【完結】エレイン・ロットは苦悩する?   作:冬月之雪猫

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第七話『雌伏』

第七話『雌伏』

 

 もう直ぐ、新学期が始まる。私はエドと一緒にダイアゴン横丁を訪れた。

 よく考えてみると、こうして二人っきりになる機会は滅多にない。今日は存分に楽しもう。

 

「エド。あっちに行ってみようぜ」

「うん」

 

 魔法使いは古きを尊ぶ。だから、マグルの店みたいに短いサイクルで入れ替わったりはしない。

 だけど、通い慣れた道もデートとなれば一味変わってくる。

 

「へへっ、どうだ?」

 

 一人だったら決して入らなかっただろう、オシャレ着の店に入って、普段着ないような服を試着した。

 

「可愛いよ、エレイン! とっても、似合ってる!」

 

 露出の多い服を着れば真っ赤になって、フリルの多い服を着れば喜ぶ。

 エドはとても素直で、口にする褒め言葉はどれも本心だ。だからこそ、胸に響いてくる。

 

「じゃーん。どうだ?」

「ちょっ、エレイン!?」

 

 下着も売っていたから、ブラジャーを試着してみた。反応は予想通り。茹でダコ一丁上がり!

 

「ちょっと待ってろよ」

 

 私はエドが特に大きく反応していた服をいくつか買った。

 

「ほらほら、次に行くぞ!」

 

 あわあわ言ってるエドの腕を掴んで、次の店へ向かう。

 それにしても、腕を組んでいると思った以上にドキドキしてくる。

 心は軟弱な癖に、腕周りには逞しい筋肉がついていた。

 

「結構、鍛えてるんだな」

「え? ああ、うん。クラッブやゴイルと一緒に筋トレをしてるんだ。はじめは二人に無理矢理やらされていたんだけど、段々楽しくなってきちゃってさ」

「へー、あのゴリラ共とか」

「ゴリラって……。あの二人は……、ううん。たしかにゴリラだね」

「お前、奴等とどういう風にコミュニケーションを取ってるんだ? いっつもウホウホ言ってて、人間の言葉を喋ってる所なんて殆ど見ないぞ」

「ええっ!? いや、普通に喋ってるだけだよ。確かに、ちょっと喋り方が独特だけど……」

 

 話しながら歩いていると、前方に見覚えのある人影が立っていた。高級クィディッチ用具店のショーケースを食い入るように見つめているのはハリーだった。

 

「おい、ハリー。何してんだ?」

「あっ、エレイン。エドも、久しぶりだね」

「おう、久しぶり」

「久しぶり、ハリー」

 

 エドも普通に挨拶を交わした。前は刺々しかったけれど、最近はそれなりに良好な関係を築いている。

 

「ハリーも買い物か?」

「ううん。これを見てたんだ」

「これ?」

 

 ショーケースを覗き込んでみると、そこには一本の箒が飾られていた。

 

「《炎の雷(ファイア・ボルト)》。最先端技術の粋を集めた、世界最速の競技用箒……、スゲー!」

 

 思わず食い入るように見つめてしまった。

 素晴らしい。その一言に尽きる。この箒の性能は、私が使っている箒と比べれば月とスッポンだ。

 

「いいよね、これ」

 

 ハリーがうっとりした表情で見つめている。気持ちは痛いほどによく分かる。

 

「欲しい……」

 

 値段は不明。安くない事だけは分かる。

 物欲しそうに見つめていると、店主が迷惑そうに睨んできた。

 

「そっ、そろそろ行こうよ、エレイン」

「……おう」

 

 名残惜しい。あの箒が手に入れば、きっと誰にも負けない。

 去年のスリザリン戦みたいな無様を晒さなくてすむ。

 

「そんなに欲しいの?」

「そりゃ、欲しいに決まってんだろ! あの箒がありゃ、まさに鬼に金棒ってヤツだぜ!」

「……えっと、なにそれ」

「ああ、日本のことわざだよ。強いヤツが強い武器を持てばよ、それこそ最強の組み合わせってもんだろ? チサトに教えてもらったんだ」

「チサト?」

「うちのチームのビーターだ。まあ、去年で引退したけどな」

 

 スネイプの葬儀の後、クラブ活動全般が禁止になったから、未だに新メンバーが決まっていない。マイケルは新学期早々に選抜試験を行う予定だと言っていた。

 

「そうなんだ……」

 

 私はハリーに別れを告げて、エドと一緒に次の店へ向かった。

 そこはマグルの世界で言う所のスーパーマーケットのような場所で、専門店にしか置かれていないような品は無いものの、日用雑貨から食料品まで、多種多様な商品が揃っている。

 魔法界の玩具や時計、水晶、調理器具まで売っている。見ているだけで面白い。

 

「何を買うの?」

「いろいろと」

 

 私はエドを連れて食料品売場に向かった。

 マグルの世界でも見かける物もあれば、見慣れない物もあった。

 

「えっと、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、ドラゴンのテール肉……」

「ずいぶん買うんだね。っていうか、ドラゴンのテール肉なんてどうするの?」

「イリーナが出発前にパーティーをやりたいって言うから、その材料だ。しっかし、ドラゴンの肉って、普通に売ってるんだな」

「僕もビックリだよ。えっと、なになに……。『食用に養殖したカーディフ・ペンゴルン種は栄養たっぷり!』って、養殖なんてしてるんだ」

 

