畜生先生ポチま!   作:お話下手
<< 前の話 次の話 >>

5 / 29
シリアス強め。


エヴァンジェリンとの出逢い

 

 

 【1986年】

 

 「何故助けた」

 

 暗がりの森、夜行性の鳥や虫達が鳴いているのを聞きながら、エヴァンジェリンは訊ねる。 ボロボロになったマントには綺麗な毛布が背中から被せられ、眼前にはパチパチと木が弾ける焚き火。

 永い間連れ添った従者、チャチャゼロはそんなエヴァンジェリンを見ることはなく、薄ら笑いを浮かべながらボーッと火を見続けた。

 

 「え、まだ飯は出来ないのか糞野郎だって?」

 

 そんなエヴァンジェリンの質問を、話しを聞いていないのに適当な感じで答えるのは、全身を彼女と同じようにマントとフードで身体を隠す青年。 焚き火にはこれまたボロボロの鍋が乗せられており、中には妙にドロドロした黒っぽい謎スープが熱せられている。 …不思議と悪臭が。

 

 「貴様、私を馬鹿にしているのか…」

 

 ふざけた態度に苛立つが本人は一切気にすることはなく、鍋のスープをかき混ぜていた。 

 

 「よし、こんなもんだろ。 さぁ、食べてくれ、ムドオンスープだ」

 

 闇属性で即死しそうな名前だ。 手渡された器には相も変わらずドロドロで黒色の汁だが、これを飲んでしまえば私は死んでしまうのではないだろうかと真剣に考えてしまう。

 元々死ぬつもりだったし、これで死ねばそれはそれで良いと思う。 世界中から忌み嫌われた大罪者は、人知れず、ひっそりと、変なスープを飲んで無様に倒れる。

 誇り高い私にふさわしい最期だ。 意を決して一気に口の中へ流し込む。

 

 「…不味い」

 

 実は意外と美味しかった、ぶっ倒れるほど不味かった、ということなく、ただ普通に不味かった。 私の反応が面白かったのか、青年はゲラゲラと楽しそうに笑う。

 

 「そりゃそうだ。 残っていた食材全部ぶちまけたから、味は保証出来ないけど無駄には出来ないからね」

 

 「これで…全部だったのか?」

 

 ドロドロのスープは大した量ではない。 だが、それでも自分一人だけであれば一日は持たせられるはずだったのに、この男は分け与えるため全て使いきってしまったのである。

 

 「もう、いらん…。 あとは貴様が食べろ」

 

 「オイオイ、せっかく作ったのに食べなきゃ」

 

 「こ、こんな不味いものが食えるか」

 

 嘘は言ってない。 ただ、相手を追い込ませてまで己を助けてほしいと思わないのもまた、事実だった。

 

 「むっかー。 腹立ってきた!」

 

 しかぁし! 目の前のコイツには そ ん な の 関 係 ね ぇ !

 

 「ほらほらー! ワガママ言う口は何れかなー?」

 

 「もががぁー!?」

 

 鋼の手甲がマントから覗かせ顎を掴み、無理矢理口が開かれる。 合気道で投げ飛ばそうとしたが、何故か“剛”に強い“柔”をアホみたいな力で抑えつけられ巧くいかない。

 ドロドロのスープはエヴァンジェリンの意志とは裏腹に流し込まれ、若干白目を剥いていた。

 

 「ケケケ。 御主人、楽シソウダナ」

 

 やっとのことで話し始めた従者はそんな主を見て愉快に笑う。

 

 「んなわけがあるか! おい、やめろ。 ちゃんと飲むからいい加減やめろ!」

 

 観念したエヴァンジェリンに満足した青年は自分の定位置に戻り、フードを脱いだ。

 

 「……」

 

 エヴァンジェリンはその姿を横目で確認する。 頭部を丸々覆う兜が現れた。

 鈍い灰色の光沢を放つ質感は、他の騎士団の物に比べて明らかに安物に見え、全体的に模様も装飾もなく無骨、曲線を描く兜は黒いバイザー以外、ただの粗悪品である。 青年が器を顔に近付けると、口元の部分だけカシュンの音と共に開き、そこからスープを流し込んだ。

 

