スピリットアームズ   作:パワード

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第10話

 同調、それは相手と歩幅を合わせること、それが崩れるとは即ち社会が崩壊する事を意味する。けして難しい事ではないが、慣れるまでの道なりが思った以上にたいへんである。

 それは相手の癖、行動、好きな物嫌いな物、今日の天気から悩み事まで……全てを把握する事は出来ない。出来ないが、予測する事は出来る。まず目線、コレで50%は理解出来ると言ってもいいぐらいだ。後は今までの経験と現在の環境、最後は感覚――。

 その点、音楽をやっている『上条 恭介』は天性の能力者だ。だが、その力ものめり込んでしまえば元も子もない。視界が狭まる時、真実が見えなくなり闇が広がる、目の前に転がり落ちている事にも気づかずに……。

 

 

 

 

 見滝原、中央区より少し離れた場所にホテルに“時を駆ける少女(あけみ ほむら)”はいた。学友であり魔法少女でもあるまどか並び仁美は始めて入った。

 様々な情報が空中に展開し一昔のSFチックなどちらかと言えば、男の子が住むような印象を受けた。サークルタイプのテーブルを軸足にコンパスのような椅子が二つ。

 他には何もなく人が生活しているとはとても思えない。真剣な眼差しのほむらは二人に紅茶を出す、仁美は無言で一口のみまどかも釣られて飲む。その姿を静かに見ていたほむらは一つのパネルを展開させる。

 が、一瞬躊躇をする。自分は先に見ているからか気持ちの整理は着いているつもりだ……一気にパネルを押し起動させる。

 

――項目『invaders』

 type0グライントコア→ペンギラム、振子

 type1魔王→シンクロ、同調

 type2恭介→エクシード、臨界

 type3まどか→サークル、円環

 type4なぎさ→バブル、泡沫

 type5すずね→セーブ、記録

 type6カンナ→コネクト、結合

 type7あいり→オンリーワン、唯一

 type8カガリ→オペレーション、操作

 type9キュゥべえ→ネゴシエーション、交渉

 type10ジュゥべえ→フィクション、 虚構

 type11織莉子→フォーサイト、未来

 type12ほむら→リスタート、過去

 type13かずみ→パラレル、現在

 

 自分達の名前と数字の羅列、そして始めての名前が出た。「これは?」とまどかは口にしそうとしたが、仁美は黙って首を振り制す。

 漆黒にのぞく眼差し(ほんとう)を打ち明けるように髪をかきあげて次のパネルを展開、今度は映像は無く黒いまま。どうやらボイスレコーダーのようだ――再生をほむらは行う。

 

『先に……“今の俺”にはこの事は知りません、の上でうぜーだろうが最後まで聞いてくれ。これを流しているのならひとまず第二段階は終了したと言う事だろう。既に魔法少女を元にしたtype9エネルギー回収機、その役割は終えているはずだ。そして、長い長~いプロローグだった『Puella Magi Holly Quintet』は全ての世界を結合する第一フェイズを経て今回の第二、そして第三フェイズへと移行したと推測される、ヤハリ最終楽章までは……』

 

 そこでプツッと切れ後はザーザーと流れる。聞えていたのは恭介の声、いやこのしゃべり方は――魔王。カップをテーブルに置きゆっくりとほむらの口が開く。

 

「このデータは私も知らない、気が付いたら入っていたの」

 

 ほむらにとって繰り返す時の流れで学校から帰り日課となっていた『ワルプルギス』の進行ルート、その再チェックをしていると強制割り込みでインストールを開始された。データファイルには『エレメントアームズオリジン全開放確認』と書かれていて、発信源はやはりと言うか魔王から。

 先程から念話や携帯電話でコールを行っていたのだが繋がらず、他の魔法少女に電話を行いようやく出たのがまどかと仁美である。なぎさとゆまもいたのだが、明らかに厄介事なので見送った。

 何と言うかほむらには疑問があった、魔王と出会ってからの“見滝原(このまち)”から魔女が一斉に消えたのだ。そう、まるでステージは次の段階に進んだようなそんな気配を肌で感じていた。

