ホグワーツのクリスマスは一言で言って、最高だ。城中がキレイに飾り付けられていて、ただ歩きまわるだけでも十分に楽しい。
不満があるとすれば、いつものメンバーでこの素晴らしい日を過ごしたかった。エリザベスやジェーン、カーライル、アランは里帰りをしてしまっている。実に残念だ。
大広間に行くとポッターやいつも傍でいる赤毛がデカいクラッカーを抱えていた。大砲のような音と共に青い煙が立ち上り、ハツカネズミだとか海軍将校の帽子だとかが大量に降ってくる。
「スゲーな! 私達もやろうぜ!」
クラッカーはまだまだたくさんある。私達はポッター達と競うようにどんどんクラッカーを鳴らした。コウモリやカラスが宙を舞う。降ってきた麦わら帽子をレネに被せ、私は海軍将校の帽子を被った。
「ハーマイオニーはどっちにする?」
ハゲタカの顔が乗ってる帽子とホームズが被っていそうな山高帽。ハーマイオニーは当然のように山高帽を手に取り、ハゲタカを放り投げた。
するとダンブルドアが魔法で自分の所に運び、かぶっていた婦人用の花つき帽子と取り替えて被る。うーん、実にフリーダム。
マクゴナガルもいた。なんというショッキングな光景だろう。ヤツは隣の野獣にキスをされていた。
「ババァと野獣って誰得なんだ?」
「先生をババァって言わないの!」
「へいへい」
クリスマスの御馳走をたらふく食べた後は中庭で二人と雪像を作った。結構な力作だったが、ポッターと赤毛兄弟達が近くで雪合戦を始めて、その流れ弾に当たり雪像は崩れてしまった。
そこから先はグリフィンドールとレイブンクローに分かれた大人数の雪合戦のスタートだ。こっちは三人。相手は四人。それでも負けるつもりは全くない。
自慢じゃないが、私の投球の腕は中々のものだ。レネとハーマイオニーがせっせと作ってくれる雪球を次々にグリフィンドールの連中に命中させていく。
超能力でちょっとズルをしているけどバレてる様子もない。
「ヘイ! どうしたどうした! 攻めて来いやー!」
ポッターのメガネにクリーンヒット!
「ハリー! くそー、ハリーの敵だ!」
「よしきた、弔い合戦だ!」
「ハリー! お前の死は無駄にしないぞ!」
赤毛三兄弟の猛攻撃。だけど、雪像だったものに隠れている私達には当たらない。
「オラオラオラ!」
逆に赤毛共のそばかすだらけの顔面に当ててやる。
そうこうしている内にすっかり空が茜色になった。
クタクタになり、大広間に戻る。
「やるな、君達!」
フレッドが言った。
「フレッド。アンタも中々だったぜ」
「おや、フレッドとは誰の事かな? 僕はジョージだぜ」
「は? でも、雪合戦の時に他の奴等がお前をフレッドと呼んでいたじゃないか」
「フレッドは僕だよ」
と、ジョージが言った。
「お前がジョージだろ?」
「あれ、僕らの事見分けられてるの?」
フレッドが不思議そうな表情を浮かべた。
「当たり前だろ」
何を言ってるんだ、こいつ。
「すげー! 滅多に居ないぞ、僕らを見分けられる人は!」
「そうなのか? 結構、分かりやすいと思うけどな」
確かに二人は似ている。さすが双子といったところだな。だけど、私の目は誤魔化せない。
これでも獲物の品定めの為に鍛えていたんだ。一度見た顔は絶対に忘れないし、どんなにそっくりでも見分けをつけられる。
「……そっか、分かりやすいのか」
ヤバい。なんだか、気分を害したみたいだ。持ちネタだったのかもしれない。
微妙な空気になってしまい、私達はそのまま大広間に向かった。
大広間には御馳走の山が出来上がっていた。
「おい、ハーマイオニー! あれって七面鳥だろ? 七面鳥だよな!」
「そうだけど……、どうしたの?」
「おいおい、何を落ち着いているんだ! 七面鳥だぞ!」
丸々としたチキン。よく、覗き込んだ窓の向こうで親子が食べていた。
その憧れの一品が目の前にある。これが落ち着いていられるか!
「いっただきまーす!」
「はい、ストップ!」
「はえ?」
私の七面鳥が突然消えた。
「はいはいちゅーもく!」
後ろを向くと、何故か双子が七面鳥を天高く掲げている。
おい、それを落としたら殺すぞ。
「なにしてんの?」
ハリーも双子の行動に困惑している。
「お二人共、食べ物は玩具じゃありませんよ!」
マクゴナガルの叱責が飛ぶが、双子はまったく気にした様子を見せない。
「みんな、七面鳥が食べたいかー!」
「食べたいに決まってるだろ!! はやく、それを返せよ!!」
私が怒鳴りつけると双子はニンマリと笑顔を浮かべた。
「ならば、我らの挑戦を受けるがいい!!」
「挑戦?」
レネが首をかしげる。
「名付けて、『クイズ! どっちがフレッドでしょうか?』」
「ほっほっほ、面白そうじゃな」
ダンブルドアまで悪ノリを始めた。
「それでは――――」
フレッドが杖を振ると、七面鳥は空中に停止した。おいおい、絶対に落とすんじゃないぞ!
「クルクルクルクルー」
双子はクルクル言いながらクルクルと回り始めた。まるでダンスを踊っているみたいだ。
しばらくして、二人はピタリと止まった。
「それでは、どっちがフレッドでしょうか?」
ジョージが言った。
「えっと、こっちがフレッド?」
ハリーがジョージを指さす。おい、馬鹿野郎!
