とある製薬会社に務めていた研究員のヤケクソ日記   作:色々残念

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クレアは恐るべき少女たらしらしい

無造作に振るわれた「暴君」の豪腕に成す術もなく吹き飛ばされる人型の異形達、彼等が挑む度に増えていく死骸の山、死屍累々の惨状を踏み越えて「暴君」の背後から忍び寄り。懐のホルスターから瞬時に抜き取り構えたアンプルシューターから放たれる「デイライト」が「暴君」の体内に存在するTウイルスを完全に死滅させて生命活動を停止させた。

 

「これで33体目」

 

地に崩れ落ちる「暴君」の前で始末した数を呟きながら「デイライト」を再装填する。手持ちの「デイライト」は残り10本と余裕は有るが無駄には出来ない。アンプルシューターをホルスターに納め、今度は大型の拳銃を取り出し構えておく。

 

異形達は見境無く此方にも襲いかかってくるので大口径の拳銃を連射して一体一体の眉間を撃ち抜いて黙らせてやり、現地調達した空き瓶とアルコールを組み合わせた火炎瓶を継ぎ接ぎの死体にウロボロス・ウイルスを投与して生み出された怪物達へと投げつけて景気良く燃やしてやる。

 

残りの「暴君」は片手で数えられる程度にまでは減らしたが肝心のセルゲイはアレックスが居る島内の監視塔に到達したようだ。しかしアレックスとセルゲイのどちらが勝とうと残った方を私が処理する事に代わりはない。手間が無く済むように接戦で互いに消耗してくれていれば良いんだが。

 

撃ち尽くした弾装を抜き、空になったそれに弾を一発一発詰め込んでいく。満たされた弾装を装填し遊底を引いて撃鉄を上げる。弾はまだまだ腐る程有るが余裕がある時は限りが有る弾装を再利用しておかなければな。

 

そうして再度襲いくる異形の集団を迎え撃ち、更に「暴君」の数を減らしていく。最後の38体目を倒した時、監視塔が盛大に爆発した。あの爆発は恐らく機密保持の為だろう。アレックスとセルゲイが爆発に巻き込まれて死んでくれていれば嬉しい限りだが、そう上手くはいかないらしい。

 

五体満足のセルゲイと上半身がウロボロス・ウイルスの集合体で覆われたアレックスが監視塔を突き破り飛び出してきた。

 

アレックスのあの姿はウロボロス・ウイルスを大量に吸収し、意図的に暴走状態を引き起こして戦闘能力を極限まで高めているようだ。体外に発生したウイルス集合体は宿主であるアレックスの意思の力で完全にコントロールされている。ウイルス嚢胞で肥大した両腕には金属片まで取り込まれており、振り回しただけで致命的な打撃が繰り出せる様に質量を増大させていた。

 

伸ばした腕を鞭の如く振るうアレックスにセルゲイはそれを躱しながら拳を握り一跳びで接近。セルゲイの拳と金属片混じりの腕が激しく打ち合わされて鈍い金属音が響き渡る。

 

ウイルス集合体で形成された腕の先端を削岩機の様に回転させて勢い良く突き出したアレックスの攻撃を、回転する腕を掴み受け止めたセルゲイはアレックスを投げ飛ばし地に叩き付けた。

 

立ち上がったアレックスの腕から放たれたウロボロス・ウイルスの触手弾がセルゲイの身体に取り付き動きを鈍らせ、振り下ろされた腕がセルゲイを打ちのめす。

 

触手を身体から引き剥がしたセルゲイの蹴りがアレックスの交差した両腕へと連続して叩き込まれ金属片が潰されていく。

 

蹴りを振り払い両腕を地面に突き刺して自身の周囲に触手の竜巻を発生させたアレックスに、弾き飛ばされたセルゲイは空中で体勢を立て直し着地する。

 

再び衝突するセルゲイの拳とアレックスの腕。互いに一歩も引かず真正面から対峙するアレックスとセルゲイ。

 

これでは決着まで随分と長引きそうだ。

 

決着が着くまで長々と待つ程気は長くない、早めに終わらせてやろうじゃあないか。

 

Tウイルスで形作られた化物とウロボロス・ウイルスを意のままに操る適合者の殺し合いの真っ最中に割り込むなんて無謀な事はしない。互いが互いに夢中になっている今の内に息の根を止めてやろう。

 

私はアフリカで手に入れ小型化に成功した衛星レーザー兵器・シャンゴへ攻撃対象の位置を送信する装置を構えて、比較的動きの遅いアレックスに狙いを定めた。2.5秒間照準を合わせ続けると対象がロックオンされ、遥か上空の軌道上から放たれる大熱量の光の柱がアレックスを中心として対峙するセルゲイまでも包み込んだ。

 

