畜生先生ポチま!   作:お話下手
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ガチシリアスです。 エヴァンジェリンが吸血鬼になる話し。
原作とちょっと違い、更に何の救いもない絶望の話しなのでポチは一切出ません。


【第二章】エヴァンジェリンの過去編
エヴァンジェリンとマガツ


 これは、私がまだ10才の誕生日を迎える前の記憶。 今では私をこんな身体にした父親と母親の顔さえ覚えていない、遥か昔の出来事、全ての始まり。

 出来ればこのまま全て忘れたいが、何時まで経っても忘れられないものがある。 両親よりも私の傍にいた執事、不思議な少女、裏切りの夜、大好きなおとぎ話、そして黒い獣と炎の男。

 記憶というのはおかしい物だ、僅かな間しかない存在が強く残り、産んだ母親の声さえ思い出さないのだから。

 

 【1443年】

 

 「ねぇ、爺や。 御父様はいつ帰ってくるの?」

 

 「申し訳ありません、御嬢様…」

 

 まだ私が人間であった頃、ヨーロッパの辺境に住まう古びた貴族の一人娘だった私は、7才の頃に母親を亡くし父親と老人の執事、そして使用人達に蝶よ花よと育てられていた。 自身、母親と同じ不治の病にかかっていたせいか、私は身体がとても弱く、屋敷の外から一歩も出たことはない。

 唯一の楽しみは父が毎月のようにプレゼントしてくれたヌイグルミ、執事である爺やが見せてくれる、マリオネットの人形劇だけだった。

 

 「旦那様は忙しい身であるため、今度はいつお戻りになるやら」

 

 きっと困り顔をしていたのだろう。 どのような顔をしていたか覚えていないが、この人との会話を忘れたことはない。

 

 「つまんない。 最近ずっとお留守にしているんだもん…」

 

 私が八つになった頃から、父は屋敷を開けることが多くなった。 貴族の中でも公爵の位置を任されていたせいか、広大な領地の管理や頻繁に行われる社交場へ出席する回数も多い。

 特に妻を亡くしてからは、その後釜を狙う者達から執拗に誘いを受けており、私はいつも親の愛情に飢えていた。 だがそれでも、父親はあらゆる貴族の令嬢からアプローチを受けても全て払いのけ、一度もそのような人物を屋敷にあげたことはない。

 例え顔を会わさなくとも、プレゼントのヌイグルミは絶対に欠かさず用意し、いつまでも母を大切にするそんな父が私は大好きだった。

 

 「けほっ…」

 

 「そろそろお薬の時間でございます」

 

 「お薬は嫌。 飲むと気分が悪くなっちゃう…」

 

 執事が持ち出したのは、父親が私のために独自で作り出した粉末状の薬。 毎回、白か灰色に色が違い、飲めば一時的に吐き気を催すが、そのあとは病状が穏やかになる。

 

 「我が儘を仰ってはなりませんよ」

 

 「じゃあ、またあの人形劇を見せて! 狼さんの話し! それなら飲む!」

 

 「ふふ、わかりました。 さぁ、お薬をどうぞ」

 

 白湯と共に流し入れると、すぐに目眩と吐き気が襲う。 口元を押さえる私の背中を執事の嗄れた手が擦り、落ち着くまでその状態が続いた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 私が10才の誕生日を向かえる少し前のある日、突然久方ぶりに姿を見せる父親があった。 あまりにも嬉しく、身体のことなど一切気にせず屋敷中の中を走り回り、執事を困らせては父親に抱き付き甘えた。

 しかし、彼はゆっくりする暇もなく、私と執事に馬車へ乗り込むよう促すと、すぐさま走らせる。 父は私の病気を治すために知り合いの領主の城へ移すと言った。

 当然のこと戸惑い、いきなり馬車の中で揺らされ、更に今までプレゼントされたヌイグルミ達を全て置いてきてしまったため、私は駄々を捏ねてしまう。 だが、彼はそんなことは予想していたのか、代わりに別のヌイグルミを用意しており、現金なことに私はそれで大人しくなった。

 引っ越してから数刻、城にはその広さとは裏腹に使用人がひとりもいないことに気づく。 住んでいたのは私と父親、そして執事と……全身をフードで覆い隠した私と同じくらいの小さい女の子のみだ。

 何故かそれ以来父親が外出することは無くなり、食事は毎回共にするようになったため大喜びした。 しかし、フードの少女は一度も食事を共にしたことがない。 

 いつも何処で何をしているのかわからず、大抵見かけた時は何故か父親とばかり過ごしており、真剣に難しい話しばかりをしていた。

 長い年月が経った今ではどのような会話をしていたかまるで覚えていないが、後に吸血鬼になる衝撃で記憶が飛んでいる可能性もあるだろう。

 

 「ねぇ、爺や。 あの子は誰? 折角御挨拶したのに無視されちゃった…」

 

