とある製薬会社に務めていた研究員のヤケクソ日記   作:色々残念

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後日談その5

 月 日

流石に54歳にもなって未だに傭兵を続けるようなことはニコライ・ジノビエフはしないようだ。顔を整形して変えて自分が死んだという情報を流し、今まで稼いできた金を使って余生をおくるつもりらしい。UBCSに所属しながら監視員として活動し、同じ監視員であったタイレル・パトリックや他の監視員を何人か始末して回収データの横取りまでして得た報酬が幾らになったのかは定かではない。ニコライに恨みを持つ人間は大勢いそうだが、彼等にニコライが顔を変えて生きているという情報を提供したらどうなるだろうか。ニコライを生かしてはおけないと抹殺に動く可能性が非常に高い。好かれるような生き方をしていないニコライには敵が多そうだ。監視員の生き残りもニコライにはいい感情を抱いてはいないだろう。ニコライは優秀な傭兵ではあったのだろうが、今では前線を退き衰えている。全盛期には程遠いニコライが精鋭による襲撃を受ければ助かることはない。老いというものは一部の例外を除いて等しく人に訪れるものだ。衰え弱る身体は思い通りに動かなくなり、やがて終わりがくる。私個人としてはニコライに特に恨みはないが、ラクーン事件を生き残った元UBCSの部下がニコライを恨んでいるので、部下の望みを1つ叶えるとしよう。

 

 月 日

元UBCSであるニコライの情報は掴めたが元USSのハンクの情報は掴めていない。一切の消息が不明だ。ハンクが日本で湯豆腐を食べていたという眉唾物の情報はあるが、何故湯豆腐なのかは解らない。さっぱりとした食べ物がハンクの好物なのだろうか。それはそれとしてあの死神ハンクが死んでいるとは考えにくい。何処かできっと生きている筈だ。興味深い人物ではあるから一度会って話してみたいところだが、警戒されてしまうかもしれないな。敵ではないと証明できなければ落ち着いて話をすることもできない。滞りなく会話ができればいいんだが、そういう訳にはいかないか。もしもハンクと出会えたなら確りと手順を踏んでから会話をする必要がありそうだ。アンブレラではハンクはニコライとライバル関係だと言われていたが、どう考えてもニコライが格下としか思えないのは私だけだろうか。USSの中でも屈指の生還能力を持つハンクと他者を犠牲にして生き延びてきたようなUBCSのニコライとでは大いに差がある。悪い噂が絶えなかったニコライと死神の異名を与えられたハンクとでは信頼性が大きく違う。他者を犠牲に生き延びたものと個人の実力で生き残ってきたものでは能力に差がある。前者はニコライで後者がハンク。どちらを部下にしたいかと言われたら当然ハンクを誰だって選ぶ。しかし流石にハンクも年齢的に兵士として現役でいるのは難しい筈だ。引退していることは間違いない。何をしているのかは知らないが生きていることは確実だ。会えるかどうかは解らないがな。

 

 月 日

今まで秘匿されていたがアレクシアと同じく15年間のコールドスリープを経てtーVeronicaと共生していた兄妹がいたようだ。アルフレッド・アシュフォードに似ている兄とアレクシアに似ている妹。何故こんなにも似ているのかと思えば生まれまで同じくベロニカ・アシュフォードの遺伝子を用いて造り出された子供であったからだった。アレクシア達よりも生まれたのは後だったようだがコードベロニカ計画に関わっていた者の手によって、アシュフォード家から無断で持ち出されたベロニカ・アシュフォードの遺伝子を用いて人工的に造り出された子供達は優秀に成長。アレクシアという天才を欲していた者達にとっては生まれた双子に惜しみない教育を施したが、アレクシアほどの天才には育たなかった。それなりに優秀ではあったので十分満足はしていたみたいだが、やがて自分達の出生を知った兄妹によって全ては崩壊する。その後はH.C.F.に身を寄せていた兄妹はアレクシアが造り出したtーVeronicaの存在を知りコールドスリープ状態で15年の月日を費やせば制御が可能であるという点に魅力を感じたらしく自分達を実験体にすることを志願。

