とある製薬会社に務めていた研究員のヤケクソ日記   作:色々残念

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こんな感じでいいんでしょうか
駄目そうなら消します



アレクシア視点の話

「君自身を除いた世界中全ての人間に価値が無く、幾らでも替えが効いてしまう存在だとしてだ。そんな取るに足らない有象無象共に跪かれて崇められながら女王様気分を味わいたいとは随分と子供らしい考えじゃあないか」

そう言って笑った彼の本当の顔をわたしは憶えている。

 

彼に興味が湧いたのは南極研究所で暇を持て余している時、戯れに研究員の一人が落とした一本の毛髪を調べてみた事がきっかけだった。

 

身近に始祖ウィルスの適合者が居た事に狂喜し、「腕を一本寄越しなさい」と急かすわたしを宥めた彼は「腕は提供出来ませんが血液ならば幾らでもどうぞ」と言って血液の提供を約束した。

 

それからは彼の研究に没頭することになる。tーVeronicaを完成させて以来収まっていた研究欲が湧いてきて止まらなかったのだ。

 

この時血液の余りの若々しさに疑惑を覚えたわたしは彼の顔を引っ張って本当の顔か確かめる事にした。結果は特殊メイクが剥がれて彼本来の若々しい顔が露となった事を記載しておく。

 

わたしと二人で居る時は本当の顔を隠さない様にと厳しく注意した。

 

始祖ウィルスと適合し老いも病も無い身体を手に入れていた彼は人を越えた生命体であるにも関わらず。今は只の人間であるわたしの下についている事に不満は無いのかと聞くと「たまにいれてくれるコーヒーが甘い事ぐらいですかねアレクシア主任」と笑いながら答えた彼には支配欲というものはないらしい。

 

わたしであれば生物として劣る年下の生意気な上司など実験中の事故に見せかけて始末しているところだが。優秀な彼ならばそれが出来るだろうに何もしないのだ。

 

彼で実験する事よりも彼と話す事が多くなったある日。敬語を使わせるのを止めさせて普通に会話をしていたら。気が付くと日が暮れていた。余程会話に夢中になっていたらしい。

 

彼と話す事はとても楽しかった。使えない部下達とは違い会話が成立する上にわたしが知らない事まで彼は知っていた。未知を追求する事はとても面白い。

 

兄とも彼は会話しているようだ。兄は彼の話に夢中になりすぐになついてしまった。無理もない、彼の話はとても興味深く胸が高鳴りずっと聞いていたくなる。

 

わたし達の出生の秘密を知った兄は狼狽え信頼出来る彼の元へ相談に行った。わたしとしてはわたしが誰のクローンであろうともわたしはわたしであると断言できる。しかし父の出世の為の道具になるつもりは無い。早々に消えてもらうとしよう。彼との会話にも邪魔をしてきているようだし、父にはtーVeronicaの実験を手伝ってもらおう。

 

邪魔者は消えたと彼の元へ行き話しかけてみると彼は苦笑いを浮かべていた。彼の珍しい表情が見れただけ役立たずの父が初めて役に立ったと思う。

 

兄はますます彼に執着しているようだ。出来の悪い兵隊蟻はもうわたしの手から離れた。いずれ障害となった時は始末するとしよう。

 

意味が無い事だとは解っていたが彼にもtーVeronicaを投与してみた。彼の困った顔が見てみたかったのだ。彼の色々な表情が見たくて堪らない。

 

老いる事が無い彼と同じ時を生きる為にtーVeronicaを自らに投与する事を決めた。共生には15年もの歳月が必要になる。その間わたしを守るものは忠実ささえも失った無能な兵隊蟻である兄くらいだが。賭けにでなければ掴めないものはある。

 

15年の月日が経ち、目覚めた私を出迎えたのは彼ではなく兵隊蟻である兄だった。

 

彼はロックフォート島でわたし達を待っているらしい。兄の操縦する戦闘機に乗り込み島へと向かう事にした。到着すれば兄は用済みだ。

 

用済みとなった兵隊蟻を処分して彼に見せ付けるように踏み砕く。髪と眼の色は変わっていたけれど、15年ぶりに会った彼はとても嫌そうな顔をしていた。彼を見ているだけで笑みが溢れる。

