とある製薬会社に務めていた研究員のヤケクソ日記   作:色々残念

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後日談その9

 月 日

レオン・レポート。2004年にレオン・S・ケネディがヨーロッパで体験したプラーガによる生物災害に関する内容が詳細に描かれたもの。BSAAに提供されていたそれが何故か私の元に送られてきた。アルマデューラやデルラゴなどの興味深い存在が書き込まれた内容には惹かれるものを感じるが、問題は誰が何の為に私にこれを送り込んできたのかだ。BSAA内部の人間か、それとも潜り込んでいる何者かがこのレオン・レポートを何らかの意図があって私に提供しようと考えて実行に移したのは間違いない。送ってきたのがルイス君ではないことは解っている。BSAA内部に不穏な存在がいるとすれば、クリス君達にも被害が及ぶかもしれない。それはできるなら避けたいことではあるが、BSAA内部に対して私ができることは今は何もないのだ。BSAA内部の人間か、内部に潜む何者か、そのどちらかであることは確かだが、狙いを知ることができればいいんだがな。それを知ることができたならば警告として詳細をBSAAのアドバイザーであるルイス君を通じてBSAAに伝えるのだがね。今は何も掴めていない状況だ。単なる善意でレオン・レポートが送られてきた訳ではないのは解っているが、何が目的なのか全く解らない。

 

私にレオン・レポートを送り込んでも何か利益を得ることはない筈だ。何を狙っているのかが理解できれば、問題は解決するんだが、全く理解ができない。私を混乱させるのが目的であるなら、それは成功していると言える。何を目的としてこんなことをしているのか、知ることができれば困惑することもないんだが。私が情報を抜き取ったということにしてBSAAと私を敵対させるのが目的なのか。単に私を動かす為に情報を提供した可能性もある。考えてみればみるほど数多の可能性が浮上してくるが、確実だと言えるものはない。今は動くのは止めておくとしよう。何が狙いであるか見極める為には情報が必要だ。新たな動きがあれば、目的に近付いていくことは確かである。今は理解できなくとも、いずれは理解できる筈だ。BSAA内部の人間か、内部に潜む何者かが何を狙っているのか、知ることができれば此方も動ける。冷静に待つことも大切だ。

 

 月 日

互いに身体が鈍らないようにtーVeronicaの力を解放したアレクシアと組み手を行う。常人には捉えきれない人間離れした速度で接近し、上段廻し蹴りを繰り出してくるアレクシア。灰褐色の右脚を左腕義手で受け止めて右腕でストレートを放つとアレクシアは、真正面から受けようとはせずに此方の右手首を狙って自らの左手を使い上から力を込めて叩き落とした。叩き落とされた右腕を捻り、拳の向きを変えてアッパーを打つと上体を反らして躱したアレクシアが上げていた脚を下ろして1回転しながら、左後ろ廻し蹴りを繰り出してきたので足の裏を右手で掴み取って蹴りを受け止めておく。掴んだまま引き寄せて左腕義手でボディブローを叩き込もうとするがアレクシアの両手で包み込むように受け止められた。互いに掴んでいる相手の身体を放した後に、飛び膝蹴りを繰り出してくるアレクシアの膝を潜り抜けて回避して、片手を床に着けて勢い良く逆立ちするかのような体勢で放つ両足の蹴りがアレクシアに直撃する。空中に跳ね上げられながら体勢を立て直して縦回転し、勢いをつけた踵落としを繰り出してくるアレクシアの踵を左腕義手の左手で掴み取り、そのまま投げ飛ばす。壁に叩きつけられる前に身を翻して壁を両足で蹴り、両腕を交差して高速で体当たりをしかけてくるアレクシア。瞬時に屈むことでそれを避けて離れた位置に着地したアレクシア に接近し、右手で脳天へ振り下ろす手刀を放つが両手で挟み込まれて止められた。

 

