【完結】エレイン・ロットは苦悩する?   作:冬月之雪猫

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第十話「初陣、ハリー・ポッター」

 クィディッチシーズン到来。最初の対戦はグリフィンドール対スリザリン。話題はもっぱらグリフィンドールのルーキー、ハリー・ポッターの事。

 一年生でシーカーに選ばれる事は史上初の快挙であり、誰もが期待の眼差しを彼に向けている。

 競技場に向かう道すがら、私もハーマイオニーやレネ、ジェーン、エリザベスと一緒に勝敗の行方を予想したり、ポッターの事で話に花を咲かせた。

 私達の前では珍しくカーライルが饒舌にクィデッチの事をアランに語っている。最近、レネが私達を優先するようになり、アランもカーライルと一緒にいる事が増えた。別に二人が不仲になったわけじゃない。私達の友情がより厚くなっただけだ。だから、寂しそうな背中を見せてもレネは返してやらない。 

 

「ハリーは大丈夫かな?」

「スネイプの奴め! あの大量の宿題はハリーが練習に集中出来ないようにする為に違いないよ!」

 

 歩いているとグリフィンドールの一団と擦れ違った。

 

「でも、出場出来て良かったね。あの狡賢いマルフォイのせいであわや停学になる所だったし」

「見つかったのがクィレルで良かったよ。『き、き、きみたたち、ここ、こんな所にくるな、なんて、感心しないね!』」

「似てる! ほーんと、クィレルさまさまだよな」

 

 騒がしい奴等だ。

 

「なんて人達かしら!」

 

 グリフィンドールの一団が去ると、ハーマイオニーが憮然とした表情を浮かべた。

 

「先生の悪口やバカにしたようなモノマネなんて、信じられない事をするわね!」

「どうどう。落ち着け、ハーマイオニー」

 

 ハーマイオニーには若干潔癖な部分がある。陰口の類が大嫌いで、一度スイッチが入るとしばらくピリピリ状態に陥る。

 私達は爆弾が爆発する前にさっさと観客席に座ることにした。

 グリフィンドールの観客席を見ると、『ポッターを大統領に!』と書かれた旗が振られている。凄い気合の入れようだ。

 時間が来て、赤と緑のユニフォームを着た選手達が入場して来ると会場は一気にヒートアップした。

 いよいよ試合の始まりだ。

 

「これは見応え十分だな」

 

 試合開始十分。私は上空を飛び回る選手達の姿に感激していた。

 サッカーやラグビーではあり得ない三次元的な動きに見惚れてしまった。

 実況も生徒がやっているらしく感情の入った状況説明で試合の流れが良く分かった。どうやら、現在はスリザリンが優勢らしい。

 

「あれ? どうしたのかな……」

 

 しばらくして、前の席に座るアランが上空を見上げて呟いた。

 つられて上を見ると、ポッターが不思議な動きをしていた。

 

「どうしたんだ? 新手のパフォーマンスか?」

「それにしては妙よ。まるで箒のコントロールを失ったみたい」

 

 ポッターの箒は縦にグルグル、横にグルグルと激しい動作を繰り返している。

 それが延々と続くものだから次第に私達はそれがパフォーマンスなどでは無い事に気付いた。

 会場がざわめく。その間にスリザリンのシーカーがスニッチを発見した。ポッターもその事に気付いたらしく、必死に首をスニッチの方角に向けて伸ばすが、その拍子に箒から手を滑らせてしまった。

 

「おいおい、まずいぞ!」

 

 私は咄嗟に杖を抜いた。あの高度から落ちたらシャレにならない。

 前にクィディッチの練習を見学した時、ジェイドが箒から落ちた時に使う呪文を教えてくれた。

 

「『動きよ、止まれ(アレスト・モメンタム)』!!」

 

 少しだけポッターの落下速度が下がった。けれど、まだ落ちたら潰れたトマトになるだけの速度を維持している。

 

「アレスト・モメンタム!!」

 

 一瞬後にハーマイオニー達も私と同じ呪文を使った。間一髪。地面に直撃する前にポッターの体は停止した。

 直後、スリザリンの生徒がスニッチを獲得し、スリザリンの観客席から歓声が沸き起こる。逆にグリフィンドールの観客席からは不満の声が上がった。

 

「ハ、ハリーは大丈夫かしら?」

「だ、大丈夫だと思うよ。ちゃんと、止まったもの」

「それにしても、どうしてあんな事に……」

 

 私達は呪文を一人ずつ解除してポッターをゆっくりと地面に降ろした。

 そこにフーチやマクゴナガルが駆け寄っていく。なんとか大丈夫そうだ。ほっと一息。

 

「怖いわ。箒に乗るとああいう事も起こるのね……」

 

 ハーマイオニーの言葉にジェーンが首を捻った。

 

「うーん。アレはなんか妙だったよ。ハリーはスニッチを捉えたテレンスをちゃんと目で追ってたし、錯乱した様子も無かったもん」

「確かに、パニックを起こさなければ、あんな風に箒を暴れさせる事なんて滅多に無いよ」

 

 エリザベスもジェーンに同意見らしい。

 首を傾げながら観客席を出ると、しょげ返ったグリフィンドールの一団の中からマクゴナガルが出て来た。

 

「咄嗟の判断でミスタ・ポッターに物体停止呪文を掛けた判断力と知識、そして優しさに十五点を与えます。さすが、レイブンクローの生徒達ですね。ポッターを救ってくれた事に感謝します」

