畜生先生ポチま!   作:お話下手
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もはやエヴァが主人公。


エヴァンジェリンとポチ

 【1994年 6月】

 

 梅雨は嫌いだ。 特に雷が激しい大雨はあの日を思い出す。

 

 「…?」

 

 始めは違和感だった。 周りの者、特にクラスのまとめ役としてリーダー気質を持つ女子、彼女達が私を遠巻きから眺めこそこそと耳打ちしていたのだ。

 今まで感じたことのない視線、恐怖や嫌悪のものではなく好奇心や対抗心を燃やした攻撃的なものだった。 落ち着かなかったが、特別敵意はないだろうと思いそのままほっておいてたのだ。

 積極的に友達の作り方を知らない私は、やはり上手くいかず、毎日教室で空気のように過ごし、アイツの帰りを今か今かと待ち焦がれていた。 もしも出迎えた時、何と言ってやれば良いだろう。

 

 素直にお帰りなさい? それともいつものように遅いと一喝するべきか?

 …いや、流石に酷い気がするが、でもアイツなら笑い飛ばすかもしれない。 逆に真面目にやったら戸惑うかもしれん、そういうのは苦手だと言っていたし。

 等と他愛のないことで思考を働かせ、今日も時間が過ぎていく。 だが、ふとある日のことだ。

 ボーッと窓の外を眺めている時、クラス内で一際大人しい少女が自分に話しかけてきた。 周りをかなり気にしているようで忙しなく辺りをキャロキョロと見渡すと、エヴァンジェリンに小さく話し始める。

 

 「き、気をつけて。 最近、生意気だって言ってたから…」

 

 「何? なんのことだ」

 

 少女の言葉にまるで理解が出来ない。 詳しく聞こうとしたが、クラス内のリーダー格が教室に戻ってきたのを気づくと、すぐさまそそくさと、自分の席に戻ってしまう。

 この時は全くわからなかったが、次の日エヴァンジェリンは、その意味を嫌でも知ることになる。

 

 「なんだ、これは…」

 

 翌朝の下駄箱での出来事。 自身の上履きの中に雑草が詰め込まれていた。 陰湿な嫌がらせ、しかし幾多の経験でこんな物では生温い迫害を受けてきたエヴァンジェリンからすれば鼻で笑ってしまうくらい、あまりにもちっぽけで単純に意味のわからない行為だった。

 こんなもの、さっさと掃き捨ててしまえばなんてことない。 大勢の人間から石を投げつけられるほうが余程酷だ。

 その後も机を落書きされたり、足を引っ掛けられたり、様々なバリエーションが増えるが、それでも彼女がへこたれることはない。 ただ、いつも空を見上げ想いを馳せる。

 だが、それを良しとせず面白くないと苛立つ主犯者達。 徐々にその行為は小さく、そして確実にエスカレートしていき、エヴァンジェリンの反応を楽しもうと机の上に菊の花を飾ったと思えば、机その物を無くし、体育の時間で集中的にボールをぶつけられ、トイレの上からバケツをひっくり返した水が流し込まれたこともあった。

 流石にこれには彼女も怒りを募らせたが、相手がまだ幼い子供であるため、やり返すようなことはしない。 不機嫌そうな表情を貼り付かせ、私に近寄るなと感じさせる空気を常に放っていた。

 

 無論、その様子を“とあ”からエヴァンジェリンを頼まれていた学園長、近衛近衛門が気づかないわけがない。

 

 「御主、ちと無理をしとらんかの」

 

 「いきなりどうした」

 

 「いや、あまりよくない噂を聞いたものじゃからな。 暫く自宅待機でもしたらどうかのぉ」

 

 「出来ないくせに言うな。 お前は関西との小競り合いを気にしていろ、スクナのこともある、少しマズイのだろう」

 

 学園長は知っておったのかと、申し訳なさそうに髭を撫でる。 あれは無理矢理“とあ”とナギと詠春が力ずくで解決させた事件、戦争一歩手前、後々の面倒を考えればそう簡単にもいかなかったはず。

 

 「バカにするな。 私は闇の福音と呼ばれた女だぞ? この程度で喚くようではアイツに笑われる」

 

 勝ち気な笑みを返してくれたが、近衛にはそれが何よりも辛かった。 これから彼女に伝えねばならない“最悪の結果”をどのように話せば良いのか、一体どれだけの苦しみを与えることになるのか。

