【完結】エレイン・ロットは苦悩する?   作:冬月之雪猫

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第十六話『ルーナ・ラブグッド』

第十六話『ルーナ・ラブグッド』

 

 ファイア・ボルトの性能はまさしく桁違いだった。ハッフルパフとの試合が始まって一分二十三秒、スニッチが現れ、私は即座に追跡を開始した。

 すると、遥か彼方をウロウロしていた筈のスニッチが目の前に現れた。慌ててブレーキを掛けると、見事な制動性を示した。そのまま逃げるスニッチを追うと、ファイア・ボルトは私の意志に完璧に応えてみせた。

 

「……おいおい、マジかよ」

 

 スニッチを掴んだ時、セドリックはまだ遥か後方にいた。

 観客達が驚くほど静かになっている。実況のリー・ジョーダンも言葉を失っていたようだ。

 数秒後、セドリックが追いついた時、ようやくジョーダンが言葉を取り戻した。

 

『し、試合終了!! 試合終了です!! なんと、試合開始一分二十六秒でエレイン・ロットがスニッチを掴み取りました!! これが、これがファイア・ボルト!! 世界最速最高最強の箒!! スゲー!!』

 

 観客達の時も動き出したようだ。嵐のような喝采が沸き起こる。

 

「……か、完敗だ。必死に加速したのに、まったく追いつけなかった」

 

 セドリックは項垂れていた。

 

「どんまい、セドリック。これは実力の差じゃねーよ。……ファイア・ボルト、スゲーな」

 

 勝ちはしたが、なんだか素直に喜ぶ事が出来ない。

 今回のコレは完全にファイア・ボルトの性能のおかげだ。

 

「……まあ、勝ちは勝ちだ。エドには後でたっぷり礼をしないとな」

 

 スニッチを手の中で弄びながら、私はゆっくりと高度を下げた。

 

 ◇

 

 ハッフルパフにファイア・ボルトの力で完全勝利した日から数日後、私達の下に一通の手紙が届いた。

 

「おっ、ハグリッドからだ」

 

 手紙には、荒々しい文字で『次のホグズミード村行きの日、校内に残って欲しい。魔法生物飼育クラブの活動を行いたい。今回、特別なゲストが来てくれる事になった!』と書かれていた。

 次のホグズミード村行きの日といえば、土曜日だ。

 

「特別なゲストって、誰の事かしら」

 

 横から手紙を覗き込んできたジェーンが首を傾げる。

 

「また、スゲー怪物でも手に入れたんじゃないか?」

「……ノーバートやフラッフィーを超える怪物とかあり得るかな?」

 

 アランが眉を潜める。

 

「なにしろハグリッドだからねー!」

 

 エリザベスの言葉にレネまでうんうんと頷く始末。

 素晴らしい信頼感だ。全員の顔色が青を通り越して白くなっている。

 

「……けど、新学期になってから活動が出来てないし、良い機会じゃないかな?」

 

 レネが言った。

 

「そうだな。アルブスアーラにも会いたいし……。そう言えば、ハーマイオニーはどこ行った? アイツにも言っとかねーとな」

「ハーマイオニーなら、さっき下級生の子と一緒にいたよ」

「下級生と?」

「うん。ルーナっていう子。最近、よく一緒にいるみたいよ」

「そうなのか?」

 

 知らなかった。最近はクィディッチの訓練が忙しくて、夜も寮に戻るなり眠っていたから……。

 なんだか面白くない気分だ。

 

「……とりあえず、ハーマイオニーに活動の事を教えに行ってくる」

 

 私はもやもやした気分のまま寮の談話室を後にした。

 ハーマイオニーとは、エドの次に長い付き合いだ。新しい友達が出来たのなら、教えてくれたっていいじゃないか!

 

「とりあえず、居場所を調べないとな」

 

 カバンから忍びの地図を取り出した。

 

「我ここに誓う。我よからぬ事を たくらむ者なり」

 

 薄汚れた羊皮紙にインクの染みが広がっていく。

 やがて、それはホグワーツの詳細な地図へ変わり、無数の足跡が現れた。

 目を細めながらハーマイオニーの居そうな場所を探す。

 

「おっ、いたいた! いたずら完了っと」

 

 地図を元の羊皮紙に戻してカバンに仕舞い、私は図書館に向かった。

 

 ハーマイオニーはやはりと言うか、見知らぬ少女と本を読んでいた。

 なんとなく、声を掛けにくい。まるで、嫁の浮気現場を目撃した亭主にでもなった気分だ。

 

「……エレイン。なにしてるの?」

 

 本棚の影に隠れていたのに気付かれた。

 

「よ、よう」

「……どうしたの?」

 

 ハーマイオニーの問いには答えず、私はルーナを見た。

 奇妙なメガネをつけている。

 

