畜生先生ポチま!   作:お話下手
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シリ、アス…?


ポチとの出逢い

 【1990年 12月】

 

 「ねーねーエヴァンジェリンちゃん」

 

 「またくだらんことなら割るぞ。 …なんだ」

 

 割るってなんですか、顔面ですか。 そうなんですか。 中身空っぽなのバレちゃうから止めて。

 

 「好きって、十回言ってみてよ」

 

 「何?」

 

 エヴァンジェリンは思い出す。 前にナギとアリカが似たような遊びをしていたことに。 その時は『膝を十回言って肘に引っかける』遊びだったが、アリカが物の見事に引っかかりナギから「やーい、バーカ!」っと馬鹿にされボコボコにしていたのは、記憶に新しい。 どうやらこの鎧男、自作の物を考えたようだ。

 

 「しっかり言ってね」

 

 「ふん、良いだろう。 好き好き好き好き好き好き好き好き好き……好き! 言ったぞ」

 

 エヴァンジェリンは構える。 如何なるひっかけだろうと、このバカの思惑なんぞに乗らないと隙なく、自信満々に。

 

 「わーい、ありがとー!」

 

 しかし、とあは全身で喜びを表現すると、全速力ダッシュでその場から逃げ去った。

 

 「──────」

 

 一拍おいてエヴァンジェリンは理解する。 白い肌を真っ赤に染め上げ。

 

 「貴様あああああ!!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【1994年】

 

 真っ暗の深夜。 落ち着きを取り戻すまで何れ程時間を要したか、気づけば時計の針は二時をすぎ、月が沈み始める兆候が見られた。 意識を覚醒させたのは一つの反応、学園の結界に何者かが侵入する感覚がくる。

 とても小さくか弱い、今にも消えてしまいそうな存在だった。 だが、確かに何かがやってきたと此方に知らせる、確信めいた存在だ。

 やる気は全くなかったが、ほっといて後々面倒でも起こされては逆に疲れる。 もう、煩わしいことは何もかも嫌だ。 家から出ていく私にチャチャゼロは何も言わない、それはありがたい。

 

 「んー! んー!」

 

 「頼むから静かに! ね?」

 

 「……」

 

 現場にたどり着いた時、エヴァンジェリンの時は止まる。 これは一体…いや、一目見ればわかることなのだが状況が特殊すぎた。

 一言で説明すると、そこには変態がいた。 暴れる女子中学生を押さえつけ、全裸で跨がる変態が。 エヴァンジェリンの瞳から光が消える。

 

 「おい」

 

 「ちょっと、静かにして! 今忙しいとこだから!」

 

 「おい」

 

 「だから静かにしてよ! こんなとこ見られたら間違いなく変態扱いされるんだから!」

 

 「おい貴様!」

 

 「もう! 静かに…って───わあああああ!?」

 

 驚きに目を丸くし飛び上がるのは、一人の青年。 気持ち悪い行動の割りには中々の顔立ちだが、コロコロと子供のように表情が変化し、それがやはり…気持ち悪い。

 

 「大人しくしていろ、そのぶら下がっているモノを引き抜いてやる…!」

 

 「怖い! 怖すぎる!」

 

 「──っ!?」

 

 今の声、アイツに瓜二つだ…。 声質も抑揚も全く。 背も体格も、鎧越ししか見ていないが似通ったとこが ──くそ、阿呆か私は…!

 確かに似ているが、侵入者相手にこんな考えに至るなど、極まっている。 失ったショックからこのような…自分自身が気持ち悪い!

 侵入者はぶわっと、一気に涙腺を決壊させ悲鳴をあげるが、今の私は非常に機嫌が悪い。 こんなくだらないことで腰を上げさせたのを、後悔させてやる。

 

 「お嬢ちゃん! ちょ、俺の話し聞いて! 俺、悪い変質者じゃないよ! 良い変質者だよ!」

 

 「良いも悪いも、貴様はただの変態だろうが!」

 

 「おっしゃる通り…!」

 

 苦虫を噛んだような青年の言葉。 どうやら自覚はあったらしい。

 だが、このふざけた態度…妙にイライラする!

 

 「で、出来れば平和的話し合いをお兄さんは望みます!」

 

 「安心しろ、此方もそのつもりだ。 …痛みを伴ったあとにな」

 

 「安心出来ねぇぇぇ!」

 

 素性がわからん相手に油断は出来ん。 どのみち、侵入した目的も聞き出さねばならない。 このふざけた態度こそ、一般人に見せかけた演技である可能性もある。

 魔法関係者であればなおのこと…。 危険だな。

 

 未だに変態に拘束されている女子生徒を眠らせ、私が本気とみた男はそのまま逃亡を開始する。 気持ちを切り替えるよう頭を振り、マントを羽織った。

 

 「そうだ。 アイツは、死んだんだ…」

 

 さぁ、久々の鬼ごっこが始まり始まり。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「ちょおおお!?」

 

 フルチンの青年が林の中を走りぬく。 非常に怯えきった表情で、時折後ろを忙しなく確認するが、対象が視界に入ると悲鳴をあげて更に走る速度を上げた。 ビームが! なんかビームが飛んでくる!