 「それが、私としても旦那様から詳しいお話を聞いていないのです。 とりあえずは、親切の娘だと聞きましたが…」

 

 「どうしよう…。 御父様、私よりあの子が好きなのかな。 私、嫌われたかな…」

 

 昔から父とは接触が無かった。 幼い女の子にとって、充分な愛情を注がれていると理解しても急に横から現れた者に親を奪われたと不安を抱えていたのだろう。

 

 「いえ、そんなことはございません。 旦那様は誰よりも貴女のことを大切に思っていますとも」

 

 泣きたくなる、そのたびに執事の優しく力強い言葉は、私を安心させてくれた。

 

 「ねぇ、爺や。 人形劇見せて! 私、狼さんのが良い!」

 

 「おや、またですか。 今日は始祖アマテルのおとぎ話にしようかと思いましたが…」

 

 「あれも好き! でも狼さんはもっと好き!」

 

 「しかし、あれは悲しいお話ですよ?」

 

 執事の劇の中でその話しが一番好きだった。 ひとりの騎士が大好きな女の子と大切な友達を悪魔や邪神から守るために、身体を棄て鋭い牙と爪を持つ狼に変わり、もっと強くなるため最後は心を棄てて神様になり、誰とも交われなくなったという、どうしようもなく救いの無い話し。

 

 「とっても悲しい話しだけど、だからこそ私はその想いが大切だと思うの。 悲しい、ツライかといってそれを聞かないのは、狼さんの人生を否定することだわ」

 

 「…御立派です。 御嬢様は旦那様にとてもよく似ていますね」

 

 「ほ、本当に!?」

 

 「ええ、実はこの御話し、旦那様から御伺いした物なんですよ」

 

 何故、今まで私には一度もおとぎ話をしてくれなかった父親が、彼には語っていたのか、今なら分かる気がする。 きっと、それは本当にあった話しだったのだ。

 おとぎ話なんて非ではない、悲しくツラく、残酷で絶望のお話。

 それを執事がおとぎ話のように簡潔にまとめ、私を喜ばそうとしたのだろう。 父との繋がりを少しでも与えるために。

 

 ある日。 フードの少女が地下室から出てくるのを見かけた。

 彼処は父親が私のために薬を調合している、立ち入り禁止空間。 勿論、執事でさえ中に入ったことはない。

 だからこそ、不躾なあの子が出てきた時は信じられなかった。 名前も顔も知らぬ、無愛想な彼女が自分から親を奪おうとしているのではないかと疑心暗鬼に捕らわれ、この不安を拭うために知りたいと思ったのだ。

 私と彼女の違いは何なのか。 そして、私は入ってしまったのである。

 父から禁じられた地下へと…。

 

 地下への道は、螺旋階段となっていた。 内側に壁や手すりは存在せず、大きな空洞が出来ている。

 覗きこめば何処までも続いている暗黒の世界。 唯一の明かりである蝋燭は、外側の壁に幾つも立て掛けられているがその先に終わりが見えず、不気味な炎が渦巻く。

 言い知れぬ恐怖があった。 暗闇もさることながら、階段を下っていく度に底の方から肌を刺すようなピリピリとした雰囲気と、胸を締め付ける悲しみが襲いくる。

 頭の奥では、危険だ、ここに居ちゃいけないという警告が何度も流れるのに、不思議と歩みは止まらなかったのだ。 まるで、何かに呼ばれるかのようだった。

 

 「はぁ…はぁ…」

 

 もうどれだけ歩いたのだろう。 体感で半日は掛けたと思う。

 辿り着いた場所は、巨大な両開きで出来ている鉄の扉。 私では到底動かすことさえ不可能な物だが、指先が触れた瞬間、扉全体に光が走りひとつの模様が浮かびあがると独りでに動き出したのである。

 

 「何、あれ…」

 

 そこには一匹の獣のような何かがいた。 成人男性程の大きさで、全身には真っ黒い体毛。

 狼のような頭部をしており、果たして純粋な動物であるか疑問に感じたのはその骨格と四肢にあった。 中足骨が人間のように短いのである。

 本来犬科の足は指先のみ地面に接しており、人間でいう足の裏はまるでふくらはぎのように浮いている構造だ。 そして四肢は有機生物ではなく、無機物、鋼のような質感を持ち、光沢を放つ刺々しい物だった。

 

 「──────」

 

 獣が私に気づき、牙を剥き出しにしながら喉奥で唸る。 人間が四つん這いになる格好で、全身を鎖で縛りあげられており、酷く苦しそうだ。

 

 「狼さん、ツライの…?」

 

 怖いが、その姿に助けてあげたいと思った。 何重にも巻かれている鎖をひとつひとつ掴み、か弱い力で精一杯剥がしていく。

 身体中に汗をかき、お気に入りのドレスに染みが広がる。 そして最後の鎖を剥がした────その瞬間だった。

 

 「──────ッ!」

 

 「きゃ!」

 