 

「type3……」

 

 まどかが言う魔王と同じ名前、魔法少女を食い物にしていたキュゥべえ。話ししか知らないが並行世界が一つになった時、『魔女化したさやか』をその身で確かに体感した……のだが、記憶が霧がかかったようによく覚え出せないでいた。

 そう言えば一つ上の先輩である『巴 マミ』もこの生き返った時に、死んだ時の記憶が無くなっていたと言っていたのを思い出す。

 隣に座っていた仁美の心の奥には不思議な気持ちが湧いていた。知らずに生きていて、暗闇を知り、そしてこれからの事を考える。当たり前で当然の事をまどかと出来る、それが凄く嬉しく感じた。

 ファイアアームズオリジン、ソウルジェム特有の卵形をそのまま尖らせたような赤い宝石。きっと別世界の“私”は魔法少女になる事も、まどかやさやかの苦悩も、恭介の本当の気持ちも分からないまま『ワルプルギスの夜』に襲われていたと。

 

「恭介さん、魔王さん……私は」

 

 想いにふける仁美、その姿を見つめるほむらは知っている。繰り返す世界で彼女が魔法少女と成りうる存在ではないと、いつか言っていた過去のキュゥべえの言葉『因果率に共鳴して魔法少女は強くなる』。強大な力、それはまさに“想い”と比例して大きくなる。

 この世界のキュゥべえは完全に別物に変化してしまった。魔王が文字通り『魔法少女達の悲しみ』を破壊してしまったからだ。だがらほむらに頼んだのかも知れない。「もしもの時はお前が撃て」という願い事。つまり魔王のフォートシルバーアームズのコアを破壊しろという内容。

 皆が悲しむ事を分かっていてやらせようとしている酷い人間、でも分かる……この『完成された世界』では誰もが一度は死を経験しているがそのうち一人は弾かれる存在を、なぜならば彼は“死んでいないからだ”。

 『まどかを守るためなのだろう?』遠くからそう聞こえたような気がした。今までの行いもキュゥべえへの憎しみも全部“想定内”の事として決められていた。そんな事がいまだに信じられないでいて、それでも嫌っていいから最後までやり通せ、と。

 

「……本当に最低……」

 

 ――大切なまどかの大切な人を殺す。まどかの願いを受けて彼女をこの手にかけてしまった事もある、だが今は違う。もはや殺す必要が無くなってしまった。魔女化になる心配もキュゥべえによる勧誘も、あとはワルプルギスの夜打倒……それで終わりだと思っていたのに。

 

「ほむらちゃん……」

 

 何かを感じたまどかはソっと手を握る。魔法少女の事を告げず自分で全てを終わらせようとしたあの頃、今も変わらず一人で抱え込んでいたようだ。魔王を思い出す「欲しいものを手にしたいならば、まず破壊する」無茶苦茶な言動だったが一理ある。

 彼女、暁美 ほむらは魔法少女の能力でもなく、誰からの命令でもなく、己の意思で初めて“過去との決別(リスタート)”を行った。まどかに悩みを打ち明けると言う強い意思で――。

 

――ニァオ――

 

 猫、その独特の鳴き声が聞こえた。振り替えってその姿は黒く扉が「開いていたのだろうか?」と思いながら仁美は優しく抱き変える、首にはタグが付いていてひらがなで『えいみー』と書かれていた。

 

「――――ッ!?」

 

 まどかの心臓は羽上がり“何処か”、そう何処かで見たことがある名前だった。それは夢の中……滅びを呼ぶ逆さの災厄の魔女が見滝原の町に来る前、そして暁美 ほむらよりも更に初めて出会ったキュゥべえとの契約の時だった。

 

 

 

 

――汝、美の祝福賜らば我その至宝、紫音の楔に繋ぎ止めん――

 

 『アブソリュートゼロ』絶対零度と名付けられたその魔法、町はずれの森の中でツバキの唄が響き渡る。腐蝕竜に吹き荒れる季節外れの猛吹雪は壊れた木片やガラス繊維、その哀しみを覆い隠すように降り積もった。