 想像するだけで嗄れた自分の手が震える。

 

 「エヴァンジェリン、その──じゃな…少し落ち着いて聞いてほしいのじゃが…」

 

 「ん、またさっきの話しか? 良いんだよコレで。 もう慣れてる。 アイツが来たら思いっきり愚痴でも溢すから、年寄りが無駄に気を回すな」

 

 「……ッ」

 

 「なんだ、違うのか?」

 

 「い、いや──参ったのぉ、御主も年寄りのくせによう言うわい」

 

 言えなかった。

 

 「はっ。 ザンネンながら私とお前では歳の取り方が違う」

 

 此方をバカにしながらも楽しげに話し、軽快な足取りで部屋から退出するエヴァンジェリン。 彼は自身の目を覆い、嘆く。

 

 「わ、儂は…なんと弱い…」

 

 この歳になっても未だに成長出来ていない己。 彼女の最愛の人物が死亡した事実を伝えるべき責任があるというのに、それを放棄してしまった。

 絶望したエヴァンジェリンを支えるべきなのも“とあ”から託された自分のやるべきことだというのに、その約束さえ破った。 愚かで、卑怯な人間である。 彼女はこのまま帰ることのない人を永遠に待ち続けることになるのか、知らぬ幸せもあるというが、エヴァンジェリンはきっと、そんなもの欲しくないだろう…。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「エヴァンジェリンさんってさぁ、ここまでされて何も思わないわけ?」

 

 それは突然のことだった。 いつも通りの昼休み、教室から出ていこうとしたエヴァンジェリンを止めたのはクラス内のリーダー格。 小馬鹿にした甘ったるい声はエヴァンジェリンに不快を与えるが、これを無視。 何も言わずにその横をすり抜けようとしたが、彼女の腕を相手は強く掴む。

 

 「おい、痛いのだが」

 

 「シカトしないでよ、いっつも上から目線でムカツクんですけど」

 

 「別にそんなことをしたつもりはない」

 

 「そうそう、それ。 そのまるで気にしてないような態度が嫌なの。 それともなに? …吸血鬼様は人間をそんな接し方しかしないの?」

 

 最後の言葉はエヴァンジェリンに耳打ちするよう小さく囁く。 流石にハッとした彼女は目の前の少女は事情を知る人物だと気づき睨んだ。

 

 「魔法関係者…」

 

 「私の曾お爺ちゃん、エヴァンジェリンさんに殺されたってお父さんから聞いたんだ。 酷いよね、人殺しがのうのうと学生生活なんて」

 

 「成る程、遺族の者か。 赦してくれとは言わん、だが私は常に向かってくる者しか殺さなかった、それは覚えておけ」

 

 吐き捨て腕を振り払い、脇を通る。 これは昔から何度もしてきた行為だ、悪に謝罪をする資格はない。 覚悟していたこと、悪者は悪者らしく振る舞う必要がある。 それがエヴァンジェリンの誇りでもあるのだから。

 故に、侮蔑罵倒から逃げない。 敢えて真っ正面から恨みを受け取る。

 だから、彼女が怒りに震え叫び声をあげるのも予測していた。 …その後に続く言葉を除いて。

 

 「なによ、それ…! 馬鹿みたいに帰らない人を待ってるくせにカッコつけてんな!」

 

 「…どういう意味だ」

 

 一拍おいて聞き返す。 エヴァンジェリンは自分の耳を疑った。

 

 「まだ知らないの? 事故で死んだって大騒ぎよ、千の呪文の男とその相棒が!」

 

 「くだらん」

 

 即答。 あの馬鹿が簡単にくたばるわけがない、しかも事故などという呆気ない結果で。 最強と自負する己と互角の強さを持つ強者、どれだけ戦力を用意しようとそのままぶち壊すようなヤツだ。 冗談にしても笑えない。

 

 吐き捨てた言葉。 エヴァンジェリンは踵を返し、振り返ることなく足早にその場から離れた。

 

 そう、そんなことは有り得ない。 自身を置いて勝手に逝くなど、あってはならないことなのだ。 強い想いは胸に溢れているが、そこに学園長の言葉がけして混ざり合わない油と水のように入り込んでくる。

 

