今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。   作:漣@クロメちゃん狂信者

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お待たせしました。スマホで打ったのなんて初期の頃以来ですよ…。取り敢えず嘘吐きは回避しました!だって1年経ってない!だからセーフですよね!!…え、アウト??



搾取と救済

運命は残酷だ。されど恐れるな。情けは人の為ならず。因果応報。運命は…自分の行いは自分に返ってくるようにできている。良いことが起こるも悪いことが起きるも…全ては自分次第なのだから。

 

 

チェルシーSide

 

「家畜、家畜、家畜!どいつもこいつも良い顔をしておる。搾取されるだけの豚共め。…そうは思わぬか?しかし、ラザール医師の部下に君のような美しい女性がいたとは!さてさて、彼も男というわけですなぁ。」

 

「…家畜は貴様だ。汚いゴミムシめ。」

 

私は毒針を男の首に突き刺し、その息の根を止める。男の名前はゲバゼ。この街で財政官をしていた男だ。最近体調が悪いということで、高い金を積み、生意気にもマスターを呼びつけようとしたゴミだ。まぁ、この程度、マスターが行くまでもない。マスターが殺していいとゴーサインを出したこともあり、丁度ナイトレイドの任務が重なっていた私が此処に派遣された。男は私が来たことに驚いたようだったが、すぐに気色の悪い好色な笑みで迎え入れてきた。…ま、その脳内の妄想が実現する間もなくたった今ご臨終したわけだが。

 

「知ってるかな。豚は綺麗好きなんだよ?お前が豚と罵った人々のなんて美しいことか。その美しさを知らないお前の方が、私には可哀そうに思えるんだけど。…マスターだって、だからきっとお前を死んでもいい人間だと判断したんだろうね。」

 

私の呟きに屍は何も返さない。…当たり前か。

 

「さて、仕事完了。…そろそろイェーガーズが来るかな?さ、撤収撤収!!」

 

 

 

その数分後、イェーガーズは目撃する。街を見下ろす大きな椅子の上で、苦悶の表情で息絶えた死体を。その正面のガラスには赤い文字でこう書かれていた。

 

“死による救済を。魂の行きつく先は神のみぞ知る。”

 

 

 

 

 

 

 

「―――――って訳で罠だったって話。危なかったーっ!」

 

ナイトレイドのアジトの戻った私は、ある程度の脚色を交えながら任務の報告をしていた。

 

「その状況で無事ってアンタもしぶといわね。」

 

「飼い猫が居たからね。それに交じってしのいだのよ。」

 

報告ではイェーガーズとの鉢合わせをぎりぎりのところで回避したことになっているけど、実際はパパッと終わらせて街に居た白兎信奉者のところへ薬を届けていた。でもまだ内緒。少なくとも今はナイトレイドとして動かないといけないんだから。

 

「…アタシじゃ切り抜けるのは難しそうね。悔しいけど便利ね、その帝具。」

 

「マインには厳しいかもね。ま、これからも私に任せてくれればいいよ。…だからしっかりお留守番してなさい、補欠♡」

 

「い、一瞬でも感動したアタシが馬鹿だったわ!!仲間に対してなんて侮辱!!人として許せないわ!」

 

「…お前も俺に似たようなこと言ってたけどな。」

 

あぁ、マインっていいなぁ。揶揄い甲斐があって楽しいし、単純だから話を逸らしたいときにホント便利。ほら、今だって…

 

「しかし、イェーガーズは私たちに狙いを定めてきているな。」

 

「新型危険種も粗方仕留めた。残りの目ぼしい敵はナイトレイドだけだからな。」

 

「このままではマズい、か。」

 

話は次の作戦へと移る。安寧道教主補佐・ボリックの暗殺。そして同時にイェーガーズとの全面対決。確かにこのままでは後手後手でいつか捕まってしまうかもしれない。ならばいっそ、ここで仕掛けるということか。

 

「帝都郊外に奴らを誘き出し、奴らを叩く。…見知った相手でも戦えるな?タツミ。」

 

「…やるよ。標的以外でも戦うことになれば全力で行く。迷いはない!」

 

…ふふっ、…オトコノコ、だね。真っ直ぐ、前を見て走り出そうとしてる。でもそういう輝きは、今の私には眩しすぎるかも。

…ここら辺が妥当かな。さて、こっからは私の腕の見せ所。マスターのお役に立つ情報を下さいなっと。狙いは勿論一択。

 

「そうだ。ヴィン、そういえば貴方の探し人は見つかったの?」

 

「…いや、連日情報収集を兼ねて帝都を含め近隣の町を歩いているが、今のところ目ぼしい情報はないな。」

 

