朝、目を覚ますとベッドの横に大量の箱が積み重なっていた。
「なんだコレ」
「クリスマスプレゼントだよ」
「クリスマスプレゼント……?」
クリスマスって単語は知ってる。年に数回あるお祭り騒ぎの一つだ。デカい木がピカピカ光ってキレイなんだ。それを遠くから拝みながらバカから徴収した金で喰うチキンが最高。
けど、クリスマスプレゼントなんてものは知らない。
「知らないの?」
レネが驚いたように目を丸くしている。どうやら、知らなきゃおかしいレベルの常識らしい。
「……ちなみに魔法使い限定のイベントってわけじゃ……なさそうだな」
マグル出身のハーマイオニーが当然のように知っている以上、これはマグルの世界でも常識って事だな。
「あー、悪い! 私、全然用意してない……」
頭を下げると二人はやんわりと許してくれた。
「……そう言えば、エレインの御両親は何をしてい――――ッ」
ハーマイオニーは質問の途中で口を噤んだ。
「どうした?」
「……エレイン。御両親の話……イヤだった?」
どうやら、顔に出ていたみたいだ。
「お前等にそういう顔をさせたくはないな」
「オーケー……。二度としないと誓うわ」
「悪いな」
「ちなみに、今までどう暮らしていたのかについては?」
「スラムに居たよ」
そのくらいなら構わない。二人は顔を一瞬引き攣らせても、それで縁を切るような奴等じゃない。だからこそ、信頼の証として身の上話を聞かせる事にした。
「超能力……。要は魔力の暴走だな。それを悪用して生きてた。そんで、マクゴナガルに捕まって、ここに入学するよう言われたんだ」
「……そう。大変だったのね」
「エレイン……」
その大変な暮らしも十分過ぎる程報われた。あの時、マクゴナガルの提案を渋々ながら受け入れて良かった。
多分、私の過去を聞いて軽蔑したり、畏怖するより先に心配してくれる人間は早々居ないと思う。その少数派が私と二人も友達になってくれたわけだ。
しかも、クリスマス休暇の間一人ぼっちになって私が寂しくならないようにわざわざホグワーツに居残ってくれた。初めは帰る予定だったみたいだが、色々アピールしたら残留を決意してくれた。
「来年は期待してくれよ。ビックリさせてやる」
「……うん、楽しみにしてる」
なんだか気恥ずかしくなってきて、私は大量のプレゼントの中の一つを手に取った。
「って、マクゴナガルからかよ!」
「マクゴナガル先生から!?」
ハーマイオニー達も驚いている。だけど、差出人には確かにミネルバ・マクゴナガルの名前が書いてある。
慌てて包みを開けると大量の洋服が入っていた。
「な、なんだこりゃ」
フリルたっぷりのドレスだとか、ガーリーなのやフェミニンなのばっかりだ。
手紙も入っていた。
「なになに……、『お転婆なアナタが少しでも上品で礼節を弁えた淑女になれるよう、可愛らしい洋服を見繕ってみました。部屋着や学外で着て頂けると幸いです。何枚か写真を撮って送るように』って、なんだこれ」
よく見ると、洋服の中にアンティークなカメラが入っている。
「写真を送れって、マクゴナガルにか?」
「それ以外……、無いんじゃない?」
ハーマイオニーも不思議そうな顔をしている。
「でも不思議ね。マクゴナガル先生は厳格な事で有名よ。一人の生徒に肩入れするような事はしない人だと思っていたのに」
「だよな。大量の洋服寄越して来て、それ着て写真撮れとか、アイツは私の何なんだよ……」
「……もしかして、エレインはホグワーツに来る前からマクゴナガル先生と知り合いだったんじゃないかな?」
レネが言った。
「いや、マクゴナガルとはホグワーツ入学の報せを持って来た時に初めて会ったぞ」
「エレインにとってはそうでも、マクゴナガル先生にとっては違うのかもしれないよ? もしかしたら、ずっと前からエレインの事を知っていたのかも」
「そうなのかな……」
まあ、なんでもいいや。
「貰える物は貰っておく主義だ。ついでに義理立てもしてやるか」
私は洋服の中の一着に袖を通した。少し胸の所が窮屈だな。