ウロボロス・ウイルスの集合体ごと灼き払われるアレックス・ウェスカー。余波を喰らい防護コートが消し飛んだセルゲイの肉体の生命維持機能が臨界点に達し、制御不能の暴走状態と化した。最早セルゲイの意思は無く凶暴性を剥き出しにした「暴君」は手当たり次第にその両腕の肥大化した爪を振るい始めた。

 

私はアンプルシューターをセルゲイだった者に向けて引き金を弾く。

 

射出された特効薬「デイライト」が効力を発揮してTウイルスから命を救う為の薬がTウイルスで形作られた命を奪った。

 

 月 日

 

38体の「暴君」を始末した後にアレックスを衛星レーザー兵器・シャンゴで処理。その余波を喰らったセルゲイが暴走状態と化したが「デイライト」を強制的に投与してやり39体目の「暴君」を始末した。

 

アレックスの研究成果は研究施設内が機密保持の為に爆発し、人型の異形達から採取した新種のウイルス。焼け残っていた資料の一部から名称が発覚したTーPhobosウイルス程度しか持ち帰れなかったが。

 

不老不死の研究は私には必要の無い物だ。

 

精神と記憶の転移システムに興味が無いと言えば嘘になるが。

 

新しい器は必要ない。

 

私は一人で充分だよ。

 

 月 日

 

TーPhobosウイルスはノルアドレナリンに反応するウイルスであり、つまり恐怖を感じた時に発症するウイルスであると実験の結果判明した。

 

このウイルスを用いてアレックスが何を目論んでいたかは最早知る由もないが、到底録な事ではあるまい。

 

あの変異発症者達の総数がアレックスに実験体とされたザインの島民の数だとすれば、並大抵の数ではないだろう。

 

あれだけの犠牲を払ってまで実現するべきものがアレックス・ウェスカーには有ったのかもしれないが。

 

私には理解できんな。

 

 月 日

 

生物兵器専門の犯罪組織コネクションとH.C.F.が共同で開発していた敵集団を戦闘によらず制圧する生物兵器の完成形第一号がアレクシアに襲撃を受け、奪取されてしまったそうだ。

 

従来兵器と一線を画する制圧した敵人員をそのまま味方戦力として取り込む能力を持つ生物兵器は新種の真菌である特異菌を元に作成された。

 

つまり従来のウイルス対策では意味を為さない新たな脅威が一番渡ってはいけない奴の手に渡ってしまったという事だ。

 

私が対処しなくてはいけない訳ではないだろうが。

 

念の為に特製の強力な除菌剤でも開発しておこう。

 

 月 日

 

私はパパではない。

 

 月 日

 

先日の私は冷静では無かったので今日こそは落ち着いて先日の出来事を書こうと思う。

 

アレクシアが奪取した生物兵器の外見は10歳前後の少女の姿をしていて名前はエヴリンというらしい。何故知っているのかというと人通りの多い街中で歩いていた私の目の前に見知らぬ少女を抱きかかえたアレクシアが唐突に現れ、聞いてもいないのに少女の名とその正体を私に教えてくれたからだ。

 

しかし私をエヴリンへ紹介する時に大きな声で愉しそうに「あの人がパパよ」と言うんじゃない。きみが自分の事をエヴリンにママと呼ばせているのは構わないがそれに私を巻き込むのは止めてくれたまえ。

 

周囲の人々に完全に誤解されてしまっていたぞあれは間違いなく。

 

頭を抱える私を見ながらアレクシアは笑っているし「パパ頭痛いの?」とエヴリンは心配してくれたがパパと呼んでいるし、あれはもうどうすれば良いのか解らなかった。

 

とりあえず逃げ出した私に手を振りながら「また会いましょうパパ」と満面の笑みを浮かべたアレクシアは間違いなく私に対する嫌がらせの為にエヴリンを連れて態々出向いたようだ。

 

殺し合いは殺し合いで嫌だがこれはこれで嫌だったんだが。

 

私は本当にどうすれば良かったのだろうか。

 




ネタバレ注意

デイライト
バイオハザードアウトブレイクに登場するTウイルスの特効薬
「Vーポイズン」
「Tーブラッド」
「Pーベース」
この三種を特殊な生成装置にセットする事で製造できる
この特効薬を使うとTウイルスを死滅させる事が可能であり以降の感染も永続的に防げる

アンプルシューター
バイオハザードアウトブレイクに登場する武器
デイライトを装填して発射すればアウトブレイクのラスボスのタナトスRも一撃で倒す事ができる
衛星レーザー・シャンゴへ攻撃対象の位置を送信する装置
L.T.D.
LaserTargetingDevice
バイオハザード5に登場する兵器
ウロボロス・アヘリ戦でのみ使用が可能

エヴリン

バイオハザード7のラスボスにしてベイカーさんご一家がおかしくなった元凶

7本編では細胞劣化によって急速に歳をとり老婆の姿となっているが精神は少女のままのババアロリという状態

最終的には彼女を処分する為の薬品であるEーネクロトキシンを主人公に投与されてなんかデカイ顔となり襲いかかってくる

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