第六話『付和雷同』
大広間はまさに阿鼻叫喚。今朝の日刊預言者新聞がヴォルデモートの復活を報じた為だ。
「……これから、どうなっちゃうのかしら」
ハーマイオニーが不安そうに呟いた。
「アズカバンに収監されていた死喰い人を解放して、戦力も十分に揃っている筈。いずれにしても、そう遠くない内に動きがある筈だよ」
エリザベスはメモ帳を開きながら言った。
「なにか、新着情報はないのか?」
「もちろん、あるわよ。ヴォルデモートは、どうやらヌルメンガードを拠点にしたようね」
さすがはエリザベスだ。新聞のどこにも載っていない情報を当たり前のように繰り出してきた。
「……それ、どうやって調べたの?」
ジェーンが顔を引き攣らせながら聞くと、エリザベスは言った。
「ヌルメンガードに常駐していた魔法省の役人の一人がスクリムジョールに報告したみたい。生き残りは彼一人だったみたいね。スクリムジョールは敢えて彼を逃したのではないかって考えているみたい」
「だ・か・ら! どうやって、そんな情報を調べたのよ!」
明らかに学生が調べられる範疇を超えている。
ハーマイオニーは眉間に皺を寄せながらエリザベスに問い詰めた。
「魔法省にコネを少々。この一年、別に遊んでたわけじゃないんだよ?」
「コネって、情報の横流しじゃない! 大問題よ!?」
「どうどう。落ち着け、ハーマイオニー」
私はいきり立つハーマイオニーを落ち着かせながらエリザベスを見た。
「弱みでも握ったのか?」
「ピンポーン! ちょっと、浮気現場とか、違法の魔術品の所持とか、いろいろ調べ上げて揺すったらポロポロ情報を落としてくれるようになったわ!」
「……そいつ、信用出来るのか?」
「十二人が全員同じ解答を口にしているから、それなりに信憑性があると思うわよ」
「そんなにいるのかよ……」
エリザベスはクックックと悪辣な笑みを浮かべた。
「一人を徹底的に調べ上げたら、今度はそいつに他の人間の弱味を調べ上げさせるの。それを繰り返して、時には一度調べた人間も調べさせる。すると、あら不思議! 脅迫手帳のでっきあっがりー!」
「脅迫手帳って……」
みんなドン引きだった。
「……それ、私達の脅迫ネタとか書いてないわよね?」
「当たり前じゃん! ダンブルドアとか、マルフォイとかのネタはあるけどね!」
「ダンブルドアのネタって……?」
なんとなく気になって尋ねると、エリザベスはプークスクスと下品に笑いながら小声で言った。
「校長先生ってば、ゲイだったのよ」
「……今なんて言った?」
「昔のダンブルドアの知人から聞いた話なんだけどね。先生、学生時代はゲラート・グリンデルバルドと恋仲だったみたいなの。結構、ヤンチャもしてたって話だよ」
「待て待て!! おまっ、グリンデルバルドって、ダンブルドアが倒した闇の魔法使いの事だろ!? ヴォルデモートが現れる前は世界最強最悪とまで謳われた!」
「そうそう、そうなのよ! ……まあ、どっちが受けだったのかはわからなかったけどね。でもでも、昔の二人の写真を見つけたんだけど、どう見てもダンブルドアが――――」
「やめて!! 想像しちゃいそうだからやめて!! 私の尊敬しているダンブルドア先生のイメージが壊れちゃう!!」
ハーマイオニーが悲鳴をあげた。
「……ちなみに、写真って、今あるのか?」
「これだよ!」
写真にはとんでもないハンサムが二人映っていた。
なるほど、たしかにダンブルドアの方が女性的に見える。
「……やべーよ。私、これから先、ダンブルドアをどういう風に見ればいいか分からねーよ」
「ウププ。むしろ、私は前より先生の事が好きになっちゃった」
「お前が一番ヤベーな」
もしかして、ヴォルデモートよりやばい巨悪がここにいるんじゃねーの?
「……そっ、それより、拠点が分かっているのなら、すぐに解決するよね?」
若干頬が赤いレネの言葉に、エリザベスは「むりむり」と半笑いで言った。
「なんで!?」
「だって、相手は死んでいた筈なのに蘇ったのよ? 賢者の石は優秀な蘇生薬だけど、完全な死体に飲ませても意味が無いわ。例えば、ロンの死体に命の水を流し込んでも、ロンは蘇らない。それなのに、ヴォルデモートは復活した。なにかトリックがあるのは間違いないと思うけど、それを解き明かさない限り、勝ち目は無いと思うの」
「……それじゃあ、どうにもならないの?」
「そこはダンブルドアか、スクリムジョールが頑張るでしょ。……まあ、十中八九闇の魔術が関係していると思うから、闇の魔術アレルギーなダンブルドアには解明が難しい気もするけど」
「ちょっと、エリザベス! そういう言い方は無いと思うわ! 闇の魔術アレルギーだなんて!」
「落ち着けよ、ハーマイオニー。要は、手段を選んでいる内は勝ち目が薄いって話だろ?」
「そういう事。ダンブルドアの傍に闇の魔術に精通している人がいれば、それこそ鬼に金棒なんだけどね」
「闇の魔術に傾倒する人間の大半は死喰い人だからなー」
◆
ヌルメンガード要塞に集った死喰い人達は歓喜していた。
闇の帝王の復活。ありえない事と理解しながら、それでも待ち続けて、遂に報われた。
裏切り者共に嘲笑われながら、それでもアズカバンで十数年の歳月を過ごしてきたのも、すべてはこの時の為。
「――――我々は選ばれた! 魔法省で無様な屍を晒した愚か者共とは違う!」
ヴォルデモート卿は言った。
――――新世界を創造しよう。
最強の魔法使い。偉大なる魔王。死を克服した者。不滅の存在。
復活と同時にダンブルドアの側近を殺害し、魔法省に宣戦布告をした。
まさに大胆不敵。
「偉大なる闇の帝王の為に、我々は既存の世界を破壊する!」
彼らは忠義を貫いた。アズカバンに収監され、十数年もの間、先の見えぬ苦痛に耐え続けてきた。
その心は極限まで研磨され、忠義は狂信に変わった。
「アルバス・ダンブルドアの命を! ハリー・ポッターの命を! そして、この世界を我らが君に!」
◇
「……いやー、熱いね!」
「お前が煽ったのだろう……」
ゲラートが呆れたように目を細める。
「別に? アズカバンから出して、ここに連れて来ただけだよ。ほとんど勝手に熱狂しちゃってるんだ」
困ったものだよ。彼らはもっとクールになるべきだ。
「抑えておかねば、いずれ暴走するぞ」
「その時はその時だよ。どういう暴走をするのか、ちょっと興味があるし」
「……ヴォルデモート。お前にとって、彼らはどういう存在なのだ?」
「ん? なんだろう……」
配下や仲間? それとも、駒?
「……クィディッチの選手とフーリガンの関係かな」
ゲラートが深く息を吐いた。
「彼らが何をしても、お前にとっては対岸の火事に過ぎない。そういう事か?」
「うまい例えだね!」
「……まあ、あの程度の連中ならばダンブルドアが対処するだろう。それよりも、次はヌルメンガードを建造した時の話でもするか」
「いいね! 是非、聞きたいよ! ここは実に立派だ!」
僕も作ってみたいな。
オリジナリティ溢れる、素敵な城。出来るだけおどろおどろしい雰囲気にしたい。
扉の向こうで勝手に燃え上がってるバカ共が暴走して、全滅するまで一年ちょっとは掛かるだろう。
時間はたっぷりある。