【完結】エレイン・ロットは苦悩する?   作:冬月之雪猫

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第三話『星の丘』

第三話『星の丘』

 

 表通りの一角。そこに店があると知らなければ認識する事も出来ない、寂れたバー。漏れ鍋の中で本を読みながら寛いでいると、暖炉からエドが姿を現した。

 

「エレイン!」

 

 嬉しそうに駆け寄ってくるエド。私は本をカバンに仕舞い込んだ。

 このカバン、中々の優れものだ。空間拡張呪文が施されていて、中にはワンルーム程の空間が広がっている。

 マクゴナガルがクリスマスに送ってきた服でかなり圧迫されているけど、それでも私の私物を全て仕舞い込んで、まだあまりがある。

 これ一つあれば何処にでも行けるし、これを無くしたら無一文になる。だから、エドに貰ったかくれん防止器(スニーコスコープ)を括り付けている。

 

「よう、エド」

 

 とりあえず、頭を鷲掴みにしておく。

 

「え、エレイン?」

「お前、もっと確りリチャードを躾けておけよ。また、私の部屋を荒らし回っていったぞ」

「ご、ごめんなさい」

「おっ、成長したな。前は謝るまでに結構時間掛かったのに」

「……うぅ」

「ほら、行くぞ」

 

 しょげ返るエドの手を取って、店の裏庭に向かった。

 今日は買うものがたくさんある。あんまりのんびりもしていられない。

 レンガの一部を杖で突いて、ダイアゴン横丁に入った。

 

「まずは魔法薬の材料だな」

「うん」

 

 一年前は店に入る度に興奮したけど、二回目になるとスーパーに食材を買いに行くのと大して変わらない。

 大鍋も変えて、残るは教科書だけになった。本屋に向かう途中、高級クィディッチ用具店なる場所に寄った。

 

「わーお! ニンバスにまた新しいタイプが登場したみたいだね!」

 

 エドが興奮した様子で言った。目の前のショーケースには、ニンバス2001という箒が飾られている。

 しばらく眺めていると、店の中から見知った顔が出て来た。

 

「おっ、ドラコじゃん!」

「ん? ああ、君達か」

 

 ドラコ・マルフォイは私とエドを順繰りに見ると、鼻を鳴らした。

 

「今年は静かに過ごせそうだね」

「あー……っと、去年は悪かったよ。反省してる」

「ご、ごめんなさい」

 

 ドラコは肩を竦めた。

 

「まあ、そこまで責めてるわけじゃないけどね。そう言えば、エレイン。君はレイブンクローのシーカーに選ばれたそうじゃないか」

「よく知ってるな。その通りだぜ!」

「なら、僕のライバルという事になるね」

「え?」

 

 ドラコは薄く微笑んだ。

 

「僕も今年からシーカーだ。今も、その為に箒の注文をしていた所だよ」

「そうなのか?」

「す、凄いよ、ドラコ! 僕、知らなかった! うわー、おめでとう!」

 

 エドが褒めそやすと、ドラコは鼻を僅かに膨らませた。

 

「エドワード。来年はチェイサーに空きが出来る。君にその気があるなら試験に挑戦してみたまえ。飛行訓練で見たが、君にも素質は十分にあると見ている」

「本当!?」

「ああ、練習は必要だと思うけどね」

 

 エドは嬉しそうだ。

 

「僕、練習するよ! ありがとう、ドラコ!」

 

 エドとドラコはいい関係を築けているみたいだ。少し、嬉しくなった。

 

「ドラコ。負けないぜ」

「悪いが、今年も優勝はスリザリンのものだよ」

 

 自信たっぷりってわけだ。

 

「おもしれぇ、エドの友達でも容赦しねーからな」

「それは此方のセリフだね。エドワードのガールフレンドが相手でも、僕は情けなど掛けないよ」

 

 しばらく睨み合った後、互いに笑みを浮かべた。

 

「こういうのも悪くないね」

 