「そいつは?」

「そいつなんて言わないの! ルーナよ。ルーナ・ラブグッド」

「……あたし、あなたの事を知ってるよ。この前の試合、すごく早かったね」

「あれは私の力じゃねーよ。ファイア・ボルトがスゲーだけだ」

「でも、ファイア・ボルトに乗ったのがあたしだったら、きっと負けてたと思うよ」

 

 少し喋っただけで分かる。こいつはいいヤツだ。

 

「……ルーナはハーマイオニーと仲いいのか?」

「もしかして、嫉妬されてる?」

 

 しかも、鋭い奴だ。さすが、レイブンクローの生徒。

 

「嫉妬って……、エレイン」

 

 ハーマイオニーが呆れている。

 

「……エレインって、本当に独占欲が強いわよね。知ってたけど」

「ウッせーな! 新しい友達が出来たのに私に紹介しねーなんて、水臭いじゃんか!」

「なんで友達が出来る度に報告しなきゃいけないのよ……」

「うっ……」

 

 私がションボリすると、ハーマイオニーは深い溜息を零した。

 

「まったく、エドとイチャイチャし始めると私の事なんて頭の中からほっぽり出す癖に」

 

 ジトッとした目で睨まれて、私は目を泳がせた。

 

「……エレインって、めんどくさいタイプなんだね」

「んな!?」

 

 グサッと来た。自分では割りとサバサバしてる方だと思っていたのに!

 

「エレインはめんどくさいわよ。彼氏がいる子に、彼氏より自分を優先させようとするくらいだし」

「わーお。それはめんどくさいね!」

「うっ、うっせーな!」

「……うっせーしか言えないんでしょ。図星だから」

「うぐっ」

 

 ちょっと涙目になって来た。

 

「……まあ、このくらいにしておいてあげる。ルーナの事を話さなかったのは、貴女に話すとちょっと面倒な事になりそうだったからなの」

「面倒ってなんだよ……」

「不貞腐れないの! それだけ慎重になる必要があったのよ」

「……どういう事だよ」

 

 唇を尖らせながら尋ねると、ハーマイオニーは言った。

 

「……質の悪い人がルーナの持ち物を隠したり、彼女の悪口を言ったりしていたの」

「それって……」

「ああ、安心してちょうだい。もう、解決済みだから」

「解決って……?」

「彼女に意地悪をしていた人達にはたっぷりとお灸をすえた後って意味よ」

 

 微笑むハーマイオニー。何故か、背筋がゾクゾクした。

 

「……ハーマイオニーって、怒らせると怖いんだよ」

「知ってる」 

 

 ハーマイオニーは正義感が強い。イジメを目の当たりにして、黙っていられる性格じゃない。

 

「……具体的にどうしたんだ?」

「お説教三時間コース」

「うげっ……」

 

 ハーマイオニーの説教は正論を延々と叩きつけてくるから質が悪い。

 しかも、終わった後はしばらく前後不覚になってしまう程の破壊力を持ち合わせている。

 一時間でもキツイのに三時間コースとは……、ちょっと同情してしまう。

 

「……横で聞いてて泣きそうになったの」

「どんまい……」

「ちょっと! どうしてそういう反応になるのよ!」

 

 プンプン怒るハーマイオニー。

 

「それより、どうして私に言わないんだよ。言ってくれれば協力したのに」

「エレインの場合は手が出るでしょ」

「おう!」

「それで逆に罰則を受けて先生に叱られてごらんなさい。相手を調子づかせる結果になった筈よ」

「……なるほど」

 

 さすが、ハーマイオニー。

 

「……っと、そうだ。本題を忘れてた。次の土曜日、ハグリッドがクラブ活動をしたいって言ってきたぞ。なんでも、特別ゲストを呼んだらしい」

「特別ゲストって?」

「書いてなかった。けど、たぶん、新手の怪物だろ」

「クラブって、ハーマイオニーが話してた魔法生物飼育クラブの事?」

 

 ルーナが瞳をキラキラさせながら聞いてきた。

 

「ええ、そうよ」

「ねえ。あたしも参加したい!」

「……言っておくけど、ドラゴンの世話とかもあるのよ?」

「すごく楽しそう」

 

 ハーマイオニーはやれやれと肩を竦めた。

 

「いいわ。なら、次の土曜日に一緒に行きましょう」

「うん!」

 

 その後、私は二人と一緒に図書館で時間を潰した。

 二人も特に読みたい本や調べたいものがあったわけではないらしく、各々好きな本を読み耽っていた。

 

 そして、土曜日がやって来た。ハグリッドの小屋には、ハグリッドの他にもう一人、老人が立っていた。

 

「お前さんらは運がええぞ! こちらが今日のゲストだ!」

 

 ハグリッドに促され、老人はコホンと咳払いをした後に自己紹介をした。

 

「どうも、ニュートン・スキャマンダーです」




ちなみに映画の三作目のこのタイミングで、実際にスキャマンダーが来てたりします(´・ω・`)ノ忍びの地図をハリーが貰ったシーンで、地図にスキャマンダーの名前があるんですよね。

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