 

それが受理されて2017年の今までコールドスリープ状態だった兄妹は目覚めた瞬間にtーVeronicaの力を解放してH.C.F.の研究施設から脱走。今現在裏社会でその身に宿したtーVeronicaの力を用いて頭角を現している兄妹を目障りに思う組織は確実に存在する。組織から私に依頼が回ってくる可能性が非常に高いな。特にH.C.F.にとっては裏切り者であるから優先的に始末したい相手ではあるんだろうが、今のH.C.F.にtーVeronicaの適合者2体を同時に相手にできる戦力が備わっていないのかもしれない。その点私であればtーVeronicaを宿した者を以前殺害したことがあるという実績がある。そうであるなら私に依頼が回ってくるのは当然のことか。特に兄妹に恨みがある訳ではないが、私が組織からの依頼を受けると決めたのならば敵である。その場合は容赦をすることはない。まあ、彼等の人となりを知ってからでも遅くはない筈だ。とりあえず彼等がどんな人間であるか調べてみるとしよう。危険な思想を抱いていなければいいんだがな。

 

 月 日

兄は妹を何よりも優先しているようだ。妹の決定に必ず従う様は忠実な兵隊蟻といったところだな。問題は妹だが、かつてのアレクシアのような思想を抱いている。地球上の全生物を自分のしもべにしたいと考えていたアレクシアと同じように、世界の女王となることを望んでいるみたいだ。tーVeronicaの力を手に入れたのはそのためだったらしい。ベロニカ・アシュフォードの遺伝子で造り出された子供はそういう危険な思想を持たなくてはならないという決まりでもあるのかと言いたい。私個人としても兄妹は放ってはいけない存在だということが解った。アレクシアと似た顔でかつてのアレクシアと同じ思想を持った妹は生かしておいてもろくなことにならない。ただでさえ良くないアレクシアの評判が更に悪くなってしまう。依頼がなくても始末しに行くことにしようか。危険な思想を持っている彼等には消えてもらうとする。装備を整えている最中にアレクシアが現れてモニター画面に表示された兄妹達に関する情報を一通り眺めてから私に向かって「わたしも行くわ」の一言。どうやらこの兄妹の存在はアレクシアも気に入らないみたいだ。特殊合金の大剣を用意して完全に戦闘態勢のアレクシアを連れて兄妹の元に向かうことになった。

 

 月 日

問題の兄妹が根城にしている場所に装備を整えた私とアレクシアが突入。tーVeronicaの力を解放した兄妹と対峙する私とアレクシア。アレクシアもまたtーVeronicaの力を解放し異形の姿に身を変えた。私以外が全員tーVeronicaの適合者というある意味凄い状態で若干の疎外感があるが気を取り直して背負った槍を構える。アレクシアも大剣を上段に構えていた。常人には捉え切れない速度で移動し、此方に炎を纏う手刀を繰り出してきた兄の腕を槍の石突きで弾き上げて槍を回して勢いを乗せた穂先で袈裟斬りにする。斜めに切り裂かれた胴体の傷口から空気に触れると発火する血液が溢れ出した。まさか負傷するとは思っていなかったのか動揺した様子で傷口を押さえる兄に容赦なく眉間を狙った突きを放つと流石にそれは躱されたが、傷口から溢れる血は止まらず発火し続けている。距離を取ろうとする兄に大きく踏み込んで槍を振るい片足を切り落とす。体勢を崩した兄の腹部に槍を突き刺して捻り臓器を損傷させて動きを鈍らせてから引き抜いた槍を渾身の力で横に振るい首を切断し絶命させた。アレクシアの方を見ると手足を全て切り落とされた妹がのたうちながら世迷い言を言っていたが動かないようにアレクシアに踏みつけられて大剣で首を両断されている。これで問題の兄妹の始末は完了した。後は死体を処分するだけだな。兄妹が経験を積んで厄介な存在になる前に処理することができて良かった。

