紅ルートのIFストーリーです
本編とは全く関係ありません。作者の欲望に従って書いただけです。
シズネ推し、メイ推しの方はご覧にならない方が良いかもしれないです。
ヨフネと紅 vol.1
ここ最近、紅の元気が無い。二十歳になってからは団子屋に誘われる事は無くなったが、代わりに暇な同期を見つけては居酒屋に入り浸っているようだ。ただ、紅が酒豪という事もあってか、一緒に飲むと泥酔してしまう為、そんな誘いも徐々に断られているようだ。
こうなってしまった原因はハッキリしている。アスマが守護忍十二士になると言って、里から離れてしまったからだ。とはいえ、もう一年が経とうとしている、そろそろ落ち着いて欲しいんだが……
今日の相手に選ばれたのは俺だ。アスマが里を離れた頃には、既に猟犬部隊を任されていたから、どうにも機会が無くて俺は誘われずに済んでいた。しかし流石に一回も相手しないのは可哀想なので渋々付き合うことにした結果、クダを巻く紅が出来上がっていた。
「ヨフネわあ凄いよねえ。なんて言うか……自分を持ってるっていうか、信念?を持って行動してるように見えるう。そーれーにー比べアスマは……」
「はいはい、ありがとう。本当にアスマの事が好きだな」
「だ、誰があんな私を捨てて行った奴なんかあ!あいつなんか、優柔不断で照れ屋だし、そのくせプライド高いわ、ファザコンだわ良い所なんてえ……まあ気遣いとかは凄いしてくれるんだけどね。それになあんて言うかほっとけないっていうか……」
前世で鍛えた接待術のおかげで、どうにか俺は泥酔だけは逃れている。焼酎の水割りセットを持って来てもらい、二人の酒を作るフリをしつつ紅には濃い目の物を飲ませ、俺はほぼ水の様な物を飲んでいるのだ。もちろん紅のグラスを空にするような事はしていない。
しかし、おかげで先に酔いが回った紅の話が長いことこの上ない。まあおっさんの愚痴を聞かされるよりはよっぽどマシだけど。
「ていうか二人は付き合ってたの?さっき捨てられたって言ったけど」
「えっと付き合っては無かったんだけど……あいつが出て行く時に一緒にいてよって言ったんだよね。でもあいつはそれを無視して……」
「あーそうだったのか、辛かったな」
アスマが出て行ったのは父親の三代目との確執が原因だが、その確執にはどうにも俺も無関係ではないらしい。俺がいなくてもアスマは守護忍十二士になっていた筈だから、責任を感じてはいないが。
アスマは出て行く少し前に大名の護衛任務を隊長として受けていたのだが、そこで激しい戦闘が行われ三分の一が死亡、更に三分の一は重症という多大な犠牲を払う事となったのだ。
アスマとしては、そんな厳しい任務をやり遂げたと思って、意気揚々と三代目に報告したようだ。しかし任務を達成しても、そんな犠牲を払う事となったアスマを三代目は認めはしなかった。里長の立場からすれば当然だ。
しかし、どうもアスマは部隊を任されている俺や暗部にいるカカシの方が、三代目からの信頼が厚く感じて、嫉妬していたようだ。中々自分が父親から認められない現状に不満が溜まっていた時、大名からは先の護衛任務の功績を認められ守護忍として指名されたのだ。
ようやく認められたアスマは当然それに飛びついた。出て行く前には、大名中心の国づくりがどうとかと理想を語ってはいたが、結局はただの反抗期だと俺は思っている。
「色々聞いてくれてありがとう、ヨフネ」
紅の話を聞けば聞くほど腹立たしく思っていたが、その分真摯になって話を聞けていると紅は満足してくれたようだ。
「別に構わないさ、ただみんなに酒で絡むのは辞めろよ。お前の為にもなんないぞ」
「ふふふ、優しいのね」
「美人には優しくすると決めてるんでね」
「もう!いつもそんな事ばっかり言って……からかわないでよ……」
紅はアルコールのせいで赤くなった頬をさらに染めて顔をそらした。アスマもこんな良い女を置いて行くなんて馬鹿だよな。
「さて店も閉まるし、そろそろ出るか」
「そうね……っと!」
会計を済ませ立ち上がろうとした紅だったが、足元がおぼつかない様子で転けそうになったので、腰に手を回し支えてやる。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。家まで送るよ」
「うん!」
