畜生先生ポチま!   作:お話下手
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シリアス多め。しかし、エヴァンジェリン編が終われば間違いなく減るでしょう。その内エヴァンジェリン編とかナギ編とか明日菜編とかが出来るかもしれません。
あとアップデート更新したせいか、どうやらスペースのサイズが揃っていないです。



エヴァンジェリンとチャチャゼロ

 人は予め定められた運命に従い行動する。 例えそれが自身の意志だとしても無意識にその通りに。 例え生まれ変わろうとも、住む世界が変わろうと立場が変わろうと、転生した魂に刷り込まれ刻まれた運命の情報は簡単に消し去ることはない。 そしてまた、同じことを繰り返す。 

 

 『痛いぃ、痛い痛い痛い痛いいいいい…!』

 

 『馬鹿! 痛いのは当然じゃないか! 何故庇ったんだ!』

 

 『腕が! 腕が、俺の腕がぁ…!』

 

 『馬鹿だ、本当に馬鹿だ! なんで、こんな…! 私を助けなければよかったのにっ!』

 

 『うッ、うぅ…』

 

 『あぁ…済まない、─────君。 けして許せとは言わない、謝らせてくれ、私のせいで君をこんな目に遇わせてしまった事を…! だから泣かないでくれ、君が泣くと凄くツラい…』

 

 その真実に気づき、運命に抗う存在はいるだろう。 己を信じ仲間を信じ、希望を信じ戦い続けた彼の者の先に待つのは素晴らしいハッピーエンドだ。 しかし、何れ来る死を迎えれば再び産まれ、記憶を失いまた初めから。 二週目開始。 無限のループ。 本来ならば人がそれを気づけぬまま終わりを迎える。

 だが、彼は違った。 知ってしまう。 知り続けてしまう。 出逢い、そして戦いが始まり成長、勝利。 そして…挫折、敗北、消失、真実を知り、またなのかと絶望。 

 呪いにも似た人生。 自分だけならまだ良い。 でも、周りが全く同じ苦しみを味わい続けるその姿は見ていられなかった。 助けられたはずなのに助けられなかった。 今度こそ助けたい、他人の人生を思い通りに動かせるようになれば…世界を思い通りに動かせるようになれば…。

 

 もしも、そんなことが出来る存在がいるのだとしたら、きっとそれは、意志という枠組みを超え、人の姿を保っていない化け物くらいだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「おい、何をしている。 いくぞ」

 

 「ん? あ、ああ…」

 

 その日の夕方。 真っ赤に燃える夕陽を背に受け、エヴァンジェリンの自宅へと向かっていた彼女その本人と、ラフな格好で身を固めたポチ。 不意にポチが後ろからついてきていないことに気づき、振り返れば己の失った右腕をジッと見つめ硬直する青年が。

 やはり、始めこそ態度では軽いものだったが、時間が経過すると事態の深刻さを認識したのかもしれない。

 

 「何を考えていた?」

 

 「なんだろうね。 デジャヴみたいなのが見えて」 

 

 穏やかな表情で目を細める。 今までに見たことのない、大人しさで満ちた姿。 ふざけた騒がしいところしか見せられていないのに、何故かそこに違和感を感じない。 独特の貫禄が滲み出ていた。

 だからこそ、彼女は思う。 コイツは何者なのか。

 

 「ところでお嬢ちゃん、お兄さん達が闇の福音って呼んでいたけど…」

 

 「あれか? 私はこう見えて600年は生きる吸血鬼でな、色々悪さしたものだからそう呼ばれていた。 今ではこの学園に封印されているが…」

 

 ポチはああ、学園から出られないのはそういうことかと一人でにウンウン頷く。

 

 「うーむ、それは辛いね…」

 

 「全くだ。 しかも呪いをかけた魔法使いはくたばり、私は一生涯此処で過ごすこととなった」

 

 「いや、俺が言ったのは闇の福音っていう痛い名前の方で…はぁ、可哀想に」

 

 尻を蹴りあげた。 怪我人とかもう関係ない、コイツは本当にムカつくな。 600年や吸血鬼よりもそこに反応するとは、一々燗に触る。 不快ではないが。

 不意に、強い突風が吹きすさび肌寒さを感じた。 夕暮れは終わり、夜空に薄く灰色の雲がかかり始めているのが見える。 雨が降る前の予兆だ。

 悪ふざけもここまでにしてそろそろ足を速めようとした、しかし。

 

 「雨が降りそうだね。 ──お嬢ちゃん、どうかした?」

 

 何かが此方を見ていることに気づく。 一瞬、魔法関係者が監視をしているのかと思ったが、周囲に濃い鉄の臭いが立ち込めそれが間違いとはすぐにわかった。 これは血の臭いだ、しかもこんな濃厚の物──戦争以来だぞ…!

