畜生先生ポチま!   作:お話下手
<< 前の話 次の話 >>

13 / 29
基本は原作の年表ですが、今回は少し違います。
そのうち、わかりやすくまとめた物を作りたい。


登校地獄とポチ

 【1991年 3月】

 

 「頼む、行かないでくれ! 私を置いていくな!」

 

 麻帆良学園、学園長室を小さな女の子の悲痛な叫びが揺らす。 真新しい中等部の制服を身に纏い、強気な瞳が一人の人物に注がれた。

 今この場に学園長である近衛近衛門と千の呪文の男、ナギ・スプリングフィールド、その妻アリカ、従者であるアルビレオ、そして全身をマントで覆った鎧の青年が集っている。 女の子、エヴァンジェリンは鎧の青年に懇願するように、マントの裾を掴み何処にも逃げないようにした。

 

 「それは出来ない…」

 

 だが、青年はエヴァンジェリンの願いを受け入れられなかった。 普段は明るい彼の言葉に力はなく、周りの者達も静かにその様子を見守っている。

 

 「何故だ! 私が吸血鬼だからか!」

 

 「…そうだよ」

 

 空気が一気に冷え固まるような台詞。

 

 「…っ!?」

 

 エヴァンジェリンは驚愕に目を見開く、絶望に歪んだ表情が周りにはあまりにも痛々しかった。 だったら何故救った、何故私に優しくした。 

 今までそんな素振りも見せずに急に言われて、私がどれだけ傷付いているのかわかっているのか。 これならば、いっそのことあの時死ねば良かった。 

 その、嘘に塗り固められた心と光で、毎日馬鹿なことが楽しく笑えて幸せで。 それがなんだ、どうだこの痛みが、貴様にわかるかこの苦しみが!

 

 「貴様なんぞ、死ね! 死んでしまえ!」

 

 エヴァンジェリンのか弱い拳が鎧に何度も叩き付けられる。 皮膚が破け、血が滴り、骨が見えてもなお、止めようとはしない。

 見かねたアリカが止めようとしたが、それよりも早く青年が動く。

 

 「死ね! 死ね! 死────」

 

 「必ず向かえにくるから…」

 

 彼女を強く抱き締めた。 妙な暖かさが鎧を通してエヴァンジェリンに伝わり、それにより彼女の目尻から涙が溜まる。

 この暖かさだ。 これが自身を癒し、そして苦しめる。

 本当にこの男は何もわかっていない…! けして涙を流しているとこを誰にも見せぬよう、青年の胸に顔を埋め、腕の中から逃げ出そうと身をよじった。

 青年は離さない、そのまま胸を殴りつけられ、どれだけ罵倒されようと。 エヴァンジェリンの抵抗が落ち着き、小さく震え始める。 伏せられた顔からどのような表情を浮かべているのか、わからない。

 

 「ここは安全だ。 結界が守ってくれる」

 

 「何の、話しだ…」

 

 青年の含みある言葉に何かが引っ掛かった。 まるで、危険な存在から自身を隠すために、或いは彼らがその場へと向かうかのように。

 

 「何か、何かあるんだな…! お前達は何かと戦う為に私を遠ざけて! なら、私も戦う! 私を連れていけ! 私が強いのは知ってるはずだ!」

 

 「それだけではないのです、エヴァンジェリン…」

 

 アルビレオの淡々とした言葉は、一つの事実をハッキリさせた。 やはり彼らは何か理由があっての決断だったのだと。

 だが、それだけではないとは、どういうことなのか。

 

 「教えられないのか?」

 

 青年は頷く。

 

 「お前が悪いんじゃない。 ただ、俺が臆病なだけなんだ。 ヤツとの決着をつけたらきっと、俺はちゃんとお前を受け入れられる気がする。 そしたらエヴァンジェリンちゃん、お前に“俺の全て”を教えたい」

 

 全て。 鎧の中身、力の秘密、生い立ち、そして“本当の名前”を

 

 「それまでこれを預かって待っていてくれ」

 

 青年の鎧の胸部が十字に切れ込みが入ると、ばつ印に開いた。 網目状に回路が張り巡らされている鎧の中身、逆三角形に丸いピンポン玉台の三つの窪みが特徴的で、右側には何もなく、左側心臓の位置には真っ黒い玉が埋め込まれており、中心下部には透き通った深紅の玉が埋め込まれていた。

 青年はその内の一つ、深紅の玉に手を翳し、一回り小さい玉としてを抜き取るとエヴァンジェリンに渡す。

 

 「それは俺の心そのものだ。 何かあればお前を守ってくれる」

 

 「お前の心…」

 

 光を放つのに痛みはなく、仄かに暖かく、優しい色だ。

 

 「わかってくれ、エヴァ」

 

 「……」

 