 あの時、彼は何を言おうとしたのか? 深刻な表情。 すぐさま取り繕った笑顔を見せたが、よくよく思えばあれは演技に見えた。

 だが、まさかと…。

 

 頭の中を同じ考えがグルグルと回り続ける。 少しずつ歩みは速まり、足取りはやはり、学園長室へと向かっているのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「おっ、なんじゃ御主、ノックもせず……」

 

 いきなり入室したエヴァンジェリンに少したじろぐ近衛近衛門。 しかし、彼女の肌を切り裂くような殺気を感じ取った瞬間、理解した。ああ、この時が来たのだと。 相手を傷つけてしまう恐怖で僅かに指先が震えるが、同時に、この苦しみから抜け出せると不快なことに安堵してしまう。

 

 「じじい、今から言うことを嘘偽りなく正直に応えろ。 仮に冗談でふざけたこと言ってみるがいい、貴様の髄液を引き抜く…!」

 

 「おお、怖い怖い。 そんなことをせんでも、正直に応えよう…」

 

 前半はおどけた様子で、しかし後半は静かに重々しく力強く言った。 エヴァンジェリンの殺気は膨れ上がり、空気が鋭い。 当てられた近衛門の頬は僅かに斬れている。

 

 「アイツらは…とあは今、どこにいる」

 

 「死ん────っ!」

 

 エヴァンジェリンが眼前にいた。 まるで反応出来なかったのだ。 幼く、細いその腕に一体どれ程の力があるのか、近衛門の首には彼女の左手がかけられ右手は異形の形となって自身の頭部を掴む。結界内でこれほどの力、明らかに彼女の身体スペックを上回っていた。

 そこには、エヴァンジェリンという美しくも可愛らしい少女はどこにもいなかったのである。

 

 「…モウ一度聞イテヤロウ、とあハドコダ」

 

 これが人の悪意が造り上げた者なのかと近衛門は戦慄した。 エヴァンジェリンの姿にではない。 彼女をここまで変えてしまう境遇、生い立ち、苦悩、それを想像するだけで絶望してしまう。

 とあと共にいた彼女はそれそれは美しかった。 光を放ち、周りの者達さえも幸せになれるそんなオーラを持っていた。 しかし今はどうだ、口は耳まで裂け、目は反転し、鋸のように牙が並ぶ。 こうまで変えてしまう、なんと恐ろしいことか。 これが人の悪意そのものなのかと戦慄した。

 

 「すまぬ、彼らは…」

 

 エヴァンジェリンから力が抜けていく。 異形の手は紅葉のように小さく縮み、顔は元の容姿を取り戻す。

 

 「嘘だ…」

 

 「儂も信じたくない。 じゃが、まだ安否を知る方法はある。 御主がとあから預かった玉、あれが無事ならば…!」

 

 そう、とあが自分自身と言ったあの深紅に輝く宝玉。 未だにその光を失っていなければ、望みはある。

 エヴァンジェリンは有無を言わず走り出した。 自宅で大切に保管していたあれは、昨日も光輝いていた。 彼らが事故で亡くなってから少し日にちが経っている、つまり、今も何処かで生きているのだ!

 

 「はぁはぁ! っぐ…!」

 

 か弱い少女の身体で休み無しの全力疾走。 息がきれ、足がふらつき、自宅前の庭に顔から転んでしまう。 顎と膝を石で切ったのか、血が流れジクジク痛む。 だが今はそんなことどうでも良い!

 扉を壊す勢いで玄関を開け、二階の自室へ駆け上がる。 背中からチャチャゼロが呼び止める声が聞こえたが、それさえも無視。

 部屋にたどり着き、引き出しの中にあるケース、そこに収められた宝玉を確認するため開いた。

 

 「ああ、良かった…!」

 

 宝玉は今も輝いている。 安堵と同時にドっとした疲れが押し寄せ、彼自身を握り締めながら力尽きたように横になった。

 安心して沸き上がるのは苛立ち。 じじいは兎も角、私をここまで疲れさせたあの小娘の罪は重い。 流石に命を取ったりはしないが、少々おしおきが必要だと一人、悪の笑みを浮かべた。

 

 その時。

 

 「は?」

 

 手の中の宝玉が揺れる。 ピシリと、何かが割れるような。

 

 「そんな…」

 

 恐る恐る、手を開く。 其処には大きく、いつ割れてもおかしくないヒビが宝玉に刻まれていた。

 

 「な、何故だ! どうして…!」

 

 エヴァンジェリンの悲痛な叫び。 ヒビは広がり、光もまたその輝きを失い始めている。 理解出来ない、これはあってはならないことなのだ!