空いている左腕義手で腹部を狙ったフックを打つと上げられた右足でガードされる。アレクシアの両手で挟み込まれた右手を引き抜き、左右の拳を連続で振るうが全て受け流された。確実に進歩しているアレクシアの動きはtーVeronicaで向上した力だけに頼ったものではなく柔軟な技を身につけているようだ。刻むような拳の突きが全て受け流されていく。此方も本気を出している訳ではないがアレクシアの受けの技術は、かなりのものに仕上がっている様子。真正面から何発打ってもこのままでは当たらないだろう。ストレートの軌道から強引にフックに切り替えてみたりもしたが問題なく受け流された。拳打では駄目なら蹴りを試してみることにした。上段、中段、下段と左右で幾度か繰り出してみても全て避けるか受け止められる。1つ試してみたい技があったので繰り出してみるとそれはアレクシアに直撃した。それとはブラジリアンキックという可変蹴り。本場ブラジルではクビゲリと呼ばれる縦型のハイキック。この蹴りは蹴り出しの軌道が中段廻し蹴りとの区別が難しい。アレクシアは中段と判断していたからこそ軌道が変化したこの蹴りをまともに喰らった。蹴りを喰らい吹き飛んだアレクシアに接近し、至近距離で手刀を喉に突きつけるとアレクシアが負けを認めた。組み手が終わったところで用意していたミネラルウォーターを飲みながら互いの動きの良かった点と悪かった点を言い合って総評していく。互いの反省点が今後の課題だな。まあ、良い運動にはなった。

 

 月 日

全世界の製薬企業が加盟する業界団体「製薬企業連盟」がアンブレラ崩壊以降世界中に拡大したBOWの被害に対する対抗措置として組織したものがBSAAだった。当初は11名の精鋭のみで組織され、各国軍隊、警察の対バイオテロ作戦にオブザーバーを派遣するにとどまっていたが、バイオテロの猛威は予想を遥かに上回っており、そのような方法では直ぐに対処しきれなくなっていく。そのため、事態への即応が可能な実働部隊結成が検討され始めたが、その時点のBSAAはあくまで民間主導の組織であり、政府が存在する他国での捜査、逮捕、それに伴う武力行使には、おのずと限界が生じていた。だが、バイオテロの驚異は、すでに全世界的な問題となりつつあり、BSAAは国連管轄の対バイオテロ部隊として再編成されることとなる。BSAAと同じく、バイオテロに対処できる部隊の必要性からFBCも組織されたが、此方は米国政府が直轄しており、創設時から国際社会に強い影響力を持っていた。しかし、テロ組織に新型ウィルスを供与して大規模バイオテロを起こさせた上で、それを鎮圧して権限を強化したという陰謀が露見し解体。人員の大部分はBSAAに吸収される形となった。

 

国連管轄の特殊部隊BSAAの本部はイギリスにあるが、詳しい所在地は非公開である。BSAAの部隊は、管轄内の地域であれば12時間以内に部隊を展開させることが可能であるため、ハブ空港、もしくは空軍基地の近くにその拠点を構えていると考えられるだろう。現在私の拠点がある北米大陸はBSAA北米支部の管轄地域だ。クリス君が所属している北米支部から今日もまた情報が送られてきた。それはBSAA大手スポンサーとして資金提供を続けている製薬企業が裏で生物兵器開発を行っているという疑惑の情報だ。同社にとって都合が悪い問題が発生した時、BSAA本部に対して圧力をかけるほど強い発言力がある製薬企業に対してBSAAが調査を踏み切ることができていない現状の状況から考えると疑惑は黒である可能性は高い。これは私に動けと言っているのかもしれない。今のBSAAでは動けないと判断して外部の人間に対して情報を提供することで流れを変えようとしているのだろうな。何故私に白羽の矢が立ったのかは解らないが、BSAAにできないなら私がやるとしよう。以前送られたレオン・レポートが私に対する報酬ということになるのかもな。報酬を先払いされているなら動かなくてはいけない。まずは問題の製薬企業の情報を集めることからだな。また、忙しくなりそうだ。

 

 月 日

問題の製薬企業は裏では随分と派手にやっているようだ。表向きはクリーンなイメージを押し出している製薬企業であるが、裏ではBOWを開発してブラックマーケットへと大量に流しているらしい。BOWのデモンストレーションを兼ねた運用試験としてバイオテロまで行っているという始末。闇取引で得られた莫大な利益を元に更なる生物兵器開発を行うというろくでもない製薬企業であることが理解できた。バイオテロの鎮圧に派遣されたBSAAまで利用して実戦データの収集までしているのだから、随分と悪どいことをやっているものだ。表の製薬企業の儲けだけでは満足できなかったのかと言いたい。同情の余地は欠片もないので、明らかになった製薬企業の裏の顔を全世界に流出させてしまうことにした。詳細な情報を画像データも添えて全世界にプレゼントする。もちろんBSAAにも情報を送り届けておく。流石にこれだけの証拠が揃っていれば言い逃れはできない。BSAA本部も重い腰を上げることになるだろう。流出させた情報と画像データは全世界で回覧されて問題の製薬企業は火消しに走っているみたいだが、情報の拡散は止まらない。製薬企業の株価は暴落し、BSAAも捕縛に動き出す。この流れはもう止まらない。私に疑惑の情報を提供した者の思い通りになった。BSAA北米支部から、ありがとうと感謝の言葉が送られてきたあたり、支払われた報酬の分の働きはできていたようだな。

