【完結】エレイン・ロットは苦悩する?   作:冬月之雪猫

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第十五話「禁じられた廊下」

第十五話「禁じられた廊下」

 

 開かれた扉の先から猛烈な熱気が襲い掛かってきた。

 

「うわっ、なんだ一体!?」

 

 堪らず後退ると、中からトロールみたいな大男が出て来た。

 遠目に見る事はしょっちゅうあったけど、こうして近くで見ると威圧感が半端じゃない。

 

「うん? なんだ、お前さん。っと、ハリーじゃねぇか! なんだ、友達か?」

「う、うん。そんな所だよ。エレインって言うんだ」

 

 ハリーが起き上がって言った。

 

「エレイン・ロットだ」

 

 握手を求めると、ハグリッドはニカッと笑い、大きな手で握り返してきた。

 なんだか羽毛布団に腕を突っ込んだような感じだ。何から何までデカイ。

 

「ちょっと、ハグリッドにお願いがあってさ」

「お願い? 言っておくが、これ以上は何を聞かれても教えんぞ」

「そっちじゃないよ。エレインがフラッフィーを見たいって言うんだ」

 

 ハグリッドが目を丸くして私を見た。

 

「頼むよ、ハグリッド! 私、ケルベロスを一目でいいから見てみたいんだ!」

「ほう! お前さん、フラッフィーの良さが分かるのか! そう言う事なら構わんぞ。俺と一緒なら、フラッフィーだって借りてきた猫みたいに大人しくなるんだ!」

 

 誇らしげに言うハグリッドに期待感が増す。

 

「マジかよ! なら、早速行こうぜ! 四階の廊下に居るんだろ!」

「……そこまで知っとるんか」

 

 ハグリッドがジロリとハリーを睨む。

 

「いやー……、殆ど何も言ってないんだけど……」

「レイブンクロー舐めんなよ」

「理解力が高すぎて怖いよ……」

 

 そうこう話していると、ハーマイオニーとロンが合流して来た。

 

「おお、ロンじゃねーか! そっちの子も友達か?」

「やあ、ハグリッド。ハーマイオニーだよ」

「こんにちは、ハグリッド。ハーマイオニー・グレンジャーです」

「おう、よろしくな。お前さんもフラッフィーが目当てか?」

「え? ああ、いや……、私はエレインの付き添いってだけで……」

「そうなんか? けど、折角の機会だ。アイツは人懐っこくて可愛いヤツでな、会えばきっと気にいるぞ」

「いや、でも私……」

「ほれ、行くぞ! 善は急げだ」

 

 青褪めた表情を浮かべるハーマイオニー。

 

「……あれ? これって、僕達も行く感じ?」

「マジで……?」

 

 ハリーとロンは顔を見合わせている。

 

「おい、ボサッとしてんな! 行くぞ!」

「……はーい」

 

 項垂れる三人をせっつきながらハグリッドの後を追いかける。

 ケルベロスは魔法界でも希少な生き物で、実際に見る機会は早々無いという。

 ハーマイオニー達が興味を示さない事が不思議で仕方ない。

 

「よーし、こっちだ」

 

 四階の廊下が近付いてきた。ワクワクしてくる。

 

「ハグリッド。ここで何をしているのですか?」

 

 廊下の前まで来たところで嫌な声が聞こえた。

 ハグリッドがギクリとした様子で声の方に顔を向ける。つられて私も顔を向けると、そこには案の定、マクゴナガルの姿があった。

 

「そこは立入禁止の場所です。それも、生徒を連れて……。一体、どういうつもりですか?」

「ま、マクゴナガル先生……。いや、あの、その……」

 

 まるで先生に叱られている生徒みたいに、ハグリッドはモジモジし始めた。

 

「あーっと、ハグリッドを怒らないでくれよ。私が頼んだんだ」

「頼んだ? 何を頼んだのですか? ミス・ロット」

 

 マクゴナガルはオーガモードになって強烈な視線を向けてくる。

 

「いや、ケルベロスを見たくてさ……」

「ケルベロスを見たい……? 何故、貴女がケルベロスの事を知っているのですか? ま・さ・か……」

 

 オーガがサタンに進化した。ハグリッドはぷるぷる震えている。

 

「ち、違うんです!」

 

 見かねてハリーがハグリッドを庇った。

 

「その……、前に間違えて入ってしまった事があって……」

「間違えて入った? そんな筈は無いでしょう。ここには鍵が掛かっています。故意に入ろうとしない限り、ここには入れない筈ですよ?」

 

 やっぱり、ハリーに演技の才能は無いな。ついでに、嘘つきの才能もない。

 

