勇者御一行の一人なんだが、勇者と魔王から求婚されて辛い 作:ペンタブ
正直もうこの作品は『終わった』と思うんですけど、まあ、試しに一話投稿して、読者の反応を見てみます。
前の話でとんでもない方向に行ってしまったので、辻褄を合せるのに苦労しました。
「さて、キミはワタシがどういう存在かと問うたが、その答えは既に見えていることだろう」
「ただの憶測だ。お前の口から聞きたい」
何もない世界。
向き合う俺とエルラに挟まれているテーブル以外には、物どころか色すらない。どこまでも『無』が広がっていて、視界に映る限りでは、この世界が『球面』なのか『平面』なのかわからない。
或いは、もしかするとこの世界は断片的に創造されたものなのかもしれない。俺の視界に映っている範囲しか、存在しない。そうなると、『平面』ということになるのか。
まあ、今はそんなことはどうでもいいことなんだが、どうも、この世界は『常人』には耐え難い、なんとも言えない違和感がある。
「おいおい、そんなに辺りを見回したって何もないよ。今はボクと話をしているんだ。ワタシだけを見てくれよ」
どうやら、俺の態度が気に食わなかったようだ。
視線をエルラに移すと、奴はさも不機嫌であると言わんばかりに頬を膨らませて俺を睨んでいた。
「ああ、すまない。……それで、質問の答えは?」
「そう急かさないでくれよ。まあ、答えるけど……。オレの存在は、簡単に言えばオマエの言った通り『神』だよ。ただ、出生が特殊でね。ワタシはとある人物の幻想なんだよ」
「つまり、お前は誰かに創られたのか?」
「そうだよ。その人物は空っぽのエルラを見て、生意気にも『救いたい』なんて考えたのさ。その思いが『器』に一つの幻想を注いだ。注がれた幻想は、徐々に形を成し、ワタシという闇を創った」
救いたいと願って、闇を生みだした? どういうことだ。
話を解釈すると、エルラと対峙したその人物は、エルラを救いたいと願ったようだ。その願いが叶った結果、俺の目の前にいる『歪な存在』が出来上がったのか? なんだ、結局なにがしたかったんだ、そいつは。
「空っぽというのは酷いものでね。善も悪も、光も闇もない、ただそこに存在するだけの物体なんだよ。
この世は光と闇で均等に分けられている。それ以外は在ってはならないんだ。つまり、エルラは存在してはいけないモノだった」
だから、そいつは心底憐れんだ。と、エルラはティーカップに入った紅茶を見つめながら呟いた。
存在してはいけない。人の認識ではなく、世界の『理』がそうさせない。そういうことだろうか。
「なら、エルラはどうなるんだ」
「消えるだろうね。イレアや魔族達が肯定しても、キミが認めても、ワタシが望んでも……世界は許さない。
世界は不完全なように見えて、実はとても精密にできているんだ。無駄なところなんてありはしない。
喜びも、絶望も、争いも、枯渇も、生も、死も、全てが計算され尽くした結果の産物なんだ。
だからこそ、意味のない存在は、世界にとって不必要なのさ」
エルラはそう言いきると、紅茶に口を付けた。
自身のことであるのに、ずいぶんと感心が薄いな。
「全ては世界の意のままに、っていうことさ。そんな強大な存在を、エルラは敵に回した。
ワタシを創ったそいつは、察しの良い奴だったんだ。『このまま戦えば、結果がどうであれ、必然的にエルラを殺すことになる』と感じた。
誰よりも正義感が強かったそいつは、そんなことを許すことができなかった。だからそいつは、世界初と言っても良い『運命操作』と呼べる奇跡を成し遂げた」
エルラを救うためだけに運命に逆らうとは、少し行き過ぎだ。
俺は完全な善意なんて見たことがない。なにか裏があるのか、それともこういうのが世に言う『聖人』なのか。
「そいつが起こした奇跡は、単純なもの……自害だよ」
「……」
そいつがエルラを殺すことは確定していた。
それこそ、そいつが生まれる前に、エルラが生まれた瞬間に。
しかし、ただ死ぬことで世界に逆らうことができるのであれば、きっと誰だって奇跡を起こすことができてしまう。
完璧だという世界がそんな単純な『穴』を残すだろうか。本当は、そいつが死ぬことすらも予め決まっていたことなんじゃないだろうか。
「おかしいよね。そんなことで運命を変えられるのなら、誰だって『英雄』になれる」