翌朝、目を覚ますと見覚えのない天井が見える。ふと隣を見ると俺の腕を枕にして、あどけない表情で紅が寝ている。なんとなしに紅の頭を撫でながら、自分の心を落ち着かせる。
「う、うぅん……」
つい撫で過ぎてしまって起こしてしまったようだ。その可愛さに思わず軽く抱き寄せた。
「……お、おはよう」
抱きしめられた紅が挨拶だけして、俺の胸元で顔を真っ赤にして何やらごにょごにょ言っている。
「あの……誰にでもこういう事しているわけじゃないんだからね!」
「ああ、それは分かってるさ」
そう言って布団を少し捲り、シーツについた血の跡を見る。この証拠があるのにそんな事を思うはずもない。そして一瞬見えた艶めかしい姿に思わず興奮してしまう。
「もう、恥ずかしいでしょ。それで……あの、こんな事になっちゃったんだけど、それでも私……あ、ヨフネの事が嫌いってわけじゃないのよ!むしろ好きなんだけど……だけど、私アスマの事を完全に忘れられたわけじゃなくて……」
一大決心したように打ち明けた紅だが、最初からそれは感じていた。俺はそれでも受け入れる覚悟でここにいる。
「言わなくても分かってたよ。俺はお前の事を好きだけど、何も意思を曲げさせてまでとは思ってはいないさ。いっぱい悩んで答えを出して欲しい」
「……ありがとう」
紅にはああ言ったが、俺は紅を手放す気などない。今アスマが里にいない状態を最大限活かさせてもらおう。
「台所貸してもらえるなら何か作ろうか?」
「大丈夫!!その、普段あまり作らないから、材料が……」
どうやらあまり家事はあまりしないらしい。実はくノ一では珍しい話ではないのだ。不定期に長期任務に出るとなると材料を置いておけないのだ。その結果つい外食しがちになってしまう。
「なら二人で何か食べにでも行くか?俺はこのまま二人で布団に入ってても良いんだけどね」
せっかくのこの状況を楽しみたいという思いもある。良い所を見せるのか自分の欲望に素直になるのかせめぎ合う。
「んっ……」
結果、欲望に負けて抱き寄せキスをしてしまう。紅も一瞬驚いたが受け入れてくれた。どうやら起きるのはまだ先になりそうだ。
装備を受け取る予定はキャンセルだな。
あれから紅と堂々とデートをするようになった。猟犬の面々にも既にバレてしまったが別に構わない。冷やかしてくるような奴はゲンマ位しかいないしな。
そんな中、守護忍十二士にクーデターの動きありとの報せが入って来た。俺が三代目から予算をもぎ取ろうとしていた時だった。
「ヨフネ、聞いておった通りじゃ。大名には護衛が必要じゃろう。それもまとまった数の忍がじゃ」
「つまり俺達に行けと?」
「大名から認められれば、予算の増額も可能かもしれんぞ?それに書状には猟犬部隊を指名してある」
「はあ、それじゃ断れないじゃないですか。分かりました、すぐに準備します」
そう言って出て行こうとした俺の背中に三代目からの言葉が投げかけられる。
「それと……すまんが、アスマを頼む」
助けてやりたいが今は帰って欲しくない……その想いを抱えて俺は任務にあたる事になった。
無事に守護忍十二士の改革派を食い止める事が出来たのだが、間も無くアスマが帰って来る事は俺にとっては朗報とは言い難い。そんな中、俺は気が重いまま紅の家に向かっていた。既に習慣となりつつあった。
すると守護忍十二士に代わる護衛の目処が経ち、里へ帰って来たアスマと鉢合わせしてしまった。帰って来ている事は知っていたが、避けていたのに会ってしまった。紅の家の前で。
「……ヨフネ」
仕方ないとはいえ、こいつの友人を殺して気不味いというのに、最悪な場所で会ってしまった。まだあの事は知らないだろうが……嫌だ。
「お前、こんな所で何やってんだ?」
ど直球にアスマからの質問がやって来た。もう見逃し三振でも良いから逃げ出したい。
「紅に用があってな」
だが逃げ出すわけにもいかず過去最高の冷や汗をかきながら正直に答えた。何となくアスマは気づいているのかもしれないが、相当に気不味い空気が流れる。
そこへこの空気をぶち壊せる人物がやって来た。俺達とも顔馴染みの能天気な後輩、アンコである。さあこの空気をぶち壊してくれ!
「あれ?ヨフネさんにアスマさんじゃん!二人とも里に帰って来て早々、紅さんを巡って修羅場ですか?」
待てェェェ!そんなぶち壊し方は望んじゃいないんだよ!むしろ悪化したわ!
