とある製薬会社に務めていた研究員のヤケクソ日記   作:色々残念

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寄生感染編開始




自我が芽生えたネメシスが脱走を企てたとか

 月 日

 

「たまには外食でもするか」と不意に思い立った私は日常生活用義手を装着した。念の為の武器を懐へ入れてから外へ繰り出し、手頃な店を探しに行く。どうせなら料理の美味い店が良いと軽く聞き込みをすること数分。美味い料理と聞けば口々に一つの酒場の名前が上がる。随分評判が良いようだなその酒場は、それでは其所にするとしようか。

 

そうして辿り着いた酒より飯が美味いと評判な酒場で四品程注文して食事をしていると、ふらふらと揺れながら倒れるように酒場へ入ってくる男が一人。

隣の席に座っていた髭面が「もう酔っ払ってんのかよ兄ちゃん」と笑いながら酒瓶片手に野次を飛ばしていたが、男の顔を見た瞬間に悲鳴を上げる。まあ、顔の肉が腐りかけで更に口からプラーガまではみ出ていれば恐ろしいだろうな。

コイツはウィルス感染が先か、それともプラーガの寄生が先か。どちらが初めなのかは解らんが、食事中に拝みたい面じゃあないのは確かだ。さっさと始末しようかと武器をしまっている懐に手を入れた瞬間。

酒場の中に居た一人の男性が素早く構えていた拳銃で、プラーガが寄生した感染者の頭部を撃ち抜いていた。

寄生感染者の姿に全く動揺しておらず、手慣れたように頭を狙い撃ち。中々の腕前だ。

「そいつはもう人間じゃない、化物だ。頭を撃ち抜かなければ死なない」

そう言いながら拳銃に弾を込める男の声に怯えは微塵も無い。随分と冷静だ。生物災害の経験者だろうか。

寄生感染者の死体を見た隣の髭面は口元を押さえて必死に吐き気を堪えているというのに。これが経験者とそれ以外の差かと見比べて思ったが、そろそろ髭面な彼の両手という名の堤防が決壊してしまいそうだ。他人が吐いている姿を至近距離で眺める趣味は無いので彼とは距離をとることにしよう、折角頼んだ料理に吐瀉物がかかってしまったら堪らんのでな。

吐かれる前に料理を持って三席ほど髭面から離れて座り、騒がしくなった酒場での食事を再開。こんな時に何をしているんだコイツは、という数人分の視線が突き刺さるが無視して食事を続ける。もうこの料理が食えなくなるかもしれんのだから、精々味わって食べなければ。前評判に偽りは無く、確かに料理は美味かったのでね。

まあ、気になる事を確かめる為でもあるが。

 

消化を助けるようにゆっくりと、焦らずによく噛んでから料理を飲み込んでいると「こ、こんな所に居られるか!俺はもう家に帰る!」喚きながら酒場を飛び出ていく男が一人。

氷の入ったグラスを傾け冷えた水を飲んでいる最中に先程の男の悲鳴が聞こえた。身を守る術が無いんだったら「こんな所」でも居た方が良かったんじゃあないかな。

無謀な彼の尊い犠牲もあって解ったことは、酒場の外には人を殺せる何かが居るということだ。

お蔭で誰一人として酒場から出ようとはしなくなったから、彼の犠牲は無駄ではなかったのだろう。

寄生感染者を倒した男性は断末魔の悲鳴を聞いて不安になった数人の男に詰め寄られながらも冷静に「無闇に動くのは危ない。一人で行動するのは更に危険だ。暫くは此所に居た方が良い。もし、酒場にまた奴が入ってきたらオレが倒す。安心しろ」と諭していた。

言っている事はごもっともだが、実験動物を観察するアンブレラの研究員と同じ眼をしているな。死にかけの実験体が動かなくなるまでの経過を冷静に観察していた同僚と同じ眼だ。

きみがどんな奴か、少し解ったよ。

 