 ドラコはエドの肩に手を置いた。

 

「エドワード。また、ホグワーツで会おう」

「う、うん! また、ホグワーツで!」

 

 優雅に去っていくドラコを、エドは憧れの眼差しで見ていた。

 

「……にしても、ハッフルパフ以外のシーカーは全員同期って事になるな」

「そう言えばそうだね。一年でシーカーになったハリー・ポッターも凄いけど、二年でシーカーも十分に凄い事だよ! 二人共凄いなー」

「はっはっは、もっと褒めろ! お前も来年のチェイサーの座をしっかりキープしとけよ! 来年、ボコボコにしてやるからよ!」

「ぼ、僕、負けないよ! スリザリンは最強なんだ!」

 

 エドは興奮した様子でスリザリンの凄さを語り始めた。

 今まで、噂程度しか知らなかったスリザリンの内情。それは思っていた以上に面白そうなものだった。

 スリザリンに選ばれる者は、主に名家の子息と子女が多く、その生活振りはまさに上流階級というべきもの。

 週に何度も茶会が開かれ、美味しいお菓子を食べながら様々な事を話すらしい。

 

「スリザリンは悪の道に走る者が多いって、家族は言うんだ。だから、最初は恐ろしかったよ。実際、怖い人もたくさんいるんだ。だけど、ドラコが気にかけてくれてさ」

 

 エドはすっかりドラコの信奉者になったようだ。ちょっと、面白くないな。

 

「ドラコが良いやつなのは分かったから、さっさと教科書を買いに行くぞ!」

「わっ、待ってよ!」

 

 同じ寮にいれば、私だって気にかけてやれたんだ。

 そうじゃなくても、エドが逃げなきゃ……。

 

「……えっと、怒ってる?」

「怒ってねーよ」

 

 エドのご機嫌取りの言葉を聞きながら、私はフローリシュ・アンド・ブロッツ書店の前までやって来た。

 驚いた事に、店の外まで行列が出来ている。

 

「スゲーな。なんだこれ」

「ああ、ロックハートが来てるんだよ。サイン会だってさ」

「ロックハート? 聞いた事あるような……って、そう言えば、ハーマイオニーが持ってる本の作者じゃねーか」

 

 どれどれっと中を覗いてみると、奥の方にハンサムな男が愛想を振り撒いていた。

 

「おお、結構イケてるじゃねーか」

「そ、そうかな?」

「この行列も納得だな」

 

 男も女も顔が良い事に越した事はない。

 見た目よりも性格が大切って言うヤツもいるけど、ハンサムで性格も良いときたら、それこそ最強だ。つまり、ウィリアムが今のところは最強って事だな。

 ロックハートもイケてるけど、ちょっと歳が行き過ぎている。

 

「エレイン! 僕達は教科書を買いに来たんだよ!」

 

 ロックハートを見ていると、エドに腕を引かれた。

 珍しい事もあるものだ。

 

「なんだよ、妬いてんのか?」

「そっ、そういうわけじゃないけど……」

 

 分かりやすいヤツだ。

 

「そんじゃ、さっさと買って、お前の家に行くとするか」

「う、うん!」

 

 教科書を買い終えて外に出ると、丁度、ハリーとロンに会った。

 

「よう、ハリー。ロン」

「あっ、エレイン」

 

 ハリーは赤毛の集団に囲まれていた。おそらく、ロンの家族だろう。

 

「あら、二人のお友達?」

 

 ずんぐりむっくりな体型のおばちゃんがにっこり微笑んだ。

 

「エレイン・ロットだ。こっちはエドワード・ロジャー」

「エレインと、エドワードね。よろしく。私はロンの母のモリーよ」

 

 挨拶を終えると、モリーは店内でサイン会を続けているロックハートを発見して歓声を上げた。

 

「行くわよ、ジニー!」

「あ、うん」

 

 その二人をロンは恥ずかしそうに見ていた。

 

「ママはロックハートに夢中なんだ」

「みたいだな」

 