 侵入者か? だが、どうやって結界を抜けた。 ポチ以外誰一人入ってきた感覚は無かった。

 

 「ポチ下がれ。 これはマズイ…」

 

 「何かヤバそうだね…」

 

 今度は真剣な態度だな。 この状況の危機感はわかるようである。

 

 「何処だ、出てこい!」

 

 木々の隙間からユラリと一人の老人が現れた。 浮浪者のようにボロボロのコートを羽織り、ツバの長い帽子を深く被りその顔は確認できない。 杖を用いながら歩き、あまり足は良くないようだ。

 なんだ、この胸騒ぎ…! 雰囲気や血の臭いもそうだが、私の奥にある何かが争訟に沸きだす。 コイツは危険であると。

 

 「この度は再びお目にかかれ光栄でございます。 闇の福音殿」

 

 「私は貴様のことなんぞ知らん、何者だ…」

 

 老人は此方の威圧をものともせず、静かに白く蓄えた髭を撫でる。 微かに自身の手が震えていることに気づく。 あり得ん、私が恐怖を感じているだと…!

 

 「やはり600年という永き年月が過ぎ去れば記憶にないのも、仕方ないのかもしれませんね」

 

 「600年…」

 

 私が初めて吸血鬼になった頃。 いや、そんな…。

 

 「では、これでもお忘れでしょうか」

 

 老人はゆっくりと帽子を下ろす。 私はもう思い出せないと感じていた昔の記憶を、今この瞬間に鮮明されたビジョンで蘇る。 

 

 『いえ、そんなことはございません。 旦那様は誰よりも貴女のことを大切に思っていますとも』

 

 『…御立派です。 御嬢様は旦那様にとてもよく似ていますね』

 

 『おお! 素晴らしい!』

 

 『御嬢様、それもただの吸血鬼ではございません! ハイ・デイライトウォーカー、神の光を浴びても灰にならぬ至高の生命、真祖となられたのです!』

 

 「馬鹿な!」

 

 認められない、認めたくない。 あの日の絶望、とっくの昔に捨て去った忌々しい過去が亡霊のように現れるなど。

 

 「───お久し振りでございます。御嬢様」

 

 綺麗な弧を描いた口元で、全く違わない口振り。 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルにとって最大のトラウマが傷つける。

 

 「爺や…」

 

 「そうです、貴女様の爺やでございます!」

 

 歓喜の声をあげ、向かい入れるかのように大きく腕を広げた。

 

 「…っ」

 

 情けないことに幼子のようなか細い悲鳴をあげてしまう。 これ以上の恐怖など、幾度となく味わってきたというのに己の根源的部分によるものか、頭では大丈夫だとわかっていても身体が言うことを聞かない。

 

 「どうしたのですか御嬢様、折角再会出来たのです。 さぁ、もう私がいれば安心ですよ」

 

 「い、嫌だ!」

 

 蹲る私に一人の影が落ちる。 ポチは私と爺やの間に入り込むよう、立ち塞がっていた。

 

 「お嬢ちゃん、逃げて」

 

 不思議とその背中は、魔獣に喰われそうになった私を助けたアイツに酷く似ている。 迷いの無い真っ直ぐな瞳は力強さに溢れて、挫けそうだった私の心を立ち上がらせた。

 

 「だ、大丈夫だ。 あとは私に任せろ」

 

 不安そうな目で確認するポチ。 まさかお前に助けられるとは、一々警戒していた此方が馬鹿みたいに思える。 だが、正直…助かった。

 

 「爺や、何故貴様が生きている」

 

 あの時、黒い狼に喉笛を食い付かれ死んでいたとばかり思っていた。 しかも容姿が全く変わらず600年の歳月を生きるなど…まるで私のようではないか。

 

 「御嬢様の聡明な判断力ならば、薄々気づいているのではないかと」

 

 にこやかな笑みを浮かべ唇の隙間から鋭い犬歯が覗かせた。 やはりそうか、この男…吸血鬼化している。 漂う濃厚な血の臭いもコイツが今までに吸血した者達のか、少々死臭が混ざっているのは気に食わんな。