 

 「お願いします! 止めてください! 死んでしまいます!」

 

 「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック───」

 

 自分よりも小さなチビッ子が無表情で淡々と死の呪詛を呟く。 怖い! 怖すぎるぅ! 何、なんなの、あの子!? 此方は抵抗の意志どころか、人間が見せちゃいけないモノまで出しちゃってんのに話しきかねぇぇぇ!

 そりゃね、どう見てもゾウサン状態じゃ攻撃されてもおかしくないですよ、でも記憶が全くないからそこら辺許してほしい! 自分自身、実は露出狂で女の子から返り討ちにあって記憶を失ってんじゃないかと不安になっている! そしてチビッ子が退治に来たとかそんな状況じゃないか…畜生、 間違いが見当たらない!

 

 「チッ、これも当たらんか…。 ならば───」

 

 やべぇ、なんかとっておきが来そう。 散々木を盾にして凌いでいたけど体力的にもそろそろ限界が近い。

 

 しかぁーし!! 此方もただ逃げ回っていたんじゃねぇ! 実はこそこそと其処らじゅうに簡単で小さな罠を仕掛けさせてもらったぜ! なんで出来るのかは、知らんがな! マジでヤバイ人間だったんじゃないかと不安です!

 

 しかし、これが巧くいけばチビッ子から逃げることは容易。 余計な詮索はあと!

 まずは初歩の、吊り上げトラップカード! 発動! 相手はこのターン、身動きが取れない!

 巧い具合にチビッ子を罠まで誘導し、足首に蔦が絡まるとそのまま勢いよく持ち上げられる。よっしゃあああ!

 

 「ん? ───ぬおおおおお!?」

 

 明らかに、女の子が出してはいけない雄叫びをあげてやがる…。

 

 「くそ! やはり罠に嵌めたな!」

 

 え、やはりって…。 何か誤解されている、よう…な……まぁいいや!

 

 「ふはははは! ひっかかったな、物理系女子力め! これで身動きは取れまい!」

 

 「おのれ…!」

 

 睨み顔怖っ! メッチャ可愛いぶん、メッチャ怖っ!

 

 「やーい、バーカバーカ! まさか最初の罠に嵌まるなんてなぁ、これ以外に色々沢山罠を用意していたけど全部無駄になったなぁ! くくくっ、こ、ここまでの苦労が無駄になぁ…! 本っ当に、俺……バっカみたい」

 

 「─────」

 

 やめろおおおおお! そんな憐れむような、申し訳ない目はやめろおおおおお!

 

 「暫く其処でがまんしてね。 俺が逃げたら適当に通報しといてあげるから」

 

 「何? どういうことだ…」

 

 「俺、なんで此処にいたのか覚えていないんだよ。 素っ裸で記憶喪失ッス」

 

 「ふん、そんなことが信じられるか」

 

 だよねー。 ましてや開幕から女の子拘束していたし、逆に信じてくれる要素がない。

 

 「ってなわけで、さっさと逃げることにするよ」

 

 痴漢の冤罪から逃れる一番の方法は、その場から逃走することである!

 

 「さらばじゃー」

 

 チビッ子をおいて、再び逃走開始。 しかし、俺はまだこの時気づいていなかった。 自分がここから脱け出せないことに…!

 

 その経緯を簡潔に説明しよう。 なんか林から抜けたぞ! でも敷地が広すぎて迷子だぞ! お、向こうにデカイ橋あるぞ! 彼処からなら外に出られるかもしれないぞ!

 

 ヒャッホー! 見えない壁に顔面強打! ぐしゃあ、脳みそ揺れてその場で気絶! 記憶飛んだ! 完!

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「コイツ、まさか学園から出られないのか?」

 

 目の前に寝そべっているのは、鼻から【血を流している】変態。 白目を剥いて気絶しているようだ、アホすぎる。

  一部始終を見ていたが、そもそも出られないのならば、一体どうやって侵入したのか。 わざわざ自身を不利にするうえ、記憶がないと言っていたが、どこまでが真実か、その深意は理解出来ない。

 今までとケースが違いすぎるため、どのみち一度近衛近衛門学園長に報告する必要がある。 エヴァンジェリンはマントを脱ぎ、全裸の男に被せると学園長室へ運び出した。 足首をつかみ、背中をずるずる引きずりながら。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「いやぁ、これはどうも御丁寧に…」

 

 目が覚めるとベッドの上に寝かされていた。 どうやらここは麻帆良と呼ばれる学園らしい。 俺は其処の保健室に拘束されていた。 興奮することに両手には手錠。 しかも保健室かぁ、女の先生がいれば…それなんてエロゲ。

 麻帆良の学園長、名は近衛近衛門と言った御老人が怪しい俺に暖かいお茶を差し出す。 びゃあああ、うまいいい!

