【完結】エレイン・ロットは苦悩する?   作:冬月之雪猫

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第五話『ガキ』

第五話『ガキ』

 

 四方を森で囲まれたヌルメンガード要塞。その一室で、ヴォルデモートはチェスの盤を睨んでいた。

 

「……これで、ダンブルドアは僕の思考を読めなくなった筈だ」

 

 愉快犯。そう思わせる為の布石は打ち終えた。

 

「まあ、あながち間違いでもないけどね」

 

 僕自身、少し驚いている。オリジナルの話ではなく、僕自身の話だが、以前は人の死をそれなりに忌避していた。

 マートル・ウォーレン。僕が初めて殺した女の子。バジリスクを目撃され、石化させた後に、アバダ・ケダブラで命を奪った。そして、最初の分霊箱を造り上げた。それが、僕だ。

 文字通り、魂を引き裂かれるような苦痛を味わった。人を一人殺す重さに狼狽えた事を覚えている。

 

「……あれだけ殺して、少しも動じていない」

 

 オリジナルと同化した影響だろうか? あるいは、分霊箱が主人格を乗っ取った影響かもしれない。

 まるで、アリを踏みつぶしたような感覚しかわかない。

 

「つまらない」

 

 賢者の石を手に入れた時や、グリンゴッツに侵入した時はワクワクドキドキしたものだ。

 それに対して、この虚無感はなんだろう。

 

「やりたい事をやっている筈なのに、なんだかシックリこないな」

 

 僕は部屋を出た。途中屋敷しもべ妖精を見つけた。怯えた目を僕に向けてくる。

 いつもの事だ。僕はいつだって、怖がられている。

 

「ここだね」

 

 扉をノックしてから中に入る。そこには、くたびれた老人がいた。

 

「やあ、ゲラート。元気?」

「……ヴォルデモート。ようやく、殺す気になったのか?」

「なんで? 僕に君を殺す理由はないよ。それより、そろそろ気は変わった? 僕と一緒に、新世界を作ろうよ!」

 

 ゲラートは深く息を吐いた。

 

「……貴様の望む世界とは何だ?」

「それはもちろん……、えっと」

 

 おかしいな。構想はいろいろとあった筈なのに、どれもシックリこない。

 

「……とりあえず、僕が王様になる」

 

 ゲラートは口をポカンと開けた。なんかバカにされたような気分だ。

 

「なんだい、その顔は!」

「……貴様。いや、お前は……、そうか」

「ん?」

 

 ゲラートはまたまたため息を吐いた。

 

「そういう事か……」

「なんなの?」

「ヴォルデモート。……少し、話をするか?」

「いいよ! 君となら、楽しい時間が過ごせそうだ!」

「……そうか」

 

 なんだか、ウキウキしてくるね。

 ゲラートは予想に反して、実に普通な話を振ってきた。

 エジプトの神殿は素晴らしいだとか、アメリカには面白い魔法生物が生息しているとか、剽軽な魔法使いの話をいろいろ。

 どうしてかな、すごく楽しい。

 

 ◆

 

「――――ガキだ」

「ガキ……?」

「無邪気って事だよ。悪意なんて無いから、スズメバチに刺されて死んでも、スズメバチを恨む気にはなれない。ただ、運の悪さを呪って、神様に文句を言う程度だ」

「悪意が無いって……、そんな筈は無いでしょ! だって、人を殺しているのよ!」

 

 どう言えば分かってもらえるかな。

 

「ガキがアリを楽しそうに踏み潰す光景、見たことないか?」

「……それと一緒って言いたいの?」

 

 ハーマイオニーの表情が歪む。

 

「……ああいうヤツ、他にも見たことがあるんだよ。それも、結構たくさん」

「冗談でしょ? あんな極悪人がそんなにいたら、世界はとっくに終わってるわ!」

「そうかもな」

 

 話はここまでにしておこう。これ以上話すと、きっと怒らせる。

 出来れば、話をしてみたいと思ったなんて、とてもじゃないけど言えない。

 

「……ロンの事が気になる。大広間に行こうぜ」

「ええ……」

「うん……」

 

 二人と一緒に大広間へ向かうと、そこには予想外の人物がいた。

 空中をふわふわ浮かびながら、ハリーに話しかけている。

 

「ロ、ロン!?」

「……あなた」

 

 ロンはゴーストになっていた。

 

『やあ! ……あーっと、あんまり辛気臭い顔はしなくていいよ。こうして……まあ、生きてはいないけど』

 

 ハーマイオニーは泣き出してしまった。

 ゴーストになっているという事は、ロンは本当に殺されてしまったという事だ。

 

「……ロン。その……、気分はどうだ? まあ、良くないだろうが……」

『まあ、最悪よりはマシって感じかな。まだ、慣れてないんだ』

「そっか……。でも、こうして話せて、嬉しいよ」

『……うん。僕も、もっとみんなと話したかった。だから、まあ……、結果オーライってやつ?』

 

 きっと、喜んではいけない事なのだろう。それでも、嬉しいと思ってしまう。

 

『ただ……』

「どうした?」

 

 困った表情を浮かべるロン。

 私に出来る事があるのなら力を貸すつもりで聞くと、予想外の答えが返ってきた。

 

『兄貴達がやたらかまってくるんだ。今も、頼んでないのにチャドリーキャノンズのグッズをゲットしてくるとか言って突っ走って行っちゃったよ。……この後、おふくろ達にも会うんだよなぁ』

「……愛されてるって事じゃねーか」

『分かってるんだけど……。まあ、いっか』

 

 少し大広間の中を見回してみたけれど、他に新しく増えたゴーストはいなかった。


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