【TS】ソードアート・オンライン - ブラッキーの秘密 - 作:みいけ
プロローグ
紫色に光る鍵爪が、その
体格は小柄で、強く抱き締めれば折れてしまいそうなほどに華奢。全身真っ黒な服装に加え、コートに付属しているフードですっぽりと頭まで覆っているため、下手をすれば通報でもされそうな格好だ。
────そう、ここが現実世界であったのならば。
その黒い少年──にも見える少女は、視界左上に固定表示されている細い
横線──
しかし、その見方は適切ではない。
彼女は今、二割がた死の淵に近づいているのだ。
そのことを身をもって知っているため、彼女はさらに集中力を高める。
敵──レベル23モンスター《ポイズンファング・ウルフ》は、ここ《アインクラッド》第15層迷宮区でポップするモンスターとしては、割と上位に位置する。
その要因の一つが、特殊攻撃の《毒牙》だ。食らえばバッドステータス《毒》を発生させる。一定時間ごとに固定ダメージを受けてしまうそれはなかなかに厄介であるらしい。
このオオカミは夕方から夜にかけてポップする夜行性モンスターであると同時に、ポップ率もあまり高くはないため、いわゆる《レアモンスター》に分類される。
オオカミの追撃をバックステップで回避すると、彼女は距離を取ってから剣を腰の位置で水平に構えた。
「ふっ……」
オオカミが次の攻撃の
「はぁッ!」
「グルァアッ!」
片手剣《
紫がかった黒い毛並みを
目にも止まらぬ速さで一瞬のうちに繰り出された水平二連撃がオオカミの半減していたHPを全て吹き飛ばす。
飛び掛かったままの格好で不自然に動きを停止させ、クゥーンとまるで仔犬のような悲鳴をあげたオオカミは、その体を無数のポリゴンの破片へと爆散させた。
これが、この世界における《死》。あまりにも簡潔で、しかし明確。
「ふぅ……」
と一息ついて、彼女は剣を左右に切り払ってから背中の鞘に戻した。そのまますぐ近くにある安全エリアに入り、座り込む。
数時間の戦闘で得た戦利品を確認しながら、HPを回復させるためのアイテム《ポーション》を取りだす。
「ん……?」
緑茶にレモンティーを混ぜたような味のする液体を飲んでいると、あるものに目が留まった。
「《万能解毒ポーション》?なにこれ」
さっき倒したオオカミからドロップしたのだろうが、今までに情報屋のアイテム名鑑で見たことがないものだった。
おそらく手に入れたのは自分が初めてなのだろうと思いながら時刻を確認すると、午後五時を回っていた。
そろそろ帰らなくては、視界が悪くなって安全性が心もとなくなる。いかにレベルでは安全マージンをとっているとはいえ、未だ《暗視》スキルを取っていない状態では夜の戦闘は危険だ。
「……そろそろ帰らないとね」
誰に言うでもなく一人ポツリと呟いて、ゆっくりと立ち上がった。
街に取った安宿への帰路につきながら、彼女──片手剣士・キリトは三ヶ月前のことを思い出していた。
全てが終わり、そして始まった日のことを────