 だがそれでも人は人間は“誤解”と言う思惑が交際してしまう。『呉 キリカ(あるもの)』は邪心(とも)の為にキュゥべえに魂を売り渡そうとし、『中沢 かずま(あるもの)』は一方的な挑発(しんねん)をもって佐倉 夜桜に向かい散っていき、また『魔王 恭介(あるもの)』は今までの行い(きぼう)を、それにより佐倉 杏子から真の絶望を知る事となった。

 杏子(まじょ)は今だにご立腹のようで何を言っても聞き入れて貰えず、魔王も教会の破壊は自分のせいでは無いのに殴られた事に対しては不満満々(ふまんまんまん)だった。

 

「殴ったね! 親父には……やられたか。じゃあ、お袋にも殴られた事は……ないよね?」

『うん』

「――有り難う、お前だけが俺の味方だよ……」

 

 恭介(うで)魔王(から)だ、二人の友情が深まる。木々達の葉が風に揺れてまるで祝福しているようだ、小鳥はさえずりリスやカエルが見つめている。そして猛獣の叫びが木霊し辺り一面の木の葉をぶっ飛ばしてきた。

 魔獣、冷凍マグロのように氷ついたゾンビ竜は今だにしぶとく生きていて少しずつだかヒビが入る。物理攻撃は全くと言って良いほど効かないRPGに例えるならば全部“1”しかダメージを受けていないからだ。しかもあの重量、持久戦ならば明らかに不利。

 ――では、とお待ちかねのキュゥべいを探す。「コレ?」と差し出されたす巻きにされた地球外生命体の九番目を出される。魔王は感謝の意を唱えながら取ろうとしたらヒョイッ、と手から離れた。

 日向 華々莉(ひなた カガリ)、魔法少女であり幻術の能力を持つ。魔王の眉間にシワがより“このパターンは”と脳内トレースをした。辞書には『相手より先手』――魔王にとって当然の言葉を発した。

 

「キュゥべえはくれてやるから、さっさとあのデカブツを処分しろ」

 

 あ、と言ったカガリは言葉が詰まる、ニヤリとする魔王はここ一番でドヤ顔をした。近頃ろくな目に会ってない魔王、気分をよくした彼は一つ軽やかに唄い出す。

 

「何で魔法少女って勝手な奴が多いんだ? 何で魔法少女って勝手な奴が多いんだ? ドゥワッハッハー!!」

「私のせいで死んだのね?」

「そうなのね?」

 

 カンナに釣られてしまった魔王だが一瞬「ん?」となった。意味が分からないと聞いた相手先はフッと笑い答える。ナイトメア空間で魔王を殺したのは機能停止をしたあの魂の脱け殻の恭介、それは魔法で操れたらしく肉体の方に死んでもらったと。

 当然怒る魔王だったがカンナが“手にした情報”では魔王と恭介がセットじゃないとマズイと記されていたとの事。本当は人が良さそうな恭介を殺そうとし色気で近づいたら本当にホレてしまい“仕方がなく”魔王を殺したそうだ。

 「結果が同じならオールナッシン」と言うカンナ、本当に魔王似ていたが何かムカついた。同族嫌悪と言うか根本的に自分に重なるところが多々ある。となれば……。

 

「で、そちらはジュゥべえの強奪か?」

「正解、元の鞘と言うのが二重丸」

『じゃ――ジュゥべえ』

「ミスター……オイラ行くぜ」

 

 そう言って申し訳なさそうにジュゥべえがカンナの肩に乗る。あーあーあーと言いながら上条 恭介の片腕の方シルバーレフトは、スナップしつつもう片方ゴールドライトへとチラ見する。何か知っているみたいで「ゴメンね?」と謝って来きて少し頭が痛くなっていた。

 ――全く話は変わるが泣き崩れている佐倉家の大黒柱、夜桜を慰めている妻レミ。その娘の佐倉 モモは泣く訳でもなく織莉子、キリカ、えりかと一緒に杏子が供え物として持ってきた袋の元祖駄菓子、『ねるねるねるね』を練っていて中々のタフネスを持っていた。