 

 「ああ! ま、待ってくれ! 駄目だ、こんな────」

 

 砕ける。 彼が、彼の命が。

 

 「あ…」

 

 其処にあるのは、もう深紅の宝玉ではなかった。 光は失い、砕け、石ころどころか砂となり、サラサラと指の隙間から零れるカスだった。

 

 「アアアアア!!」

 

 慟哭。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 麻帆良学園外。 結界の外側から一人の老人が両目を静かに閉じる。 色褪せた黒いコートを羽織り、広い鍔を持つ帽子を深く被り素顔は見えない。

 空は曇りかかる。 一雨降りそうだ。

 

 「あのような結果になるとは…。 やはりここは…」

 

 杖でアスファルトを叩きながら歩き始めた。 その足取りは麻帆良学園へと向いている、絶望の遺恨が。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 狂笑が響く。 変わり、嘲笑。 せせら笑い。耳を塞ぎたくなるような狂気の宴が目の前で行われる。 刀子はそこから身動きが取れなかった。

 胸に突き刺す哀しみが他者の物と信じられない。 これが愛であり、憎しみなのか。 痛々しく、なんてみっともなく、なんて羨ましい。

 誰かをここまで愛せた“彼女”は酷く醜く、とても素晴らしかった。 自分もこうでありたいと。

 

 彼女は笑い続け、そして気づく。 これが罰だったのか。

 親殺し、人外、幾多の者を殺害した自身の罪、それに相応しい罰はこれだった。

 幾年も覚悟した。 何れ罰せられる時、己は一体、何れ程の身体的苦痛を味わうのか? 死ねぬ身体で狂うまで火炙りか、切り裂かれるのか、喰い尽くされるのか。

 違った。 此れこそだった。 大切な者を奪い続けた化物には相応しい罰、同じく命よりも大切な者を奪われる罰。 残酷で正しい。

 

 ああ。 私は深淵で生きるしかないのか。外では雷が落ち、薄暗い部屋に光が射し込む。 あの日も、こんな空だった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 その日の深夜。一人の青年が林の中で倒れこんでいた。

 一糸纏わぬ産まれた姿、男性器を持っているにも関わらず、女性的で美しい姿だ。

 無機質な瞳が開かれ、瞬きを数度繰り返すとゆっくり起き上がる。 が、その美しい容姿は青年がだらしない欠伸と共に崩れ去った。

 

 チャーラチャーラチャーラチャーラチャー! なんということでしょう、あんなに美形だったイケメンは見る影もありません。 出来杉君がのび太に変わるかのようです。

 

 「───あれ? ここ…どこ? あれ? 俺…誰だ?」

 

 駄目犬見参ッ! おすわり、待て、お手、おかわり! そしてチンチン!

 

 「って、スッポンッポンじゃねぇかあああああ!?」

 

 これどういう状況なの!? なんで裸なんだよ!

 此処、外だよね、見られたら通報ものだわ…! やばいわぁ…!

 

 「きゃあああ! HENTAIよー!」

 

 叫び声の方に中学生くらいの可愛い女の子が!

 見つかったあああ! 早いな、おい! フルチンでゴメンね!?

 

 「誰かー! 誰かー! 誰──もが…!」

 

 「しー! 大人しくしてくれたら悪いようにしないから…!」

 

 駄目だ、これは完全に駄目なヤツだ!! 誰か助けてー!

 

 




Q・なんでフルチン?

A・産まれた赤ちゃんは服を着ていない!(迫真)

Q・しずなはエヴァンジェリンのこと覚えていないの?

A・記憶は操作されているが、感覚では覚えている。 あれ? この子とは仲良く出来そう…。 みたいな。 でもエヴァンジェリンがヘタレてもう一度仲良く出来ない。

Q・ポチのチ〇コのサイズ。

A・素で8センチ。

Q・結局ポチってイケメンなの? なんで正確な容姿の描写がないの?

A・一言で言うと残念な美人。







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