 

話しかけると返事が返ってくる。たったそれだけの事でとても幸せな気持ちになるのは何故だろう。彼との会話だからだろうか。

 

彼が乗り込んだ戦闘機の後部座席に乗り込み、共に空を飛んだ日は忘れられない思い出だ。彼の背後から見た世界がとても美しく見えた。

 

着陸した後は何故か逃げようとする彼を追いかけて追いかけて追いかけて追いかけて追いかけて追いかけて追いかけて追いかけて追いかけて追いかけて追いかけて追いかけて追いかけ続けた。

 

彼の逃げ方はとても上手で逃してしまいそうになるけど。その度にこの身に宿したtーVeronicaの力を解放して追い続けた。

 

彼を追っている最中に知り合ったエイダという女はとても優秀な女スパイで何度も彼の居場所を教えてくれたけれど。何を考えていたのかは解らない。

 

彼を見失った時はエイダに聞けば居場所を教えてくれるので重宝した。

 

ヨーロッパの片田舎に彼が居るとエイダからの情報提供を受けたわたしは直ぐ様移動を開始する。

 

挨拶代わりに火球を撃ち出して彼に抱えられていた羨ましい鶏を焼き尽くす。

 

踊るように回りながら放った上段廻し蹴りが彼の振り下ろした斧で止められた。そして直ぐに斧を手放す判断の速さは流石と言える。

 

傷口から噴き出させた炎が斧を焼やし尽くす。傷口を擦りながら彼に文句を言ってみるが言い返された。

 

バックパックからサングラスを取り出して装着した彼の初めて見る姿を食い入る様に見つめていたら、強烈な閃光がわたしの眼を焼く。彼が閃光手榴弾を使ったらしい。

 

眼を庇い腕で覆ったわたしに極低温の液体が振りかけられて身体が凍り付いた。

 

凍結が溶けた頃には彼は拳銃の様な物を此方に構えていたが、お構い無く先程のお礼として炎を纏う腕をのばす。

 

彼の左腕を掴んでいたら、彼は自身の腕を切り落としてわたしに腕をくれてやると言ってから離れていった。

 

 

彼からのプレゼントを抱きしめる。降り注ぐ光も気にならない程強く。またねと言ったけれど彼に届いただろうか。

 

思ったよりも衛星軌道上から放たれたレーザーの威力は強く。深い傷を負ったわたしは傷を癒す為に長い時間彼と触れ合う事が出来なかったが。念願の彼の一部である左上腕部を手に入れたから寂しくはなかった。

 

焼け焦げてはいたけれど確かに彼の腕、彼はわたしが最初に腕を求めた事を覚えていてくれたのだろうか。もしもそうならばとても嬉しい。

 

欲しくて堪らなかった彼の腕を手に入れて研究を進めた結果。彼にとって死は始まりにすぎない。彼の中の始祖ウィルスは進化を待ち望んでいる。

 

老いによる老衰も病による病死もない彼に進化をもたらすには何らかの外的要因によって活動停止状態にさせる必要があるのだ。

 

彼に死が訪れたその後は細胞の活性化に伴って体組織が再構築され、自我と人間の姿を失う事なく完成されたBOW以上の身体能力を得て復活する事が判明している。

 

人間を超越した素晴らしい存在になれるというのに何故彼はいつまでも羽化をする前の蛹のままで過ごしているのだろう。

 

彼の身体は進化を迎える準備が出来ているというのに、彼は進化を望んではいないようだ。老いと病が無いだけで満足しているからだろうか。

 

素晴らしい存在へと羽化ができるようにわたしが手を貸してあげよう。

 

彼は逃げる事が本当に上手で足取りがうまく掴めない。

 

暇を持て余して他の組織へと単身で攻め込み壊滅させて資金を調達する。

 

圧倒的な力を示して集めた人材を配下として自身の組織を造り上げた。

 

組織に名は無く彼を進化させるという目的を達成した後はいつでも潰れて構わない。

 

彼と会えるかと思って向かったアフリカ。彼にとっては魅力的に見える筈の始祖花の群生地では「t+Gウィルス」の試薬「v.0.9.2」を投与したモーフィアス・D・デュバルと遭遇し戦闘になった。