 教会の大破、その事に関しては無論魔王にも少なからず後ろめたさがあったので上条コネクション経由による保健を裏口ルートで手配を完了。そして杏子ママ、レミに通達済みなのは流石と言うか抜かりは無い。

 ゲームランカーで聖団リーダーのかずまはズタボロのまま目を回し倒れ、妹のかずみとなぜか手伝わされているマミと杏子がうちわを懸命に扇いでいた。

 カガリも復活したツバキと色々な事、コレか事を話している。何処か継ぎ接ぎだらけで死んだ人間、それも魔法少女でも無い者達が生きて現世を歩いているならば、他の魔法少女や関係者もいる可能性が出てきた、と言う事。

 死んでいた方も今までは“普通に生きていた”と主張していた。別の並行世界からの可能性が全て交わっているのだから、キャストが全員生きていても不思議では無い。

 

「そう言えば恭介……いつ魔王と一緒になったの? シンクロはエレメントアームズか魔法少女だけたよね……まさか、掘」

「っていません。ハッテン場所にも公園のベンチで“やらないか”もしていません」

「じゃあ文字通り1P使っちゃったんだ」

『そう、さっき聞いた通り……ね、もう一人の僕』

「ぶ~ダメだよ? 仮にも恭介の体なんだからそんなにホイホイ死んじゃったら」

「チッ、二人でダメ出しすんな」

 

 もはや肉体の死など超越してしまったさやか、過去の世界では魔法少女=ゾンビと結論ずけてしまい、恭介とは恋をする事は出来ないと嘆いた同一人物とはとても思えられない。価値観が変わると人は変わるとよく言ったものだ。

 奇跡も魔法も有りはしない、ただ現実を受け入れるのみ。さやかだけではなく他の魔法少女も考え方が変わりつつある。

 

「さて、さっさとキュゥべえに詠唱させてさっさと帰るかなぁ~」

 

 “よっこらしょういち”とかなり古い江戸っ子の決まり文句をいいキュゥべえに近づく。グルグル巻きになったロープを引き剥がし口元のガムテープを取る。プルプル震えるキュゥべえはペコリと主に挨拶するとお約束の爆弾を投下した。

 

「……マスター“僕達”が暴走したよ」

「んなの見りゃわかるっつーの」

「じゃなくてクーデターだ『ジュゥべえの後』にだよ。それって攻撃するって事何じゃないかな?」

 

 状況整理、キュゥべえが管理システムを奪われたのはあの地下水道の戦いの最中。別動隊のマミ達が黒いキュゥべえ……つまりジュゥべえを見つけたと言っていた。その時に暗躍して乗っ取りに成功したのだろう。

 ネクスト、ジュゥべえは誰かにシステムを利用されたと言っていた。invadersの誰かなのはアームズレプリカを見ればわかる、データを利用し作製した犯人がいるからだろ。普通の人間はもちろん魔法少女でさえ介入出来ないのはDNAデータを経由しなければならないからだ。

 主な例は恭介、彼がいなければフォートシルバーアームズの能力半減によるセーフティがかかってしまい、魔女どころか魔法少女にさえ太刀打ち出来なくなってしまう。そこで出るのがチェーンゴールドアームズ、つまり恭介のエクシードとは恭介自信ではなく他者の力を解放する力。

 だが、それでもフルパワーを出していないのは魔王も理解している。キーワードになるモノそれは当然『バイオリン』、恭介が奏でるメロディが“始まりの螺旋”を起動出来するはずだ。

 課題休憩――魔王は恭介がいない時期があった頃『魔法少女に土下座をしてしまう』と言うふざけたバグが発生、本来なら心許した相手のみに行うクセのようなモノなのだが、強引に魔王と恭介が分裂した反動で処構わず土下座してしまう状態になっていた。

 ジャンケンの上下関係と言うか、こんな事を他の知り合いとかにバレたら魔王は失墜確定まちがいなしだろう……魔王は話しを進める。

 