「なにか、他に理由があるのか」
「もちろん。むしろここからだよ、奇跡は」
そう言って、エルラはまた紅茶を飲んだ。
俺もカップを手に取って一口…………冷たい。どうやら話が長引いて冷めてしまったようだ。味が悪くないぶん少し残念だな。
「冷めてしまったね」
「まあ、冷たい紅茶も美味い」
「ボクは冷たい方が好きなんだけど、温かい方が飲みたいなら言ってくれよ」
「用意できるのか?」
「ここは何でもできる場所だからね」
エルラは手に持ったカップをテーブルに置くと、縁の部分を指先でツンと突いた。
すると、そのカップから湯気が立ち始めた。
「どうなってるんだ?」
「温かくしたんだよ」
「どうやって?」
「『思い』さ。この世界は『思い』だけで何でも創れる」
なんだその夢のような世界は。
何でも創れるというのなら、この世界は万人の理想じゃないか。
「『創造』の権限はワタシにしかなくてね。キミじゃ無理だ」
「そうなのか」
「ああでも、ほしい物があったら言いなよ。何でもあげるよ」
「じゃあ、俺の紅茶も温かくしてくれ」
「はいはい」
……何て言うか、話が脱線している気がする。
しかしこの世界、違和感が凄いがなかなか便利だな。エルラ限定だが、万能の世界ということか。
「さて、奇跡に関してだったね」と言いながら、エルラは俺の近くに置いてあるカップに手を伸ばした。
幼い身体なので背を伸ばさないと届きそうになかったので、エルラの近くにカップを押してやった。
「ありがとう……。まあ何にせよ、エルラが消えることはもうないけどね」
「人格を得たのか」
「『得た』というよりかは『得る』だね。初めてエルラを見た時のことを覚えているかい?」
エルラを初めて見た時。
セルトレイムでイレアと戦った時だったか。
あの時のエルラは……黒くて暗くて、底が見えなくて……とにかく、底知れない恐怖を感じた。
「今のエルラを見て、キミは前と同じ感想を持てるかい?」
今のエルラ。
いつも予想の斜め上の行動をとって、何を考えているのかわからない。
子どもみたいに俺の手を握って、事あるごとにベタベタしてくる。
いつも何かに怯えているようで、なんだか放っておけない。
「エルラはキミと出会って、変わった。人格が確立してきているんだ。
だからこそ、奴はここにオマエを招いた。無意識だっただろうさ。けどね、ここにキミを招いたことにより、キミは選択肢を得ることができた」
「選択肢?」
「ああ。今、キミはエルラの核と対面しているんだ。さて、キミは一体どんなエルラを望む?
今のエルラは不安定だ。それ故に、なに色にも染まる。これが『奇跡』だよ」
俺がエルラの人格を定めることが奇跡だと?
それはつまり……なるほど、理解したぞ。これは確かに『奇跡』だ。完全完璧な世界でも予想していなかっただろう『穴』だ。
「異世界の人間に、この世界の常識は通用しない。
なぜなら、異世界の人間はすでに元の世界の加護を受けているから。
キミは『勇者』に見染められた。『女神』じゃない。全くもって個人的な理由で、キミはエルラの命を託された」
「……まったく、とんでもない奴だな」
要するに、そいつは『異世界』から誰かが来ることを前提として行動を起こしたわけだ。
勇敢と言えるが、少し間違えれば、それは愚行だと言える。
呆れた。そりゃあ奇跡だろうさ。何せ、『IF』に頼って殆ど運任せで動いたんだ。
それに、命を失ってから起きるときた。とんでもないギャンブルだ。
「そう言わないでくれよ。
どうも、人間というのは時折神よりも神がかった行動を起こすようだ。
人が先か神が先かという話があるが、ワタシは人が先だと思うよ。人の起こす『奇跡』は、神のそれをとっくに凌駕している」
自身が人によって創られたからか、エルラは自嘲気味にそう言った。
だがそうなると、『勇者』は今どこにいるんだ? エルラが前に、やつは『器』に閉じ込められたとか言っていたが。
「勇者ならオマエは既に会っているよ」
「どういうことだ?」
「『器』とは、そのままの形とは限らない。『魂』を源だとするのなら、『人体』が『器』でも何の問題もないだろう。
もう接触は完了しているし、キミは勇者と大きな繋がりを持ってしまっている。キミがここに来るのは半ば必然だったのかもしれないね」
勇者と既に接触しているだと?