 

モーフィアスはどうやら彼の部下になっていたらしい。女体化していたのは何の為だったのだろう。彼の為である可能性がある。殺しておけば良かった。

 

後日、モーフィアスの建国した国へと攻め入りあらゆるものを焼き尽くしてやったが。それで少しは気が晴れた。

 

アルバート・ウェスカーが死んだらしい。彼の手によるものだろうか。

 

セルゲイ・ウラジミールを名乗るタイラントが新たなアンブレラに勧誘してきたが、彼のいない組織に興味はないと答える。

 

生物兵器専門の犯罪組織コネクションとH.C.F.が共同で開発していた生物兵器を奪取した。

 

生物兵器の姿形は少女であり、知性も10歳前後の少女と変わらない。母性に飢えているらしく、わたしをママと呼びなついてくる。

 

役に立たない存在であれば彼に心酔して使い物にならなくなった兄と同様に消し炭にしてやるところではあるが。

 

特異菌を自在に生み出し操る生物兵器は使いようによっては彼に届く牙となるかもしれない。ママと呼ぶことを許してあげよう。

 

彼が見知らぬ少女にパパと呼ばれたらどんな顔をするのか見たくて堪らない。一度エヴリンと一緒に会いに行ってみるのも悪くない。

 

漸く見付け出した彼の元へエヴリンと共に会いに行く。エヴリンにパパと呼ばれた彼の顔はとても困っていていつまでも見ていたかったけれど我慢した。

 

部下に命じて誘拐させた人間達をエヴリンの手でモールデッドに転化させて彼の元へと送り込んだ。

 

最初は直ぐに仕留められてしまったが徐々にモールデッドの操作を覚えたエヴリンによって仕留められるまでの時間を大幅に延ばす事に成功した。

 

しかしそれでも彼に手傷を負わせる事は一度も出来なかったのは残念。

 

その後はモールデッドを作製していた拠点の居場所を掴まれて彼からの手痛い反撃を受けた。

 

彼にエヴリンを始末されそうになりこの身に宿ったtーVeronicaを解放して彼と対峙したが此方が放った攻撃を全て避けられてしまい。

 

避ける事が難しい追尾式の時限炸薬弾を連続で喰らい、彼にトドメを刺されるところでエヴリンのモールデッドに助けられた。

 

エヴリンを奪取していなければわたしは死んでいただろう。わたしに対抗する為の兵器を彼は用意していた。わたしの事を確りと考えていてくれたようで何よりだ。

 

これまでは素手で十分だと考えていたけれど。武装した彼を相手に敗北したのだから。此方も装備を整えないと勝負にならない。

 

そう思い至ったわたしは南極基地で見たリニアランチャーを思い出した。

 

気化エネルギー弾を射出するあの兵器はわたしと兄を作った出来損ないの父アレクサンダーが作製していた兵器。

 

設計図は見ただけで覚えていたから作ろうと思えば作れる。

 

作製したリニアランチャーを試す相手は直ぐに現れた。破れた傘にすがっている哀れな男。

 

人間ですらもなくBOWであるタイラントの肉体で生き長らえた男。セルゲイ・ウラジミール。

破れた傘になんて興味はないのにしつこく勧誘をしてくる男を木っ端微塵に吹き飛ばす事が出来た時はとても楽しかった。

 

だけどリニアランチャーは威力が高過ぎて彼にはとても使えない。彼の肉体を残したまま命だけを刈り取る。そんな武器が必要。

 

拳銃では簡単に対処されてしまう。原始的だが剣や槍はどうだろう。扱いに慣れるまでは苦労するかもしれないがウィルスによって強化された腕力で振るえばかなりの殺傷力が有りそうだ。

 

とある人里離れた研究施設内の一室、部屋の中央には酷く焼け焦げた左上腕部が培養ポッドの中で浮かんでいた。

「ママ、これ何」

10歳前後の黒髪の少女。エヴリンがそれを指差して問いかける。

「それはね、パパからのプレゼントよ」

38歳という実年齢よりも遥かに若々しい外見の金髪の美女。アレクシアは微笑みながら培養ポッドを扇情的に指でなぞりそう答えた。

「何で腕がプレゼントなの?」

もっと良いもの貰えばいいのにと首を傾げるエヴリンの頭を撫でながらアレクシアは言った。

「ママはね、昔からパパの腕がどうしても欲しくてねだっていたの。いつも断られていたんだけど、ちゃんと貰えたときは嬉しかったわ。約束はちゃんと守る人なのよ、パパはね」