「で、この魔獣どころかナイトメアも?」

「うん♪」

(なぜそこで喜ぶ)

 

 嫌な表情をした魔王にキュゥべえは満開な笑顔を見せる。色んな意味で王でありトップと言う事は外見はきらびやかなモノに見えても王とは結局、最終決断役であり相談係なのだ。

 なお、こんな関係に見えるがコレでも魔王を敬っている(自分から情報を教える事)。絶対に以前のキュゥべえを知る者ならば驚きモノだろう。

 

「そう言えばさ~カンナとカガリの学園ってどこだ、知っているだろ?」

茜ヶ咲(あかねがさき)にあすなろ市、電車で行ける距離だよ。なぜそんな事を……」

「……ゲヒャ♪」

 

 口元を吊り上げ笑うをする魔王はキュゥべえの疑問を無視し詠唱を“ジュゥべえと共に”開始させ、同時に恭介には『もう終わった』から寝ねてていいと促す。恭介自身も色々と疲れたので御言葉に甘えた。

 ……もう少し警戒すべきだった。天使は人間に対し正しき方向に行くため厳しい試練を与えるが、悪魔は人に優しくソッと静かに後悔の蜜の味をすするのだ。

 

「其は忌むべき芳命にして偽印の使徒、神苑の淵に還れ、招かれざる者よ」

「我招く無音の衝裂に慈悲は無く、汝に普く厄を逃れ術も無し」

 

 不意にカガリは問う、なぜ物理召還魔法も行うのかと。魔王は答える、約束は守るその二匹はくれてやる。目をゆっくり開けコチラを見た目は右目は黒の輝きは失せ、左目のホワイトアイが光を増してゆく。

 ――持ち帰れるといいなぁ、この台詞が発射の合図。キュゥべえはひび割れが大きくなりつつある氷付けのゾンビドラゴンに光の柱を。

 そして、ジュゥべえが放たれた魔法は魔獣とは明後日の方向、無数の巨大隕石がふたてに分かれ飛来していった。ここまで来れば馬鹿でも分かる……おもむろに魔王はスマホを起動しラジヲチャンネルをニュース番組に合わせる。

 

『緊急速報です! 突如飛来した隕石はあすろな市にある学園に衝突したようで現在目下調査中との事!! ああ!? 更に隕石群の飛来を確認!! 進路は茜ヶ咲中学!! 生存者の安否が待たれています――」

 

 そこでスマホの電源を切る。フウと一息してたんたんと帰る準備をする魔王にカガリはチャクラムで切りかかってきたが、全開状態の魔王の敵ではなくあっさりと地面に叩き付けられた。魔王の全体重の下になり顔を銀の左手で押さえられながらも必死にカガリはもがく。

 

「ぐぅぅぅ!」

「何が不満だ? 約束通りキュゥべえとジュゥべえはやる」

「なぜ……こんな!!」

「ククク……貴様にしては随分と可笑しな台詞を吐く、“知ったぞ?”ツバサの復讐の為に魔法少女に成ったとか……」

「!?」

 

 カガリは驚き目を開く、止めてと小声ですがる彼女に対し魔王は知った事かと言う感じで続ける。

 

「それで……えーっと『すずか』か? ソイツの記憶を操作して……酷いな、妹のダチを皆殺しにしたのか」

「止めてええええええ!!」

 

 頭を抱え込みガクガク震え、当のツバサ本人は全くわからなかったが、怖がるカガリに近づきそっと抱こうときた時、突き飛ばす。繰り返し「私にそんな資格はない」といい放ちその優しさを拒絶をする。

 その様子に興味を無くした魔王は今度はカンナの方に振り向いた、一瞬ビックっと震えたが魔王は思っていた事とは別の言葉を発する。

 

「どうやら貴様の行動は俺のテストタイプのようだ。5人組の魔法少女にグリーフシードのコピー、そして実験……あとそんなに身構えるな」

「……オゥセンキュー、いくら何でも過去のトラウマをほじくり返されたくないからね」

 