 

 「マガツに喉を喰われ瀕死に陥りましたが、旦那様が御嬢様の血を流し、それを啜ることで生き永らえました」

 

 マガツ、あの狼のことか。 禍津とは随分不吉な名だ。 確か、神の道を生きた厄災だったはずだが。 そもそもコイツが生きているということは、あの男も生きているんじゃあるまいな。 膓をぶちまけ、余計な行動を起こす前に脳を破壊したからその心配はないと思うが…。

 

 「どうやって結界を無視して侵入した、一体何が目的で…」

 

 「それならば特に細工はございません。 私は至って普通に入り込みました」

 

 侵入した反応はひとつしかなかったはず、仮にポチと同時に侵入しようとしても個別にわかる。 どういうことだ。

 

 「しかし、どうやら御嬢様方は“初めから学園内にいた”彼を侵入者と誤解してしまい。 そのおかげでこうして楽に御嬢様を見つけることが出来ました」

 

 「なんだと…!」

 

 「成る程、俺は侵入者じゃなかったのか」

 

 ジジイの話しでは学園内の資料にポチに関する物は残っていなかった。 記憶喪失であるため、身元の情報を探っていたが結局は見つかっていない。 学園関係者ではないのに何故敷地内にいる。 そもそも見つかるまで何処に過ごしていたんだ…。

 

 「そして私の目的、それは貴女様なのです」

 

 「私?」

 

 「今まで本当に頑張りましたね。 これからは私が御嬢様を御守りいたします。 学園の呪いも私が解いてみせましょう」

 

 「私をこんな化け物にした共犯者が。 懐柔する気か! 恥を知れ!」

 

 貴様の歪んだ行為にどれだけ地獄を味わったか分かっているのか。 迫害され拷問を受けた苦痛を。 それが今になってノコノコ現れ守るだと、ふざけるな。 

 

 「ええ、そうです。 我々は化け物です。 ならば、愚かな人間と暮らさねばならぬこの地に留まる理由などないのでは?」

 

 「どういう意味だ」

 

 「失礼ながら学園に侵入する前から御嬢様のことを監視させておりました。 しかし、その学生生活はあまりにも酷いものです。 貴女様があのような仕打ちを受けるとは…」

 

 視ていたのか、クラスメイトから虐められる姿を…。私自身のプライドを傷つけるとは相も変わらず不快な奴め。

 

 「私も貴女様と同じように迫害を受け続けました。 人間は本当に愚かな生き物です、自分達と違う存在にこうも残酷になれるのですから…」

 

 コイツも私と同じように魔女狩りや戦争に巻き込まれたのか。

 

 「だから私を求めると? 同族の傷の舐めあいをしたいのか」

 

 「そうではありません。 私は貴女様を危険から御守りしたいのです。 我々は“血の繋がった家族”ではありませんか」

 

 「黙れ愚図が! 私を惑わすつもりか!」

 

 今更赦されると思うな。 私は一人でも生きていく。

 

 「滅相も。 私が何故御嬢様を吸血鬼へと進化させたのか、その真意を御理解ください」

 

 「進化…」

 

 「そう、私は支配者たるに相応しい力を貴女様に授けたかったのです。 老いることなく美しい姿を保ち、不死は死の恐怖を捨て去った。 素晴らしい力であります、全ては貴女様のためを思ってのこと。 そして…貴女はそれに在るべき支配者としての器を手にいれた」

 

 「…っ!?」

 

 そのために追い詰め、私自身が育つようにしたのか。 私を放置して強く生きられるように。 

 これまでの人生、そして築き上げた人格さえコイツらの計画通りだというのなら、私は一体…今まで何のために生きて。 嘘だ、そんなことが信じられるか!