 エヴァ。 彼はこれまで自身のことをちゃん付けで呼んでいたが、今日この日初めて余計な物を取り払い呼ばれる。

 アリカにでさえそうであるのに、その事実がエヴァンジェリンの胸を高鳴らせ、そして彼の決意の強さを感じ取った。

 

 「俺のように光の中で生きて、悲しいことは忘れ去るんだ。 それでも寂しい時は握っとけ、そして俺が無事に帰ってくるのを願ってろ」

 

 いつもの無駄に明るい声がかけられる。 エヴァンジェリンはそれを両手で強く握り締めた。

 

 「必ず帰ってこい。 もし破ったら殺す、貴様が後悔するほど何度も殺してやる」

 

 「それはマジで怖い。 けど、らしくて良いね、約束する」

 

 青年はゆっくりと立ち上がり、ポンポンとエヴァンジェリンの頭を撫でる。 口では言ったが本当は離れるなんて嫌だった。

 例え危険な目に遭うとしても私はそれで構わなかった。 お前のそばにいられるだけで怖いものなんてない、恐れるものなどない。

 ただお前に捨てられることが、失うことが何よりも怖かった。 だが、お前はそれだけではない何かを恐れている。

 私では解決出来ない、お前自身の問題に。 ならば私は待とう、与えてくれた光の中で、忘れ去れるこの空間で、お前が…貴方が勇気を持てるその日まで。

 

 そしてその2年後、彼らは謎の死を遂げた。 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【2003年】

 

 「楓ちゃーん、この前の影分身ってどうやるのー」

 

 「あれは影分身ではなく、ただの分身でござる」

 

 あ、やっぱり違うんだ。 NARUTOでは分身はただの幻術で、影分身は質量を持ったタイプだったもんな。

 でも楓ちゃん、分身なのに明らかにダメージ与えていたよね。 どうなってんのあれ、出来れば螺旋丸の開発に役立てたいのだけど。

 

 「あれは超高速に移動して、本体が直接攻撃してるにすぎない。 因みに拙者、未完成ながら螺旋丸使えるでござるよ」

 

 「マジで!? チャ、チャクラって実在するの!?」

 

 「チャクラではなく、気を代用しているでござる。 漫画を見てやってみたら、これが思いの外上手くいったゆえ。 あとは気の練り具合を上げればもうすぐ完成しそうでござる」

 

 あー、楓ちゃんも漫画見て、あれ? これって意外とやってみたら出来んじゃね?…のタイプだったか。 かめはめ波とか六式もやったのは俺だけじゃないはず。

 しかし、気かぁ。 俺、尻から出るんだよね。

 なんでグルグルみたいに尻から出るんだよ、魔法じゃねぇのかよ。 尻からの螺旋丸とか精神的苦痛でしかないわ。

 おかげで瞬動も使えない、多分全力で出せばちょっとだけ飛行出来る程の出力は出そうだが確実に痔になるか、最悪下半身が消える。

 

 「いいなー! ポチも格好いい必殺技欲しい!」

 

 「では放出系は諦めて、体術系の必殺技はどうでござろう」

 

 やっぱり、六式とか? ツボの位置を覚えれば北斗神拳擬きとかやれそうだが…。

 

 「実はポチ、古ちゃんや刹那ちゃんに弟子入りしたことがあるんだよね…」

 

 「ほほう、それは良い相手を選んだでござるな。 しかし、その様子から察すると…」

 

 そう、俺にはまるで才能がなかったのである。 剣の腕どころか武術そのものが。

 技の練習してもなんか変だし、剣を振れば飛んで、脳天にぐさぁ。 最終的に古ちゃんは匙投げて、刹那ちゃんフォローしようとオロオロしてたわ。

 確かに昔話とか聞くと、基本式の力に任せてぶん殴ってばっかだったなー。 でもアホみたいなスピード持っていたみたいだし、回避とかどうしていたんだろ。

 これがどこぞの劣等生みたいに実は能力隠しているとかだったらクソかっけぇのに。 今のポチ、全部能力出してこれよ、さらけ出しすぎて警察にお世話になったわ。

 仮にあったら、さすおにならぬ、さすポチだな。 …あれ? なんで殺される感じになってるの?

 

 「やっぱ、式を完全に使いこなせないといけないのかな」

 

 「それだけが貴方の強さではないですよ」

 

 「むむ、この渋いダンディーな声。 タカミチか!」

 

 振り替えればいつの間にかニコニコ笑顔のタカミチ。 あの、気配殺して近づくのいい加減止めて? 楓ちゃんもびっくりしてるよ?

 

 「…拙者の背後を。 前から感づいていたが、やはり只者ではないでござる」

 

 「どーだ驚いたかい楓ちゃん! タカミチはこれでもAAランクの魔法使いなんだぜ!」

 

 「どうしてポチ先生が自慢してるでござるか…。 確かに驚きはしたものの…」

 

 だって身内しか自慢出来るもんがないんだよ!