 説明には写真も添えられていた。トロそうな翼を持たないドラゴンが鎖で繋がれている。

 

「これって、ある意味で遺影だよな……」

「すごく食べ辛くなるね……」

 

 深く考えるのはやめておこう。他の材料を買い揃えて、私達はさっさとマーケットを後にした。

 空を見上げると、大分暗くなってきている。日暮れ前には帰ってくるように厳命されているから、私達は急ぎ足で漏れ鍋に向かった。

 

「あっ、ごめん。ちょっと先に行ってて!」

「え? おい、どうしたんだ!?」

 

 あと少しで漏れ鍋につくって所で、いきなりエドが来た道を引き返した。

 

「……甲斐性なしめ」

 

 一応、私は恋人だぞ。それを放ったらかしにするのは如何なものだろうか。

 

「あら? エレインじゃない!」

 

 剥れていると、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「ジェーン! 久しぶりだな」

「うん! 久しぶり! おーい、リザ! エレインが居たよ!」

 

 どうやら、エリザベスとの仲は完全に修復されたようだ。

 近くの店のショーケースを見ていたエリザベスが駆け寄ってきた。

 

「よう、エリザベス」

「やっほー、エレイン。一人?」

「いいや、連れ合いが居たんだけど……、いきなりどっか行きやがった……」

「ああ、エドね。なるほどなるほど、だから剥れてるわけかー」

 

 私は二人と一緒に近くのアイスパーラーに入った。

 チョコレートサンデーを食べながら、互いに近況を報告し合う。

 

「へー! とうとう付き合い始めたんだ!」

「……その筈なんだけどな。普通、デート中に恋人を置いて行くか!? あの野郎……」

「どうどう、エレイン。男の子なんて、そんなものよ?」

 

 他愛ない話を続けていると、サンデーが無くなってしまった。もう一つ頼もうかと悩んでいると、急にエリザベスが声を落として言った。

 

「……ところで、どう思う?」

 

 私はサンデーを頼むのを中断して、エリザベスの目を見た。

 さっきまでとは違う。その瞳には復讐の炎が宿っている。

 十中八九、シリウス・ブラックの脱獄の件だろう。

 

「動き出したって事だろうな」

 

 私の言葉にエリザベスはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「……いろいろ調べてみたの」

 

 エリザベスは一冊のノートを取り出した。差し出されたソレを開いてみると、そこにはヴォルデモートの情報が事細やかに記されていた。

 

「……危ない橋は渡ってないだろうな」

「今のところは大丈夫。そこに載っている情報は調べる気のある者が調べれば、誰でもいきつくものよ」

 

 そこには一人の青年の写真があった。名前はトム・マールヴォロ・リドル。ヴォルデモート卿の異名を持つ男の若き日の姿。

 闇の魔術に耽溺し、蛇の言葉を操り、やがて世界に恐怖と混沌を蔓延させた史上最悪の犯罪者。

 

「過去の日刊預言者新聞と、彼の足跡から逆算した年代の生徒名簿を調べたの。少し苦労したけど、これでスタート地点には立てたと思う」

「それで……、どうするつもりなんだ?」

「千里の道も一歩からってね。まずは、この頃の彼から繋がる糸を辿ろうと思う」

 

 エリザベスはノートのページを捲った。そこには、多くの名前が記載されていた。中にはハグリッドやダンブルドアの名前がある。

 

「敵を知り己を知れば百戦危うからずって事か」

「そういう事よ。勝てる戦をしなくちゃね」

 

 エリザベスは凶暴な笑みを浮かべた。ジェーンは苦笑いを浮かべている。

 

「それに、恐らくはダンブルドアが不死鳥の騎士団を結成するわ。それに加えてもらう為の切り札作りって要素も含んでいるの」

「不死鳥の騎士団?」

「これよ」

 

 エリザベスは別のノートを取り出した。そこには、十年前に闇の軍団と戦った魔法使い達の集団について記されていた。

 名前は不死鳥の騎士団。アルバス・ダンブルドアが率いた戦士達だ。

 

「たぶん、ハリーやロンは加えてもらえると思う。というか、間違いなく加えられる。なにせ、彼は一度ヴォルデモートを倒した実績を持っているし、今後も戦いの渦中に巻き込まれる危険性が極めて高いもの。……ただ、今から彼の腰巾着になっても、ダンブルドアは私を加えてくれない。子供だからね。だから、加えざる得ない状況を作る」

 

 情報収集はその為の足場作りという事か……。

 

「……それは私一人だと難しい事。だから、エレイン」

 

 エリザベスは言った。

 

「力を貸してちょうだい」

「いいぜ」

 

 即答する私にエリザベスは笑みを浮かべた。

 

「そう言ってくれると思ったわ」

 

 約束したからな。無茶をするなら、私も付き合う。

 

「あっ、エドだよ!」

「やっと帰って来たか」

 

 私は代金をテーブルに置くと、席を立った。

 

「じゃあ、新学期にな」

「ええ、よろしくね」

「おう」

「またね、エレイン!」

「またな、ジェーン」

 

 とりあえず、今は私を置き去りにしたエドに説教をくれてやろう。


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