 

 「こ、こんな…!」

 

 「もういいよ、お嬢ちゃん」

 

 沈黙を貫いていたポチが私の肩に手を置く。 無機質な目で何か表情を見せるのではなく、能面にただ爺やを見詰めていた。

 

 「おや、また貴方ですか。 あまり首を突っ込まれては困ります」

 

 「なーに、ちょっとアンタの話しに違和感を感じてね。 黙っているわけにはいかなかった。 それに、流石にお嬢ちゃんが泣いていると辛いんで」

 

 「な、泣いてなどいない!」

 

 慌てて頬を確認するが、そこに涙のあとなどない。 ポチ、嘘をついたな…。

 歯軋りしながら睨み付けるが、本人は能面から口元を意地悪くにやりと動かし楽に構えていた。 しかし、その目は全く笑っていない。

 

 「アンタ、結局何がしたいんだ?」

 

 爺やの目が大きく開く。 瞬きをした時には表情を怒りに歪め、何故かポチにありったけの殺気を跳ばしていた。 なんだ、この状況は…。

 雲に掛かっていた夕陽が再び差し込む。 爺や顔を隠すように帽子を深く被り直すと踵を反した。

 

 「今日のところはこの辺りで失礼します。 少し考える時間も必要でしょう」

 

 「待て、貴様にはまだ聞きたいことがある!」

 

 「千の呪文の男が死んだ今、御嬢様が自由を手にするには私と共に生きていく他にありません。 そしてよく覚えておいてください、我々が光で生きていくなど不可能であると」

 

 木々に入り込み、影へ溶け込むようその姿を欠き消す。 ヤツの言葉が耳に深く刻まれているのは間違いなかった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「ほら、着いたぞ。 此処だ」

 

 「おー、中々立派な…」

 

 趣のあるログハウス。 ふふん、どうだ良いだろう? もっと褒めろ。

 

 「お人形ハウス…」

 

 「お前はよく一言余計と言われなかったか?」

 

 「さ、さぁ? どうでございましょう、何分記憶が無いもので。 にゃははは…」

 

 私が睨むと両手を擦り合わせながら中腰になるヘタレ。 笑っているが乾いており、口元はひくついている。 だったら初めから言うな。

 改めてこう見るが、やはり先程までと随分印象が違う。 益々ポチの正体がわからなくなった。

 あれは演技によるものか、はたまた本性なのか。 もしくは記憶が戻りかけているのか。 どちらにしても面倒な生い立ちを持ちそうで厄介である。

 しかし、まぁ…此方を助けようとしたのは事実であり、それに関しては礼が必要だろう。

 

 「お、おい」

 

 私の呼び掛けに振り返り、何?と優しく語りかけそうな微笑みで首を傾げた。 くっ、パッと見ただけでは女みたいな容姿をしている。 初見であの奇行がなければ間違いなく騙されていた。 

 間違いといえば監視の方だが、女である私ではなく男性に任せていれば、それこそ間違いが起こっていたかもしれん。 

 

 「すまなかったな、さっきは…」

 

 「お嬢ちゃんなんで謝るの? こういう時はありがとうじゃない?」

 

 苦笑いを浮かべて頬をかくポチ。 確かにそうだ、つい癖で礼のつもりが謝罪になっている。

 

 「あ、ありがとう…」

 

 「どーいたしまして」

 

 間延びした間抜けな返答。 ポチはそれ以上語ることなく歩みを進めた。 何も聞こうとしないんだな。 少々、どう話せば良いか難しいうえ、長い事情だ。 正直助かる。

 もっとも、コイツの場合どこまでが本気かわからんが。

 

 「前から思っていたが、その“お嬢ちゃん”と呼ぶのは止めろ」

 

 「え、なんで?」

 

 「そんな年齢じゃないからだ。 あとムカつく」

 

 「…何故だろう、後者が本音に聞こえる」

 

 よく気づいたな。

 

 「じゃあ、えーと……エヴァーミリオンちゃん?」

 

 「違う、エヴァンジェリンだ」

 

 ジジイから聞いているぞ。 お前が私の名前を間違えていることは。

 

 「オーケイオーケイ、エヴァンジェリンちゃ……「ちゃんは止めろ」……はい」

 

 ポチはエヴァンジェリンエヴァンジェリンとブツブツ呟く。 コイツ頭悪そうだから人の名前を覚えるのが苦手そうだな、横文字とか特に。 …おい、誰がヴェンジェンスだ早速間違えてるぞ。

 

 「よし、覚えた! お邪魔します女の子何処!!」

 

 気がつけば、もう既に家へ上がり込んでいる…。 まさか事情を聞くよりもそちらが気になっていたのか? 