「ど、どどういう事だ?アンコ」
「えっ?だってヨフネさんと紅さんって付き合ってるんじゃないの?一カ月くらい前からよく一緒にいるじゃないですかー」
おいいいいい、なんちゅう話の切り出し方してんだよ!!俺が焦る中、アスマはというと俯いて拳を握り締めプルプルと震えている。
「ひょっとしてやらかしちゃいました?……う、うちは用事があるんで、これで!」
シュタッと敬礼をかまして、アンコは逃げ去って行った。残されたのは二人と重たい空気だけである。
「ヨフネ」
「ハイ!」
「今から俺と決闘しろ!」
「ハイ?」
それから二時間後、俺は第三演習場にいた。何故かこういう時に限って、揃いも揃って暇をしていた同期達も演習場に集まっている。ってホヘトやシスイまでいるじゃないか。
「なんでお前達までいる?」
「アンコから話を聞いたガイさんがゲンマさんに。ゲンマさんから僕達だけ教えてもらいました」
人の口に戸は立てられぬとはよく言ったものだ。って広げ過ぎだろ、アンコォ!あいつあの後も覗いてたな。
「ヨフネ、準備は良いか?」
既に殺気を漲らせたアスマはチャクラ刀を構えている。お前殺し合いでもするつもりなのか?
「良いけどさ、これって何の為の決闘なんだよ」
「まだしらばっくれるつもりか!」
「しらばっくれてんのはテメェだろうが」
「黙れ!!」
そう言ってアスマが突っ込んで来た。190㎝の巨体だが、かなり早い。しかし俺の方が身長が低いとはいえ、パワーで負けることはない。雷刀を構えて鍔迫り合いに持ち込んだ後、思い切り弾きかえす。
「お前、決闘なんかで紅の事を解決しようとでも思ってんのか?」
「それ以外に何がある!」
アスマは再度構えて、今にも飛び掛かって来そうな勢いで叫んだ。
「そうか……気が変わった。本気で相手してやるよ、反抗期の糞餓鬼!」
八門遁甲・開門……開!
俺は自分の中のリミッターを外す。さらに脚にチャクラを集中させ、その場に土埃を残し、瞬時にアスマの後方に移動する。
「早い!」
観客の誰かが声をあげたが、それを無視して腰の辺りに蹴りを入れる。アスマは咄嗟に反応して前方に転がったが威力は殺しきれなかったようだ。
「お前は紅の事を物だとでも思ってるのか?こんな決闘であいつの心をどうにかしようなんざ、甘すぎんだよォっ!」
転がったままの状態のアスマに更に追撃をしようとすると、いきなり起き上がり手裏剣を投げつけて来る。
(四つ!こんなもんで俺がやられるとでも……いや、これは!)
「手裏剣影分身の術!」
手に持った雷刀で捌こうとしていた手裏剣が目の前で分裂するように増えていく。その数は既に二十を超えている。最初から飛んで来たのなら、その程度は問題無いのだが、飛びながら増える手裏剣の全てや叩き落すのは難しい。
「ヨフネ!」
紅がこの場面で俺の名前を呼んでくれ、さらにやる気を出した俺は開門を開いたまま捌くのを諦め、横に大きく飛んで避ける事にした。
「火遁・豪火球の術!」
すぐにそれを追撃するように、これまた派手な術が飛んで来るが、それは地面に向けて拳を放ち、岩を捲れ上がらせ防いだ。
電磁砲を使えばあっと言う間に決着が付くのだが、あれは手加減出来るような術ではないから、いくらアスマといえども使うわけにはいかない。だが俺はガイほど八門遁甲を使える訳ではない為、開門が開いている時間は約一分だけだ。その間に決着をつけなければならない。
もう一度、脚にチャクラを集中させ、今度はアスマに正面から突っ込む。同時に腰に下げた水筒に右手を伸ばし、チャクラで水を掌に吸着させ、その手でアスマの口と鼻を覆うように顔を掴んで地面に叩きつけた。
「ゴハッ!」
アスマは息が出来ずもがくが、俺の怪力はそう簡単に振りほどく事は出来ない。人はコップ一杯の水で溺れてしまうのだ。チャクラが少ない俺なりに考えた、力技の水牢の術である。
最初はもがいていたアスマだったが、力を振り絞って右手の刀で俺を斬り付けようとして来た。仕方なく手を離して刀を躱し、アスマを木に向かって蹴って一旦距離をとる。
アスマは木にぶつかった衝撃か、溺れそうになったせいかはわからないが咳き込みながら、こちらの方を睨んでいる。
「……なんで、なんでお前はいつも俺の欲しい物を手に入れるんだよ」
息を整えたアスマが語りかけてきた。伸びた無精髭、ボロボロになった服のせいで、まるで浮浪者の様だというのに、その鋭い眼光は未だ心が折れそうにもない。
「そんな少ないチャクラしかないのに実力をつけて、親父や里からも信頼されて、ましてや紅まで!なんで俺が欲しい物を全て手に入れてるんだよォ!」
アスマはそう叫ぶと何かを引くような仕草を見せた……ワイヤーか!