 獣が咆哮をあげて飛び掛かってきたのである。 私を押し倒し、覆い被さると、スイット状の瞳で睨み付けてきた。

 獣と人、そして鉄が合わさった両手で胸ぐらを掴むと、そのままドレスを引きちぎり、胸元が露となる。 何をされるか分からずとも女性としての本能だろうか、自分はきっと酷いことをされて喰われるのだと幼いながら察してしまった。

 

 「い、いやぁ…来ないで。 やめて…!」

 

 獣の額が割れて、深紅の眼球が飛び出る。 ギョロリと此方を見た時、失禁してしまった。

 

 「ひっ…」

 

 みっともなく涙をポロポロと流し、鼻水も出ていたのはよく覚えている。 獣の瞳に無様で汚ならしく顔をぐちゃぐちゃにした私が写っていたのだ。

 獣は何を思ったのか、その状態のまま喉を唸り続け私をジッと見つめていると興味を無くしたようで身体から離れ、四つん這いのまま部屋から出ていき、階段を登っていった。

 暫く、何も出来なかった。

 

 「これは驚いたな。 てっきりボロ雑巾になるまで遊ばれて喰われるのかと思えば…」

 

 私以外、いないはずの部屋で少女の声が聞こえる。 何処から現れたのかフードの少女が此方に向かってゆっくりと近づいてきた。

 私は獣から助かった安堵により、何も考えることも返事を返すことも出来ず、ただその様子を眺めるだけ。 それにより、フードの中身を初めて見ることが出来た。

 確かに少女の顔をしていたが、何処か老婆のような印象を感じる。 ある種の錯覚か。

 

 「私に掴まれ、部屋に連れていこう。 お姫様が何時までもそんな格好をするわけにもいくまい」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「飴玉だ。 気分が落ち着く、舐めなさい」

 

 綺麗な紙で包まれたお菓子を差し出す。 中身は色鮮やかな飴で今まで見たなかで一番見事に出来た物だったかもしれない、味も香りも、ただ甘いだけでなく口に残らないシュワシュワとした爽やかさがあった。

 

 「ふむ、やはり似合うな」

 

 気がついた時には自分の部屋にいた。 服装もフードの少女により着替えさせられており、真っ白いドレスを着用している。

 心を何処かに置き忘れように、ボーッとしていた私はひとつの不安があった。 あの獣を逃がしてしまったことに対する罪悪感だ。

 地下にわざわざ捕縛していた存在を逃がしたということは、父親から何か言われる、もしかしたら叱られて嫌われるのではないかと。

 

 「どうしよう…」

 

 「何、心配する必要はない。 もうアレには用済みだ、それよりももっとすばらしいのが手に入った」

 

 少女は不敵な笑みを浮かべる。 うつむく私の横から此方を覗きこむように、見つめてきた。

 

 「私から父親に上手く言ってやろう。 お主が嫌われる要素も無いからな」

 

 「ほんと? ありがとう!」

 

 「フフっ……」

 

 ぱぁっと輝かせた私の笑顔に、少女の口角が更に上がる。 だが、その目は全く笑っておらず、嫌な予感がした。

 

 「お主はとても美しい、エヴァンジェリン」

 

 「え…」

 

 「まるで、そう…。 紫丁香花のように可憐で美しく力強さを持ち、不吉さを持つ。 “白い”ドレスが似合うとこなど、如何にもヤツが好みそうだ」

 

 少女はおもむろに私の顎を掴むと、ぐいっと顔を寄せ唇を重ねた。

 

 「…っ!?」

 

 口の中を何かが這い回る。 それが舌だと気づいた時は、息苦しさと羞恥、恐怖から思いっきり噛みついてしまった。

 

 「何するの!」

 

 「いや…単なる嫉妬だ。 気にするな」

 

 相変わらず笑みを張り付けて、口から滴る血を妖艶に舐めとる少女。 私は初めてのキスを奪われた悔しさと怒りから、乱暴に口元を拭う。

 

 「そういえば、もうすぐ誕生日か」

 

 「それが…何」

 

 「私は急用で恐らく出られない。 今のうちに一応、おめでとうと伝えよう」

 

 お前が一度でも食事を共にしたことはない。 出てきそうな言葉を飲み込み、少女はそれさえ予想していたのかフッと笑うと、何も言わずに部屋から退場した。

 今にして思えば、きっと…この少女もグルだったのだろう。 私を吸血鬼にした者達と。

 

 

 

 




あと一話続きます。

Q・黒い獣って誰?

A・超超超厨二設定ですが、マガツという名前。 ある人物の失った闇の因子。

Q・狼さんのおとぎ話って…。

A・わんわんお。 でもおとぎ話風に改変しており、実際に起こったこととちょっと違う。

Q・フードの少女の正体。

A・アマテルさんです。 因みに早い段階で教えたのは、原作でハッキリとした描写がないからです。
もしかしたら違うかもしれないので、このSSではフードの少女はアマテルさん。







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