 

 「ところで盗み聞きのタカミチくん! ポチの強さが式だけではないとは、どういうことかね!」

 

 更に俺のそばに近寄り、空を仰ぎ見る。 遠い目をしているその姿はなかなか様になっているなー。

 ポチも同じことやったけど、急にエヴァンジェリンからアッパーカット喰らったからね。 なにすんの!?って聞いたら、顎を差し出していたからてっきり殴ってほしいのかとって。

 んな奴いねぇよ。

 

 「“とあ”さんの強さは確かに式に頼っていたところがありましたが、それを使いこなすだけの凄まじい戦闘経験があればこそだったのです」

 

 「成る程、拙者も大型の手裏剣を使いこなすのに、かなりの日数が必要でござった」

 

 そういえばそうでしたね、被害者が俺だけで良かったよ。 でも経験だけでナギとかラカンみたいなバケモンと並ぶ強さって手に入るの?

 

 「昔の貴方が僕にとってもう一人の師匠と聞いても?」

 

 「えええええ! そうなの!?」

 

 なんかガトウって人が師匠だと詠春ちゃんから聞いたけど。 咸卦法はエヴァンジェリンの別荘で頑張って修得したし。

 

 「あの人からは居合い、いえ…無音拳を教わり、貴方からは戦い方を教わりました。 短い間でしたけどね」

 

 戦い方ってメッチャ気になる。 教わりたいけど、それだと俺からタカミチに、タカミチから俺にって、不思議な構図になるね。

 

 「基本は相手の行動予測することを大事にしてました。 何十通りも予測し、そこへ回避、或いはカウンターを仕掛ける、といった具合で」

 

 予測ねぇ。 でもそれだと、外れた時に大変じゃない?

 右から予測! 残念! 左からでした! バキィ!みたいな。

 

 「ええ。 ですから貴方はその予測を確実のものとするため、相手のくせ、筋肉の動き、足さばき、視線、呼吸、これを戦闘中、経験をもとに瞬時に統合し計算して戦っていたのです」

 

 歩く際、右足出したら、次は左足を出す。 こんな感じで?

 言ってることは理解出来るけど、あらゆる動きからしかも戦闘中でしょ、確かに出来ればとんでもない強さだけど、無理じゃね?

 

 「普通は無理です、僕も未だにあれほどの領域には立てません。 だからこそ昔の貴方は強かった」

 

 「才能を上回る経験。 記憶喪失である今のポチ先生に全くないものでござるな」

 

 ホント、何やってんだか。 しかも楽して強くなろうとする辺り、ポチはクズですね!

 

 「学園長から聞きましたよ。 僕が明日菜君をここへ連れて来る前、エヴァを助けるため一瞬だけ記憶を取り戻したとか」

 

 あの事件か。 と言っても、実際に見たのはエヴァンジェリンと刀子ちゃんだけで、俺は全ッッッく覚えてないんだけど!!! 

 

 「でもだからってポチは記憶を取り戻したりしないもん!」

 

 話し聞くと、無茶苦茶別人だったみたいじゃん!? なんか相手を貴様とか言ったり歯が浮きそうなクサイ台詞吐いたり意味不明な単語を呟いたり、なんかもう嫌すぎた!

 恥ずかしくて死ねる!

 

 「それが本来の貴方なんですが…」

 

 「いやあああああ! ポチは少年の心は残しても、厨病は辞めたいのよ!」

 

 あ、思い出したらサブイボが。 タカミチー! まほらっしー持ってきてー! ちょっと学園内走ってくるからー!

 

 「“とあ”さん。 まほらっしーの正体はA級の機密事項ですよ…」

 

 「なんと! まほらっしーの正体はポチ先生でござったか!」

 

 「その通りらっしー! 楓ちゃんには特別に教えてあげるらっしー! 実は機密事項だったのを忘れていたとか、そんなことないらっしー!」

 

 「みんなには黙ってくれよ、楓君。 夢を壊すことになるから」

 

 「うむ、確かに…」

 

 酷いな楓ちゃん! タカミチも夢壊すとか、本当にポチを尊敬してるのか馬鹿にしてるのかわからなくなる!

 にしてもポチの強さが経験かぁ、必殺技は無かったんだろうか。 なんかもう、ここまでくると昔の俺、必殺技持ってるだろうな、てかフォームチェンジとかありそう。

 

 あれ? 実は記憶取り戻すのが、一番良いじゃね?

 

 

 




本来エヴァンジェリンが登校地獄を受けた年は1989年です。原作では1ヶ月ナギを追いかけましたが、ポチの影響で3年間も一緒にいます。







※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。