 「うへぇ、ホントだ。 不味いよぉ」

 

 鉄仮面で表情はわからないが、自身の下手な料理に苦い顔をしているのだろう。

 

 「貴様、仮面を外せ」

 

 「フッ、止めといた方が良いぜ。 俺ッチのイケてる顔にポッするぜ、ポッと…ポブゥ!?」

 

 グーパンが飛んできた。 仮面が凹んだ。

 

 「何!? なんで!? なんで殴られたの俺!?」

 

 「そういうのはいらん。 こっちは真剣に言っている、相手に対して素顔を見せんのは失礼だろう」

 

 エヴァンジェリンの言いたいことはわかる、言ってることもごもっともだ。 しかし、鎧の青年は返事が重く、うーとか、あーとか、んーとか適当な声しか出ない。

 

 「えっと、…ね。 実は脱いだら死んじゃうぅぅぅ! とかの設定はどうでしょう?」

 

 「誰が設定作りの話しをしろと言った。 なら名前だ、名前を教えろ」

 

 「ウルトラスーパーヘブンアンドデビル俺はキングゴッドうわぁ、なぁにぃそのぉ光るぅ剣、コワぁーイ」

 

 断罪の剣が輝いてる。 流石に相手を怒らせたと理解した青年は小さく“とあ”と答えた。

 

 「とあ? …どっかで聞いた名だな」

 

 エヴァンジェリンの反応にピンときた青年は、鼻を高くするポーズをとるとわざとらしくヒントを出す。

 

 「あー、あれじゃない? 紅き翼の──」

 

 「──思い出した。 鋼の名犬ポッチーか」

 

 「オイイイイイ!? ポッチーって、オイイイイイ!!」

 

 アルビレオの言っていたことが事実だった。 受け入れられない現実に膝をつき叫ぶポッチー。

 もっとも、これはある一部の人達にだけ呼ばれ、大体シリアスな時は鋼の式神(笑)、白銀の閃光(爆笑)、鎧亞の王神(爆死)とか背中が痒くなる呼び方がある。 因みに本人は式王神と呼ばれるのが一番好き。

 それと、鋼の名犬ポッチーと呼ぶ人達だが、不特定多数の女性ばかりで、大体はナギ×とあ、アル×とあ、タカミチ×とあに興味を持つ者だ。 相手の正体を知ったエヴァンジェリンは満足したのか、それ以上何も言うことはなくスープを再び口に含む。

 無表情なその顔に何を考えているのかわからなかった“とあ”だが、ひとつだけわかることがある。 彼女は彼が差し出したスープを残さず食したことを。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「殺せ! あの化け物を!」

 

 「魔獣の餌になるがいい、吸血鬼!」

 

 酷く耳障りな雑音が脳を揺らす。 いつもならば一瞬で肉塊にしているとこだが、それももう疲れた。

 何故、そこまで言われなければならないのだろう。 何故、こんな輩に一々相手をしなければならなかったのだろう。

 別になりたくて吸血鬼になったわけではない、化け物としての力は私から人を遠ざけ、不老不死の能力は孤独を加速させる。 例え、受け入れる者が居ても、すぐに一人ぼっちだ。

 何度自分の親だった存在と協力者に恨みを募らせただろう。 誰かに愛される権利を奪われ、誰かを愛する自由を奪われ、御人形遊びが唯一の安らぎだった、そんな生活。

 

 「すまんな、チャチャゼロ」

 

 「ケケケ、俺モ飽キテイタシナ。 気ニスンナヨ」

 

 白夜の風景が目の前に広がる。 眼下には深い谷が長く続いており、そのほの暗い底には軟肉が降ってくるのを今か今かと、涎を撒き散らしながら待ち受ける無数の魔獣。

 隙間なく蠢いている様子から、底に見えるもの全てが魔獣らしい。 流石にこれだけの暴食に襲われれば真祖の吸血鬼も復活が難しいか。

 再生してもすぐに喰われ、そして喰われ続ける。 精神が崩壊、あるいは魂が磨耗するまで喰い尽かれ、最後にくるのは消滅だ。

 崖際から一歩を踏み出す。 襲いくる浮遊感。

 周りの風景が暗くなっていくなか、私は思う。 意外に死ぬのは怖くないな、当然か、何度も死にたいと思ってはいたのだから。

 でも、でも最後に一度だけでも誰かから愛され、誰かを愛する人生を歩みたかったと、虚しい願いを胸に秘める。

 