遠原か。いや、それはない。なぜなら、あいつは俺と同じ『異世界』の人間だから。
じゃあ、この世界で会ったということか。この世界で会った人間なんて、かなり限られてくるのだが……。
「まあ勇者はいいよ。どうせもうすぐ飛んでくるだろうさ」
「飛んでくる?」
「奇跡は連鎖している。キミがエルラの下に訪れた時点で、もう一つの物語が進行した。
『魔王』と『勇者』は切っても離せない。『魔王』が変化すれば、『勇者』も行動を起こすさ」
どうやら勇者はすでに目覚めているようだ。
そして、魔王城に向かっている。
エルラが言うのだからそうなのだろう。
「だから少し急ぐよ」
「ああ」
「世界を救う方法は単純だ。
ワタシを救え。そして、わたしを取り込め。私には『力』がある。
世界を変えるのは、いつだって争いだ。
だから、あなたが『魔王』になって」
「……」
新しい世代が始まる。
この世界を救うたった一つの方法は────『新たな敵』。
『異世界』の勇者と『異世界』の魔王。これが争えば、戦況は変化する。せざるを得ない。
「私を愛してくれるというのならば、あなたに『力』を授けましょう。
『無限の魔力』と『永遠の肉体』を、あなたに授けましょう」
エルラはそう言って、両手を広げた。
聖母のような頬笑みを浮かべて、俺を優しい瞳で見つめてくる。
少し予想外だった。思わず唾を飲み込んでしまった。だが、ここで折れるわけにはいかない。
「残念ながら、今はそんな考えがなくてな。
だが誓おう。俺はお前を救う」
それが俺の答えだ。
結果なんていうのは過程が終わってからでいい。
俺は戦う。その末に、いまだ命があったというのならば、その時は結果を顧みよう。
「……良い返事だね。それでこそ私の愛した人間だ。
私はもうじき消える。『奇跡』が起きた以上、この世界は空っぽの抜け殻だからね。
だからその前に、あなたに私の『全て』を託す」
「頼む」
世界が輝きだす。
崩壊が始まっているようだ。
俺達の間にあったテーブルも、座っていた椅子も、粒子となって消えてしまった。
「最初で最後だったけれど、あなたに出会えてよかった」
「……そうか」
「やっぱり、あなたは私の思った通りの人間だった。
正義を以って、悪の覇道を謳いなさい。
独りにはさせない。
エルラは俺の目の前まで来ると、そのままフワッと浮いた。
そうして優しく口づけをする。
その瞬間、身体に途轍もない何かが流れ込んできた。たぶん、エルラの言った『力』だろう。
「さようなら────」
世界が一変する。
視界は闇に閉ざされ、酷い耳鳴りが脳を刺激してくる。
「──ユクハシ!」
「……」
瞳を開ければ、そこにはエルラがいた。
祭壇が目に映ったので、戻ってきたんだと思う。
「ユクハシ……!」
エルラは突然俺に抱きついてきた。
身体が震えている。
状況を確認してみたが、俺は祈った姿勢のままだった。たぶん、意識だけが向こうの世界に行っていたのだろう。
「大丈夫だ、エルラ。なんともない」
「でも、でも……!」
「どうした?」
「ユクハシが、我と同じに……!」
ああ、なるほど。
どうやら俺は、根本的に変化してしまったようだ。
「良いんだ。これは俺が望んだことだ」
これは、この力は、俺の願いだ。
エルラを守る力。勇者を守る力。みんなを守る力。
全てを守るために、俺は世界最大の悪となる。
「ユク……ハシ……」
「大丈夫だって、エルラ。お前は戦わなくていい。後は俺が──」
「────いや、私も加えてもらおう」
声が聞こえた。
とても懐かしく感じる、綺麗な声。
その方向に顔を向けると、予想していた人物が祭壇の扉に立っていた。
「……シレーヌ」
最後に会った時とは、随分と雰囲気が変わっていた。
左手には黄金の短槍。そして右手には、白く神々しい長槍を持っていた。
灰色だった髪は真っ白に染まって、アメジストのように煌めいていた瞳は金色に染まり、太陽のように輝いていた。
「久しぶりだな、ヒロト。突然だが──お前を救いに来た」
疲れました。
もうあれですよ、だれかこの後の展開考えてくれ。
ここで一旦行橋君視点は終了して、シレーヌたんの話書きます。(何ヶ月後になるのやら)