 

BSAAの大手スポンサーが、これで1つ消えることになるが必要なことであると理解してもらいたい。まあ、1つ消えた程度ならそれほど大きな痛手とはならない筈だ。それにしてもBSAA北米支部の人間が、どうやって私の元に情報を届けたのかという謎が残るが、ルイス君が教えたのかもしれないな。それ以外で知る術はない。余程BSAA北米支部に所属する人物が困っていたから私への連絡先と私が喜びそうなレオン・レポートを送るように教えた可能性がある。ルイス君から依頼されたとしても引き受けていたことは間違いないが、彼が動けない理由があったのかもな。BSAAのアドバイザーとして働く彼はBSAAの人間よりも外部との繋がりがあるとしてマークされていたとするなら、遠回しに私へ情報を流すように助言することが唯一できることだったのかもしれない。気にはなるが確認するのは今度にしておこう。今は彼等も忙しくなっていることは確実だ。BSAAの大手スポンサーである製薬企業の裏の顔が明らかになったのだからな。管轄内の北米大陸にある製薬企業であることから、当然BSAA北米支部の彼等も動くことになる。生物兵器開発ビジネスを行っていた製薬企業をそのままにはしておけない。BSAA本部に圧力をかけようと証拠は既に揃っている。製薬企業は今日で終わりだ。詳細な実験データや実戦データを残しておくのは当然だったんだろうが、それが仇となったな。厳重なセキュリティから情報を引き出すのには少し手間がかかったが、私にかかればなんてことはない。今回の出来事が私の仕業だと知るものはBSAA北米支部の1人と恐らくはルイス君ぐらいだ。生物兵器を開発する企業が摘発されて世界が、また1つ平和になったな。久しぶりに良い仕事をした。

 

 月 日

この歳になると日々が過ぎ去るのは早いものだ。エヴリンの18歳の誕生日がきたので祝うことにした。バースデーケーキはシュガーケーキ、チーズケーキ、フルーツケーキの3種類。スパイスをふんだんに使ったスパイシーチキンにエヴリンが食べたがっていたチーズフォンデュも作成した。その他の料理も用意して始まったお祝いにエヴリンはとても喜んでいたな。各種ケーキとチーズフォンデュが特に気に入っていたらしく、それらを重点的に食べていたエヴリンはとても幸せそうでアレクシアと一緒に腕をふるった甲斐があった。息子はスパイシーチキンと各種ケーキが気に入っている様子。今日は子供達に好きなものを食べさせてやり、アレクシアと私は他の料理を食べることにした。この日の為に吟味して用意した食材を使った料理はかなりできが良い。満足のいく味わいの料理を食べていくと、チーズがたっぷりまとわりついたソーセージを突き刺しているフォークがエヴリンから差し出される。一口あげるということなのだろう、口を開けるとチーズがまとわりついたソーセージが差し込まれた。

 

ソーセージを食べ終えた私に満足そうに微笑むエヴリン。それを見た息子がスパイシーチキンを切り分けて一口大にしたものをフォークで刺して此方に差し出してくる。口を開けると一口大のスパイシーチキンが差し込まれた。食べ終えた私に笑顔を向ける息子を見ていたアレクシアが、自らの料理をスプーンですくい、此方に差し出してくる。これで3回目になるなと思いながら口を開けると料理が口に差し込まれた。料理を呑み込んだ私に満面の笑みを見せたアレクシア。3人ともこれで満足したらしい。食事が終わってから家族皆でそれぞれ用意していたプレゼントをエヴリンに渡した。どのプレゼントもエヴリンは喜んでくれていたようだ。用意していて良かった。エヴリンの18歳の誕生日は幸せなものになったことだろう。次の祝い事は息子の4歳の誕生日だな。息子の好きなハーブに関連する書物を誕生日プレゼントにするのも良いかもしれない。今から探しておくとしよう。きっと喜んでくれる筈だ。