 ─────文字どおり、人の生を。 歩みたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「大丈夫かい、お嬢ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「え?」

 

 ソイツは突然現れた。 頭から深くフードを被っているため、素顔が見えないが若い青年の声だ。

 私を喰らおうとした魔獣の一体を踏みつけており、何故大人しいのかと思えば、頭蓋骨を砕かれて絶命しているからだとすぐに気付く。

 どうやら自分はお姫様抱っこをされているらしく、景色は上を向いていた。 青年の身体を覆うマントから、これまたボロボロに劣化した鉄製の手甲が覗かせ私とチャチャゼロを優しく抱き寄せており、金属越しだというのに、変に暖かい。

 

 「おい、誰かが吸血鬼を助けたぞ!?」

 

 奴らは此方の様子に気づいたようだ。 上から伺うかのように覗き込んでいるのが見える。

 

 「吸血鬼?」

 

 「私のことだ。 貴様も早く私を下ろさないと血を吸うぞ」

 

 脅すつもりで鋭い犬歯を剥き出しにすれば、さっさと逃げ出すかと思ったが、大して気にしているようではなかった。

 

 「ふーん。 あ、ちょっと移動するね」

 

 「お、おい…!」

 

 魔獣達が再び襲いかかってくる。 青年は軽い口調を取りながら一度距離を取るように跳躍した。

 

 「成る程、此処は魔法も封じるのか。 魔獣といい、ケルベラスを参考にするなんて。 趣味が悪いな…!」

 

 平淡な口振りだったが、何処か静かな怒りを含んだ言葉。 魔法が使えないとなると、どんな強者だろうがただの人になってしまう。

 無論、それは私とて例外ではない。 魔力で自立していたチャチャゼロは残された力で僅かに喋れるが、動くことはもう無理だろう。

 

 「貴様死にたいのか!? 何故こんなことをしたのか知らんが、もう助からんぞ! 私でも助けられん!」

 

 「大丈夫。 だって俺、魔法も気も使えないし」

 

 なんだと、ではどうやって魔獣を倒したというのだ?

 

 「吸血鬼ちゃん、ちょっと離れて。 危ないから」

 

 青年は私を後ろに隠すよう下ろすと、フードと、そして全身を覆い隠していたマントを脱ぎ捨てた。

 

 「それは…!」

 

 現れるのはボロボロでヒビや傷跡が大量に刻まれた、灰色の鎧と兜。 魔獣の攻撃を受けきるどころか、かすっただけ…いや、攻撃の余波さえも受けてしまえば瞬時にバラバラにされる、そんな粗末な物を奴は身に付けているに過ぎなかったのである。 

 もうダメだ、コイツは助からないと悟った。 それでもなお深く腰を溜め、迎撃の体制を取る青年。

 そして小さく何かを呟いた、次の瞬間だった。

 

 ─────青年は“銀色の線”へと変わる。

 

 灰色だったはずの鎧兜が瞬く間に眩い銀色に変色し、大地を踏み砕きながら突撃を開始、そこからは姿を一切捉えきれなかったのだ。 縦横無尽に谷間を駆け巡り、粉骨砕身のスピードを載せた拳や蹴りで魔獣達を次々と蹴散らす。

 暴力の嵐なんてものではない、まさに街を吹き飛ばすと言わんばかりのサイクロンごとき激しさで、眼前の怪物達を虐殺。 圧倒的スピードは奴の分身体、残像が生まれる程であり、谷の横幅全てをひとりで制圧、数千の魔獣はドンドン奥へと押し出されているのだ。

 ミキサーにかけられるかのように、骨を砕き、肉を裂き、血が飛ぶ。 何が魔法も気も使えないだ、そんなもの必要ない程強いではないか。

 

 やがて、谷間に静寂が訪れた。 騒がしかった魔獣は一体も残さず破壊され、上で見ていた奴らは恐怖のあまり全て逃げ出しているらしい。

 血の海に佇む、銀色の鎧。 此方を振り向いた一瞬で元の灰色に戻るが、その刹那、私は見逃さなかった、鎧の姿が変色しただけではなく鬼のような攻撃的な顔つき、四本の牙と二本の角を生やした“兜”の本当の姿を。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「おーい」

