畜生先生ポチま!   作:お話下手
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ポチま!20話になりました。 相変わらず短くて色々省力していますが、これからも宜しくお願いします。


エヴァンジェリンと学園長

 ずっと、リビングのソファーで横になっていた。 時計が針を刻む音が静かに響き、時折校舎の方から鐘が微かに。

 ふと意識を覚醒させれば、またしても同じことをしていたと自己嫌悪。 一体どれほどこうしていたのかと、時刻を見れば然程大して時は過ぎていないと気づいた。 時間にして午後の二時前か。

 どうにも昨日からこの調子だ。 頭ではわかっていても、アイツのことばかりが浮かぶ。

 

 「ケケケ、情ケネェナ御主人」

 

 部屋の棚に無造作で置かれたチャチャゼロは、醜態を晒す主に冷笑。 かつて、闇の福音と呼ばれた最強の魔法使い。 弱者は虐げず、傲りの愚者に絶望を与える誇り高い悪の女王だった己の主、それが今では愛する者を失い牙が抜かれたように怠惰に呼吸するのみ。

 

 「煩い、お前に何がわかる…!」

 

 「ワカリタクネェナ」

 

 チャチャゼロは思う。 アイツはこんなことの為にエヴァンジェリンを此処に残したのではない。 確かに、戦いの世界でも迫害され一般世界の中でも迫害されているこの状況に、光で生き続けろなど無理な話しだ。

 アイツも其れは知っている、なのに何故『光で生き続ける』のか? チャチャゼロは知っている。 エヴァンジェリンも知っている、だが気づいていない。

 

 「アイツハ、御主人二光デアッテホシカッタンジャネェノカ」

 

 誰かを守り、導けるそんな存在に。 だがどうだ? 今のその姿は?

 

 「ホント二、情ケネェヨ」

 

 落ち着いたチャチャゼロの言葉が痛い。いつも斜に構えている僕から道徳的指摘を受ければ、頭は苛立ち、腹の奥がチリチリ不快感を受ける。 思春期の女の子が親の正論で抑え込まれた、そんな感じ。

 エヴァンジェリンはゆっくり起き上がる。 すぐに立ち直れるわけではない。 正直、今でもすぐに泣き出したい気持ちでいっぱいだ。

 けど、そうだ。 背筋くらい、しゃんと伸ばそう。 ウダウダすると、チャチャゼロにいつまでも馬鹿にされそうだ。 笑顔にまだなれない。 でも、泣き顔だけは止めよう。 ウジウジすると、アイツに影で泣かれそうだ。

 

 「…全くキツいな」

 

 家を出る。 空は晴れ晴れ。 吸血鬼であるこの身体は、太陽光を浴びて心地よいと感じる。

 

 「あの変態に会ってくるか…」

 

 明らかにまともではなく、変なヤツだったが、悪い人間には見えない。 このタイミングで学園から抜け出せないなど、妙な因縁を覚えた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 『ふんぬぅぅぅ!』

 

 「ちょっ、痛い痛い! 肩が折れちゃうよ!」

 

 学園の敷地外から少し離れた場所。 エヴァンジェリンはそこで大男二人組に両腕を引っ張られている変態を見つけた。 初めは捕縛していた保健室に向かったのだが、学園長から既に搬送したと聞き相手が学園から出られないことに慌てて気づいたためすぐに追いかけたのだが…。

 やはり、見えない壁で出入りが出来ないようで、空気中に顔を貼り付けながら悶えている。 格好は流石に裸ではマズイので、質素なパジャマ姿だがそんなことは後にしよう。

 

 「先輩、やっぱり無理っすよ」

 

 「諦めるの速すぎだ! 何か細工があるはず…!」

 

 「頑張って考えてねー、俺も学園から出られないなんて怖いから」

 

 だいぶ、難航しているみたいだな。

 

 「おいお前達、その馬鹿は学園から出られんぞ」

 

 「む。 き、貴様は闇の福音!?」

 

 どうやら魔法関係者のようだ。 それも面倒そうなタイプの。 こういう輩は目を見ればすぐにわかる、畏怖と対抗心に燃やした嫌な目。

 

 「学園から出られないとはどういうことだ!」

 

 「喧しい、一々大声で怒鳴るな。 理由については知らん、ソイツのせいかもしれないし別に原因があるかもしれん」

 

 ジジイと刀子が言っていた。 変態は馬鹿な発言と態度しか見せないが、“まとも”に考える思考は持っている。 本当の馬鹿というのは“後先考えるない見栄ばかり”の中身が空っぽな奴等だが、表面上の馬鹿は心の奥底で何を考えているかわからない道化師だ。

 私は、そういう馬鹿を何度も見ている。 そして、空っぽな馬鹿も。

 

 「ほう、そういうことか。 つまり貴様らグルだな?」

 

 「何?」

 

 「グル? 黒のローブ纏ってレアカードを奪っていくアレ?」

 

 変態は少し黙ってろ。 話しがややこしくなる。

 

 「違う! それはグールズだ! それとローブは紫!」

 

 二人組の、此方に食って掛かって来ない方が拳を握りしめ叫ぶ。お前も一々突っ込むな。

 

 「と、とにかくだ! この侵入者は貴様が用意した協力者だな、自らの封印を解くために外から呼び出したのだろう! 」

 

 「え、先輩そうだったんすか?」

 

 「え、俺…お嬢ちゃんの知り合いだったの?」

 

 えええい! お前らホントに黙れ!