 

 月 日

アレクシアが真剣な顔で私に「貴方と会えて良かったと心から思っている」と言ってきた。この前の兄妹との戦いで思うところがあったらしい。アレクシアは続けて「変わることなく、くだらないことを考えたままの自分がああなっていたのかもしれないと思うと嫌な気分になるわね」と言って抱きついてくる。アレクシアを抱きしめながら今の君は違うから大丈夫だと言っておく。暫く抱きしめ続けていると気分が落ち着いたのか笑顔を見せるアレクシア。もう大丈夫だろうと判断して抱きしめていた手を下ろすがアレクシアが離れない。笑みを深めたアレクシアが「もう少しこのままで」と言うのでそのままの状態で待つこと数時間。何時間も経過したので流石に離れてくれないだろうかと言ってみると、ようやく離れてくれたアレクシアは最後に熱烈なキスをしてから家事を始める。やっと満足したらしい。あの兄妹の関係はあり得たかもしれないアルフレッドとアレクシアの関係だったのだろうな。もしもアレクシアがかつてのままであればこうして私の妻になることもなかった筈だ。アレクシアと家族になれたことは悪いことではない。今のところは幸せな家庭を築けているので問題はないな。アレクシアも愛する家族の1人だ。

 

 月 日

私と一緒に戦闘訓練に励む息子を見ていたエヴリンが自分も自衛の手段を手に入れた方がいいかと私に聞いてきたので簡単な技を教えることにしたが習得するにはそれなりに時間がかかった。特異菌を自在に操れるならば応用でモールデッドを身に纏うことができないか試してみてもらうとできたようだ。ブレードモールデッドの硬質な刃の腕を幾本も生やして自在に操るエヴリンは接近戦にも対応が可能になった。厚い鉄板をも両断するブレードモールデッドの刃の腕は高い近接戦闘能力をエヴリンにもたらしたみたいだ。しかしモールデッドを纏った状態だと、まともな人間ではないことが直ぐにバレるので緊急時以外は使わせないことに決めた。私かアレクシアが側にいる時はどちらかが対応すると思うので、万が一どちらもいない時に身に危険が迫った時だけ使うように言い含めておく。下半身に纏うクイックモールデッドの足を幾本も生やして壁や天井を自在に這い回ることもできるようで試しにやってみて楽しそうに動き回っていたエヴリンは完全に遊んでいたな。エヴリンが息子を抱えて一緒に移動して2人ではしゃいでいるあたり随分と仲が良いみたいでいいことだが、いつまでも遊んでいる訳にはいかないので縦横無尽に壁や天井をクイックモールデッドの手足で蜘蛛のように這い回るエヴリンを捕まえて持ち上げて身に纏うクイックモールデッドを解くように言っておく。私に従ってクイックモールデッドを解いたエヴリンとエヴリンに抱えられていた息子は「楽しかった」と笑顔で言っていた。今日の戦闘訓練はこれで終わりにしておこう。そろそろ食事の時間だ。アレクシアが私達を待っている。全員手を洗ってからテーブル席に移動しよう。今日の料理が何か楽しみだ。

 