 

 「そこの棚にいるぞ」

 

 「え…棚?」

 

 ポチの視線の先には沈黙を保っているチャチャゼロ。 一応起きてはいた。

 

 「人形しかいないよ?」

 

 困った顔で此方を見るが、ポチがチャチャゼロから視線を外した瞬間ケケケと笑い声をあげる。

 

 「な、何!? 今変な笑い声が…!」

 

 声の正体を確かめようと再びチャチャゼロへ振り返れると、ちょっとだけ態勢が変化していた。 どうやら新参者を怖がらせたいようである。

 

 「見てお嬢ちゃん! 人形が、人形が動いてる!」

 

 「お分かり頂けただろうか…」

 

 「止めて! その台詞は怖い!」

 

 目尻に涙を貯め、耳を塞ぐポチ。

 

 「ケーッケケケケ!!」

 

 「ギャー!?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「ふーん、チャチャゼロちゃんね。 覚えた覚えた」

 

 「オウ、宜シクナ変態」

 

 夕食終了の時。 互いの挨拶を済ませながらの食事だった。 出会いに一悶着あったがチャチャゼロとポチ、両者は問題なく仲良く出来そうである。 どちらも適当な性格故、相性が良いかもしれない。 ポチは相手が人形だろうと持ち前の態度を崩すこともないうえ。 

 まぁ、人間ではないことには私に対し腹を立てていたが、チャチャゼロが可愛いから許すとか言っていた。 可愛い、か?

 

 「それにしてもエヴァンジェリン、まさかとは思っていたけど……ネーミングセンス酷ッ」

 

 なんだと!? チャチャゼロもジャジャ丸も可愛いだろうが! これだから凡人の感性は…真に迫る者の名付けには深い意味もあるのだと何故気づかん!

 

 「イヤー、流石二俺モ御主人ノセンスニハ無イト思ウゼ」

 

 お前もか! 実はチャチャゼロという名前が嫌だったんじゃないんだろうな!

 

 「日本は多数意見国家だから、この場においてチャチャゼロちゃんと俺がセンス無いと思えばそれが正しい。 つまりエヴァンジェリンのセンスゼロ!」

 

 馬鹿な、闇の福音と恐れられ最凶最悪の女王である私のセンスがゼロだと。 これでも良いとのの貴族で暮らしていた時代もあり、美的感覚も教育されていたのだ。 容姿も中々悪くないと自負している。

 

 「全部関係なくない?」

 

 「がっ!?」

 

 そう、なのか…? 本当に私はセンス無いのか?

 

 「無いと言えば、エヴァンジェリンが作った料理……味がしなかったんだけど」

 

 喧しい! 私は料理が苦手なんだよ!

 

 「き、貴様にはわからんようだな、素材の味を活かした調理を。 なんでもかんでも味を付け足せば良いものではない。 あと塩分を取りすぎないため健康に良い」

 

 「不老不死ノクセ二、何言ッテンダ。 アト、ババクセェゼ」

 

 「ああ、ヴェンジェンス。 ロリババァだもんね」

 

 「ババァじゃない! あとエヴァンジェリンだ! お前もう、わざとだろ!」

 

 食後の茶をポチと共に用意しながら席に着く。 暫し茶を啜りながらボーッとしていた三人だが、不意に爺やのことを思い出した私はチャチャゼロにこのことを伝えようとして、ポチが居ることを理由に踏み留まる。 チラリとポチを横目で確認すれば、ガッチリと目が合う。

 

 「さて、俺はそろそろ休ませてもらおうかな…」

 

 「風呂は良いのか?」

 

 「着替える時にシャワー借りたから今日はもう良い」

 

 「汚いぞ、ズボラめ」

 

 しっかり洗ったよ!と叫び、二階に上がっていく。 アイツ何処に寝るつもりだ?

 だがまぁ、あの様子だと此方に合わせたのは明白である。 ポチも気づいたのだろう、私がチャチャゼロと重要な話しをすることを。 勘の良い奴だ。 空気が読めるのに空気を読まない行動をとるくせに。

 

 「…デ? 何ガアッタンダ?」

 

 「そうだな、少し長くなるぞ」

 

 吸血鬼になる前を除けば一番付き合いが長いチャチャゼロ。 事情の説明はポチよりも遥かに楽であり短く終わる。 しかし、内容が内容だけに全て話し終わる頃には僅かに日が昇り始めていた。

 

 「言イタイコトハ、ソレデ全部カヨ」

 

 冷たく突き放すチャチャゼロ。 私は自分の耳を疑う。

 

 「なんだと?」

 

 「チットハ、マトモニナッタカト思エバ…下ラネェ」

 

 「下らんだと? ふざけているのか!」

 

 「下僕二相談シテイル時点デ充分下ラネェダロ」

 

 どういう意味だ

 

 「ソンナ相談ヲスルッテコトハ、御主人…迷ッテイルンジャネェノ」

 

 迷っているだと? まさか、私に僅かでも爺やを受け入れる心があるというのか。 有り得ん! 私を化け物に変えた張本人だぞ!