 

 「あ、ナギだ」

 

 草木が枯れ果てた山脈の上を歩き続ける、三人。 気候の変化が激しい高所であるため、横風もまた強い。

 遠くから、若い男性が此方を呼ぶ叫び声が聞こえ、とあはフードから頭を出すと小さく呟いた。 あれが千の呪文の男、ナギ・スプリングフィールドかとエヴァンジェリンは思う。

 逆立った赤毛、戦う男の引き締まった完璧なスタイル、中性でありながら凛々しく端整な顔立ちをしており、女性ファンが多い理由にも納得がいく。

 

 「全く、急にいなくなっちまったと思ったら、なんだ…女の子を拾っていたのかよ。 本当にお前は女の子が好きだよな」

 

 「あのさぁ、その言い方は俺がロリコンみたいに思われるから止めてくれない? 確かに女の子好きだけど」

 

 「ははは、コイツめ。 やっぱ好きじゃねぇか」

 

 軽口を叩き付け合う両者。 次第にヒートアップした口喧嘩は物理に発展し、拳と拳をぶつけ始める。

 パンッパンッと空気が弾けるような音と共に、高速に、連打の打撃は衝撃波を生み出しながら跳ね合う。 少しずつ周りの地形が変わっていくところも見ると、やはり紅き翼のメンバーはぶっ壊すの大好きという噂は本当だったようだ。

 破砕されていく風景に気にも止めないあたり、無自覚の可能性もある。

 

 「ん? ちょっと待て“とあ”。 コイツ、闇の福音だろ」

 

 どうやら千の呪文の男は私の正体に気づいた。 打ち合いを止めると此方を指差す。

 …指を差すな。 紅き翼の連中はどうやら礼儀を知らんらしい。

 

 「闇の福音? 何それ、ウププ…」

 

 「おい、何故笑う」

 

 「お嬢ちゃん可哀想に…。 まだこんな幼いのに、吸血鬼ってだけで闇の福音なんて痛々しい二つ名を付けられて。 でも大丈夫、お兄さんはちゃんと理解してあげるから。 君が将来大きくなってその二つ名に苦悩しようともお兄さんだけはちゃんとわかってあげるから」

 

 言いたいことを全て言わせたあと、もう一度鉄仮面を砕いた。

 

 「ぎゃあああああああ!?」

 

 「おお、すげぇな。 流石は真祖か」

 

 「ふん、当然だ」

 

 「もっと誇れよ、コイツの装甲を破壊出来る奴なんてそうそういないぜ」

 

 だろうな。 アホみたいに硬いため、此方の骨が砕ける勢いで殴らなければ傷ひとつ付かん。

 

 「えーん、痛いよー」チラチラ

 

 大の大人が、それも鎧姿の男が泣くところは絵的にかなりキツい。 コイツの精神年齢は一体幾つなんだ。

 いつの間にか破壊した仮面は元に戻っており、余計腹立つ。

 

 「ていうか“シンソ”って、何? 梅干しに使う奴?」

 

 違う、そうじゃない。 それはシソだ。

 

 「お前、知らなかったのか? このガキんちょ、600年は生きる滅茶苦茶有名な吸血鬼なんだぜ」

 

 「え…600年?」

 

 “とあ”の動きがピタリと止まる。 ワナワナと震えながらゆっくりと此方を見ると、指を差した。 …だから指を差すな。

 それにしても、ほう…コイツがこんな様子を見るのは初めてだ。 畏怖されるのは嫌いではないが、何故か少しなんだろうこの感情は、今まではこんなことなかったのに。

 

 「うおい!? マジかよオオオ! 何してんだよ俺ぇ!」

 

 「…っ」

 

 胸が痛みだした。

 

 「アルと安易にあんなことするからだろ。 ま、頑張れ」

 

 「お前それでも俺の主か!?」

 

 ナギは絶望する自分のペットを嘲笑い、その場から逃げ出した。

 両者が言っていることは、かつての仲間と約束した賭けの話しなのだが、当然、事情を知らないエヴァンジェリンからして見れば、どこをどう聞いても自分を助けたことによる後悔をしているようにしか考えられず、またしても捨てられると思った彼女の心の痛みは更に鋭さを増した。

 

 「ま、いっか。 なんとかしてアルとこの娘を会わせなければ良いし」

 

 ん? 