 月 日

とても妙な夢を見た。凹んだ人間大の豆腐が感染者達に襲われながらナイフ片手に脱出を目指すというものだったが襲われる度に「何すんねん」と何故か手が生えている上に喋る豆腐。多勢に無勢でダメージを負う度に色が変わっていく豆腐は最終的に真っ赤になって「ほな、さいなら」と言って倒れる。豆腐が倒れると最初からやり直しとなり、豆腐が脱出するまでの映像を延々と見ることになったが、到着した最後のヘリでハンクに身体の一部を湯豆腐にされて倒れた豆腐の姿が映されて終わりとなった。ハンクが日本で湯豆腐を食べていたという情報を聞いた私の中で無意識の内に想像が膨らんでこんな夢を見てしまったのだろうか。だとしたら随分と私の脳内は愉快なことになっているな。想像力が豊かで素晴らしい。それにしても汚水に浸かっていた豆腐を食べて夢の中のハンクは腹を壊さなかったのか心配になってしまった。まあ、現実のハンクはそんなことはしない筈だ。夢の中の出来事を気にしても仕方ない。忘れられない内容だったから、こうして日記には書いているが、何故豆腐が主人公の脱出劇を見ることになったのかは私にも解らないな。最終的にハンクに食われているから助かった訳ではないが、豆腐は食べるものなので間違ってはいない。こうして鮮明に思い出せる夢の内容というのは珍しいが、内容自体が笑い話だ。豆腐が主人公の夢を見ていたと言っても息子とエヴリンには豆腐が何なのか教えるところから始めなければいけない。アレクシアなら豆腐ぐらい知っているだろうな。夢の内容を話したら有無を言わさず病院に連れていかれそうなので誰にも話さないようにしよう。よくこんな夢を見たものだと自分でも思うが、見ていて楽しかったから悪くはない。動き回る豆腐なんて代物は、私なら食べずに捕まえておくがね。豆腐だとしても貴重な実験材料になりそうだ。




ネタバレ注意
バイオハザード3の登場人物
タイレル・パトリック
UBCSのB小隊A分隊所属
スリナム共和国出身者だが、オランダへ移住した後にフランス外人部隊に身を置いていた
傭兵としての能力に優れた人物ながら、自身の商才からサイドビジネスに興味を持ち、金儲けには目がなかった
UBCSに参加した理由は無期懲役の宣告を取り消すためである
外人部隊時代に、彼は立場を利用して重火器密輸に手を染め、その武器が大量虐殺に使用されたことで重罰を言い渡されていた
無罪放免を条件にUBCSへ入隊した後も、彼の金銭欲は変わることがなく、高額の報酬を目的に監視員のひとりとして任務に参加
事態の急変に伴い、ニコライ・ジノビエフの裏切りに遭って死亡する

バイオハザード2のアナザーシナリオThe4thSurvivorの主人公
ハンク
アンブレラ幹部直属の私設部隊、アンブレラ特殊工作部隊の隊員
所属はアルファチームで、ラクーンシティにおける生物災害発生時は、フランス支部施設所長クリスチーヌ・アンリからの極秘指令を受けて仲間とともに地下研究所へ潜入
異形と化したウィリアム・バーキンの襲撃に遭いながらも、たったひとりでGウィルスが入ったカプセルの強奪に成功した
ヘリで脱出後は、当初の予定通りロワール村にてカプセルをアンブレラに手渡し、任務を完了させている
まさに戦闘のプロといった風格を持つハンクだが、彼の技術はそもそもはロックフォート島で経験した軍事訓練で培われたものである
1996年に島の訓練所でトレーニングをしていた時期があり、訓練課程終了後も大型BOWの輸送任務で島を訪れている
司令官のアルフレッド・アシュフォードには敬意を払ってはいたものの、報告書提出の際には司令官の秘密主義に対して多少意見もしていたようだ
実戦に参加してからは、数々の任務で見事に成功を収め、死神ハンクの異名を持つまでに成長

バイオハザード2のアナザーシナリオThe豆腐survivorの主人公
豆腐
姿形は凹んだ人間大の豆腐で手があり初期装備はコンバットナイフ一本とハーブのみ
動くと独特な音が鳴る
攻撃を喰らうと何すんねんという声を出す
ダメージを喰らっていると身体の色が赤く変わっていき死ぬ時にはほな、さいならと言う
最終的にヘリに辿り着いたとしてもヘリの中でハンクに湯豆腐にされて食われるという最後を迎える

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