「腕を切ったパパは痛かったんじゃない?」

自分の左上腕部に手を当ててノコギリを引く様に左右に動かして切る真似をするエヴリン。

「痛みには強い人だから大丈夫よ、自分で腕を切って直ぐに駆け出せる元気があったもの」

落ちてくる光よりも早かったのよと笑うアレクシア。

「パパは凄いね」

腕が切れてもそんなに元気だったんだとエヴリンも笑う。

「そうね、パパは凄いわ」

二人して笑い合う血の繋がりの無い母子。

「それにしても老いも病も無い身体とはいえ人間の域は越えていない筈なのに、人間を超越した、わたしの動きに反応出来ていたのは何故かしらね」

tーVeronicaと完全に適合した肉体を持つアレクシアは不思議そうに首を傾げた。

「モール・デッドをいくら送り込んでもパパには敵わなかったもんね。パパにワタシの特異菌も通用しないのは何でかな、ママ」

特異菌を自在に生み出し操る生物兵器であるエヴリンが無邪気に質問する。

「そうね、パパの身体は異物を受け付けないようになっているの。特異菌だけじゃなくて多種多様なウィルスもパパの身体には効果が無いわ」

左上腕部が浮かぶ培養ポッドを執拗に撫で回しながらアレクシアはエヴリンに教えていく。

「全ては始祖ウィルスがもたらした彼だけの進化といったところかしら、彼に更なる進化をもたらす為には一度生命活動を停止させる必要があるのだけれど難しいわね」

眉を歪ませ残念そうにため息を吐くアレクシア。

「パパが更に素晴らしい存在になるために協力してあげてるのにね」

だから頑張って殺そうとしてるんだと笑うエヴリン。

「老いを否定し病を否定し遂には死すらも否定する。それが彼の進化の最終形態。どうしてもそれが見たくて堪らないの。どうすれば良いのかしら」

「頑張ってパパを殺そうよ、ママ。そうすればきっと見れるよ」

「そうね、そうしましょう。次の手はもう用意してあるわ。きっと殺してあげるから待っていてねジョン」

赤子の様な無垢な笑みを浮かべたアレクシアはそう言ってエヴリンを抱き抱えた。

 




ネタバレ注意
アレクサンダー
アレクサンダー・アシュフォード
アシュフォード家6代目当主
遺伝子工学を専門とする科学者
陰りの見え始めたアシュフォード家再興を目指して南極に建設した研究所で極秘プロジェクト「コード・ベロニカ」を始動させる
実験によって誕生した双子の兄妹
兄のアルフレッドは失敗作に過ぎなかったが
妹のアレクシアはアレクサンダーの望み通りの天才だった
しかしその成功はアシュフォード家の再興どころかアレクサンダー自身に最悪の結果をもたらす
アレクシアの手によってtーVeronicaウィルスの実験体にされたのである
怪物と化したアレクサンダーは拘束具で自由を奪われ南極基地の地下独房に監禁された
公には失踪扱いとされたが彼は人ならぬノスフェラトゥとして15年もの歳月を生き続ける事になる
ダークサイドクロニクルではアレクシアを止める為にリニアランチャーを用意していたとムービーが流れる

ノスフェラトゥ
コードベロニカ、ダークサイドクロニクルに登場するクリーチャー
アレクサンダーの成れの果て
tーVeronicaを無理矢理身体に投与され、ウィルスと共生できないために凶暴なモンスターへと変貌を遂げた
ウィルスの影響で体から触手が生えており、心臓は肋骨を突き破って胸部に露出
体内で生成された毒液は、酸素に触れると毒霧に変化する性質を持っている
ちなみにノスフェラトゥとはルーマニア語で不死者という意味で、呻き声を耳にした南極基地の作業員達によって名付けられた
コードベロニカではスナイパーライフルかナイフでトドメを刺すと特殊なムービーが流れる

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