 

 「何を勘違いしているのか。 私とコイツは無関係だ。 ただ捕虜といはえ、その雑な扱いはどうかな?」

 

 「俺に魔法ぶっぱなしていたお嬢ちゃんがそれを言う──「何か言ったか?」…げふんげふん!」

 

 第一アレはお前が悪い。 全裸で女の子に抱き付いているヤツを見かけて、攻撃しない者が何処にいる。

 

 「ふん、それを信じられる証拠など無いものを…」

 

 疑う証拠も無いがな。 やはり思う、この男達には任せておけん。 流石に見過ごすわけにはいかない、とあもきっと…同じ想いのはずだ。

 

 「大人しくその馬鹿を渡せ」

 

 「…共犯の疑いかある以上、無理だな」

 

 構えをとる大男。 恐らくヤツの後輩とやらも戦闘に入ると気づいたのか、慌てて同じ構えをとる。

 

 「良かったな。 これは私から仕掛けた。 思う存分やれるぞ」

 

 お前達みたいなのが大好きな悪党退治がな。

 

 「え、な…何するの?」

 

 ジジイとナギ、そしてとあの命令からコイツらは私に手を出すことは出来ない。 だが、何事も例外はある。 例えばそう、私が敵対行動を取った場合など。

 

 「おーい、俺の声届いてる?」

 

 懐から魔法薬を取り出す。 先に動いたのは後輩の方。 瞬動で此方の背後に周り込んだが遅い、抜きも入りも雑な動きだった。 掴みを裏拳でいなし掌底を大胸筋に叩き込みながら弾き飛ばす。

 もう片方はその隙を突き、詠唱を完了させ私の頭上に石柱を出現。 中々早いな、しかしこの程度の練りならば魔法障壁で充分。 一度、ここで力の差というものを見せつけるため避ける動作は取らなかった。 だが。

 

 「お嬢ちゃん、あぶなーい!」

 

 「…っ!?」

 

 変態が私を押し出し、ヤツの右腕はそのまま鈍い音と共に落下した石柱で捻り潰された。

 その場に激痛で呻く悲鳴が響き、私と男達に戦慄が走る。 ものの見事に潰された肉は上腕から先を失わせ、肉の繊維を引き延ばしながらブチブチと離れた。 衝撃で倒れ込んだ変態は身体を痛みに耐えるかのよう震えながらゆっくりと起き上がる。

 

 「…このっ──バカちんがぁ!」

 

 「あうっ!?」

 

 男達は茫然。 それもそうだ、変態は起き上がると目尻を吊り上げ、残された左手を使い、物理障壁を展開していなかった私の脳天にチョップをくり出したのだから。

 

 「な、何をする!」

 

 「何をするじゃないでしょ、お嬢ちゃん! お兄さん達は自分達の仕事を全うしようとしていただけなのに、それを邪魔するなんて!」

 

 「はぁ!?」

 

 コイツは何を言っているんだ、一連のはそういう意味ではなく…いやそうではなくてそれよりももっと重要なことがあるだろ!? 本物の馬鹿か!

 

 「そうだ! 貴様、右腕が無くなったんだぞ!」

 

 「知っとるワイ! めっちゃ痛いわ! 泣きたくなる、ぐら…い…ぐすっ」

 

 泣いてるじゃないか。

 

 「でもね、右腕よりお嬢ちゃんの方がもっと危なかったんだよ!」

 

 「いや、私は大丈夫だったんだが…」

 

 「お兄さん達もお兄さん達だよ! いくら相手が強いからって二人がかりで手をあげるなんて! あほ! なすび! 鬼畜! あんぽんたん!」

 

 話しを聞いちゃいない。 同じように男どもにも左手で脳天チョップを喰らわす。 特に石柱を出した方には号泣しながら連続でベシベシベシベシ。 怪我をさせた後ろめたさから、両者甘んじて受けている。 …いやいや、こんな呑気にしている場合じゃない!