 

 そう言って、マクゴナガルは去って行った。

 

「まあ、僕達がなにかしなくてもダンブルドアや先生方が対処したと思うけどね」

 

 アランが言った。

 

「そうなのか?」

「当然さ。アルバス・ダンブルドアの前で生徒が事故死するなんてあり得ないよ」

「マジか……。じゃあ、余計なお世話だったかな……」

「そんな事もないさ。ハリーをいの一番に助けようと行動した君に僕も感化された内の一人だからね。素晴らしい判断だったと言わせてもらうよ」

「どっちだよ……」

 

 まあ、結局ポッターが無事で済んだのなら問題無しだ。目の前で潰れたトマトになられたら、しばらくトマトを使った料理が食べられなくなる。

 若干の波乱はあったものの、概ね満足のいく試合が見れたな。

 

 クィディッチの第一試合から数日後、ハーマイオニーは実に不機嫌だ。原因はアレ。

 

「ポッターのせいで負けたんだ! まったく、名前だけで代表選手に選ばれていい気なもんだ!」

 

 犬猿の仲である筈のスリザリンと一緒になって本人に聞こえるように大声でポッターを貶すグリフィンドール生。

 なんというか、実に陰湿だ。あまり関わりあいになりたい人種じゃないな。私は無視して寮に戻ろうとした。

 ところが、ハーマイオニーがついにキレてしまった。

 

「あなた達!!」

 

 ため息が出る。いつか、こうなると思っていた。それっくらい、最近のハーマイオニーはぷりぷりしていた。

 レネやエリザベス、ジェーンも顔を見合わせてため息を零している。

 他寮の事なんてほっとけばいいものを……。

 

「なんだよお前!」

 

 案の定、何を言っても相手にされていない。

 

「どうどう。落ち着けよ、ハーマイオニー」

 

 なんとか宥めようとするもハーマイオニーの鼻息は依然として荒い。

 

「なんでよ!? エレインは腹が立たないの!? こんな風に一人を寄って集って攻撃するような人達、最低だわ!」

「ハーマイオニー。こういう事は赤の他人が口を出しても火に油を注いでしまうだけだよ」

 

 アランも説得に加わった。ハーマイオニーをグリフィンドールの一団から引き離した後、私は遠くで小さくなりながら赤毛の友達とお喋りをしているポッターの下に行った。

 このままだといつかハーマイオニーの鉄拳が唸ってしまう気がする。一文の得にもならない面倒事はゴメンだ。

 

「おい、ポッター」

「……あーっと、僕?」

「他に誰がいんだよ」

 

 やっぱり、ハーマイオニーのやった事はお節介でしかなかったようだ。

 ポッターの顔は実に迷惑そうだ。

 

「うちの爆弾娘が迷惑掛けたな」

「ううん。ちゃんと、ありがとうを伝えるべきかな?」

「そうしてやればアイツも喜ぶだろうけど、それは後にしてくれ。それより、そろそろ連中を黙らせてくれないか? 本人が黙ってる限り、連中はあのままだぞ。そうなると、うちの爆弾娘がいつか暴挙に出そうでおっかねー」

「そう言われても、箒から落ちてしまった事は事実だからね。そう言えば、あの時僕に物体停止呪文を掛けてくれたのはレイブンクローの生徒だって聞いたよ。ありがとう」

「おう。ちなみに最初に掛けたのは私だ。存分に感謝していいぞ。まあ、私達が何もしなくてもダンブルドアが何とかしたみたいだけどな」

「あはは、謙虚だね」

「だろうともよ! それより、連中をキッチリ黙らせておいてくれよな」

「うーん、いい加減にして欲しいのは僕もだけど、どうしたらいいのかな?」

「うるさい、だまれの二言で済むだろ」

「それで済んだら簡単だけど、そうもいかないよ」

 

 幸か不幸か私の周りには気風の良い性格の奴が多い。スラム時代もうるさい奴には黙れの一言で事が済んだ。

 だから、こういう複雑な人間関係って奴には疎い。

 

「そうだ! なら、次の試合で何がなんでも勝てよ! お前が活躍すれば、連中も黙るだろ」

「……簡単に言わないでよ」

 

 若干顔を青褪めさせるポッター。どうやら、少しトラウマ気味になっているみたいだ。

 

「だけど、他に方法なんて無いぞ。弱気になったら勝てるものも勝てねぇ! ネバーギブアップ!」

「でもなー……」

「うるさい、だまれ! とにかく勝てよ! そう言ってハーマイオニーは説得するからな! 負けたら容赦しないぞ!」

「理不尽だね」

「お前がやるべき事はただ勝つ事だ。シンプルだろ。簡単だろ。頑張れ!」

「……あー、うん。頑張ってみるよ」

 

 気合入れに一発背中を叩いてやると、私はその場を離れた。

 

 ◇

 

 嵐のような女の子だった。

 

「ハリー。君の知り合いかい?」

「まったく知らない子」

「……えぇ」

 

 ロンはドン引きしながら立ち去る女の子の背中を見つめた。

 

「でも、確かに他の方法なんて思いつかないしね」

 

 ウッドは僕を降ろすつもりがないらしい。なら、その期待にも応えないといけない。

 結局、僕のやるべき事はひとつだ。

 

「勝つしかないね。ちょっと、ウッドの所に行ってくるよ」

「うわー、なんか火がついちゃった感じだね」

 

 それにしても背中がヒリヒリする。あれは女の子の強さじゃないよ……。


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