 

 「学園長ノジジイ二連絡シナカッタノガ良イ証拠ダ」

 

 「なっ!?」

 

 「父親ノ次二“とあ”、アイツノ次二爺ヤ。 寂シイカラッテフラフラシテンナヨ」

 

 頭を殴られるような衝撃を受けた。 私はそうなのか。 アイツのことを、“とあ”のことを父親の代わりとして見ていたのか?

 そして、その次は爺やを…。 私は“とあ”のことを愛していなかったのか?

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「あれ? 俺なんで床に寝てるの?」

 

 「私のベッドに寝ていたからだ」

 

 明朝。 ポチを叩き起こしたエヴァンジェリンは早速、昨日の出来事、そしてポチが侵入者ではなかった事実を学園長に伝えるため、互いに着替える。 エヴァンジェリンは制服、ポチは予備のラフな服装。 顔立ちとの違和感を覚える。

 

 「おい、ジジイ。 入るぞ」

 

 学園長室に辿り着いたエヴァンジェリンは、ノックもせずに大きな扉を開けた。 しかし、そこには学園長の姿はなくスーツ姿の女性が一人。 知的なメガネがキラリと似合う葛葉刀子だ。 見れば学園長の幅広い机を整理していたようで、A4サイズの紙束が幾つも積まれていた。

 

 「む、お前か…」

 

 「おはようございます。 エヴァンジェリンさん、ついでに…変──ポチさんも」

 

 後ろでポチが倒れたが無視だ無視。 一々付き合っていれば体力が持たん。 しかし、引きこもりのジジイがいないのは珍しいな、何かあったのか?

 

 「ジジイは何処だ」

 

 「学園長ならば昨晩遅くに西へ」

 

 「何、京都か?」

 

 そいつはまた急な話しである。 …いや、考えれば自然なことか。 大戦が終わったとはいえ西との関係が不安定な今、彼方の長である詠春との顔合わせも難しくなるだろう。 互いに距離を開けなければならない立場故、次の年からは親戚の集い…なんてことはまず無理だ。 十年くらい何も無ければ少しばかり穏やかに過ごせると思うが、今の内に家族との時間を過ごしたいのは仕方ない。 奴も歳だ。

 

 だが、こうなると困ったのは此方。 ジジイにポチの扱いや侵入者に対する相談をしたかった。 連絡は入れておくとして、果たしてそれがいつ彼方に届き、いつ此方に戻ってくるか。 

 京都の連中を刺激しない為に転移魔法を使用せず、優雅に飛行機で旅立った。 なおのこと手詰まりである。

 

 「何かご用があれば私が対応しますが?」

 

 …葛葉刀子に報告しておくか。 事務的な作業も任されているこの女なら問題なかろう、ついでに腕もたつ。 純接近戦でこの神鳴流よりも強い者は学園にいない。

 

 「実はな──」

 

 「──成る程、ポチさんは侵入者ではなく、別の吸血鬼が侵入者であったと」

 

 「事実かは知らんがな。 相手は何を仕出かすかわからん狂人だ」

 

 「わかりました、他の先生方にも至急警戒指示と共に伝えておきます」

 

 出来る女の貫禄か。 割と緊急事態だが、彼女から焦りは見えない。 冷静に慎重な表情。 

 

 「それと、ポチのことは別の奴に頼みたい。 吸血鬼の狙いは私だ、巻き込まれると面倒だからな」

 

 「確かに。 では私に任せてください」

 

 「マジかよ! いやっほおおおおお!!」

 

 喧しい。

 

 「良いのか? ジジイから挙式の準備やらで忙しいと聞いたが…」

 

 しかし、葛葉刀子はハテ?…と首を傾げる。 おい、これはまさか。

 

 「準備はありますが、まだ先の話しですから私としては問題ありません」

 

 ジジイめ、私を騙したな。

 

 




Q・最初のは?

A・ポチというか、とあというか、としあきの過去。同じく右手を失った。そしてその次は左足を握り潰された。

Q・過去で庇った人は?

A・としあきが愛した人。でもエヴァではない、そういう人もいたってこと。今では名前も姿も思い出せないくらい、遠い過去の人。








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