しかし先ほど飛ばした手裏剣影分身で使われた手裏剣が飛んで来る訳もない為、無視して俺は突っ込んだ。
「ガハッ!」
アスマは予想外の俺の行動に反応できず、俺は顔面を殴り飛ばした。
「ふざけんじゃねえぞ、アスマァ!話を聞いてみればグチグチと女々しい事ばかり言いやがって!」
なんで俺がこんな面倒な事に巻き込まれなきゃいけないんだよ。こっち電磁砲無しで相手してやってんのに、バカスカ術使いやがって。
「隊長、それはいけません!アスマさんが死んでしまいます!」
頭にきた俺は無意識に鉄球を身の回りに浮かべていたようだ。シスイの声で我に帰り、鉄球をポーチに納める。スッと深呼吸して、再度話かけることにした。
「お前、自分が何やってきたか分かってんのか?」
「何のことだ」
アスマは本当に分からないのか、訝しんだ声をあげる。こんな奴の為に紅が苦しめられていたかと思うとまた腹が立ってきた。
「そもそもお前はなんで里を出て行ったんだ?」
「俺は認めてくれる人の所へ行っただけだ。お前には分からないだろうがな」
「ああ分からねえな。相手には認めて欲しいクセに、その相手を認められないようなお前の考えなんざ、分からねえよ!」
せっかく心を落ち着けようとしたというのに、またイライラしてきた。この際だから全てブチまけてやる。
「認めてくれる大名の所へ行ってどうなった?お前は木の葉を裏切る寸前だったじゃないか。三代目に認めて欲しくて結果だけを追い求めた結果がそれだ!お前も少しは三代目の立場になって考えてみろ!任務にしたって味方の過半数を戦闘不能にした隊長を褒めてやれるはずがないだろ!火影だぞ。里の未来を護らなきゃいけないんだ。いい加減、親離れしやがれ!」
演習場が静まり返った。聞かされた内容についてかもしれないが、俺がここまで熱く話している姿が珍しいのかもしれない。
「お前はただ逃げただけだ。いや、守護忍になれば認めてくれるとでも思ったのか?」
「黙れ!」
アスマが聞きたくないという風な様子を見せているが、容赦なく畳み掛ける。
「それに里から出て行く時、お前は紅に何て言われた?」
「それは……」
「思い出せないなら教えてやるよ。お前は紅の告白を振り切って出て行ったんだよォ!」
そう言ってまた俺がアスマの頬を殴ってやった。アスマは殴られた勢いで膝をついた。
「紅がどれだけ悲しんだかお前は知ってるのか?少なくともここにいる同期の方が、お前よりは知っている」
アスマはダメージのせいか、話を受け止めたせいか分からないが、膝をついて黙ったままだ。
「そんな紅を俺達が見捨てるわけないだろ!それなのに勝手に出て行った奴が、戻って来た途端に掻き乱しやがって!何でも思い通りにならないと気が済まないのか!」
「全てが思い通りのお前には言われたくねえよ!」
アスマが右足で俺にローキックをして来た。俺はそれをガードして、右足でアスマの側頭部を狙う。反応して腕を上げてガードするが、俺の力はそんな事では止まらない。ガードした腕ごと吹き飛ばす勢いで足を振り抜いた。
「……確かにお前から見れば上手くいっているように見えるかもしれない。だがな俺の思い通りに全てがなるなら、オビトやリン、四代目が死ぬ事は無かったよ!」
こっちがどれだけ悩んで、努力して今の状態になる事が出来たのか、みんなは知らない。だがそれらを勝手に否定する事は絶対許さん。
「……確かに俺はお前を妬んでるだけだ。変わる事も必要かもしれない……だけど、それでも俺は紅を諦める事だけはできない!俺は紅が好きなんだ!」
「ならなんで直接そう言わない!俺に絡んでくるな!紅の気持ちを無視するなよ!お前は全部自分勝手なんだよ!」
腹が立って仕方がない。そんな俺の後ろに気配を感じて振り返れば紅が立っていた。
「私は……」