 

 「それはどういう意味だ、私を助けたことに後悔しているんじゃないのか」

 

 “とあ”は数秒硬直する。 どうやらポカンとしているらしい、私の言いたいことに気づいた時は両手でポンと叩いた。

 

 「それは違うよ、まぁ…いろいろ此方にも事情がありまして」

 

 なんで敬語なんだ、心なしか口調にも力はない。 だが、そうか、違うのか。

 私のことでは、なかったのか…。 先程までの痛みは嘘のように消え失せ、代わりにポカポカしたような不思議な暖かさが広がる。

 これは──ホッとしている…?

 

 「では何故…」

 

 ここで私は昨晩聞きそびれたことを思い出す。 人ではない、吸血という行為を行う“鬼”の存在、化け物である私を、600年生きた人々に忌み嫌われる私を、正義の味方であるコイツが何故助けたのか、その理由を。

 

 「何故助けた」

 

 「決まってるだろ、君の声が聞こえたからだ」

 

 「私の、声…?」

 

 「ああ、君の“助けて”って声が聞こえたよ。 だから助けた」

 

 何を──世迷い言を。 あの時、私一言も喋っていないうえ、あんな場所だ聞こえるわけがない。

 

 「…馬鹿馬鹿しい。 有り得ないな」

 

 「そうなんだよなぁ、有り得ないんだよなぁ」

 

 おっかしいよなぁと、首をひたすら捻りながら“とあ”は離れたナギ・スプリングフィールドを見つめた。 

 

 「俺もそんなはずないって思っていたんだよ」

 

 ずっと彼は不思議に思っていた、主の言葉の深意を。 長い間考え続け今まで答えが出なかった。

 だけど、泣きそうなエヴァンジェリンを一目見た瞬間、理解したのだ、こんな簡単なことだったのかと。 口では説明出来ない衝撃が全ての答えだったのである。

 

 「でも、君に出会ってそれをわかることが出来た。 有り難う、吸血鬼ちゃん」

 

 「…ふん、礼を言うのは私の方ではないか」

 

 酷くドライな返事が返ってくる。 “とあ”にとってそれは充分な一言だ。

 彼の硬い手甲がエヴァンジェリンの小さな頭を撫でた。 この日を切っ掛けに彼女は“とあ”を気に入り、後に地の果てまで追い掛けまわすことになるのだが、それはまた別の話しである。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「あ、そうだった!」

 

 「どうした」

 

 「トイレ行きたい! 先に行ってて!」

 

 デリカシーのない言葉にエヴァンジェリンの回し蹴りが襲う。 折角の良い雰囲気をぶち壊され、一気に不機嫌になった彼女はずんずんと地面を踏み締めながらその場をあとにする。

 

 「いてて、まぁしょうがないか…。 これはナギと詠春以外に見せられないし」

 

 “とあ”は兜を脱いだ。

 

 「あー、やっぱ式との遠隔操作神経系が切れてる。 システムを使いすぎたか、マズイな」

 

 きっと、エヴァンジェリンがこの場にいなくて正解だっただろう、間違いなく絶句してはず。 兜を脱いだ“とあ”の素顔、そんなものはないのだから。

 そのままの意味、ないのだ。 頭部どころか肉体も空っぽ、鎧の中は空洞に出来ている。

 

 彼に血や肉、骨はない。 式神と呼ばれる退魔の正体は、機械で出来た存在であった。

 

 

 

 

 




正義の鬼と悪の鬼の話し。この時のエヴァンジェリンはまだやさぐれている感じ。

とあは本気モードになると銀色に変わって、メッチャ速い、メッチャ硬い、メッチャ強くなります。
魔法的なものと言うより、科学、ハイテクノロジーの塊。 ロボですロボ。

式神には実在する式王子という全身真っ白な鬼神が存在していて、元ネタはそこから。
式王子+式神=式王神








※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。