【完結】エレイン・ロットは苦悩する?   作:冬月之雪猫

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第十話『脱出』

第十話『脱出』

 

 意識を取り戻すと、私は牢屋の中にいた。服もボロ布に変わっていて、手足には枷がハメられている。

 嫌な予感がして、布を捲り上げてみた。

 

「……とりあえず、まだセーフみたいだな」

 

 あまり考えたくはないが、ダレン・トラバースは私の《鷹の目》に興味を持っていた。

 鷹の目がマッキノンの血に由来するものだとすると、私の赤子にも遺伝する可能性が高い。

 つまり……、私は鷹の目を産む為の機械にされかねないという事。

 

「さてさてさーて」

 

 目を凝らしてみる。ダンブルドアは言っていた。私の目は、その気になれば万里を見通し、真実を見抜く。

 四方を取り囲む壁。その先を見る。

 

「……いけるじゃねーか」

 

 視界が切り替わった。暗い……いや、黒い世界が広がっている。

 所々に、ぼんやりとした橙色の燐光が見える。よく見ると、それは人だった。

 

「近くには誰もいないな」

 

 おそらく、杖や手荷物を奪い、手足を封じた事で安心したのだろう。

 

「……甘いな、あいつら」

 

 手枷と足枷には対呪文処理が施されていた。だけど、それだけで私を拘束出来たつもりなら甘過ぎる。

 私は耳の裏側を探った。

 やはりと言うべきか、髪留め用のピンはそのままだった。勉強の時とかに、前髪を耳元で束ねるために使う物だ。特に魔法も掛かっていない。だから、見逃したのだろう。

 足枷の鍵穴にピンを差し入れて、カチャカチャする事三秒。ガチャリと音を立てて枷は外れた。

 同じ要領で手枷も外す。

 

「さーて、誰か向かって来てるな」

 

 背格好から判断して、おそらくはダレンだろう。

 様子見に来たのなら、好都合だ。

 私はボロ布を脱いで扉の死角に潜んだ。

 

「……さてさてさーて」

 

 エドには悪いが、この状況では手段を選んでいられない。

 扉が開き、ダレンが中の異常に気付いた瞬間、私は超能力を発動した。

 ダレンの股間にぶら下がっているウォールナッツを一気に潰す。同時にボロ布でダレンの口を塞ぐ。

 くぐもった悲鳴がぼろ布に吸収され、ダレンは白目を剥いた。

 

「魔法使いもマグルも変わらねーな。金玉潰して動けるヤツはいない」

 

 ダレンの服を漁り、杖を奪う。

 

「さてと、時間もないから。心を開け(レジリメンス)

 

 気を失っているおかげで、呪文はあっさりと成功した。

 

「……こいつ、エドを虐待しやがったのか」

 

 微かに残っていた躊躇いが消えた。

 幼いエドを、この男は傷つけた。磔の呪文を三歳児に掛けるなんて正気の沙汰じゃない。

 必要な情報も抜き取ったから、もう用はない。

 

「感謝するぜ、ダレン。これで、お前に容赦をする理由が無くなった。忘却せよ(オブリビエイト)

 

 記憶を粉々に破壊する。

 

「爺さん。また、赤ん坊からやり直せよ。じゃあな」

 

 牢獄を抜け出し、私は鷹の目で死喰い人達の動きを見ながら私物の保管場所に向かった。

 私が歩いた道には股を抑えながらアーアー言ってるヤツラが転がっている。全員、記憶を破壊したが、急いだほうがいいだろう。

 ざっと見た限り、百人にも満たない所帯だが、取り囲まれたらさすがにまずい。

 

「ここか」

 

 十五人の死喰い人を玉無し廃人野郎に変えたところで、目的地に到着した。

 すでに私の脱走はバレている。急ごう。

 

「これだな」

 

 私の手荷物が入っているカバンと杖を掴み取る。

 その中から、マクゴナガルの遺産である鍵を掴み取った。そこには、ダンブルドアから貰ったキーホルダーがつながっている。

 筒の形をしたものだ。

 

「動くな!!」

 

 死喰い人が入って来た。

 だけど、遅い。

 

「今日という日を忘れるなよ? 捕まえ損ねたな」

 

 筒を開くと、中から小さな石ころが出て来た。

 私が狙われる可能性を懸念したダンブルドアがくれたものだ。

 石ころに触れた瞬間、目の前の景色がグルグルと回り始める。

 

「よっと!」

 

 景色が定まると、目の前にはポカンとした表情を浮かべているドラコがいた。

 

「……エレイン!? なんで、ここに!?」

「はぁ? いや、ドラコこそ、なんでここにいるんだ?」

 

 首を傾げながら、私は顎髭を撫でているダンブルドアを見た。

 

「役に立ったぜ、移動(ポート)キー」

「……ふむ、それは良かった。しかし、死喰い人の根城から自力で帰ってくるとはのう。それは捕まる前に使う為に渡した物なのじゃが……」

 

 ダンブルドアはどこか呆れた様子だ。

 

「手土産もあるぜ? ……っと、それよりもエドやウィルは無事か? ダレンのヤツが取り逃がしたのは知ってるけどよ」

「二人はここにおる」

「イリーナは……?」

「彼女は聖マンゴ魔法疾患傷害病院に入院しておるよ」

「生きてるのか!?」

 

 死んでいる事を覚悟していた私は慌ててダンブルドアに駆け寄った。

 

「無事とは言い切れぬが、生きてはおる。どうやら、エドワードの事を聞き出す為に拷問に掛けておったようじゃが、幸か不幸かアバダ・ケダブラは使われておらん」

「……そっか」

 

 私は杖を眉間に当てた。記憶を引き出して、カバンの中の小瓶に入れる。

 

「ほら、ダレンの記憶だ。後は任せたぜ」

「……なんと」

 

 驚くダンブルドアを尻目に、私はドラコに声を掛けた。

 

「ドラコ。エドはどこだ?」

「……こっちだ」

 

 何か言いたげな顔をしていたが、ドラコは深く息を吐くとエドの下へ案内してくれた。

 エドの部屋の前に立つと、なにやら壁の向こうでエドが私に対する思いを語っていた。

 私は人差し指を口に当て、ドラコに黙っているように合図した。

 ドラコは呆れ返った表情で肩をすくめると、「お幸せに」と言って去って行った。

 さてさて、どのタイミングで入ろうかな?


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