畜生先生ポチま!   作:お話下手
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エヴァンジェリンとしずな

 【2003年】

 

 「何? 私とポチの出逢いを知りたいだと?」

 

 休日昼過ぎの話し。 1人寂しく学園のカフェで紅茶の薫りを楽しんでいたエヴァンジェリンだったが、同じクラスの桜咲刹那が現れたことで面倒だと言わんばかりに眉を潜めた。

 

 「はい、是非とも。 ポチ先生に聞いても答えてくれず、刀子先生も貴女の許可が無ければ話せないと」

 

 此方の了承を得ていないにも関わらず当たり前のように相席し、店員に自分は緑茶でと御願いする姿はなんと厚かましいことか。 だんだんコイツ、神楽坂明日菜とポチに似てきたな。

 そういえば前にこんなこともあった、私がステーキ屋でレア肉を食そうとした時どこから嗅ぎ付けたのか、いきなりポチと神楽坂が現れゴチになります!と勝手に奢らされたことを。 いかん、思い出したらイライラしてきた。

 家に帰宅したらまずお仕置きだな。 久し振りに肩ロースでも頂くか。

 

 「男女の馴れ初めを気にするとは…。なんだ貴様、そんなにあの駄目犬が好きなのか。 趣味が悪いな」

 

 「ち、違いますよ! 第一何故あんな変態を…!」

 

 年幼い少女特有の健康的な白い肌が朱に染まる。 わかりやすい。

 

 「小さい頃は『うち、とあ兄ちゃんとこのちゃんと結婚するー』…と言っていたみたいだなぁ? 両刀使いは神鳴流に相応しくないと思うが」

 

 桜咲刹那の瞳に意地悪な顔をした私が映った。 …が、すぐに涙が溜まったことによりその姿は一瞬にして歪められる。

 …これは泣いた。

 

 「どこからの情報ですかそれーーー!?」

 

 否定はしないんだな。

 

 「少しは音量を抑えろ。 周りが見ている」

 

 はっとした表情になった桜咲は小さく咳払いし、恥ずかしそうな顔で俯く。

 

 「それを言うならエヴァンジェリンさんだって…」

 

 「確かにお前言う通り、私は奴に惹かれているよ。 詠春とポチから昔の話しは聞いているだろう?」

 

 「はい…」

 

 ティーカップに唇を近付け一息つく。 桜咲刹那は私の言葉に陰を落とした。

 私と“とあ”は登校地獄が掛けられる前から面識がある。 私が奴に好意を抱いていたのは既にその時からであり、ナギ・スプリングフィールドと旅をしていたアイツを手に入れようと何度も追いかけては、返り討ちにされた。

 

 「エヴァンジェリンさんがあの人に負ける姿が考えられないのですが…」

 

 「気持ちは分からんでもない。 しかし強者であった奴の実力は、圧倒的戦闘経験によるものと馬鹿力だったからな」

 

 記憶を失ってからはそれも失ってしまい、回避のスキルはある程度残っていたが、殆どは素人同然。 馬鹿力も巧くコントロール出来ていない。

 だが、あの時代の奴は、類いまれ戦闘技術、特に零距離において紅き翼最強と言われていた。 逆に言えば魔法や気の力は使えないため、距離を取られると一気に弱くなるが…。

 

 「馬鹿力、ですか…」

 

 「ああ。 覚えているだけでも、殴るだけで山脈を割ったり海を割ったりしていたな。 多重障壁なんぞ奴にとっては意味をなさなかった」

 

 つっかかている私を、奴はなんだかんだ言いながら何度も相手をしてくれたし、困った時があればすぐに助けに来てくれていた。 だが、ある日突然、それこそいきなり奴は私のことを避けだしたのである。

 初めは無視されていた程度で無論、私自身その態度が非常に許せなかったためいつも以上に関わりを持とうとした。

 

 「しかし、最終的にはこの様だ」

 

 「ネギ先生の御父さんの力を借りて、貴女を学園に閉じ込めたのですね…」

 

 私は絶望して泣きわめいた。 置いていくなと。

 奴がそれに返事を返すことはなかった、何故か私を抱き締め、必ず迎えに来るとだけ伝え去っていた。

 

 「そしてその後、すぐにだ。 3年と少し、千の呪文の男と共に死んだと伝えられたのは」

 

 「うう、マスター。 おいたわしや…」

 

 「って、うおおい!? 茶々丸、いつから!?」

 

 振り替えれば無表情で涙を拭くフリをする一番新しい従者。 夕飯の食材を購入していたのか、腕には袋つづみが。

 

 「何? 私とポチの出会いを知りたいだと?……あたりからです」

 

 一番最初ではないか、貴様ー!

