【完結】エレイン・ロットは苦悩する?   作:冬月之雪猫

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第十三話『禁じられた森へ』

第十三話『禁じられた森へ』

 

 クリスマスを目前に控えた週末、魔法生物飼育クラブの活動の為にハグリッドの小屋を尋ねると、ハグリッドはニコニコしながら言った。

 

「禁じられた森に入る許可が出たぞ!」

 

 一緒に来た全員が声無き悲鳴を上げた。

 さすが、ハグリッド。ノーバートの恐怖に慣れてきた頃を見計らって、新鮮な恐怖を用意したようだ。

 

「お前さん達に見せたいもんが山ほどあってな! ダンブルドア先生や、マクゴナガル先生に頼み込んだんだ! フラッフィーも見せてやるからな!」

「……そろそろ、私も遺書を用意した方がいいのかな?」

 

 チョウが呟いた。

 

「だから、反対だったんだ……」

 

 レネに誘われてクラブに入ったアランが深々と溜息をこぼした。

 

「あら、面白いじゃない。私も一回は入ってみたいと思っていたのよ」

 

 ジェーンに誘われたエリザベスがカメラのレンズを拭きながら言う。

 最近、レイブンクローのパパラッチという異名を拝命した彼女はノーバートに対しても恐怖より好奇心を優先させる変わり者だ。

 

 ――――超かっこいいじゃん!

 

 そう言って、カメラを構える彼女の姿は尊敬に値した。ただのミーハーではない。こいつは筋金入りだ。

 

「ロン。そろそろ慣れたら?」

 

 ジニーがガタガタ震えているロンにやれやれと肩を竦めている。彼女はクラブの発足を聞きつけて、自分から入会を希望した強者だ。

 ノーバートの世話も率先してこなし、一番精力的に活動に参加している。

 

「それにしても、大分メンバーが増えたな」

 

 初期メンバーの私、エド、ハーマイオニー、レネ、ジェーン、チョウ、ハリー、ロン、セドリックに加え、アラン、エリザベス、ジニーが入会した事で、総勢十一人の大規模なクラブになった。

 チームでチョウと話していた時にアリスが興味を示していたし、カーライルも気が向いたら参加してみたいと言っていたから、今後も増える可能性がある。

 

「全員で行くのかな?」

 

 エドが首を傾げながら言った。たしかに、ただでさえ危険な禁じられた森に、この人数で入るのはヤバイ気がする。

 

「なあ、ハグリッド。ここにいる全員で森に入るのか?」

「あー……、それがなぁ。ダンブルドア先生に、五名までで希望者を募るように言われとるんだ」

 

 まあ、当然だな。

 

「けど、安心せい! 今回行けなかったヤツは次回連れて行ってやるからな!」

 

 一瞬、逃げられるかもしれないと希望を覗かせたチョウ達の顔が絶望に沈んだ。

 

 結局、第一陣は私とエド、セドリック、ハリー、エリザベスの五人に決まった。

 ちなみに、ハリーと私はハグリッドから直々に指名された。

 エドは私が指名された直後に名乗り上げ、エリザベスは自らの好奇心に従って志願し、セドリックは年長者として、みんなを守ると息巻いている。

 ジニーも来たがったが、ロンが必死な形相で阻止した。

 

「エ、エレインの事は僕が絶対守るからね!」

 

 エドは決意に満ちた表情で言った。

 

「お、おう」

 

 少し気圧されつつも、悪い気分じゃなかった。

 初めて漏れ鍋で会った時は情けないヤツだと思っていたけれど、最近は頼もしさを感じるようになって来た。

 普段弱気なのは相変わらずだけど、いざという時はしっかり男を見せる。

 ノーバートの世話をしに行く時なんか、いつも私を庇える位置に立っている。

 保留にしていた答えを、そろそろ教えてやってもいいかもしれない。

 

「おい、エド」

「なに?」

「お前、かっこいいぞ」

「へ……?」

 

 エドの顔が一気に真っ赤に染まった。

 こういう素直な所がいいんだ。

 

「おっ、マクゴナガル先生が来たぞ! スネイプ先生も一緒だ!」

 

 校舎の方からやって来た二人にハグリッドが大きく手を振る。

 スネイプが来たのは意外だった。ハリーが露骨に嫌そうな表情を浮かべている。

 

「お待たせしました。準備はよろしいですか?」

「はい! バッチリです!」

 

 マクゴナガルはハグリッドの返事を聞いた後、私達を見た。

 

「先に言っておきますが、くれぐれも勝手な行為は控えるように。禁じられた森は非常に危険な場所です。おまけに、目的がケルベロス……」

 

 マクゴナガルは深々と溜息を零した。

 

「罰則でもなく、禁じられた森に踏み込むとは……」

 

 スネイプもいつもより一層青白い表情で呟いた。

 二人共、とてもクラブ活動の引率に来たとは思えない緊張感だ。

 

「……しかし、まあ」

 

 マクゴナガルは私を見た。

 

「これも一つの貴重な経験というものなのでしょう」

 

 不思議な目だった。いつもの厳しい眼差しとは違う、なんだか、妙にくすぐったい気分になる目だった。

 

「お待たせしてしまったかのう?」

 

 驚いた事に、ダンブルドアまで現れた。ハグリッドも目を丸くしている。

 

「ダンブルドア先生! 先生まで来て下さったんですか!」

 

 ハグリッドが駆け寄ると、ダンブルドアは優しく微笑んだ。

 

「ハグリッドよ。お主の熱意に儂もあてられてしまったんじゃ。どうか、この老いぼれも禁じられた森ツアーに参加させてもらえんかのう?」

「も、もちろんええです!」

 

 ハグリッドは興奮した様子で言った。

 

「では、楽しみにしておる生徒達をあまり待たせてはいかん。早速、出発するとしよう」

「はい! よーし、行くぞ!」

 

 ダンブルドアの号令に次いで、ハグリッドが先導し始めた。

 その後ろに私達が続き、最後にマクゴナガルとスネイプが続いた。

 鬱蒼と茂る禁じられた森の奥から、獣の遠吠えのようなものが聞こえる。

 隣を見ると、エドが青褪めていた。私はその手をそっと握ってやった。

 

 ◇

 

 ダンブルドアの動向を監視させていた使い魔から、彼が生徒を引率して禁じられた森へ向かったという報告が届いた。

 これは好機だと、少年は動き出した。オリジナルは寄り代と共に延命の為の狩りに出ているが、帰ってくるのを待っている暇はない。

 魂を吸い取った骸の頭を蹴り飛ばし、使い魔に命令を下す。

 

『三階の廊下に一番近い出口へ連れて行け』

『――――了解した』

 

 それは巨大な蛇だった。蛇の王と謳われる魔獣、バジリスクは少年の本体を咥えると、驚くようなスピードで細い管へ飛び込み、目的の場所へ向かう。

 生徒や教師、ゴースト達にも気をつけながら禁じられた廊下の前までやって来た少年は扉の内側へ踏み込んだ。


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