 そう言いつつカンナはかずみの方を見る。彼女は彼女で何か思い出そうとしていた。魔王はおもむろにカガリにの頭を撫でるとさっきの事が嘘のようにスヤスヤと寝始めた。

 

「フム、ヤハリまだセカンドに行けないか……過去に一度“魔女化”しているはずだから可能かと思ったのだがな……」

 

 そうブツブツ言いながら歩く魔王、目線を下に向けて進んでいたら“通せんぼ”をしている存在に気づく。巴 マミに美国 織莉子、そして呉 キリカだ。

 魔王は邪魔臭いなと感じながらも、電車ですれ違う客のように避けるとその先をふさいで来た。

 

「……何だ、邪魔だな」

「分かるわよね」

「二つの学園の事だろう? マミ、既にここの教会と同じく保健は降りているぞ、何も問題無かろう」

「そうじゃない、そうじゃないよ」

「私たちの母校、元が付くけどね」

 

 続くキリカと織莉子、そして無言で立ち尽くす杏子。魔王はため息をし数歩後ろに下がり距離を置く……ノーモーションだがそれは戦闘体勢であり眼前の魔法少女を“敵 ”として認識している。

 

「前にも言ったが『無傷にして捕らえる』あれは取り消す、今回は叩き潰す。ただしソウルジェムは壊さないし肉体も破壊しない、極力な」

 

 低めの姿勢で突撃する魔王、一番接近が得意なキリカから責めてきた。突き上げる爪がキリカの爪を捉え圧していく、状況が悪いのは分かっていたが数秒足止め出来ればいい。

 マミ、織莉子、二人の魔法少女が魔王を中心に左右対称に分かれマスケットとオラクルレイを放つと同時にキリカは離脱する。金と銀の腕(そうしょく)の王は腕を大きく振り風を呼ぶ、夜桜とは別のどちらかと言えば風呂敷の要領で弾丸を弾く。

 だが、何発かは被弾した。魔王は恭介のスピーディーな戦士とは違いパワーファイター……力を持って相手をねじ伏せるのが基本スタイル。

 

「どおおおりゃあああ!!」

 

 煙から飛び出した魔王を狙って杏子が頭上からの一閃、ぎりぎりで回避し攻守交替と行こうとしたが杏子も馬鹿ではない。右足なら右下、左手なら左中、ゲーセンのダンスパネル感覚に違い動きで得意の中距離を保ちつつ魔王が進むであろう配置を予測しソコを攻撃する。

 さらにはアドバイザーである織莉子もテレパシーによる予知を行い鮮度をあげていく、キリカとは違い射程がある分杏子の方が一歩、魔王より有利だ。

 恒例の舌打ち、ステータスでは魔王(コチラ)が上でもベースとなる肉体は人間、いくら強化されようがいつかはバテる時が来てソコを狙ってくる。戦術としては正解だ――このまま行けば、の話だが。

 

「じゃあ織莉子でも――」

「行かせる……ッ!」

「とでもぉぉぉぉ!」

 

 魔王の言葉に紅槍と黒爪が襲いかかる。タッチダウン、勝負は決まったと思われる最中――抜け目の無い魔王は右手を出し召喚した物は『バイオリン』。弾き始める曲は“アヴェ・マリア”ラテン語で「こんにちは、マリア」と名付けられたその曲は恭介の十八番で次のステージに予定しているモノだ。

 魔王がいつも恭介の隣で聞いていたからその序曲は……どうせ全部鳴らせないし鳴らす必要も無くそれで十分だからだ。

 

「モードエクシード……開放、対象は当然この俺“魔王”だ」

 

 魔王の回りにフィールドのようなものがバチバチと発生し杏子とキリカの攻撃を防ぐ。それはあたかも『演奏中はお静かに』と言うべきモノで破れないでいた。無論こんなモノは能力でも無くただのエネルギーが放出しているだけの副作用、本当の能力はこれがだ。

 

「――力が新たに開放される、臨界を超えるエントロピー。そして己が祈りを捧げ、成立したのは契約……」

 