「もし、本当にハグリッドが漏らしたのではなく、貴方達がこの部屋に入ったと言うのなら……」

 

 全員、目が泳ぎまくっている。

 

「ど、どう、どうか、したのですか?」

 

 すると、背後からやたらと挙動不審な男が現れた。闇の魔術に対する防衛術の担当教師、クィリナス・クィレルだった。

 

「おや、クィレル先生。実は、生徒が校則を破り、立ち入り禁止の場所に入り込んだようでして……」

「そ、それは、い、いけませんね。ああ! いや、あの、そ、そうだ!」

 

 クィレルはチラリとハリーを見ると、思い出したように手を叩いた。

 

「そ、その、ハリーくん達のこと、で、でしたらですね、わ、わた、わたしにも非がありまして……」

「クィレル先生に? どういう事ですか?」

 

 そう言えば、グリフィンドールの連中が話していたな。ハリー達が危うく停学処分になりかけた時、見つけたのがクィレルで助かったって。

 

「じ、じつはですね。その、み、見回りをしていたのですが、えっと、ええ、その時にうっかり……ええ、かぎをその、掛け忘れてしまいまして。それで、ハリーくん達が、その、間違えて、その、は、はいって、しまったみたいでして……」

「まあ! ここがどれほど重要かつ危険な場所か、貴方も分かっている筈でしょう!」

 

 マクゴナガルの怒りの矛先がクィレルに向いた。その様子をハリー達は唖然とした表情で見つめている。

 どうやら、何から何まで真実という事でも無いようだ。

 

「え、ええ、そ、それは……ええ、もちろん。あわてて、その、掛け直しに戻ったら、その、ハリーくん達が……その、出て来る所を見まして……、ほ、本当に肝が冷えました」

「クィレル先生! これは、非常に、問題ですよ!」

「も、もう、申し訳、あ、ありません」

 

 おどおどと頭を下げるクィレルにマクゴナガルは深く溜息を零した。

 

「……幸い、ミスタ・ポッター達に怪我は無かったようですから、今回は特別に不問とします。ですが、クィレル先生もアレを守る要の一人である以上、確りと自覚を持って下さらねば困りますよ!」

「は、はい……」

 

 項垂れるクィレルにマクゴナガルは鼻を鳴らした。

 

「ハグリッド。貴方も、ケルベロスをここに置いている理由を確りと理解なさい。生徒に頼まれたからと言って、安易に見せて良いものかどうかの判断くらい、出来なければ困りますよ!」

「へ、へい……。すんませんです……」

 

 言いたい事を言うと、マクゴナガルは去って行った。

 

「……あの、クィレル先生」

 

 ハリーは気まずそうにクィレルに声を掛けた。

 

「先生、僕達の事を……」

「ま、まあ、ま、マクゴナガル先生のお、仰っている事はただしい! ので、き、君達もあぶ、あぶない事はよ、よしたまえよ。そ、それだけ守ってくれれば、わ、わたしから言う事はなにもその……、ないよ」

 

 そうつっかえながら言うと、クィレルは下手くそなウインクをして去って行った。

 

「……僕、クィレルの事見直しちゃった」

「僕も……」

 

 ハリーとロンはクィレルの思わぬ男気にすっかりノックアウトされたようだ。

 つまり、クィレルは二人を庇ったという事だろう。なんだ、つまらない授業のクソ教師だと思ってたけど、かっこいい所があるじゃねーか。

 

「……あーっと、悪いな」

 

 私は項垂れているハグリッドに声を掛けた。

 

「私がケルベロスを見たいって言い出したせいだ」

「……いや、お前さんは悪くねぇ。今はその……、時期が悪かったんだ。今度、また機会があったら見せてやるよ。本当にアイツはスゲーんだ。ハリー達にも確り見せてやりてぇ」

「ハグリッド……」

 

 このおっさんも中々の男気の持ち主だ。

 

「その時はよろしく頼むぜ!」

「おう! フラッフィーはダメだったが、別のヤツなら色々と見せてやれる。まあ、今日は遅いから、また今度な」

「マジで!? 明日……は、無理か。次の休みに必ず行くぜ!」

「おう! 待っとるぞ」

 

 ハグリッドはハリー達とも次の休暇に会う約束を取り付けて、張り切った様子で去って行った。

 

「あー……っと、お前らも悪かったな」

「ううん。今回は運が悪かったね」

「けど、クィレルのおかげで助かったよ。いつもはおどおどしてるけど、やる時はやるって感じでカッコよかった!」

「もう、調子がいいんだから……」

 

 その後、私達は一緒に夕飯を食べて、それぞれの寮へ戻った。


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