「おいおい、洋服送ってくるならサイズくらい知っとけよな」
クルッと一回転すると観客達から拍手を頂いた。
「レネ。写真撮ってくれ」
「う、うん! えっと、こうかな? うん、これで撮れるみたい。いくよー!」
「おう!」
カメラは撮ったら直ぐに下の方から写真が出てくる仕組みらしく、床に何枚かポーズを決めた私の写真が落ちた。
ファッションショーを終えると、私は写真をかき集めて封筒にしまった。
「よーし、次はコレだ!」
二つ目のプレゼントはジェーンからの物だった。箱を開けると一冊のアルバムが入っていた。
「なんで、アルバム?」
手紙によるとエリザベスのプレゼントを見れば分かると書いてある。
早速、手近にあったエリザベスからのプレゼントを開けると確かに理由が分かった。
そこには盗撮したとしか思えないウィルとエドの写真がこれでもかと入っていた。
「いや、コエーよ」
とりあえず、一枚残らず確りとアルバムに仕舞っておく。
「うわー、私の方にもアランの写真が入ってる……」
「私の方は普通にお菓子の詰め合わせだったわ。なんだろう、ホッとしたような置いてけぼりをくらったような微妙な気分……」
グチグチ言ってるハーマイオニーの傍らでレネもせっせとアルバムにアランの写真を仕舞いこんでいる。私は見て見ぬ振りをした。
「次いこ、次」
次のプレゼントはカーライルからの物だった。
中身は一冊の本。魔法薬学について書いてある。実に普通だ。普通に嬉しい。エリザベスのは何かがおかしかった。
その次のアランからのプレゼントはお菓子の詰め合わせだった。ちなみに、ヤツのレネに対する贈り物は綺麗な水晶製の薔薇の置物。危険が訪れる事を察知すると赤く光るらしい。レネの顔は完全に乙女モードだ。こっそり写真を撮っておく。後でアランに渡してやろう。
「これはロイドからか」
プレゼントを開けていると、私の交友関係の広がりを実感出来た。
ロイドは高級羽ペンセットをくれて、チョウはクィディッチ今昔をくれた。チョウの手紙には『私も負けないからね! ちゃんと読んで、ルールを完璧に把握しておくように!』と書いてある。
「えっと、これは……、ウィルからだ!」
ウィルは綺麗な蝶の髪飾りをくれた。いつもは紐で適当に結んでいるけど、さっそく使ってみる。
「どうだ? 可愛さに磨きが掛かっただろ!」
「自分で言わないの……。でも、確かに可愛いわね」
「うん、とっても似合ってるよ!」
ふふふ、今の私を見ればエドも逃げ出すより先に魅入ってしまう筈だ。これは使えるぞ。
「さすがウィルだぜ! 最高のプレゼントだ!」
ウキウキしながら次のプレゼントを見る。
「次はエドか!」
エドからのプレゼントがあった。人の事を散々無視しておきながらアイツめ!
「なにかななにかなー」
開けるとそこには奇妙なコマが入っていた。
「なんだこれ?」
「それ、
つまりセキュリティーグッズってわけだ。
「もうちょいコジャレたもんにしろよなー」
「いいじゃない。きっと、トロールの一件があったから心配しているのよ」
「そうかな?」
「そうだよ!」
レネのお墨付きを貰うとそうなんじゃないかと思えてきた。出来れば、アランのレネに対するプレゼントみたいに見た目にもこだわって欲しかったところだが、我慢してやろう。
「とりあえず、ベッドの脇に置いておくか」
プレゼントも大体開け終えた。
残っているのは小箱がひとつ。
「あれ?」
そこには知らない名前が書いてあった。
「マーリン・マッキノンって、誰だ?」
全く聞き覚えがない。とりあえず開けてみると、中から銀色のブローチが出て来た。
「キレイだなー」
よく分からないけど、とりあえず貰っておく。首に掛けると蝶の髪飾りや可愛い洋服も相俟って、より私の美しさが完璧に近づいてしまった気がする。
それにしても、やっぱり心当たりがない。
マーリン・マッキノン。一体何者なんだ? まあ、プレゼントをくれたわけだし、悪いやつじゃないよな! 会う事があったら礼の一つでも言ってやろう。