確かめたいことはもう終わった、そろそろ出るとしようか。四枚の皿と一つのグラスを空にして、長い食事を終わらせた。

呆然と寄生感染者の死体を見ながら現実から半ば逃避していた店主へ、食事の代金を多目に支払い正気に戻す。ついでに度数の高い良く燃えそうな酒を数十本倍額で買い取った。

読み捨てられてくたびれた新聞紙を拾っていると「物騒なお客さんにサービスです」と笑みを浮かべた店主にマッチを一箱渡されたので、有り難く貰い受けて胸ポケットに入れておく。私の発想を察してサービスしてくれたきみも中々物騒だと思うよ。

後はひたすら酒瓶に拾い集めた新聞を詰めて、数十本の火炎瓶を作成。そこから三本だけ持ち「残りは酒場の皆で使うと良い」と店主に言って店を後にした。私を止めようとするあの男の声は勿論、完全に無視。

外へ出ると数人の寄生感染者達が襲いかかってきたので、先程作った火炎瓶を放り投げて焼き殺す。火は中々に効果的のようだ、新しい義手の装備は火炎放射器にでもしようか。

 

あの男が居なければ酒場に残ろうかとは思ったんだがね。

経験は嘘じゃあないだろうし腕は確かだ、しかしあの眼はいただけない。あんな眼をした奴は大体が録な奴じゃあないからな。

それに何故寄生感染者があの一人だけしか酒場へ入って来なかったのかが疑問だ。

態々ゆっくりと食事をしながら次が来るかどうか待っていたが、結局他の寄生感染者は一人も入って来なかった。酒場の外に複数の寄生感染者が居たにも関わらずな。

恐らく最初に入って来た奴以外で酒場近辺にいた寄生感染者達は「酒場には入らず、酒場から出てきた者は襲え」と命令されていたんじゃないかと推測する。只の感染者にそこまでの知能は無いが、寄生したプラーガがそれを解決するだろう。宿主の中枢神経を支配し操る寄生生物が、ウィルス感染者達の手綱と言った所か。

このままでは街中に感染が拡がり、寄生体の犠牲者も増えていくだろう。誰が何の目的で始めたのかは解らんが、何とも迷惑な事だな。とりあえず、戦闘用の腕を取りに行くとするかね。

 

手掛かりになりそうなのは酒場の怪しい男だけか。

 

何か関係が有れば良いが、無関係だったらどうするかな。

 

 

同月同日

 

日常生活用の腕を外すと対プラーガ撃退用の腕に付け替えて対BOW用の腕と近接戦闘用の腕を背負う。準備は万端だ。

確りと実験してやるとしよう。

此方へ近付いてくる寄生感染者達へと左腕のメタリックブルーの銃口を向けてエネルギーを充電する。二秒程で充電が完了し、合図の電子音が鳴った。左腕用に加工した「P.R.L.412」から寄生体のみを殺傷するレーザーが放たれて寄生感染者達の中枢神経に寄生したプラーガを消滅させる。

呻き声を上げながら倒れていく五体の寄生感染者達と動じずに此方へ近付いてくる四体の感染者。どうやら寄生されていない奴もいたようだ、今度は対BOW用の兵器を内蔵する腕を装備。

最新改良型抗ウィルス剤を迫りくる感染者達一体一体の脳天に数錠撃ち込み。寄生感染者達と同じように仲良く地面へ転がしてやる。内蔵兵器を切り替え、倒れている九体へと冷凍弾を発射。最後は近接戦闘用の腕に付け替えて、凍り付いた九体を全員粉々に砕いて完全に止めを刺す。

 

中々調子は悪くないが、もう少し改良の余地はあるんじゃあないか。厄介事が全部終わったら更に改造するとしよう。

 




ネタバレ注意

ネメシス 寄生生物「NEーα型」
紫色のぶっといミミズの様な触手生物
外部から脳を制御するという荒業で知能の低下を防いだりする
具体的に言うと延髄辺りに新しい脳を勝手に作って宿主の前頭葉をぶち壊し、残りの脳の機能を新しく作った脳と連動するように無断で作り替えて何も考える事が出来なくなった宿主に成り代わってネメシスが思考するようになる


因みにジル・バレンタインに突き刺さった事があったりする

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