 

 月 日

生物兵器ビジネスの大手であったあの製薬企業が潰れたことでブラックマーケットにおける生物兵器の一部供給がストップしているらしい。この事態を省みて生物兵器開発に更に力を入れる者達と生物兵器開発から手を引く者達に別れたようだった。更に力を入れる者達はこの間に増え続ける需要に対する供給を決めているそうだ。手を引く者達は生物兵器開発で培ったノウハウを元に新たな事業として安価なワクチン開発や対BOW用の兵器開発を行っている。どちらも利益は得ているようなので、早々に潰れることはないようだが、生物兵器開発事業を手がけている者達は潰れても構わない。情報をBSAAに流しておくとしよう。生物兵器開発を行う者達が一斉に摘発されたとしても、また新たな生物兵器開発を行う者は出てくるだろうが、一時的な鎮静にはなる筈だ。少しの間でも世界が平和になることを祈っている。そちらの方が私は過ごしやすいのでね。平和な世界であれば、私の元にBOWが送り込まれることもなくなるだろう。生物兵器の供給を完全に断ってしまえば偶発的なバイオテロに巻き込まれることもなくなることは間違いない。そう考えればBSAAに情報を提供するのは悪いことではないと思える。積極的に情報を提供していくことにしよう。

 

 月 日

依頼された護衛の仕事をこなしていると護衛対象に狙撃が行われたので左腕義手で銃弾を掴み取り狙撃を防いだ。護衛対象を比較的安全な場所まで運んで避難させて襲撃を警戒する。機関銃とグレネードランチャーで武装した集団が現れたので眉間をL・ホークで撃ち抜いていきながら始末していく。放たれる銃弾と榴弾を躱して武装集団を全滅させてから護衛対象と合流する。移動を開始した此方に向かってロケットランチャーが放たれたので弾頭を掴み取り投げ返す。襲い来る数多の武装集団を退けて護衛対象を護り続ける。依頼された期限が過ぎ去る時まで護衛対象の身の安全を護らなくてはならない。ここまで執拗な襲撃を受けるあたり随分と狙われているようだが、狙われている理由を護衛対象に聞くのは私の仕事ではないので、興味がない訳ではないが黙って仕事をするとしよう。依頼された刻限までは後数時間、このまま護衛対象を護り続ければ依頼は達成となる。機関銃から放たれた銃弾の雨を回避してL・ホークで反撃していく。大口径の弾丸が襲撃者達を正確に撃ち抜いて絶命させる。遂に依頼された刻限が来た。護衛対象を安全な場所まで送り届けて依頼はこれで達成となる。振り込まれた報酬はそれなりにいい額だった。家族に何か土産を買って帰るとするか。まあ、それは諦めの悪い襲撃者達の相手をしてからになるがな。ちょっとしたアフターサービスといったところだ。直ぐに終わらせて帰らせてもらおう。1人残らず逃がしはしない。

 




ネタバレ注意
バイオハザード4に登場するクリーチャー
アルマデューラ
その名はスペイン語で鎧を意味し、簡易な鎧と全身を鎧で覆った2タイプがいる
宿主を求めるプラーガが古城に飾られた甲冑に入り込み操っている
甲冑内部のプラーガは休眠状態で生命を維持し、宿主となる獲物が近付いてくるのを待っていた
甲冑の内側に張り巡らされたプラーガの触手が人間の擬似的な筋肉を組織しており、剣や斧を振り回して襲ってくる

バイオハザード4に登場するBOW
デルラゴ
元来はオオサンショウウオに似た水棲生物だったが、プラーガ応用実験のサンプルとなり、寄生体の成長とともに20メートルを超える巨躯になった
大きな口の中ではプラーガの触手がうごめいている
縦に扁平な太い尾は遊泳に適し、水中でも申し分ない運動能力を発揮するが、プラーガによる制御ができなかったため村の湖に幽閉されていた
4本の足があるが、陸上で巨体を支えるには不可能なほど形骸化しており、深く広い湖はデルラゴにとって最適の地であったと思われる
ラゴはスペイン語で湖のことである

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