 

 「あー、兎に角だ。 刹那、貴様が知りたいのは“このあと”の話しだな?」

 

 「で、出来れば事件の話しも…」

 

 「まぁ、確かにこれはおいそれと話せん内容だ」

 

 理由としては二つ。 ひとつはポチに関することだ。

 事件の犯人を倒した彼だが、その相手を倒したこと自体が問題だった。 何せ相手はエヴァンジェリンと同じ吸血鬼、不死の存在、殺すことの出来ない魔族を殺害してしまったのだから。

 

 「いいか、たださえあのバカは不老不死だというのに、これが知られれば奴は真っ先に不死狩りから狙われることになる」

 

 間違いなくバラバラにされて実験動物にされるだろう。 そういう意味では、学園から出られないポチは“助けられている”と言える。

 

 「ポチ先生はなんと考えているのでしょう…」

 

 「アイツは、美人の研究者に実験されるなら本望だッ!っと言っていた」

 

 「美人である前に女性である可能性もないのに、アホですね…」

 

 お前もそう思うか、茶々丸よ。 最近アイツの生態に馴れてきたな。

 

 「そして二つ目、これは私のプライベートに関することなんだが…まぁ、お前になら話して良いか」

 

 茶々丸は口が堅い、刹那は自身ととてもよく似通った生い立ちを持つ。 信用は出来る。

 

 「実は、ポチが────いや…“とあ”が倒したその不死は、私の昔の知り合いだったんだよ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 【1991年 4月】

 

 「今日から転入してきたエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさんです。 皆さん、仲良くしてください」

 

 「よ、よろしく…」

 

 その子はとても恥ずかしそうに、スカートの裾を掴みながら絞り上げるよう挨拶をした。 顔は真っ赤で唇はきゅっと結び、まるでお人形さんみたい。

 新任の葛葉刀子先生は、エヴァンジェリンさんの紹介を済ませると、一番後ろにいた私の横の席に着席するよう促す。 彼女が他の生徒達の間を通る度にヒソヒソと話し声が。

 ある者はその愛らしい容姿に心奪われ悶え、またある者は彼女の正体を知ってる恐怖から警戒するような会話。 

 

 「私、しずなっていうの。 宜しくね、エヴァンジェリンさん」

 

 「あ、ああ。 そうか…」

 

 座り込んだエヴァンジェリンさんに名一杯の笑顔で握手を求める。 ドギマギしながらそれに応じてくれる彼女の表情と、包み込んでしまいそうな程小さな手を握り、思わず頬が緩む。

 これが私と闇の福音と怖れられたエヴァンジェリンさんとの、最初の出逢いだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【1991年 6月】

 

 

 「エヴァンジェリンさん、今日の放課後勉強に付き合ってくれない?」

 

 「いいぞ」

 

 6月の梅雨入り、隣のしずなからいつものお願いがきた。 彼女は他の生徒達とは違い、歳がひとつ上だ。

 その理由として留年による影響だった。 別段しずな自身は頭が悪くない。

 むしろ此方と並ぶ程成績優秀である。 しかし、一年程前魔法世界に家庭の事情で暫く過ごしていたせいか出席日数が足りなかったらしい。留年の理由はそれだ。

 落ち着いた態度のせいか彼女はクラスの中で一際高いリーダーシップを持ち、私のようなクラスで孤立しやすいタイプの存在にも気を配り、こうして度々誘いを受けている。 初めは断り続けていたが、しずな自身、クラスから浮いていることを感じており、話しの内容も私の方が合っていたようだ。

 それもそうだろう。 なんせ4ヵ月も魔法世界で留守にしており、此方の世界で換算すれば凡そ一年間だ。

 留年などしてしまえば、周りの生徒は二つも年下であり、彼女の達観した性格も含めて子供っぽい空間と感じていたはず。

 

 「──さん、A組のガンドル君が好きみたいよ」

 

 「無理だな、あの色黒は別の奴が好きだと聞いたぞ。 修羅場になるな」

 

 「それは、怖いわね」

 

 「そういうお前はどうなんだ。 好きな奴くらいいるんだろう?」

 

 しずなは「さぁ、どうかしら」と微笑を浮かべ、静かに紅茶を飲む。 やはりコイツは中学生に思えない。

 私とは違い、美人でスタイルもよく、他者に対する気立ても巧い。 くそ、此方も成長すればアレくらい余裕でなれるはずなのに…!