 ハリーも苦笑いを浮かべている。

 

「ところで、エドワードだっけ? 前にマルフォイと一緒に居なかったか?」

 

 ロンがエドを睨みつけた。

 

「……それが?」

 

 驚いた。エドまでロンを睨みつけ始めた。

 

「おい、どうした?」

 

 二人の険悪な雰囲気に割って入ると、エドは鼻を鳴らした。

 

「行こう、エレイン」

「え?」

 

 エドは私の腕を掴んで強引に引っ張り始めた。

 

「あーっと……、ホグワーツでな」

「う、うん」

 

 返事はハリーからだけだった。ロンは相変わらずエドを睨んでいる。

 

「どうしたんだ?」

「あいつら……、いつもドラコに失礼な態度を取るんだ」

「たしかに、事ある毎に喧嘩してるよな、あいつら」

 

 それにしても、友達の為に怒るなんて、中々やるじゃないか。

 

「おい、エド」

「なに?」

「腕じゃなくて、手を掴めよ」

 

 そう言って、エドの手を腕から外して、その手を握った。

 

「強引なのは嫌いじゃないけどな」

「えっと、ごめん……」

「さっきのお前は男前だったぜ」

 

 私が褒めてやると、エドは顔を赤くした。

 

「……さっきの、ウィーズリーとポッターはエレインと仲が良いんでしょ?」

「それなりにな」

「僕は……、好きじゃないけど、エレインの友達に失礼な態度を取っちゃった……」

「気にするなよ。ロンもお前が気に入らないみたいだしな。お互い様ってヤツだ。それより、お前の家にはどうやって行くんだ?」

「え、煙突飛行ネットワークを使うんだよ」

「ああ、本で読んだ事あるな。へー、面白そうじゃん」

 

 漏れ鍋に戻ってくると、店主のトムに煙突を借りた。煙突飛行粉(フルーパウダー)は初めて使うけど、緑色の炎が中々に綺麗だ。

 

「《星の丘》だよ」

 

 エドの家の名前は実にロマンチックだ。

 

「はいよ。《星の丘》」

 

 目的地を告げると、目の前がグルグル回り始めた。

 この感覚はあまり好きになれそうにない。

 景色が固定されるのを待って、私は暖炉から飛び出した。

 

「やあ、エレイン。待ってたよ」

「ウィル!」

 

 私に気付いたウィリアムが駆け寄ってきた。相変わらず、輝かんばかりのイケメンだ。

 やっぱり、ロックハートよりもウィリアムの方が素敵だな。

 どさくさに紛れて抱きつこうかと思ったら、後ろからエドが飛び出してきた。

 

「……ふう。到着」

「エドもおかえり」

「ただいま、ウィル兄ちゃん」

 

 エドの家は中々面白そうな場所だった。

 数字がなくて、針が六本ある時計。グルグル回っている振り子。カチャカチャと勝手に動いている食器。

 さすが魔法使いの家。私の部屋はおろか、一般的なマグルの家とはひと味もふた味も違う。

 

「あら! あらあら! エレインちゃんが来たのね!」

 

 二人の姉だろうか、すごい美人が現れた。レネに近い、おっとりとした雰囲気を感じる。

 

「こんにちは、エレインちゃん。貴女の話は二人からよーく聞いてるわ。歓迎するから寛いでちょうだいね」

「あ、どうも」

「今、食事の支度をしているの。部屋を用意してあるからエドに教えてもらって!」

 

 言うだけ言うと、美人のネーチャンはキッチンに戻っていった。

 

「エド。お前の姉ちゃん、美人だな」

「え? 今のはママだよ?」

「……マジか」

 

 ウィルが今年六年生で十八歳だから、すくなく見ても三十八……。

 

「母さんは四十二だよ」

 

 私の疑問を察したのか、ウィルが驚くべき事を言った。

 

「後で秘訣を聞いておくか……」

 

 とりあえず、エドに部屋の案内をしてもらった。


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