 

 「ふむ、記憶喪失と聞いたが…」

 

 「そうなんですぅー、なぁーんにも覚えていないですぅー。 あと、背中が凄く痛いけど、これも覚えていないんですぅー」

 

 気絶する前はケガしてなかったのに、すんごい背中ヒリヒリするのん。

 

 「な、なんでじゃろなぁー」

 

 髭を撫でながら震え声の学園長。 そっかぁ、知らないかぁ。

 

 「エヴァンジェリンが御主を運んできたからの、彼女に聞けば何か分かるかもしれん」

 

 エヴァンジェリン? ああ、あの怖いチビッ子か。 あの子には悪いことしたなぁ、こんな風に捕まるなら最初から抵抗しなければ良かった。

 

 「エヴァンゲリオンちゃんはどこいるの?」

 

 「エヴァンジェリンじゃ。 彼女は自宅で寝ておる」

 

 寝てるねぇ。 外は太陽がサンサンと輝いているから昼頃だろう。 こんな時間に睡眠とは…体調が宜しくないのかな? もしや、深夜俺を追いかけ回したせいだったりして…。 うーむ、謝るべきか。

 

 「御主のせいではない。 寝込んでいるだけじゃ、ちょっと嫌なことがあっての」

 

 そっかぁ。 …あれ? 学園長、俺の考え読んでる?

 

 「すまんの、あまりに御主がわかりやすい顔をしていたものじゃから」

 

 学園長すげぇ! そしてわかりやすい顔って、なんか良いっ!

 

 「それにしても、うーむ…」

 

 そ、そんなジロジロ見ないで…。///

 

 「やはり、御主と話しておると…思い出してしまうのぉ」

 

 「意味はわからないけど、泣きそうな顔で言わないで、お年寄り虐めてるみたいだから」

 

 犯罪やってる此方の身としては、もうこれ以上罪を着せないで。 ホントに豚小屋へぶちこまれそう。 知ってる? 彼処では臭い飯しか食えないんだぞ! だからなんで知ってる!?

 

 「いや、御主の声と態度があまりにも友人に似ていての。 まるで今、其所にいるようじゃ…」

 

 余程大事な友達みたいだね。 でも空気が重い…! この感じは絶対死んでるパターン!

 さっきから、俺。 保健室でエッチな妄想しかしてないのに罪悪感が凄い! 誰か来てよー!

 

 「学園長、車の用意が出来ました」

 

 部屋に入ってきたのはピチピチタイツが非常に眩しい、長髪のクールビューティーな女性。 勝ち気そうな目付きに、眼鏡が大変似合います。

 

 「おねぇさん、宜しければ御名前を」キリ

 

 「ごめんなさい無理私婚約者がいるから。 葛葉刀子よ」

 

 色々すっ飛ばして自己紹介ですか、斬新すぎる。 言葉から話しかけんな変態って思いが伝わります。 畜生ー、リア充めー、末永く爆発しろよー!

 ついでに重苦しい空気がかき消えたー、ありがとうよー!

 

 「ところで、俺…どうなるんですかね?」

 

 拘束されているが、いつまでもこうしているわけにはいかないだろう。 早くも暗い未来しか見えないが、知り合いとか見つかんないかなぁ。

 

 「とりあえず身元を調べるため、魔法関係と繋がりがある警察に引き渡すつもりじゃ。 ハッキリ言えば御主は危険人物じゃからな、変態とは違う意味で」

 

 なるほどね、車の用意はそういうことか。 どっかに連れていくのね。

 

 「うん、わかったー」

 

 「や、やけにアッサリしとるの…」

 

 扱いとしては妥当かと。 仮に俺が悪人として、記憶が戻った瞬間襲いくる可能性があるからな。 正体がわかるまで、独房にぶちこむのが一番でしょ。 悪人じゃないとしても、全裸で女子を押さえていただけで充分犯罪者だし。それに…。

 

 「自分でもちょっと、引っ掛かるんだよね。 俺が普通の人とは思えないんだ」

 

 「ほう、その心は?」

 

 「魔法という存在に、違和感を覚えない。 俺を襲って────げふんげふん! 捕まえにきた女の子にはビックリしたけど、魔法自体に驚きは無かった」

 

 魔法自体ではなく、飛んでくる魔法には驚いたがな!

 

 納得したように髭を撫でる学園長。 しかし、何故か黙り込んで空気が重い。 おねぇさんも、更に眼光鋭くしちゃってるし、俺…何か変なこと言ったかな? 普通に当たり前のことしか言ってないんだが。

 

 「失礼する」

 

 またしても追加のお客さんが。 ガチムチのスーツ姿、三人組。 ちょ、あの…狭いんですけど、暑苦しいんですけど…。

 そんなにぞろぞろ来られてもねぇ、恐らく搬送の方だと思うが、さてはて…どうなるか。 まっ、考えてもしょうがないし、テキトーに構えとくか。

 

 




Q・あれ? 変態は学園から出られないんじゃ…。

A・本人は頭打って忘れてる。エヴァは報告せず家に帰って丸くなっていた。

Q・あれ? 変態のケガ、治ってない…。

A・まだ式が無い。

Q・なんで変態、エヴァンゲリオン知ってるの?

A・としあき。







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