「何言ってんだよ、ハリー! そっちはジョージだ! 七面鳥が喰えなくなったらどうしてくれんだよ!」
「え!?」
雪合戦を通じて名前で呼び合う関係になったハリーを黙らせる。
「エレインは分かるの?」
「当たり前だろ! おい、フレッド! 七面鳥をさっさと寄越せよ!」
右手をフレッドに突き出すと、何故かヤツは杖を放り投げて私の右手を握りしめた。
その瞬間、呪文の効果が解けた七面鳥は床に向かって落ちていった。
真っ白になる私。対して、何故かフレッドは嬉しそうだ。
「エレイン! もう一回!」
「いや、おい! 私の七面鳥が!!」
「いいから、もう一回!」
またしてもクルクル回転する双子。
「さあ! 次はどっちがジョージだ!?」
と言ったジョージを殴る。
「ジョージはテメェだ。それより、私の七面鳥をどうしてくれんだよ!!」
「またまた大正解!!」
怒ってる私と反対にジョージはどこまでも嬉しそうな顔をしやがる。
なんだこいつ……。
「おっと、待っていてくれたまえ、エレイン! 今直ぐに君の七面鳥を持ってくるよ!!」
そう言って、いきなりどこかへ走り去っていく双子。
「なんだ、あいつら」
私は床に落ちた七面鳥を見つめた。
「……お、落ちたばっかりだし、まだセーフ……?」
「アウトです。落ちた物を食べる事は許しませんよ、エレイン・ロット」
そう言って、マクゴナガルが魔法で片付けてしまった。
「おい、もったいねぇじゃねーか!!」
「勿体無くても、落ちた物を食べてはいけません」
「いいじゃねーかよ! ずっと食べてみたかったんだ!」
家族三人が囲む七面鳥。やっと食べられると思ったのに、クソー!
「おまたせしましたー!」
席に座ると同時に大広間に双子が帰って来た。後ろに奇妙な小人を五人程引き連れている。
「なんだ、あれ?」
「あれ、屋敷しもべ妖精だよ!」
ロンが言った。
「なにそれ?」
ハリーが聞いた。
「大きな屋敷とかに住み着いて、その家の魔法使いに付き従うんだ。家事とかを命じてやらせたり、とにかく便利なんだよ! うちのママも欲しがってた!」
「しもべって……、なんだか野蛮だわ」
ハーマイオニーはムッツリした顔になった。
「エレイン! 君の七面鳥を運んで来たよ!」
そう言ったフレッドの両手には七面鳥の皿が二つ。
「こっちにもあるぞ!」
ジョージの両手にも皿が二つ。
「……えっと、七面鳥をこんなに食べるのですか?」
おどおどした目の小人の両手にも七面鳥。
七面鳥がひー、ふー、みー……、十四。
「いや、一つでいいよ」
「そう言わず! さあさあ、好きなだけお食べ!」
私の前に並べられる七面鳥の山。他の御馳走を遠ざけられ、右を見ても左を見ても七面鳥だらけだ。
「こんなに喰えるか!!」
「遠慮は要らないよ!! さあさあ!!」
双子が私の両脇をガッチリ固めた。逃げ場がない。
喰えというのか? この大量の七面鳥を?
「こ、こうなりゃ喰ってやるよ!!」
もはや自棄だった。両手に七面鳥を掴み食らいつく。
「えっと、私も手伝うわ」
「わ、私も……」
「僕も……」
「十四って、馬鹿じゃないの……」
「また食べ物を……。私も食べますわ」
「ほっほっほ、若いのう。どれ、儂も……」
そう言って助け舟を出してくれたみんなに双子はノーと言った。
「何を言ってるんだい! これはぜーんぶ、エレインのものだよ!」
「さあ、エレイン! 遠慮は要らない! どんどん食べてよ!」
こいつら悪魔だ。まるで悪意など無いかのように無邪気な笑顔を浮かべて私に七面鳥を押し付けてくる。
天使のような悪魔の笑顔に私は半泣きになった。
「ちくしょう!! 喰えばいいんだろ!!」
結果から言おう。無理だった。一匹食べてギブアップ。肉ばっかりこんなに食べられるわけないだろ!
不満そうな双子の口にそれぞれ一匹ずつ七面鳥を突っ込み処理したが残り十一羽。そこからみんなも協力してくれたけど、全員の腹がパンパンに膨れても七面鳥はあまった。
「頼む、オメェ等も喰ってくれ」
最終的に七面鳥を持って来てくれた屋敷しもべ妖精のシェイミー、ドゥーアン、ヴィヴィ、ライサ、アームンにも協力してもらい漸く片付けたけど、今度は別の御馳走が余っちまった。
みんなの顔が青くなっている。ダンブルドアでさえゲッソリしている。
それでも、食べ物を粗末にしてはいけないというマクゴナガルの一声によって、私達は震えながらフォークを手に取る。
「……こ、これ以上は」
スネイプがダウンした。
「は、吐き気が……」
クィレルがダウンした。
「も、もう駄目……」
ハーマイオニーとレネもダウン。次々に散っていく仲間達。
気付けばダンブルドアやマクゴナガルも遠い目をしている。まだまだポテトの山がドッサリ残っているし、ポークソテーやステーキも残っている。
生き残りは私とハリーとロンの三人のみ。
そこには不思議な友情があった。互いに微笑み合い、難敵に挑む。まさに戦友だった。
気付いた時、私達は机に突っ伏していた。
「もう無理、死ぬ……」
「七面鳥十四羽とか、バカじゃねーの」
「うーん。うーん」
「は、吐き気が……」
「食べ物を粗末にしては……ああ、無理」
「あ、あと十年若ければ……」
「グリフィンドールは五点減点だ……。馬鹿者め……」
「ああ、もう駄目……」
死屍累々のまま、ホグワーツのクリスマスは終わった。