 

 「エヴァンジェリンさんはいるんでしょう。 待ってる人が」

 

 「ぶうううっ!? な、何故それを……誰から聞いた!」

 

 「高畑君から、ね」

 

 あのバカの元弟子とか言っていた小僧か。 全く、べらべら喋りおって…おかげでお茶を噴き出してしまった。

 

 「きっと素敵な人なのかしら」

 

 「いや、それはない」

 

 キッパリと否定した私の言葉に、しずながポカンとする。

 

 「アイツは変な奴だ。 それこそ、その辺りで土を耕すミミズがまだマシに見えるレベルのな」

 

 「ふふ、ならその変な人に惚れた貴女も変ってことね」

 

 アイツと同じ扱いをされるのはかなり嫌だな。 

 

 「でも、好きなんでしょう?」

 

 「ああ、好きだよ」

 

 どうしようもなく、バカなことで笑わせて、アホなことで楽しませてくれ、しかしいざという時は頼りになる、アイツの優しくて心が強いところは大好きだ。

 

 それからは月日が流れ、修学旅行を除けば運動会、学園祭など比較的楽しませてもらった。 運動会では体格の関係上足の遅い私はリレーでアンカーを務め、ゴール手前で転んだ時は涙がちょっと出そうになった。

 しずなと刀子のフォローが無ければクラスとの関係が危ぶまれそうだった。 そのあと玉入れで取り返して、二人の顔に泥を塗るような真似をせず済んだ。

こうして思い返すと誰からも狙われず、安心して寝床につけたのは一体何年ぶりか。 いや、そういえばアイツと共にいた時は常に一緒で寝ていたか。 

 気づけばあの時からゆっくりと眠れていた気がする。

 

 もうすぐで中学も卒業だ。 成績に問題はなく、体調不良を除けば毎日通っていたため、出席日数にも問題はない。

 このまま高学年に進級し、しずな達ともまた穏やかな生活をおくれる、そう思っていたが…。

 

 「何! 進級出来ないだと!?」

 

 「スマンのぉ。 ナギの奴め、登校地獄の呪文をちょっと間違えているうえ、無駄に魔力を込めたせいか呪いの精霊との契約を滅茶苦茶にしておる」

 

 「ふざけるな、じじい! 貴様ではなんとか出来んのか!」

 

 「残念ながら流石に儂でも、魔法使いとして最強であるアイツの呪いを解くのは不可能じゃ。 早いとこアイツらには帰ってきてもらわんと、このままずーっと中学生じゃの…」

 

 学園長室の扉をおもいっきり音を発てながら退出。 あのバカコンビめ、帰ってきたらボコボコにしてやる!

 外れに建つ、自身の家に帰宅。 苛立ち気に制服を脱ぎ捨て全裸になると、床に叩き付けた。

 

 「オーオー、久シブリ怒ッテイルジャネェカ。 何カアッタノカ?」

 

 「何でもない…!」

 

 リビングでテレビをずっと視聴していたチャチャゼロが、茶化すように話し掛ける。 今は誰とも話したくなかったため無視を決め、ベッドへ潜り込んだ。

 傍にある戸棚にシーツから手を出し、引き出しを開ける。 中に納められていたひとつの小さい箱を取り出すと、そのまま中に引き入れた。

 蓋を開けると中には深紅に優しく輝く宝玉。 アイツの心そのものであるそれを両手に握り締め、静かに祈る。

 

 「寂しい、早く戻ってきて…」

 

 学生生活初めの頃はこうして毎晩握り締めていた。 しずな達と過ごしてからは回数が減り、頼ることも無くなっていったが、またこうして再び握り締めようとは…。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【1994年 4月】

 

 「おはよう」

 

 「あら、おはようエヴァンジェリンさん。 えっと、貴女は中等部でしたよね? ここは高等部ですよ」

 

 ああ、知ってるよ…しずな。 お前にとって、私がここにいるのはおかしいことなのだろう。

 高等部へ進級した彼女は、私と過ごした日々を全て忘れていた。 これも登校地獄による作用なのか、腹立だしいことこのうえない。

 恐らく混乱を避けようとする精霊の対処なのか、魔法関連の教師達には兆候が見られなかったが、嫌なところにばかり気が回る。

 

 「いや、何…お前の顔を改めてよく見ておこうと思ってな」

 

 「ふふ、貴女のような可愛らしい人に見つめられるとテレるわね」

 

 変わらぬ微笑。 お前はいつもそうだったな。

 

 「タカミチは紳士に見えてただの朴念事だ、難しいだろうが頑張れよ」

 

 「……」

 

 私の最後の言葉に目を見開く。 それ以上有無を言わせぬまま、私はその場から離れた。

 さようなら、私の友達。

 

 「あれで良かったの?」

 

 先には刀子が待っていた。 自ら担任を請け負った者として最後まで見届けたかったらしい。

 あれで良いのだ、彼女には何度も世話になった。 これ以上私のワガママに付き合わされて余計な混乱を招くわけにはいかない。

 

 「ごめんなさい、私も次は大学部の担当に移ることになったわ。 ひとりにさせてしまうわね…」

 

 いいさ。 ひとりは馴れている、次の新しいクラスでもきっと巧く出来る。 

 もう人との接し方には馴れた。 しずなに頼らずとも、やってやろうじゃないか。 それが、アイツの願いでもあるのだから。

 

 

 

 




次も間違いなくシリアス。 そしてちょっとだけポチ登場。
次の次あたりで、ちょいちょい語られていた事件の話しに入ります。







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