「へー、そういや村を焼かれたって言ってたけど、そいつは何で村を燃やしたわけ?」

 

マインナイス!!やっぱりこういうのがあるから、仲間っていうのはいいわ。気が緩んで口が軽くなる。特に人が多い時に何気なく聞くとそれが顕著。よっぽど内緒にしたいことじゃない限りはホイホイ答えてくれる。周りの目、怖いものね。

 

「…おそらく復讐なんだと思う。」

 

「…ほう。復讐とはまた物騒な言葉だな。」

 

「…何処の人間も異質を嫌うのは同じだろう。俺の村は閉ざされた山々の中、そしてその森の奥にあった。言い伝えなんかも沢山あったしな。そんなところにある日やってきた部外者の旅人の医者夫婦…末路なんて分かりきってるだろう。」

 

「まさか…!?」

 

「村八分ってやつだな。…外に出た今だからこそ、俺だって間違っていた部分があったんだってわかる。話し合ってわかることがあるっていうのも理解してる。だが、当時の俺らは…拒絶以外の方法を知らなかった。村を燃やしたのはその夫婦の息子だ。奴の怒りは最もなんだろうな。…でも割り切れねぇんだ。だって聞こえっちまった…耳に今も残ってるんだ。両親の呻き声が、幼かった友人たちの叫び声が!薄れゆく意識の中でも聞こえたんだ、アイツの笑い声が。」

 

なんだ。自業自得なんじゃない。なら復讐だなんてどの口が言うの?マスターの受けた苦しみは、貴方にまだ返ってきていないのに!

 

「確かに俺らは酷いことをしたんだと思う。でもそれは村のやつらの命を奪うほどのものだったのか?分からないんだ。だから探す。探してアイツに問い詰める。俺の家族の死が生んだ価値を。友人たちの死んだ意味を!」

 

「ヴィンさん…」

 

 

 

この男の真意に気づいた人間は、この場に何人いるんだろう。

 

マスター駄目だよ。こいつ分かってない。懲りてない。自分が優位だと信じて疑っていないよ。マスターの受けた苦しみを全然知らないよ。この男が知りたがっているのは“真実”じゃない。あくまでもこいつが求めるのはマスターからの“謝罪”だ。

 

“いつだって惨劇を生み出すのはね、自分を正義と疑わない奴なんだよ”

 

嗚呼、マスターのいうことは本当ですね。こいつは…いつかのセリューのよう。セリューよりも過激でないだけ。セリューよりも即座に行動しないだけ。でも、根っこは同じ。俺は正しいと言い張る子供なんだろう。

 

こいつの村のやつらはそう言ってマスターにどれほどの傷を与えたんだろう?考えても、マスターは多くを語らないから分からない。でもマスターの体に残る沢山の傷。今のマスターはよっぽどの深手でもない限り自然治癒でも傷痕なんて残らない。…ということはだ。今も残る痕はマスターが帝具を入手する前に負った傷ということなんだろうね。

 

 

「「必ず殺す。」」

 

私とヴィン、不覚にも重なった言葉は誰にも聞かれず、空気へと霧散していった。

 

 

 

 

 

 

ラザールSide

 

「隊長、ナイトレイドのアカメやマインと思われる人物が東のロマリー街道沿いで目撃されたそうです。」

 

その報告がもたらされた時、確かに自分の中の何かが壊れる音がした。

 

「…イェーガーズ全員を招集しろ。」

 

その命令に返事を返したのか、それすらも全く覚えていない。

思想も理念も目的も、何もかもが違う僕らと彼ら。この衝突もきっと運命なんだろうね。僕らの行動が招いた一つの結果。僕の誤魔化しもここまでなんだろうね。そろそろ、この宙ぶらりんな現状も限界ってことだ。

…この戦いが終わったら。僕も徐々に動いていかなくては。

 

でも兎に角、今は。

エスデス将軍の後ろを着いて行きながら、僕は呟く。

 

「さ、殺し合おうか。」

 

あの日の続きをしよう。僕の苦しみ、ボクの痛み。全部返してやるから。僕の優しさを拒んだのはお前。他の奴らは皆カミサマのもとへ行ったというのに。苦しみのない世界へ行ったというのに。お前だけが此処に残った。なら、文句は言えないよね。だってボクはちゃんと用意してやったもの。大嫌いなお前にも救済()を送ろうとしてやったもの。

 

あーあ、寂しいな。こういう時いつも寄り添ってくれた彼女が居ない。どうして今だったんだろう。

 

「…カンザシ、早く帰ってこないかなぁ。」

 

 

 

 

僕らの歩みは止まらない。それはいずれ、終点へ。

 

 




短いけど許して下さい。あとで改稿入るかもです。

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