと記載してます)
【個性】
風精霊(シルフ)
(ユノはこの個性を、風魔法や風精霊魔法と呼んでいる)
【種類】
発動系 兼 異形系(常時顕現型の自我を持つ個性)
【個性の仕組み】
・ヒロアカ世界に『魔力』や『マナ』という概念は存在しないため、ユノの個性は「ユノの体力や精神力を吸収し、特殊なエネルギー(魔力)に変換する精霊、ベルを生み出す」という能力である。
また、マナの設定は後々出します。
・魔力とは
ユノ自身の体力や精神力をベースとし、ベルが吸い上げて変換した「独自の超高密度エネルギー」のこと。ユノはこの『魔力』というエネルギーを使い、不可視の刃や巨大な弓(疾風の白弓)を創成するなどの物理的干渉力を伴う現象(魔法)を引き起こす。
【強み】
・ベル自身が自我を持ち、周囲を索敵してくれるため、死角がほぼない(常闇のダークシャドウに近いが、光や闇に左右されない)。
・無詠唱での精密な風操作から、大規模殲滅技まで、手数が圧倒的。
【弱点・リスク】
・ベルがエネルギーを変換する際や、魔法を行使する際、ベースとして「ユノ自身の体力や精神力」を消費するため、大技を連発するとユノが極度の疲労に陥る。
・ベルと分断されたり、ベルが気絶させられたりすると、魔力の供給が絶たれ、ただの微風しか操れなくなる。