 ゆっくり目を開ける視線は何か訴えている様にも、そして悲しんでいる様にも見えた。唄うその詩はキュゥべえが魔法少女に契約する時の決まり文句。

 “彼等”の祖もと言える魔王ならば言える、言って当然なのだ。あとは拡張した能力で――と回りを見渡し始めるが……。

 

『……何をやっているんだい、魔王』

「う……」

 

 右目が黒々と輝き出し恭介が目覚めた。それは当然だ、勝手に人様の能力(もの)を使用するのはモノ取りと同じ犯罪だ。しかも寝ていたから大分体調が良く、魔王の考えが手に取る様に分かる。

 

「でもよぉ~」

『判るよ、この完結する“結合された世界”で次に来るワルプルギスを倒しても……いや、その先から()でる存在は――』

「フン、ソコまでわかっているならば」

 

 ベースとなる素材はアイスアームズ適合者、美琴 椿と無限の剣戦の美樹 さやか。左の腕を、銀の輝きを加速させモードシンクロを起動させる。

 

「さぁ、今度のFテイルズはチョッチ違うぜ?」

 

 光りが収縮されると、魔王はさやかの剣を握りしめていた。融合し他の魔法少女の力を自分の物とする、ソコまではよく知るシンクロだったが何か嫌な予感がした杏子。その静止を無視してキリカは斬りかる。

 衝撃と共に受け止めた剣先からは湯煙が立ちピキピキとキリカの爪を侵食していった。冷たく感じるその正体はアイスアームズ、その属性を上乗せし、防御がそのまま拘束している状態は正しく『攻防一体』である。

 

「シンクロの新能力、ネームはシンプルに“モードエンチャント”とかどう?」

「と、取れない~と言うか冷たッ!!」

「そらそうだ、そう言う能力だからな」

 

 のんきな言葉使いだが一刻と行く程()てついていく。結構ピンチだったりするキリカを助ける為、マミは死角となる魔王の背後に行き弾丸を撃つ。

 だか、その弾丸は跳ね返りマミ自身に危なく当たるところだった。杏子の方向にも飛んでいったらしく「何やってんだ!」と槍を振り回しながら怒っていた。

 ――リフレクト・ソーサリー、アームズスロット魔法の一つで足元に発生した魔法陣が一定時間展開し消えるまでは大抵の魔法を弾くという性質を持つ魔法。

 

「無論、お前の切り札『ティロ・フィナーレ』クラスの魔法なら無理だろうが、な」

「なら!!」

「当然させる訳が無い――()け、クールダンセル。我が敵を破砕しろ」

 

 剣を持つ精霊を構築、魔女の使い魔のデータを元に産み出したスロット魔法の一つ。光に反射しきらきらと輝く幻想的なその姿は魔王にしては珍しく洒落た魔法。

 魔王が別にさやかと合体したからとかではなく元々そう言う魔法なのだが……さやかは少し、と言うか大分嬉しかった。

 尚、なぜ恭介以下二名が喋らないかと言うと恭介の気配りで音声をオフにしているため。そしてもっとメタな言葉でいえばシリアスをぶち壊さない為。

 恭介とさやかとツバサのみでの限定的ながら念話は出来る。ツバサはなるほどと今後の戦術として、恭介とさやかは何処か気まずい雰囲気を出していた。

 

「クソ、キリカァ!! まだかよッ!?」

「ううう……杏子ぉ~まるで冷えきった夫婦関係のように寒々だよぉ~」

 

 引っ張っても引っ張っても取れない、四苦八苦している黒の魔法少女に赤の魔法少女の叱咤が飛ぶ。

 オラクルレイの閃光をバックライト変わりに杏子はマミのガードに入る。数は3体、対使い魔戦……その感覚と同じなのは見ての通り。マミがティロ・フィナーレを展開、その時間稼ぎをするのが三人の魔法少女の仕事だ。

 が、マミはエネルギーチャージとその場を離れず、キリカも魔王の策略で動けない。実質杏子と織莉子しか動ける者は居なかった。

 

「さぁ、破って見せろ……この状況を、な」

 

 クスリと笑う魔王の横顔は何処か愛し子を見る親の様にも見えた。


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