 

 「それより治療が先だ!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「御主も随分、無茶したのぉ。 自棄になっとらんか?」

 

 「煩い」

 

 当たっている、とあと少しでも繋がり持たせようとして気持ちばかりが先走っていた。 私に近づいていた変態に気づかなかったのが良い証拠だ。

 

 「ホントだよー、全くー、嫌なことあったとしても冷静でいないと」

 

 喧しい、いつもテンパってるお前には言われたくないわ。

 

 「ジジイ、コイツの右腕はどうだ?」

 

 「うーむ、やはり無理だの。 千切れた組織の損傷が酷い、右腕も原形を留めていない。 修復するのは不可能じゃ」

 

 「そうか…」

 

 切断面が綺麗であれば魔法で治すのも容易なんだが。

 

 「今回は儂の人選ミスじゃ、侵入者とはいえ右腕を失った御主には悪いことをしたの…」

 

 「なーに言ってんの、こんなの自分でやったんだから俺のせいだよ。あのお兄さん達も悪気はないんだし、反省しているみたいだから許してね。 怪我をさせた片方は死ぬまで殴らせてくれたら良いから」

 

 「充分、キレとる…」

 

 「何を言っている。 これは私を庇った結果だ、ならば悪いのは私であるはず…」

 

 コイツはアイツらを許すのか、あんな扱いを受けたことも含めて。

 

 「じゃあ、お嬢ちゃんのせいで良いよ」

 

 うおおい!? お前は誰の味方なんだ!

 

 「うむ、ならば暫くはエヴァンジェリンに彼の監視を頼もうかの」

 

 「いきなり何を…!」

 

 「へー、お嬢ちゃんがしてくれるの。 ま、俺はどうでもいいよ」

 

 本人はポケーッと窓の外を眺めながら鼻をほじる。 見事なまでに適当だな。 アイツもこんな感じでいつも適当な……いや、止めておこう。

 

 「学園から出られんのなら、同じく学園に出られん御主が適任じゃろ。 実力も申し分ない、両者面識もある」

 

 ふざけるな、何故私がそんな面倒なこと! ジジイの口角が僅かにあがっているのを微かに確認出来た。 コイツ、まさか私に面倒を押し付けようとしている!

 そりゃあ確かに関西との事情で忙しいのはわかるが、よりにもよって今の私に頼むなど…! まだ別の深意があるまいな!

 

 「か、刀子はどうだ!」

 

 「彼女は婚約者との式の準備に忙しい。 そちらは家に帰って寝るだけじゃ、その様子だと授業に出るのはまだ無理ではないか?」

 

 「ぐ…」

 

 確かに、ここ最近家にいてもふて寝ばかり。 クラスに戻ったとしても上の空な自分がすぐに頭で浮かんだ。

 

 「周りの者達はとあが死んだ切っ掛けで御主が何かやらかすのでないかと危惧しておる。 変に気を使って放置しておくよりも、余計なことを考えないよう仕事を与えといた方が周りも安心するんじゃ」

 

 つまりはあれか、自暴自棄の自殺や破壊衝動など。

 

 「あぁ、もう。 わかった、やれば良いんだろう!」

 

 「有難い。 では、儂は他の先生方に連絡しておく。 あとは御主の好きなようにしてくれ」

 

 「好きにするのは構わんが、コイツのことはなんて呼ぶ」

 

 流石にいつまでもコイツやアイツや変態と言っているわけにはいかない。 公衆の面前がある。

 

 「記憶がないからねー。 お嬢ちゃんが名前つけていいよ。 あ、出来れば紅蓮とか夢幻とか剣聖とか格好いい……「ならばジャジャ丸で」……ダッサ!?」

 

 嫌か? 慌ただしい感じなど、貴様にピッタリだと思うが。

 

 「ではジョジョ丸」

 

 「スタンド使いかよ!」

 

 「じぇじぇ丸」

 

 「お嬢ちゃん、朝ドラ見る派なの?」

 

 「獅子丸」

 

 「もはや忍術使うチャウチャウ犬か」

 

 「ちっ、わがままばかりだな。 ポチではどうだ?」

 

 「もう考えるの飽きてない!? さっきから嫌がらせでしかねぇ!」

 

 「貴様にはポチで充分だ。 はい決定これ以上変更なし」

 

 「うむ、では御主のことはポチと呼ぼう」

 

 ジジイもいい加減痺れを切らしたようで、ヤツに対する対応が雑になっていた。 ああ、やはり名はあったほうが良い。 コイツのことを少しでもとあと認識しなくなるから。

 

 「マジかよ、ポチの流れに入ってやがる…!」

 

 「どうする。 暫く落ち着いてから私の家にくるか? それとも…」

 

 「んー、他に可愛い女の子がいるなら、行く!」

 

 「女の子? ああ…いるな」

 

 可愛くはないが、ケタケタ笑うマリオネットが。

 

 「マジで!? よっしゃあ、行こう!」

 

 もう名前についての問題はいいのか。 単純なヤツだ。 だんだんコイツ……ではなくて、ポチの扱いに馴れてきた。 嫌な馴れである。

 




ジャジャ丸は没案でした。 着ぐるみのヤツでも、うむと鳴く変な犬でもありません。
今思えば、これでも良かった気が。

畜生先生ジャジャ丸!







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